「労働者保護」弱める改悪法 うらに財界の要求が
今国会で「労働安全衛生法等の一部改正する法律案」の審議が。産業医の面接指導の要件を「時間外労働が月一〇〇時間を超えた場合」に後退させ、月四五時 間・八〇時間の対策をなくし、実労働時間を年間一八〇〇時間まで「短縮」する目標を放棄する、などの内容です。「働くもののいのちと健康を守る全国セン ター」の今中正夫事務局長(全日本民医連理事)に問題点を聞きました。
この法案は「労働安全衛生法」「労災保険法」「労働保険料徴収法」「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」の改悪を、一括提案一括採決で通そうという、ひどいものです。
過労予防にならない
労働安全衛生法「改正」案では、過重労働による健康障害への対応として「医師の面接指導」を事業主に義務づけました。しかし、その要件を厚生労働省令で「月当たりの残業が一〇〇時間を超え、疲労の蓄積があって、申し出た者」にする、としています。
現行では、事業者は「月四五時間を超えたら産業医等による助言指導」を、「月一〇〇時間、二~六カ月の平均が八〇時間を超えたら産業医の面接保健指導」を受けさせなければならず、〇二年の厚労省通達による措置は一定の役割をはたしました。
「一〇〇時間を超える」事態になっての面接指導では、予防措置になりません。
「自己責任」か?
もう一つの大きな問題は医師の面接指導に「本人の申し出」が必要になることです。リストラ、成果主義賃金などの中で、労働者が「医師を」と申し出ることができるでしょうか?
過労死・自殺する人の多くが、異常な労働の中で自分の健康を顧みる余裕をなくしています。申し出たとしても、競 争からの脱落となるでしょう。逆に、申し出ないで過労死などが発生した場合、「本人の過失」にされ、事業主が負うべき民事上の損害賠償を減免する根拠にさ れかねません。
事業主に対し弱い立場にある労働者を保護する、労働法の主旨から外れます。
背景に財界の要求
事業主の義務が後退すると、重くなるのは、労働者の自己責任と産業医の責任です。過重労働をしている労働者に是正指導を行わず、過労死などが発生した場合、産業医の責任も問われかねません。
この「改正」の背景に、使用者側の強い要求があります。日本経団連は、過重労働対策は「企業の自主性にまかせ よ」という主張でした。東京商工会議所はあけすけに「残業をチェックするのは煩雑」なので「本人の申し出」を要件とするよう求めました(『東商ニュースラ イン』二月八日付)。
「時短」を捨てる
今回の「改正」案のもう一つの重大な問題は、「時短促進法」の事実上の廃止です。日本の労働者の年間平均労働時間は二二〇〇時間、しかも急増するパートなど短時間労働者を含む平均値です(図2)。
「時短促進法」から「短縮」の文字を消し、年間実働一八〇〇時間という政府目標の放棄を示します。しかも「労働時間等の設定」について、労使で協議し決定することを法制化し、法律や行政の規制を緩める方向です。これも財界の要求の反映です。
人権が守られる職場へ 労働者保護を弱める「改正」案を、大きな反対で成立させないこと、そして職場では、事業主に対し労働安全衛生管理を要求するとりくみが重要です。
民医連など医療関係者が、労災申請や健康調査、産業医の活動、健診活動などで協力することも大切です。
労働の場で人権が守られることは、子どもや高齢者などの人権を底上げすることにつながると思います。
(民医連新聞 第1355号 2005年5月2日)
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