医療倫理のはなし 実践編
3つの支部がシンポ 〝最期まで自分らしく生きるには?〟
―川崎医療生協
一一月一〇日、「終末期医療を考えるシンポジウム」を、神奈川・川崎医療生協の三つの支部が共催しました。
「市民も『終末期医療』の課題を知り、人生の最期まで人間らしく生きるために、医療人とどう協力していくかを考えよう」という目的です。組合員、職員、市民など約二四〇人が参加しました。昨年九月に続き二回目の開催になりました。
発端は、川崎協同病院事件の発覚から、組合員の中に、「自分たちも医療倫理、終末期、安楽死について、正しい知 識を持つべきではないか?」という声があがってきたことでした。昨年は、川崎協同病院と東海大学で起きた二つの事件の問題点、医療倫理の変遷や、海外での 動き、日本の終末期医療の課題を学びました。
また、今年も継続してとりくまれることになったのは、シンポジストの発言に感動が深かったこと。『日々の生活を大切にして、最期までその人らしくよりよく生きる』援助をめざし、ターミナルケアを行っている事業所からの報告、家族を看取った体験談でした。
参加者のアンケートでは九〇%が「終末期を考えるきっかけになった」と答え、九七%が「人間らしく生きる権利を大切にして、自分らしく生きたい」と答えています。
医師、患者家族など5人のシンポジストの発言―
シンポジウムでは医師、患者家族、看護師、SWなど五人が発言し、参加者と交流しました。公立病院からシンポジストも。シンポジウムでの発言を紹介します。
久地診療所の竹内啓哉副所長は、終末期の患者・家族とかかわった経験にもとづいて発言しました。
「終末期では、普通に会話し、笑い、日常生活ができること自体が、患者、家族の励みになります。家族、夫婦、お孫さん、近所など、人と人とのつながりが大切。一時一時を大切に生きていくことが豊かな終末期につながる」と述べました。
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患者家族の高橋菊江さんは、一〇年ほど前に肺と食道ガンでご主人を亡くしました。ホスピスでの闘病生活、三年にわたる看病の経験を話しました。
入院していた病院では、ていねいにインフォームドコンセントがされたので、どこでもそうだと錯覚してしまった。 ホスピスに「お任せ」という過剰な期待感を持ってしまい、終末期は病状が急変することの認識が甘かった。ホスピスでは、医師との話し合いの場がもてなかっ た、という反省から、「インフォームドコンセントの大切さを身をもって感じた」と発言しました。
「在宅介護もホスピスも多くの人が気軽に利用できる制度になるよう、世論をつくっていくことが大切」と述べました。
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おおしま訪問看護ステーションの小森澄子さんは、在宅で看取った患者家族から出された苦情と、感謝された事例について報告しました。
同ステーションでは、苦情をもとに看取りのあり方を振り返りました。二〇〇一年には、四家族にアンケートを実 施。「常に病状のチェックと療養指導はもちろん、誰かに相談できて、『一人ではない』という精神的な安心感を持ってもらうことが必要だ。家族や患者本人の 日々のとまどいや緊張は、はかり知れない。私たちはそれを受け止め、力になりたいと思う」と述べました。
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川崎市立井田病院・かわさき総合ケアセンターの小沼留美子看護師は、同センターの緩和ケア病棟を紹介しました。同病棟へ転院して、食事がとれるようになり、家族の絆も深まり、最期まで充実した日々を送った五〇代女性の事例を報告しました。
小沼看護師は、鎮痛薬の使い方、代替療法、ボランティアの活動なども紹介。「病状の進行とともに起こる痛みや不 安を緩和し、患者さんが少しでも今までと同じような生活を送れるように支援することが私たちの目標」と発言。「ガン患者数は三〇万人で、緩和ケア病棟の利 用者はそのうちの五~六パーセント。ご自分の人生最後のシナリオを日ごろから考えていただきたい」と、語りました。
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川崎医療生協介護福祉部の萩野郁子部長は、SWの立場から、医療費助成制度の活用のしかた、負担軽減の方法、在宅介護時に必要な社会資源と制度を紹介しました。
萩野さんは、「ガン患者の家族は、ストレスで不眠症やうつ的な状態になりがち。ショートステイ、デイケア、デイ サービスで、家族が一時的に介護から離れてリフレッシュをはかることが大切。介護保険外のサービスは、自治体も民間も、地域格差が大きいので、送迎サービ ス、配食サービス、ボランティアなどを、事前に調べておいた方がよい」とアドバイスしました。
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会場の参加者からは、「長期入院である期間を超えると退院させられると聴くが、現実にあるのか」「緩和ケア病棟は、いま入れる状況なのか」などの質問が出され、活発に討議しました。
(鐙(あぶみ)史朗記者)
(民医連新聞 第1345号 2004年12月6日)