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民医連新聞

民医連新聞

第35期第3回評議員会 決定

2003年8月24日 全日本民医連第35期第3回評議員会

はじめに

 全日本民医連はこの六月七日に創立五〇周年を迎えました。医療・福祉宣言を実践する立場から、あらためて民医連運動とはなにかを問い直し、国民、地域住 民、患者さんの期待に応え、社会進歩につながる運動として創造的に発展させていく決意を固めあいましょう。

 第三回評議員会は次の内容を意思統一することを目的に開催します。

 第一に、平和・医療・福祉をめぐる情勢認識を一致させ、各地であらたな運動を巻き起こす決意を固めあうこと。

 第二に、第二回評議員会から半年間の活動を振り返り、第三六回総会までにとりくむべき重点的な課題・方針、とりわけ医師問題、管理運営問題の打開のための議論をすすめることなどを確認し、具体化することです。

第1章 私たちをめぐる情勢と運動の方向

1. 平和・憲法を守る決意

 小泉政権によって、日本は「戦争しない国」から「戦争する国」へと大きく舵を切ろうとしています。

 この背景には日本を軍事的にアメリカの戦略に組み込もうとする日米支配層のねらいがあります。有事法制の強行に 続いて、アメリカ占領下のイラクへ自衛隊を送りこむことを目的としたイラク特別措置法を強行成立させました。これはあきらかに憲法違反であり、断じて許す ことはできません。北朝鮮の核開発や拉致事件は決して許されるものではありません。しかし、小泉首相は、過剰に北朝鮮の脅威をあおり、「備えあれば憂いな し」論をふりまき、無批判に報道するマスコミなども動員して日本の軍事力を強化しようとしています。

 かつて日本軍に侵略を受けた東南アジア諸国にとっても日本の有事法制は「憂い増す」状況です。「国と国との争い ごとに一切の武力を用いない」とする憲法九条こそが最大の備えです。「武力で平和はつくれない」ことは明らかです。世界的にみても反戦は大きなうねりと なっており、国内でも根強い平和運動が広がっています。私たちは「いのちを守る医療人」として、イラクへの自衛隊派兵と有事法制の発動、教育基本法の改悪 に反対し、改憲策動を許さず、平和な国づくり運動をすすめていきます。

 唯一の被爆国で一貫して被爆者医療にとりくんできた民医連として、戦争に反対し核兵器の廃絶にむけて運動を強化 します。湾岸戦争、イラク戦争で使われた劣化ウラン弾による被害の告発や原爆症認定集団訴訟の支援を行います。原水爆禁止世界大会が呼びかけた二〇〇五年 を核兵器廃絶への転換の年とする署名を広げます。

 職員と共同組織の中で、憲法と平和についての学習を重視し、地域に平和を守る組織としての立場を発信するなどのとりくみを重視します。すべての事業所で「戦争に協力せず、平和を希求する○○宣言」を行いましょう。

2.政治・経済の動向

 日本の借金は六六八兆円となり、国民一人当たり五二五万円にものぼります。家計でいえば完全に破たん状態であ り、会社で言えば倒産状態です。国民が医療費や福祉、教育にお金を使いすぎた訳ではありません。むしろ国内総生産(GDP)に占める医療・福祉・教育への 費用支出は諸外国に比べても低位にあります。

 無駄な公共投資、世界第二位の軍事費、銀行への公的資金導入、大企業には大幅な減税、さらには景気の悪化などで 税収を大きく減らしたことに主な要因があります。その一方で小泉政権と財界はつけを労働者や国民に全面的に押し付けています。派遣労働の拡大など労働法制 の改悪、年金への課税や控除廃止による低所得者層への大増税、消費税の二桁への引き上げ、医療・福祉・年金制度の大改悪、市町村合併による行政水準の切り 下げなど国民生活へのしわ寄せ政策が目白押しです。中でも政府は二〇〇三年度年金額を〇・九%引き下げたのに続き二〇〇四年には保険料を現行一三・八五% から段階的に二〇%引き上げる一方、年金額を最大三割削減をねらう大改悪を準備しています。

