最期まで生き抜く 患者さんをサポート
今回は、民医連で初めて開設された東神戸病院のホスピス(緩和ケア病棟)※へ。和室二室、四人部屋二室を含む二一床。治癒不可能な疾患で終末期に ある患者さん・家族に、全人的なケアを行う病棟です。患者さんに寄り添い、家族をささえる静かな病棟には、あたたかい空気が流れていました。(木下直子記 者)
足を踏み入れたとたん、鉢植えの緑や、金魚の水槽が目に入りました。床やドアの木の色が病院らしくありません。共用スペースにはCDや書棚、カクテルグラス用の収納まである談話室が。ハーブの香る中庭までバリアフリーです。
同病棟は「最後まで人間らしく尊厳を守られて生きたい」という地域の声にこたえ、二〇〇〇年三月に開設しました。看護師の本田君子さんはこう話します。 「ここは、あきらめてすごす場でなく、最期まで患者さんが生き抜くサポートをする場なんです」。
看護師と患者の絆
起床・消灯や面会時間、検温など、病棟には決まったスケジュールがありません。お酒も食事の持ち込みも、ペットとの面会もOK。熱があっても気持ちが良いなら、入浴もしてもらいます。
一般病棟の「常識」では考えられない、規制の緩やかな入院生活。その分、看護師の役割の大きさを感じます。配属されるのは一定の経験を積んだ人。患者さ んの日常の姿から情報をキャッチする眼が求められています。「ケアは患者さんと接するところからはじまります。話し声がいつもより弱い、と感じれば『大丈 夫?』と触れて熱をみます」と主任の佐井利恵子さん。
また、医師が病状説明を行う際は、その患者さんの担当看護師が立ち会います。医師と患者の情報認識の食い違いを防ぐ意味もありますが、辛い話をする医師 をささえ、患者さんを守る役割も。医師が部屋を出た後も残って「分かりましたか?」と声をかけ、辛い話の時は「つらいね」と気持ちを分かちあいます。こう して担当看護師と患者さんは絆を強くしてゆきます。
その人らしく生きてほしい
病棟のアルバムには季節の行事や音楽会、食事会などで笑顔を見せる患者さんの写真がいっぱい。病棟行事に加え、 個々の患者さんの記念日をお祝いします。それは患者さんだけでなく、家族のためでもあります。「この病棟は写真をよく撮る所だなあと思っていたけど、亡く なってからその訳が分かった。感謝している」と言った遺族がいたそうです。「普段できない話を、記念日をきっかけに家族でしてもらえたら」と病棟師長の染 矢百合さん。
「医学上必要なことだけするのでは寒々しくなる終末期を、患者さんの人生の物語と調和させるお手伝いをし、その人らしく生きてもらおうとしています。民 医連の場合、一般病棟でも、そういう努力や工夫をしているところが多いと思いますけれど」。
短い話の途中、染矢さんは二度呼び出されました。週二回受けている電話相談です。かけてくる六割が他院の患者さん。かかっている病院で相談したくてもできず、助けを求める声でもある、と丁寧に話を聴いていきます。
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悩みもあります。「いくらがんばってもホスピスは集団生活で在宅とは違う。患者さん本来の生活ペースにあわせき れない」というジレンマです。在宅医療や緩和ケア外来との連携をすすめて、生存退院が増えてきました。患者さんの居場所の選択肢が増えつつある、というこ とです。開設から四年、「地域と医療者がささえあうホスピス」という目標に少し近づきました。
談話室の机に「どなたでも、どんなことでもお書き下さい」というノートがあります。「看護婦さん、これから調子が悪くなれば、無理言ったり面倒かけると 思うが、かんにんな」患者さんからの言葉です。「入浴、車イスでの散歩、お酒、来て三日ですべての夢がかないました。病気は治らないけれど、心は癒されて います」というのは患者家族のメモ、これにつづけてスタッフが書いていたのは「次は四つめの夢を教えて下さいね」…でした。
※ホスピス…日本では九〇年に保険適用が開始され、歴史はまだ浅い。開設に必要な基準に、患者家族の控え室やファミリーキッチン、面談室・談話室の設置など。
(民医連新聞 第1333号 2004年6月7日)
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