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民医連新聞

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あなたの職場におジャマしまーす(16) 和歌山生協病院・回復期リハ病棟

退院した障害者難病患者さんが働ける
共同作業所(“ワークショップ・フラット♭”)つくり、ささえる

 今月は和歌山生協病院(一四九床)です。同院の回復期リハビリ病棟には、中途障害者・難病患者の共同作業所を、設立からささえている医師がいます。(木下直子記者)

退院できても居場所がない

 同院リハビリ科の医師・土(は)生(ぶ)晃之さんは、中途障害者・難病患者の共同作業所「ワークショップ・フラット♭」に、設立から関わっています。
 「きっかけは五〇代の患者さん二人との出会い」と、土生さん。リハビリして退院しても、中途障害者には仕事も居場所もない、という現実に直面したので す。全国に六〇〇〇ある共同作業所のうち、中途障害者向けは六〇カ所ほど。当時、和歌山県には一カ所もありませんでした。
 「障害者の中でも中途の方は困難です。先天性の障害や乳幼児期に障害を負った人と比べ、家族などの協力が弱い。障害を受け入れにくく、倒れた人が一家の 大黒柱だったら、家族は生活で手一杯ですから」。

 県の共同作業所連絡会や難病団体の人たちと勉強会をしながら、中途障害者・肢体不自由者の作業所をつくる可能性 を探りました。「とにかく集まれる所を」と、小さな民家を借り、「ワークショップ・フラット♭」を二〇〇〇年九月にオープン。資金はなく、市から補助金が 出るまで約半年、家賃も待ってもらったほど。
 名前は、「バリアフリーの平坦」「半(はん)音(おん)下(さ)げればカラオケも歌いやすい、人生も時に半音下げて肩肘はらずに」「フラッと誰でも立ち寄れる場所」、三つの意味を込めました。

働くことで前向きになって

 フラットを訪ねると、利用者さんたちが一〇〇円ショップの商品や、割箸の袋詰めの作業に一生懸命でした。一〇~一五時、約一五人が個々の障害や体調にあわせて働きます。七人が二〇~三〇代の青年層。記憶力や遂行機能に障害がある高次脳機能障害の人が多くいます。
 通所をはじめると前向きになるといいます。ここの仕事をバネに、二人が一般企業に再就職、一人が企業研修中です。支援員の山本功さんは「自分で働き、わ ずかでもお金を稼ぐことが、精神的なリハビリになっています。ほとんどが障害者を『別世界の人』と思っていた人たち、自分の障害がたとえ指一本でもショッ クは大きい。家では自分が一番不幸やけど、ここで、自分だけじゃないとわかる」といいます。
 地方紙でフラットの記事を見た、インターネットで調べた、と問い合わせてくる人がいます。通所のために他県から引っ越してきた人もいます。中途障害者の 可能性を引き出し、社会の一員として生きがいを見つける場が求められていたのです。「退院した患者さんが社会に復帰するには?」という一人のリハビリ医師 の発想が、かけがえのないスペースを生みました。

1日300円という工賃で

 しかし運営には困難があります。特に四月、和歌山市から突然言い渡された補助金削減。今秋、社会福祉法人格を取 得しようと、一〇〇〇万円募金をはじめた矢先でした。一七七万円(三割分)がカットに。撤回を求めても市は応じません。この影響で、市内には職員を解雇し た共同作業所もありました。
 障害者自立支援法も大問題です。「応益負担」になったら、作業所に来るのに、利用料を払うことになります。それでは通所できる人が限られてしまいます。 「無年金の人もいます。生活に精一杯の家庭も多い。障害者に自己負担を求め、仕事も収入も保障しないのに、なぜ自立支援法だ」と山本さんは怒ります。
 「利用者が一日働いて工賃は三〇〇円。送迎には市の補助がなく、ガソリン代の一部は利用者負担です。工賃より送迎費が高い人もいるのに」。

 「これは職員に知ってもらわんとあかん…」同行した和歌山民医連の父川(ちちかわ)恵照事務局長がつぶやきました。

(民医連新聞 第1361号 2005年8月1日)