 五年連続自殺者が三万人を超え、第二次大戦直後に相当する三八五万人にも及ぶ完全失業者がうまれています。ホー ムレスの増加、過酷な労働実態による過労死・過労自殺の増加、サラ金・ヤミ金被害の増加が深刻になっています。子どもを生み育てる条件が悪化する中、つい に合計特殊出生率*は一・三二人となり、このままでは一〇〇年後には日本の人口は半減するという予想すら生まれる危機的な状況です。食料自給率は四〇%を 切っています。凶悪犯罪も増加しています。このように国民生活の危機がいっそう進行しています。

 一方で、小泉政権と国民各階層の要求との矛盾はますます拡大しており、政権自らの支持基盤を掘り崩しています。 「経済のための社会から人間のための社会へ」(『もうひとつの日本は可能だ』内橋克人著)大きな世論が起こり、住民が主人公の県政をすすめている長野県を はじめ、いくつかの自治体では変化が生まれ、新しい共同が広がっています。従来の枠を越えて、要求の一致に基づく「共同」の運動を広げる視点がますます重 要です。

 この間、医療改悪撤回や医療の営利化反対の運動などで、日本医師会をはじめ四師会や医療関係団体との一致点にも とづく共同が広がり、大きな変化が起きています。ボーナスからの社会保険料の大幅徴収や労働法制改悪に労働組合の中でも怒りが渦巻いています。力をあわせ て悪政をうちやぶる粘り強い運動をすすめましょう。

3.医療・社会保障をめぐる動向

 二〇〇二年度六七・五%の自治体病院で赤字となりました。補助金カットで独立採算が迫られ、国公立病院の統廃合 や不採算医療の切り捨てがすすんでいます。また経営の困難や後継者問題、医療法対応などで民間医療機関でも病院の閉鎖、縮小が相次いでおり、地域医療が崩 壊の危機に直面しています。地域医療を守る共同行動を強めましょう。

 小泉政権は、今年四月、次期医療改革として、「高齢者医療保険制度の創設」「診療報酬制度抜本改革」「保険制度 の統合」「医療供給体制のビジョン案」を打ち出しました。さらに「骨太方針」第三弾では、株式会社の医療経営への参入、保険者と医療機関の直接契約・割引 制度、診療報酬出来高払い制度の見直し・定額制の拡大、公的保険給付範囲の見直し・混合診療容認(自由診療の拡大)、病院の格付け・査定などが画策されて います。なかでも医薬品販売のコンビニエンスストアでの解禁の動きなどは、国民のニーズを装いながら、安全性を軽視した公的医療の解体・医療の市場化につ ながる危険な動きです。このことは、医療・福祉サービスを「商品」とするもので、憲法で定められている基本的人権としての医療・社会保障制度の質を変える ものとなっています。国の医療・社会保障への国庫負担を減らすことを目的にした制度改革は「改革」に値しません。日本の国民皆保険制度は日本人の健康に生 きる権利の前進に大きく寄与しました。この制度を守るために国の負担をまず元に戻し、さらに増額し、制度の充実こそ図るべきです。

 全日本民医連として次期医療制度に対する批判を行うとともに、診療報酬・介護報酬のあり方についての提言をまと め、運動をすすめます。一八〇日超えの長期入院患者の特定療養費化撤回を求め、厚生労働省交渉を行います。本年四月から、急性期医療の包括化(DPC)が 特定機能病院中心に導入され一般病院にも拡大される可能性があり、注視していく必要があります。

 あいつぐ医療改悪によって、深刻な受療権の侵害が起きています。国民の半数近くが加入する国民健康保険は高い保 険料(税)負担のために、保険料(税)を支払えない加入者が急増し、保険証未交付、短期保険証、資格証明書の発行が行われ、実質的な、無保険状態が広がっ ています。

 高齢者医療費負担の定率制(一―二割)によって、支払基金の報告でも、一割近い高齢者の受診抑制が発生していま す。岡山市では月一万二〇〇〇円以上の負担を行った高齢者のうち、高額療養費償還払いの手続きを行った人は一割にも満たない状況で、実質天井知らずの負担 を強いられています。

 サラリーマン本人の三割負担も深刻です。四月以降全国的に治療中断が増えています。そのうち四分の一を占める高 血圧症が第一位で、第二位が糖尿病、第三位が歯周病とのデータも報告されています。在宅酸素療法の患者さん、インスリン療法の患者さんの負担も深刻です。 まさに「お金の切れ目が命の切れ目」の状況が広がっています。これに対し、小泉首相、坂口厚生労働大臣は「負担は軽微」「耐えられる負担」との認識です。

