安心・安全の医療をもとめて(14) 石川民医連
“安全を科学しよう”180人で事故防止話し合う
石川民医連は9月、「安全と安心を科学する」をテーマに、 31回目の学術集談会を行いました。演題を持ち寄って発表する、といった従来の進行スタイルを変え、ある1つの事故事例に対して、会場の参加者180人余 から意見を求め、分析・再発防止を検討していく、というユニークな内容の「特別講演」が行われました。講師は日本ヒューマンファクター研究所(桑野偕紀さ ん、木原康彦さん)。会場には真剣な意見が飛び交いました。
講演は「To Ereer is Human(人はエラーをするもの)…科学的に人間のミスやエラーを考えるた めに、ヒューマンファクターの知識を持とう」という内容で行われました。導入はこの会議の二カ月事前に同研究所が行った城北病院の視察の感想から。「驚い たこと」として、ナースステーションや廊下、非常口、薬剤庫など、調査時に撮った写真がスライドで示され、「雑然」「危機不管理」「欠ヒューマンファク ター」の三点が指摘されました。
ここで説明されたヒューマンファクターの定義は「患者のために、医療機器や薬液などを有効に用いながら、治療に従事する能力や限界、特性などに関する知 識・概念・手法などの総称。プラスもマイナスも持った人間がどういう行動を取るかということを前提に置きながら、仕事や動きを理解する」というもの。その 理解の助けに、M―SHELモデル(図)が使われます。
また、講師は「ヒューマンエラー」は、達成しようとした目標から、意図せずに逸脱することになった「期待に反し た人間の行動」であると説明。目に見えるエラーは全体で起きているヒヤリ・ハットの中の氷山の一角。「管理」「環境」「機器」「人間」の各々にはいくつも の事故要因が潜んでいる。エラーはこれらのいくつかの要因が連関した結果だ、とのべました。
「スイスチーズモデル」と言われるように、事故は防止のためにつくられた様ざまな対策の穴をくぐり抜けて発生 し、完全な防御対策はありえない、ということも指摘。「対策の穴をできるだけ減らすことも大切ですが、私たちがそういう状況で患者さんを診ていることを、 まず理解してほしい」と、強調しました。
基本的な講義につづいて、今回のメイン・事故事例の検討です。分析作業は出された意見をM―SHELモデルに沿って区分、対策を考えていくというもの。
分析作業の終わりに
分析作業の終わりに講師の桑野さんは「患者としては大変、不満でした。疑問が先送りされると、そのシワ寄せは最 後に患者にゆく。『患者は安心して薬を飲めない』という状態でいいのか? 皆さんの仕事の姿勢が問われている」と指摘しました。また、木原さんは「職員一 人ひとりがチーム医療の一員であり、医療事故を起こさないための『患者さんのため防護壁』の一人でもある。事故を起こしたときに、大きく失うものはなによ りも『信用』。これを念頭において働いてほしい」と話しました。
つづけて、今後のとりくみの課題として、リスクマネジメントの活用や安全報告制度の整理・活用などが提案されました。
なお、同集会の実行委員会では、講義の前後でアンケートをとり、受講者の安全性に対する意識の変化を調べました。ヒューマンファクターの知識や「手順を守っているだけでは安全は守れないとわかった」など、参加者の意識には、はっきりとした変化がありました。
分析作業
【誤投薬例題】医師が血痰の患者に出すはずの「アドナ」を「アーテン」と誤って処方。薬剤師は処方箋通りに調剤。看護師もそのまま調剤薬を患者に渡す。服薬後、患者は転倒し骨折。
-医師、薬剤師、看護師の立場の順で「なぜ防げなかったか」の討論を開始しました。出された意見は、M、S、H、Lに分類してボードに貼られてゆきます。
◇「医師はなぜ処方を誤ったか」に出た意見…「処方される薬が多い」、「薬剤名がよく変わる」、「薬剤名の思い込み」、「入力画面の確認不足」、「画面操作の中断」、「医師のクリックミス」
→対策…パソコンソフトの改良
「病名登録し、病名にあてはまらない薬は画面で疑義照会が出るようにする」、「廃止の薬剤に続き、それに代わる新しい薬剤名を出す」
◇「薬剤師が誤りをチェックできなかった理由」…「薬剤師に誤りに気づくほど知識がなかった」、「処方上の疑問を医師に確認しにくい(嫌がられる)ため、薬剤師が疑問を感じても流してしまう可能性がある」
→対策…患者さんに症状や医師との会話をたずねることで確認する
-討論は薬剤師のところで時間切れに。リハビリ担当の職員からは「誤投薬の防止だけでなく、転倒防止についても話 し合わなければいけないのでは?」の意見も。講師からは、「ここで実践した、要因を分析し、対策を立てる、という科学的な手法を身につけて事故防止の討議 をすすめて下さい」と、助言が。
(民医連新聞 第1319号 2003年11月3日)
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