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民医連新聞

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“関係ないヨ”と 思ってない? 医療倫理のはなし(6)

倫理的な問題を議論する方法

 今回は、倫理的な問題をどう議論すればいいのか、その方法論についてお話します。


 

 <ケース7>

 乳癌と、それからの多発性骨転移の五二歳女性。抗癌剤とモルヒネを投与して小康状態を保っていた。病状については本人に告知してあり、「原疾患が進行して心肺停止した場合、心肺蘇生術は行わない」という希望を確認してあった。
 ところが、抗癌剤の副作用により白血球が減少。それをきっかけに、肺炎と重症の呼吸不全を併発した。抗生物質と酸素の投与だけでは十分な効果は得られ ず、低酸素血症が進行し、気管内挿管と人工呼吸器管理が必要、と判断された。現時点では全身状態が悪く、こうした侵襲的治療を行ってよいかどうかの本人の 意思確認は困難である。
 主治医はどういう治療方針で臨めば良いのだろう。


 

臨床医学の不確実さ

 臨床医学は、一般の人たちが考えている以上に不確実な要素が多いものですよね。いくつかの疾患については、クリ ニカルパスの導入もはかられていますが、「この状態の患者に、この治療をすれば、こういう経過をたどってこうなる」と、確実に言える場合は少ないのが現実 でしょう。この不確実さゆえに、倫理的な問題が発生するのです。

 今回ご紹介したケースでも、「この患者さんは気管内挿管をして人工呼吸器をつけ、一週間耐えれば、肺炎が治癒し 挿管チューブが抜け、元の状態に戻れる」と、確実に分かっているものならば、主治医は侵襲的治療をためらうことはなかったでしょう。でも、「良かれと思っ て侵襲的治療に踏み切ったが、肺炎は改善しなかった。人工呼吸器をつけたままの状態が長期化し、患者さんが苦しがって自己抜管を試みるようになる」といっ た最悪の事態も考えられるのです。ですから「治療をどうするか」という問題が生じるわけです。

臨床倫理の4分割法

 日常、臨床で発生する問題にはこうした不確実性があるからこそ、医学的な条件だけでなく、様ざまな条件を落とさ ずに検討していく方法論が必要になってきます。こうした方法論の一つに、Jonsen(ジョンセン)らが考案した「臨床倫理の4分割表」を使った方法・臨 床倫理の4分割法があります。

 この「4分割法」は、医療チームがジレンマに陥ったり、「どうもしっくりしない」と感じたケースについて、「医 学的適応」、「患者の意向」、「QOL(quality of life 生きることの質)、「周囲の状況」、の四つに分けて問題点をあげ、分析し、解決 しようとするものです。

 倫理的に難しい臨床のケースについて、医学的適応だけでなく、家族を始めとした周囲の状況に気を配りながら、これまでお話ししてきたIC(インフォームドコンセント)を基礎として、患者の意向とQOLを重視して判断していこう、というのが基本的な考え方です。

 QOLというのは、わかりにくい概念かもしれません。ですが、ADL(日常生活動作)のような、医療者側の客観 的評価でなく、あくまでも医療を受ける側の主観的評価であるというところが重要な点です。本人の評価がわからず、医療スタッフや家族が自分の価値感で判断 する場合、十分に慎重でなければなりません。

 次回は、「4分割法」を実際のケースに適応させて検討してみます。

(安田 肇 全日本民医連医療倫理委員)

(民医連新聞 第1334号 2004年6月21日)