 介護保険料の引き上げ(平均一五%)や利用料の「激変緩和措置」(七月から三%から六%へ)により、低所得者層 を中心にサービス利用の抑制がさらに広がることが予測されます。特養待機者は全国で二三万人にのぼっており、「在宅重視」にはほど遠いサービス水準のもと で、在宅でささえきれず、しかし施設に入所できないという深刻な事態が生じています。介護報酬は二・三%のマイナス改定となり、質の向上、事業所の運営に 困難をもたらす内容となりました。五年目の法改正として、二〇歳からの保険料徴収も検討されています。保険料・利用料の減免や基盤整備を中心に、引き続き 介護保険の改善を求める運動を強めます。

4.全日本民医連として運動をすすめる「視点と方針」

 私たちは国の医療・福祉改悪政策に反対し、運動を強めます。そして、医療・福祉の改悪による被害の実態を明らか にし、医療・福祉の現場から運動を広げます。中でも矛盾の集中点である国保の問題、高齢者・障害者・難病患者の医療、中小零細業者の健康実態に焦点をあ て、現場から改善の運動を強めます。

 資格証明書を発行された国保世帯の受診率は通常の世帯の一三七分の一、というのが北九州国保現地調査活動からの 報告です。生活保護基準相当の国保加入世帯の年間保険料(税)が三〇万円という水準です。資格証明書発行世帯は待っていても受診にはつながりません。住 民、患者さんの苦難に寄り添い、具体的な受療権を守るとりくみをすすめることは民医連の事業所としての存在意義を発揮することになります。そのことは民医 連に働く職員の誇りであり、新たなエネルギーの源泉となるものです。

 次期総会までの半年間に全ての事業所・職場で受療権を守る具体的な実践にとりくむことをよびかけます。「人権の アンテナの感度」を高め、問題意識を持ち、意識的に地域、現場に出かける「機会」をつくりだす必要があります。「調査し、学習し、連携し、行動する」こと を合言葉に経営幹部、医師を含めて全職種、法人・事業所・職場あげてとりくみましょう。

 (1)具体的な要求を持ち寄り国と自治体への働きかけを強めましょう。一〇月には全日本民医連として自治体運動交流集会を開催します。経験を持ち寄り交流しましょう。

 (2)地域で、医療・社会保障の前進、安心して住みつづけられるまちづくりをすすめる共同ネットとして地域社保協の強化にとりくみ、中心的役割を担っていきましょう。

 (3)「より開かれた民医連」としての真価を発揮し、医療改悪、医療事故防止、診療報酬改定など具体的で身近なテーマでシンポジウムや懇談など積極的にとりくみ、医師会、自治会、市民運動など幅広い団体・個人との共同を全国各地ですすめましょう。

 (4)共同組織の人びとといっしょに運動をすすめ、一〇―一一月、共同組織強化発展月間にとりくみ、「『いつでも元気』五万部を第三回評議員会までに」「共同組織三〇〇万を月間終了までに」の課題をかならず達成しましょう。

 (5)地域、事業所、職場から平和のとりくみを発信し続けましょう。

 (6)近く総選挙が予想されます。民医連として総選挙にのぞむ医療・社会保障改善の要求を掲げ、実現にむけてとりくみます。特に有事法制を強行し、医療改悪を推進した勢力は誰なのかを明らかにし、審判を下しましょう。

第2章 第2回評議員会以降のとりくみと第36回総会までの半年間の課題と方針

1.医療事故・事件の教訓をふまえ医療安全、医療の質の向上、管理運営の改善、民医連としての医療・介護活動の前進をかちとろう

 全日本民医連は医療事故や事件の教訓をふまえ医療安全のとりくみ、医療の質向上にむけてのとりくみを強調してき ました。これらをすすめる上で、医療管理を含むトップ管理の役割強化と管理運営の習熟と改善が重要となっています。全国、他の医療機関の経験や教訓にも学 びながら、これらの課題での前進をはかりましょう。

(1)医療安全のとりくみ

 三月に開催した「全日本民医連医療安全交流集会」は、医療安全をすすめる上で画期をなす集会となりました。この 到達点からすべての事業所が学び、幹部、職場、医師集団の到達点にすることが重要です。必要なことは、決して他人事とせず、自らの事業所に引き寄せ、自己 分析と点検を真剣に行うことです。

