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民医連新聞

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〝関係ないヨ〟と 思ってない? 医療倫理のはなし(13)

最終回・連載で話したかったこと

 これまで一二回にわたって読んでいただいた「医療倫理のはなし」も、今回でおしまいです。

 医療倫理的な問題は、出生時と死亡時に発生しやすい、と言われています。筆者は病院勤務の一内科医で、終末期の問題が中心話題になってしまい、出生にかかわる諸問題には触れることができませんでした。また、その他の多くの重要な問題も積み残してしまいました。

 ただ、今回の連載で、強調したかったのは、倫理的な問題は注意していれば、現場にはたくさん存在するというこ と、大切なことは、個々のケースについて一定の様式にのっとってスタッフが議論をするということです。最近、一週間で経験した二つのケースを紹介してこの 連載を終わりたいと思います。

倫理的な問題は注意していれば、現場にはたくさん存在する

 ひとつは県医労連主催の医療福祉研究集会で話題になったケースで、介護職の方の悩みとして出されたものです。

 「回復期リハ病棟入院中の痴呆患者さんが昼夜逆転状態(せん妄)になって、医師から薬剤で鎮静するという指示が 出た。自分としては、痴呆患者が問題行動を起こす背景を考えながら、なるべく薬剤を使わないような介護がしたい。しかし、その辺の気持ちを医師や看護師が 受け入れてくれない」というものでした。

 医学的には、痴呆による問題行動を薬剤で抑制することと、せん妄という急性の意識障害を薬剤で治療することとの 違いを理解することが重要かと思います。しかし、医療倫理的にも、介護職と医師、看護師間のチームワークの問題、薬剤による鎮静も機械的な身体抑制と同一 線上のものではないか、という考え方など、今回の連載で取り上げられなかった重要な問題を含んでいます。

 また、この原稿を書いている日にも病棟の合同回診でこんなケースに遭遇しました。

 往診中の九五歳の脳梗塞後遺症の患者さんが再発で入院しました。四肢麻痺、痴呆もあります。経口摂取は不能で、入院して状態が落ち着いてから、経管栄養を開始しましたが、何回も誤嚥性肺炎を繰り返しました。現在の点滴だけの状態の方が、みるからに楽そうです。

 アメリカ医師会雑誌などで報告されている「進行した痴呆患者に対する経管栄養は、患者のQOLの向上や生命予後 の改善にはつながらない」という見解をそのまま取り入れて、「経管栄養はもうやめよう」という意見の医師もいます。一方、「経管栄養で長期に在宅生活を 送っている患者もいるし、もう一回トライしてみては?」という意見の医師もいます。

 結局、来週もう一回スタッフも入ったカンファレンスで、議論することになりました。経口摂取ができなくなった高齢の痴呆患者の経管栄養をどうするのかということも、たいへん悩ましい問題です。

 医療の現場では、医師一人の判断で、患者さんにとって最善の治療方針の選択ができるのか、自信が持てない難しい ケースが多く存在します。特に、倫理的な問題がかかわる場合、医師以外の医療介護スタッフの視点、医療従事者以外の一般市民の視点が重要です。そうした視 点を柔軟に取り入れられる医療チームづくりが今後重要なのだと思います。

(安田 肇 全日本民医連・医療倫理委員)

(民医連新聞 第1341号 2004年10月4日)