安心・安全の医療をもとめて(16) -東京・代々木歯科-
安全性チェック受けた歯科診療所 “発想の転換しなくちゃ”
「歯科診療所がリスクマネージャーのチェックを受けて…とにかく、観点の違いに気づかされたことがいちばん良 かった」。全日本民医連が九月に行った「『安全・安心・信頼の歯科医療』実践のためのセミナー」(保健医療研究所と共催)で、こんな発言がありました。報 告をした東京・代々木歯科の武藤直子歯科衛生士長にききました。
法人の業務会議で「法人のリスクマネージャーのチェックを歯科でも受けてはどうか」という話がもちかけられまし た。対象になったのは、ユニットや待合のある診療スペースとスタッフルームのすべてです。第三者の評価を受け、見方や発想の違いに気づくことができ、感染 対策をすすめるエネルギーにできました。
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当日真っ先に指摘されたのは「ホコリが多い」でした。「ホコリが多いとカビの胞子をまき散らす」との指摘です。 観葉植物や置物、たくさんの掲示物も整理を求められました。「なくて不便なものだけ掲示しましょう」と。職員もホコリっぽいかな? とは「自覚」していま したが「問題視」はしていませんでした。
コストを減らしたくて、空き容器に別の薬を入れていましたが、ラベルはそのままの状態。スタッフ間で「暗黙の了解」という形で使っており、薬品名や濃度、開封日、期限などは明記していませんでした。
グローブの使い方も「この時間中は一度も替えていませんね」と指摘が。「患者さんごとに新しいものに替える」と いう原則はおろそかにされ、グローブのままで電話やカルテ、パソコンにも触れていました。あわせて手洗いが不十分なこともチェックされました。グローブを つけていても、手洗いが十分でなければ安全ではない。手袋はプラスチックの六〇%、ラテックスの四〇%に穴があり、水が浸みこむことなどを学びました。
ゴミ箱の中まで点検を受けました。「空き缶専用」の箱を開けると、マスクが入っていました。私は「資源ゴミに可 燃ゴミが混入して、分別されていないことが問題なのか」と考えたのですが、リスクマネージャーの指摘は「中(診察場)のゴミが、外のゴミに交じっている」 というものでした。
指摘は他に根治ワゴンの状態、薬品の管理、水まわり、白衣の保管方法、スタッフルームにも及びました(別項)。
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治療中の出血や飛沫など、歯科では日々、感染の危険性の高い処置が行われています。「全患者を感染者と見なして」ということは以前から言われながら、感染経路や滅菌物の取り扱い方など、理解は充分ではありませんでした。学習なしではすすんでいかないことも痛感しました。
後日、感染委員会から写真とともに報告書が送られてきました。当院安全委員会では、「すぐに着手できるもの」「検討を要するもの」に分類し、改善をはじめています。
改善したものの一例
掲示物などのホコリ対策:清掃に力を入れる。ライトや座席も拭く。掲示物は一部整理。観葉植物は撤去
カート:文具を下段に処置用具を上段に入れ替えた
グローブ:取り替えやすいよう、全てのユニットに取り替え用のグローブを配置
水まわり:せっけん廃止。ひんぱんに清掃
エプロン:使い捨てのものを使用する方向に
指摘されたこと~武藤さんのメモから
根治ワゴン・カート類:根治ワゴンの位置が低い。ホコリにふれやすい。スカートの裾(床上20センチ)より上に→カートの内容:文具が上で滅菌物が下/引き出しの敷物、紙類の仕切りは避ける
スタッフルーム:流しのタオル・せっけんは廃止/診療室のものは持ち込まない/白衣の保管は、床上20センチ離す
白衣・エプロン等:歯科は患者に接近するため白衣、エプロンにかなり飛沫。また自分も守ろう(フェイスガード、メガネ等の着用も)/患者用タオルの保清/髪の毛がライトに触る
殺菌灯:効果は光が当たる場所のみで、4000時間しか保てない
壁、空調:破損部分は早急に対処。カビの原因。雨漏りもだめ/エアコン送風口の定期的な清掃
(民医連新聞 第1321号 2003年12月1日)