 全日本民医連は医療事故対策の前進をめざして厚生労働省に対し、第三者機関の設置を要望しました。よりよい制度 として実現するよう引き続き他団体にも共同をよびかけ、運動を強めます。全日本民医連として安全モニター新制度を発足させました。『転倒転落事故防止マ ニュアル』は一万七〇〇〇部を普及しました。さらに、『感染予防ガイドライン』の改定、『静脈注射ガイドライン』、『注射事故防止マニュアル』の発行を準 備中です。大いに学び、普及しましょう。

(2)医療の質の向上

 医療の「質」の向上にむけいっそうの努力が求められています。第二回評議員会では、「医療の質とは、個々の診療 内容にとどまらず、医療技術、診断治療、接遇、インフォームドコンセント、医療相談、療養環境、医療事故防止、院内感染防止、医療倫理、診療情報、医療・ 福祉行政との連携、危機管理など、すべてが問われる内容です」と提起し、愛媛民医連チェックリストの試みに学び、我流に陥らず、ISO、医療機能評価の受 審、地協や県連による現地調査など相互点検、倫理委員会や「事業所・施設利用委員会」の強化、医療監視のとりくみなどを通じて、自らの医療・福祉・管理運 営を見直し改善をすすめることをよびかけました。

 私たちはこれまで患者の権利の二つの側面(医療を受ける権利と患者としての権利)を明らかにし、「人権を守る医 療」「安全・安心・信頼の医療」「共同のいとなみの医療」「民主的集団医療」といった医療理念のもと、受療権を守るとりくみ、日常医療活動を行ってきまし た。これらの実践は日本の医療の中で積極性を発揮し、地域や患者さんからの信頼をかちとり、民医連運動の前進につながりました。しかし、今日的にみた場 合、例えば個人情報保護法が成立し、「人権」の視点で考えた場合、カルテなど個人のプライバシーがどこまで守られているのかや自己決定権を保証する体制や しくみができているのか、また、カルテ開示を含む情報公開のレベルなどがどこまで実現できているのか、などについて共同組織の参加も得て率直に語り合い改 善につなげること、また他の医療機関のとりくみからも学びながら、さらに深め、具体的なものにしていくことが重要です。川崎協同病院外部評価委員会の指摘 にもあるように、意識的に見直し改善にむけて努力しない限り、形骸化しがちです。

 私たちの医療の質をあらたな水準に引き上げる立場から、それぞれの事業所・職場の日常的具体的な課題として、す でにある診断基準・業務基準の見直しなど含めて意識的なとりくみをすすめましょう。この課題は病院だけの問題ではありません。東京民医連では診療所自己点 検運動がはじまっています。全事業所、全職種の課題としてとりくみましょう。

 医療機能評価を受審する病院が増えてきました。受審を通じて「我流を思い知らされた」「自らの医療、管理運営を 振り返り、改善する機会となった」など感想が出されています。医療機能評価には数多くの点検項目があります。先に提起した医療の質向上の課題と日常活動の 見直しと自己点検の機会として積極的に位置づけ、プロセスを大切にしながらすすめましょう。全日本民医連として必要な援助体制を検討します。

(3)民主的管理運営の今日的課題について

 京都民医連中央病院に対する京都府・市合同の医療監視報告書では、医療管理における院長責任、病院の管理運営体 制、医師の役割などがきびしく指摘されました。「医療管理」を誰が責任を持って行うのかが問われています。なにより患者さんの人権を守ることを中心におい た医療管理が必要です。医療管理の主要な中身として診療内容、法令の遵守、医師部門の管理、医師と他職種とのコミュニケーション、医療現場の掌握などで す。医療の質そのものといえます。トータルな医療管理に責任を負う院長はじめトップ管理責任を明確にしてとりくむことを強調します。

 さらに、組織図の整備や責任と権限、業務分掌規定の整備などを含む管理運営の改善、職種間のコミュニケーションの改善、が求められました。

 川崎や京都の教訓の上に、厳しい医療経営環境のもとで民医連の事業と運動を発展させるには、これまでの延長線上 でない管理運営水準の飛躍が求められています。今日普遍的に行われている管理運営の到達点や手法から積極的かつ批判的に学び、取り入れる必要があります。 同時に、方針提起と実践そして結果に責任を持つべき管理機能の発揮と、職員のエネルギーを汲みつくすための教育、情報公開や参加のしくみなど、民主主義の 発揮について、より習熟する必要があります。全日本民医連として、医療管理のあり方を含め今日的な民主的管理運営の課題を整理し、実践に生かす視点であら たな方針の作成作業をすすめます。

