災害救援備えは?
昨年は水害、地震など災害が多発しました。災害弱者が生まれ、国・行政の被災者支援はまだ不十分です。民医連は救援、復興支援にとりくみま したが、今後はより迅速で組織的にすすめる必要があります。理事会は全日本民医連としての「災害救援活動マニュアル(案)」を策定し、各事業所に「防災マ ニュアル」の策定と訓練を呼びかけています。各地の災害時の備えは?
各地のとりくみ
『マニュアル』整備、268人で救援訓練も
福岡
北九州市にある大手町病院(六四二床)は二〇〇〇年四月、県の「災害拠点病院」に指定されました。大規模事故や災害の際、発生する負傷者を受け入れま す。このシステムは阪神・淡路大震災で、特に災害時医療を提供する医療施設側の態勢が不十分であった教訓から、厚労省が一九九六年にスタートさせました。 全国で五〇〇以上の施設が指定されています。
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今年四月二四日、同院では職員二六八人が参加して災害訓練を行いました。このような訓練は、いっせいに運ばれて くる多数の負傷者に、迅速に対応するために欠かせません。訓練は、「平日の午前、JR小倉駅で、列車事故が発生し、一〇〇人規模の負傷者が出た」という 「災害レベル2」を想定。九時〇〇分の事故発生から二五分後に患者の収容をはじめる設定でした。報道機関の取材や医師会・民間病院などからの見学も入りま した。奇しくもこの翌日、尼崎で列車事故が起こりました。
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職員たちは小冊子になっている『災害マニュアル』にもとづいて、持ち場につき、救命活動を行います。
内容をみてみると…目的は「災害発生時に病院の機能を最大限に活用し、被災者に充分な医療を提供する」。構成は、Ⅰ~Ⅲ部からなります(別項)。災害レ ベル別の被災者収容の流れを文面だけでなく、フロアの見取図にして示しています。また、災害時の人員配置計画と(隣接看護学校も救護に加わる設定)、人員 充足の部署ごとの優先度が一覧表になっています。非常に明快な内容です。
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拠点病院に指定されてしばらく、マニュアル整備や訓練に着手できていませんでした。二〇〇二年、病院に「災害医療対策委員会」を設置し、マニュアルをつくりました。国立病院機構東京災害医療センターのマニュアルが参考になりました。
今後、委員会として検討が必要なことに次のような点をあげています。(1)当院が重大被災した時の対策、(2)二次災害の予防方法、精神面でのサポー ト、(3)被災者への医療対応時のインフォームドコンセントの確立、(4)外国人への対応―外国語、その他の情報伝達の充実、宗教面での対応、 (5)NBC災害~核(物質)、生物剤、地下鉄サリン事件のような、化学剤に起因するもの、などです。
災害レベル1…災害体制は2階3階を中心/被災者数が明らかであり、救急初療室にて対応可能と判断されるとき/指示はICU当直医、救急待機2nd医師 災害レベル2…災害体制は病院全体/被災者数多数で救急初療室では対応不可能と判断されるとき、外来診療および通常診療を一時的に中断する必要があるとき/指示は病院長 |
『災害マニュアル』の構成
第Ⅰ部:災害発生時対応の基本方針とその説明。病院内外の各種の対応をできるだけ網羅。 |
DMAT(災害派遣医療チーム)に入って
新潟
災害拠点病院の下越病院は、今年三月、厚生労働省の災害派遣医療チーム(DMAT)に選ばれました。これは災害発生後、四八時間以内に現場に駆けつけ、 負傷者の治療にあたる医療チームです。医師や看護師など五、六人のチームが全国に二〇〇、設けられています。
昨年の中越大震災では、新潟民医連や長岡医療生協、支援の全国の民医連職員と、救援にあたりました。同じように地域医師会や他の医療団体なども、早くか ら避難所で活動。十分な情報がなく、遠くの避難所に赴いても活動の場がないなど、力を十分に果たせたと言えない場面もありました。
そこで、トリアージ(重傷者の選別)や、応急処置とともに、医療情報の収集と伝達などを役割とするDMATを受けることに決めました。災害医療に関する さまざまな研修を受け、これまで以上に災害拠点病院として、役割を発揮できるようとりくみます。(大谷克則・事務長)
外との連携強めて
広島
広島共立病院の医師が加入する安佐医師会で、私は大災害救急医療対策委員会長として、訓練の企画・運営に参加しています。
当医師会は地区の消防署、警察署、地区防災会などと協力し、阪神淡路大震災発生の一九九五年から、毎年九月に「列車踏み切り事故」や「高速道路大規模災 害」などテーマ設定して合同訓練を行っています。
第一〇回の昨年はテロ災害を想定。二五〇人の規模で、当院からも院長はじめ医師四人、看護師三人が参加。ヘリコプター救護や負傷のメーキャップをした疑 似患者なども入れた本格的なもの。バイタルサインで傷病と重傷度を判断する「ノー看板方式」でトリアージする訓練でした。日ごろから自治体と連携を深めて おく大切さを感じています。(高永甲文男・副院長)
「震度5以上」で態勢
北海道
北海道東部は地震の多発地帯です。道東勤医協では、一九九三年の釧路沖地震の教訓から、十数年前にマニュアルを作っています。また全事業所で、倒れやす いロッカーや機材などを点検、固定するなどしました。
震度5以上の場合、職員はすぐ病院など事業所に駆けつけ、患者・利用者の安否確認、屋内外の点検、情報収集などの態勢をとることにしています。〇三年の 十勝沖地震の時もこれが生き、職員は自主的に集合しました。(田中博修・法人事務局)
マニュアルを見直す
宮城
坂病院は、地域の拠点病院として、「防災マニュアル」を作成しています。
今年四月には、東北大学災害制御研究センターから講師を呼び、職員学習会を開きました。講演は一昨年の北部連続地震で起きた負傷者・建物損壊の状況、病 院にしてほしいことから、病院自体の対策までにわたる内容でした。
学習会では、職員の半数が自院のマニュアルの存在を「知っている程度」だったということも分かりました。いま「実際にマニュアルに沿って動けるか?」の 視点で、見直し作業に入っています。(金田基(もとる)・総務部長)
「災害カルテ」…A4版の厚紙製。クリップボードに挟み、運用する。受け入れた被災者に当院の受診歴があれば、既存カルテがあるが、多数の人を同時に受け入れる緊急時、カルテ庫からとりよせることは不可能と判断。 なお軽症で帰宅する患者には、下欄の処方のみを院内処方とし、入院した場合、既存カルテをとりよせ、既往歴や禁忌薬を確認。災害カルテの情報を本カルテへ移すのは災害が落ち着いた時点。なお、災害カルテはトリアージタッグとともに、救急外来に常備。 ※拠点病院の要件…24時間緊急対応し、災害発生時に被災地内の傷病者の受け入れおよび搬出を行うことが可 能な体制がある。病棟、診療棟等の救急診療に必要な部門を設け、被災者の多数発生時に対応可能なスペースおよび簡易ベッド等の備蓄スペースがあること。原 則として、病院敷地内にヘリコプターの離着陸場があること、など |
(民医連新聞 第1358号 2005年6月20日)