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民医連新聞

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“関係ないヨ”と思ってない? 医療倫理のはなし(1)

連載のはじめに

 最近、医療現場で倫理的判断の重要性が強調されるようになってきています。民医連の第36回定期総会運動方針で も、「すべての病院に医療倫理委員会を確立します。終末期医療、告知、カルテ開示など日常的で身近なテーマを設定し、患者の権利を守る運動をすすめましょ う」と呼びかけられました。

 しかし、現場の感覚はどうですか? 昨年の三月、私たち全日本民医連・医療倫理委員会は全国の加盟病院を対象に 「倫理委員会の設置運営に関するアンケート」を行いました(詳細は別項に)。回答したのは一一四病院。医療倫理委員会の設置状況は、全体で二〇・二%でし た。四〇〇床以上の病院では一〇〇%の設置でした。

 また、委員会のない病院に「倫理問題の対応はどうしているか」を問うと、七八%が「法人の理事会や病院の管理会議で対応している」と回答。さらに注目したいのは、一八%弱の病院が「これまで臨床現場で倫理的問題が生じたことはない」と回答したこと。

 このアンケートに院所のトップの人たちが答えたと考えると、一般職員の大部分は、なおさら「倫理的問題なんて大 げさなことは、日常臨床の現場では関係ないヨ」と思っていても不思議ではありません。でも、決してそうではないのです。今回からはじまる連載では、なるべ く日常の現場に即した形で医療倫理の問題を考えていこうと考えています。

 では、一回目の今回は、倫理的な問題を含んでいるケースを、いくつか紹介します。

【ケース1】入院時スクリーニング 検査に入ったHIV検査は…?

 入院時のスクリーニング検査の中に、多くの病院でHBs抗原、HCV抗体、梅毒血清反応などがもりこまれている。これは、医療従事者への感染防御が主な目的。

 しかし、この検査の実施にあたっては、患者の同意をとることはほとんどない。また、その結果が陽性の場合、ナー スステーションの入院患者名を書いたホワイトボードに書き込まれ、病棟スタッフ全員に感染への注意が呼びかけられる。場合によっては、この情報はナースス テーションに入ってきた他の患者の家族の目に触れるかもしれない。

 考えてみれば、おかしなことである。HIV感染の検査が本人の同意なしに行ってはいけないこと、検査センターからの結果報告も、検査を指示した主治医あてに「親展」で送られてくることを考えれば、問題があることは明らかであろう。

【ケース2】プラセボ(偽薬)の使 用の指示が当直医から出されて

 交通事故後の慢性疼痛症候群の患者。入院し、様ざまな検査をしても、この人が訴える疼痛の原因に相当する器質的疾患が見つからない。

 入院してからもスタッフに頻回に疼痛を訴えるため、そのつど鎮痛剤の内服、座薬、注射などで対応してきた。

 ある晩も夜勤の看護師に同様の訴えが出された。その日は、すでに、主治医があらかじめ、患者が痛みを訴えた時の 指示として出していた鎮痛剤はすべて使ってしまっていた。そこで看護師は当直医に電話で指示を仰いだ。当直医は「痛みは精神的なものだろうから、プラセボ (偽薬)として蒸留水を筋注しましょう」と指示。その看護師は考え込んでしまった。「プラセボの使用は、ある意味では患者さんをだますことになるのではな いかしら?」

【ケース3】カンファレンスで知る 患者情報について

 リハビリテーション病棟では、週一回医師、看護師、リハスタッフ、SWが集まって患者の情報交換を行う。とくに、SWの情報は、患者の成育歴、家族状況、経済的背景など、微妙な内容を含んでいることが多い。

 その患者の治療に医療チームとして直接かかわらないスタッフ(担当以外の医師やリハスタッフなど)もカンファレンスに同席していいものだろうか。

***

 いかがですか? 私たちが日常的に「あたり前」と思ってやってきたことが、少し深く考えると、そして、医療従事者の立場から離れ、一般市民の立場から考えると、倫理的な問題に関わっているのです。

 (安田 肇、全日本民医連・医療倫理委員)

(民医連新聞 第1329号 2004年4月5日)