(4)医療・健診活動と介護分野の事業と運動を前進させよう

 健診活動を一層強めましょう。受診抑制がすすむ一方、青空健康チェックに列をなすような状況が生まれています。 民医連の医療機関に対し、共同組織や民主商工会や労働組合などから健康管理や健診への要望が高まっています。要求や実態をつかみ、日常の医療活動や健診活 動に意識的に反映させましょう。

 介護事業は民医連事業所の役割がますます期待される分野です。この間、地域の要求と運動によって特別養護老人 ホームやグループホーム、ケアハウス、生活支援施設など多様な施設が誕生し加盟しています。一方で、とりくみに県連、法人間格差が生まれています。全日本 民医連は「期待される民医連の介護事業の総合的発展にむけて(案)」を発表しました。地域の要求をふまえ、あらためて介護事業の強化をよびかけます。その 際、介護事業を担う人材の確保と養成、介護の質の強化、法に照らした整備の課題が重要です。介護分野への幹部の配置、推進チームの設置など位置づけを強め ましょう。〇五年度介護保険法見直しにむけて運動を強めます。

2.医療・福祉宣言を活用し、民医連運動を担う職場づくりと職員育成を意識的にすすめよう

 第三五回総会で「全日本民医連の医療・福祉宣言」を決定しました。各事業所では七割近くで作られ、さらに多数の 職場で完成しています。医療福祉宣言は内外にむかって「私たちの事業所・職場はこうした医療(福祉)観に基づき、こんな医療(福祉)目標を持って日ごろの 活動を行います」と宣言したものです。事業所や職場の具体的な方針に反映させましょう。そして外にむけても大いに宣言し普及しましょう。

 全日本民医連は五〇周年記念事業として「医療・福祉宣言ビデオ」(三七分)を作成しました。民医連の歴史にも触 れ、あらためて民医連運動とは、を考え学ぶことができる内容になっています。すべての職員が見て、それぞれの事業所の歴史を振り返るとりくみをよびかけま す。また共同組織の中にも積極的に普及しましょう。

 全日本民医連は七月、教育委員長会議を開催しました。ここでは「厳しい時代を教育の力で乗り切ろう」と一貫した とりくみを行っている熊本の経験や、一人ひとりが具体的な目標を持ち職場や事業所の目標達成につながる行動をめざした目標管理を行っている埼玉の経験など が報告され、二一世紀の民医連運動を担う「教育」の役割が強調されました。

 全日本民医連の医療・福祉宣言で提起された「病気や障害をもつ人びとと共感し、地域のなかで学び成長する」「科 学性・社会性・倫理性をふまえた鋭い人権感覚をもつ専門職」が私たちの教育目標です。一人ひとりの職員が大切にされ、成長を促され、その力やエネルギーが 職場や事業所の活動に反映される職場づくり、職員育成をめざして奮闘しましょう。

 九月、一一月と二回にわたってトップ幹部研修会を開催します。今回は二〇〇床以上の病院のトップ幹部を対象とします。積極的な参加で成功させましょう。

 今年三月に「民医連職員の健康を守る交流集会」を初めて開催しました。メンタルヘルスを含む職員の健康の問題は職員育成の上でも、今日極めて重要さを増しています。重視し、とりくみましょう。

 一〇月に沖縄で開催される全日本民医連第三〇回全国青年ジャンボリーは北海道から沖縄まで一〇〇〇人以上の青年 職員が参加し、平和の問題、医療のこと、民医連のこと、働きがい、生きがいなどについて学び交流します。この息吹は必ず事業所、職場に反映されるでしょ う。積極的に送り出しましょう。

3.医療・介護・経営をめぐる厳しい局面をふまえ、医療・経営体質の改善・強化をすすめよう

 昨年四月の診療報酬改定、一〇月の高齢者医療制度の改悪、今年四月のサラリーマン本人の負担増などの影響で、事 業収益が大きく落ち込みました。全日本民医連の二〇〇二年度の決算(速報値)は医科法人で黒字法人七八・五%となり、二〇〇〇年度、二〇〇一年度より低下 したものの、八割近い法人が黒字という状況を何とか維持しました。しかし六三・六%の医科法人が前年比で経常利益を悪化させ、医科法人合計で事業収益が約 八四億円、経常利益が約三五億円減少する結果となりました。事業収益が前年比で落ち込んだのは史上はじめてのことです。

