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民医連新聞

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「患者の権利オンブズマン」の協力病院になって 福岡・千鳥橋病院

 医療に苦情を訴える患者・家族の相談を受け、医療機関との対話が成り立つように支援するNPO法人があります。福岡にうまれた「患者の権利オンブ ズマン」です。5周年を迎え、東京や関西にもつくられました。福岡医療団に所属する事業所ではその協力医療機関として、「患者の権利が尊重されることは、 安全な医療につながる」との合意のもと、活動しています。(編集部)

 患者や家族が医療機関に苦情や不満を抱いたとき、どうするでしょうか? ガマンするか、黙って別の病院に移ってしまうのが現実。命に関わる医療事故やト ラブルなら「謝ってほしい、原因を知りたい、償ってほしい」と思いながら、満足な説明や情報提供が得られず訴訟におよぶ場合もあります。
 「これでは患者も医療機関もお互いに不幸」というのが、「患者の権利オンブズマン」設立の中心となった池永満弁護士の考えです。裁判によるのでなく対話 によって、苦情の原因を解明して迅速で適切な解決を図ろうという基本姿勢で、必要なときは調査し、医療機関へ勧告し、世論にも訴えてきました。こうして患 者の苦情から学びながら、医療の質も向上させることを展望しています。無念な思いをいだく患者・家族には「勇気をふるって行動を」と呼びかけ、一方で医療 機関にも「苦情を訴えられるのは、信頼関係がまだあるから。誠実に対応する中で、学ぶべきことがあるはず」と呼びかけます。 

市民ボランティアがささえる

 「オンブズマン」の活動をささえるのは、事務局ボランティアはもとより、市民相談員や弁護士、医療・福祉の専門 家などの専門相談員です。大学教授など、オンブズマン会議メンバーもすべてボランティアで、現在約100人が活動中です。福岡医療団からも、職務を離れる 休日や夜に、ボランティアとして活動に参加している職員がいます。
 市民相談員は電話や対面で相談を受けたり、医療機関との話し合いに立ち会う同行支援等をしますが、守秘義務など倫理的な行動基準をもち、全員が研修を受けて登録します。

協力医療機関で事例を検討

 もう一つの柱が協力医療機関・福祉施設です。現在県内36の医療機関、診療所、福祉施設などが登録しており、民 医連では千鳥橋病院や、たたらリハビリテーション病院などもその一員です。これらが連絡協議会をつくり、苦情事例検討会、研究会などを実施しており、登録 している医療機関の職員は無料で参加できます。
 また協力医療機関には、患者家族からの声をもとに医療福祉サービスの改善をはかる目的で「共通モニター用紙」が置かれ、医師の対応や治療について感じた ことなどを、オンブズマン事務局宛てに送付するシステムがあります。その中に苦情があれば、苦情評価委員会で対応が検討され、改善が必要な場合は当該施設 に通知されます。さらに協力医療機関が事故調査委員会などを設置する場合、オンブズマンから外部調査員として弁護士の派遣を受けられます。
 5周年記念で05年2月に開いた集会には、協力医療機関はじめ、県医師会などが参加し、各事業所で行われている安全な医療を推進するためのとりくみを紹 介しあいました。オンブズマンの存在で、患者の権利を守ることを中心においた医療機関の連携がすすんでいます。

患者の権利  オンブズマン
池永 満理事長

 1994年3月、WHO(世界保健機関)ヨーロッパ会議の「患者の権利の促進に関する宣言」は「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的 に、そして迅速に調査され、その結果について情報を提供される権利を有する」と述べ、患者の権利を促進するため、独立した裁判外の患者擁護システムの創設 を呼びかけました。私は、このシステムを日本の公共政策として確立したいと思い、全国の仲間に呼びかけ、その支援を受けながら福岡でモデルケースとして立 ち上げました。
 患者自らが納得のいく医療を求めて行動することで、自己決定権を行使する患者として成長することができます。また、そうした患者・市民をつくりだすこと が、日本医療を患者中心の医療に改革し医療の質を向上させる原動力になると思っています。
 初年度から、苦情の8割以上が医療行為そのものに対するものでした。相談に来た人がカルテを持ってくる比率は、初年度と2年目が4%、3年目11%、4 年目28%、5年目32%と増えています。医療事故などの報道もあり、「医療の質を高めてくれ」という気運が高まっていると思います。
 市民ボランティア相談員には、医療従事者を退職した人もたくさん参加しています。参加する動機は、現役の時に「こうしてあげたい」と思っても、「実際の 現場ではできなかった」「多忙の中でついつい冷たく対応した」という反省からボランティアに来ている方もいます。ですから、ボランティア自身が第2の人生 を始める思いで一生懸命です。

*患者の権利オンブズマンホームページ
http://www.patient-rights.or.jp/

千鳥橋病院 医療事故調査委員会
佐藤 哲哉さん

 当院では、月100件程度の事故、インシデントが職員より報告されますが、その中で重大と判断した事例は、月2回の医療事故調査委員会で調査し、原因を 究明し教訓を明らかにしています。調査結果は報告書にまとめ、患者・家族に渡しています。また、調査事例を医局会議や全職員集会で報告、学習し再発防止の ために教訓を普及しています。
 定例の協力医療機関等連絡会世話人会には、当院からも3人が参加しています。これとあわせて行われる苦情事例検討会では、オンブズマンに寄せられた苦情 などについて法的観点や患者の権利の立場からアドバイスを受けており、教訓として学習することができます。
 こうしたオンブズマンの活動が、当院では安全な医療活動を推進するうえでプラスになっています。

(民医連新聞 第1357号 2005年6月6日)