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民医連新聞

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9条は宝 発言(2) 世界で初の〝理想〟1人ひとりに語ろう

 引き続き「9条の会・医療人の会」呼びかけ人の発言です。

 戦争中は学生でした。「実の(蓑・みの)一つだに、なきぞ悲しき」という山吹汁、つまり具のない味噌汁とコーリャンのご飯だけ、という生活でした。

 東京大空襲で友人が殺されました。一晩で一〇万人が焼き殺されるなんて、想像できますか? スマトラ沖大津波は 自然エネルギーが多数の死者を出したけれど、戦争では人間がやったのです。空襲を命令した司令官は、「戦争に勝たなければ、自分たちは戦争犯罪人として裁 かれるだろう」と告白していました。

 日本国憲法九条は、日本に二度と戦争をさせないだけでなく、当時のアメリカ人の中には、自分たちの行為に対する反省があって、世界で初の理想を盛り込んだのだ、と思います。

 どの国も自国の憲法に、お互いに他国が掲げる理想を取り入れています。フランスの人権宣言もアメリカの独立宣言も、世界の多数の憲法に入っています。九条を「押しつけられた」なんていうのは、くだらないことです。

魅力ある平和な日本へ

 ただ、九条の理想には努力なしにたどり着けないし、守れません。「書いてあるから」ではなくて、日々努力して、 理想の星に導かれて、少しでも良い方向に、少しでも平和な方向にすすんでいかないとね。「日本も武器を輸出しよう」という人がいます。貧すれば鈍す、で す。「これはおかしい。憲法に違反している」と言いましょう。それに「護憲」をうたい文句にしちゃうのでなく、九条にそった新しい魅力ある日本のイメージ を語っていかないとね。

 総選挙でもね、護憲勢力が本当に危機を感じるなら、ぜひ統一候補を立ててほしいと願います。改憲派に投票するなど、鼻つまんで目をつぶったってできませんよ。でも護憲派がバラバラでは死票の山を築くだけだし…。はがゆいです。

 拉致問題についても、マスコミは歴史的な視点に立ったちゃんとした報道をしませんね。北朝鮮の行為は決して正当 化できません。しかし長い目で見ると、日本も戦争中は、同じようなことをやっていたのです。彼らはまだ「戦争状態のなかでの常識」という非常識から抜け出 していないから、あのような行動をとるのです。

 日本人は、いつのまにか平和の常識で生きているけれど、平和がどういう形で守られているかを、忘れてしまってはいけないと思います。

語りかける言葉を磨いて

 この社会は数がなければ動きません。民主主義は数が頼りなのです。一方で数が集まると理性的になれないから、難 しいところです。集団になると数の勢いに乗ってブレーキがかからなくなる面があります。政治でも運動であっても、指導者はそれを知って、あくまで冷静に、 社会を暴走させてはいけないわけです。

 ですから、署名で一人ひとりを説得していくのは大切な運動です。親身に自分たちの言葉で、肉声で説き伏せる努力を続けると、どういう論理が必要なのか、わかってきます。

 「いま飯が食えないのに、憲法なんて」という人に語りかけ、「お前さんのいう通りだ」と言ってもらえる努力。そ れが根を張った運動をつくるんです。人は一人ひとりに語りかけるなかで言葉を磨きます。説得力も磨かれます。ここをさぼっちゃいけない。気持ちをぶつけて いくと、信頼関係が生まれてきます。

 精神科医として、特にアルコール依存症の患者に接して、一人ひとりの気持ちを変えて解決する、この仕事をずっとしてきて、思うことです。


 なだ いなださん(精神科医・作家)

1929年、東京都生まれ。慶応大学病院、国立久里浜病院に勤務するかたわら文筆活動。現在は執筆・講演活動に専念。バーチャル政党「老人党」を提唱し、話題になっている。著書多数。『専門馬鹿と馬鹿専門』が筑摩書房から4月に刊行予定。

(民医連新聞 第1352号 2005年3月21日)