イラク医療支援調査レポート がん患者急増医薬品足りない イラクの医師たちと懇談
九月の全日本民医連学術・運動交流集会では、イラク南部のバスラでがん治療を行っているアル・ア リ医師が講演します。湾岸戦争~イラク戦争で、イラクの人びとにどんな健康障害が出ているか、という内容です。その打ち合わせと、民医連もとりくんだイラ ク医療支援の調整のため、全日本民医連の原和人副会長、大河原貞人次長、神奈川・汐田歯科の佐々木源所長(個人参加)が、七月一~七日、ヨルダンのアンマ ンに出向きました。原副会長のレポートです。
日本の皆さんに話したい
アル・アリ医師との懇談は七月二日でした。バスラのがんセンターの乳がん専門医・ジナン氏も同席しました。彼らはバスラ地方では、乳がん患者が急増していると強調しました。
高齢者ばかりか若年者の乳がんが増え、患者の発生は劣化ウラン弾が使われた地域に目立っているそうです。
「がんの患者全体が相変わらず増えている。最近がんの登録事業を開始した。まだ途中だが、バスラ地方で月に一三 〇人の新しい患者が登録した。推定では、がん患者は倍増している。新患の中にがん患者は、従来は四・一%を占めていた。今年になってからは、五・七%に上 昇している」と彼らは口ぐちに語りました。そして、「この詳しい内容を、学運交でぜひ、日本の皆さんに話したい」と要望しました。
アル・アリ医師は、薬剤、診断器材や治療器材の提供、医師など医療従事者の技術的研修、劣化ウラン弾などによる環境破壊が健康に与える疫学調査などをあげ、私たちに支援を要請しました。
バスラでは、医療の継続に必要なものすべてが不足しています。抗生物質、抗がん剤、消炎鎮痛剤、輸液製剤など、あらゆる薬剤が足りません。十分な治療ができず、亡くなっていく人たちの苦しみを和らげる麻薬さえ手に入りません。
それなのに、戦争の犠牲者、戦争がひきおこした貧困や環境破壊などで、医療が必要な人びとは急増しているのです。
戦争が健康も医療も破壊した
アル・アリ医師たちの要望するリストは、新しい病院まるごと一つにもなりそうでした。それにはとても応えきれま せん。当座の具体案として、クリーンベッド一台を日本で調達してバスラに送ること。JIM―NETの協力を得て、バスラの医師・看護師の研修を、ヨルダン 国内でできるようにすることと、医薬品・器材を贈る、この三点を提案し、ほぼ合意に達しました。
イラクはかつて中東で最も医療技術の高い国の一つでした。しかし、二〇年余にわたる戦争が、イラク国民の健康を破壊し、医療環境を最悪にしました。今回のアメリカを中心とする占領軍の侵略の一番の被害者は、貧しい人びとだと思います。
イラクからヨルダンに治療にきている子どもたちやその家族にも会いました。難民キャンプでは国境近くの灼熱の砂漠で、金網に囲まれた「収容所」から一歩も出ることなく、八七〇人がテント生活をしていました。
ヨルダンに流出したイラクの人たちも、困難をたくさん抱えています。様ざまなNGO(非政府組織)の支援がなけ れば、もっと大変な事態になったでしょう。ヨルダンで活動しているNGO幹部が言った「戦争や津波など被害の状況が報じられると、国際的な支援が寄せられ るが、時が過ぎると忘れさられてしまう。しかし、時間とともに深刻さは増してくる、本当の支援は、その後が大切なのだ」という言葉が印象的でした。
(民医連新聞 第1360号 2005年7月18日)