 今年四月の患者動向は対前年同月比モニター法人平均で健保本人件数九〇・三%、のべ患者数八六・五%、全体件数 九六・一%、のべ患者数九一・〇%と大きく落ち込みました。診療報酬引き下げと患者負担増で医療費を抑制する政策の結果であり、医療経営をめぐる状況が新 たな局面に入ったことを表しています。

 〇三年八月の医療法改定に伴う病床区分の届出は全日本民医連全体では急性期一般病床一万八六三〇(七三・ 三%)、介護・療養型病床六四一二(二六・七%)となっています。二〇〇三年医療法対応や介護事業の展開、医療内容の改善・充実、電子カルテ化などのため に資金需要も増えています。一方、銀行による貸し渋り・貸しはがしが横行しています。また、ひとたび医療事故や事件が発生すると一気に経営が悪化する事態 になることはこの間の経験から明らかです。断固とした決意で、運転資金を銀行に頼らない安定した経営をつくりあげる必要があります。あらためて地域住民と 職員の共同の財産である、民医連の経営を守り、発展させるとりくみを重視しなければなりません。

 経営活動をすすめる上で、留意すべき点として、以下提起します。

 第一に、経営改善と医療、社会保障運動を統一してとりくむことです。患者減が収益減に直結しています。一方、受 診したくても、できない患者さん、地域の人びとがたくさんいます。地域での健診、健康づくりの運動と結びつけたとりくみや受療権を守る具体的なとりくみを 通じて、患者件数、患者増をかちとっている事業所もあります。収益減の中で、支出抑制型の対応だけでは限界があります。地域の要求を的確につかみ、要求に 応える活動を事業に反映するとりくみを意識的にすすめましょう。

 第二には、一定は支出抑制型とならざるを得ない経営環境下で、一時金の減額や労働条件・賃金・退職金制度の見直 しを提案している法人も増えてきました。さけて通れない課題といえます。その際、職員や労働組合に対し、経営資料や見通しなど具体的な資料や展望を率直に 示し、粘り強い誠意ある対応が重要です。職員との信頼関係、労組との信頼関係の強化なくしてこの課題での前進は困難です。ジェネリックへの切り替えなど医 薬品の見直し、問屋やメーカーとの交渉も重要な局面であり意識的なとりくみをすすめましょう。

 第三に、経営活動の面からも、人権を守り、安全・安心の医療をすすめるためにも、医師労働の適正化を意識したと りくみが求められます。高密度・高日当点にささえられた経営には限界があります。地域の班会活動や他職種との症例検討会、学会・研究会活動、制度教育など に医師が参加できる保障が必要です。経営の厳しさから、ともすれば医師労働に頼った経営が続けられてきました。県連、法人指導部が医師労働の現状を評価 し、医師労働の適正化と医師労働強化に頼らない経営の創造が必要です。

 第四に、「地域協同基金」、出資金増資のとりくみをよびかけます。医療生協法人では数十億円の出資金となっている法人も生まれています。医療生協法人の経験から積極的に学び、本格的に地域協同基金のとりくみを強めましょう。

4.臨床研修必修化と医学対の飛躍、医師問題の打開をめざして

(1)臨床研修必修化と医学対

 二〇〇三年新卒医師の受け入れは九〇年代以降で最低の九九人にとどまりました。

 二〇〇四年からはじまる新しい臨床研修制度にむけこの夏、〇四卒、〇五卒の医学生は研修先を求めて病院見学や面 談をはじめています。〇四卒の到達点は七月一〇日現在九二人です。民医連の医学生へのよびかけとして『メディウイング』特集版を発行し、「民医連はプライ マリケアの基本的な能力を身につけ、専門的力量をあわせ持った、国民の期待に応えうるハートフルな医師づくりを、地域の人びとと共に実践しています」とよ びかけています。

 私たちのすすめてきた医療と医師研修の姿は医学生の共感をよぶ魅力と実績を持っています。民医連を担う医師の養 成と臨床研修病院としての社会的使命の課題を統一的に捉え、自信を持って民医連への参加をよびかけましょう。二〇〇四年度は新しい研修制度のスタートの年 です。すべての医学生に民医連での医療、医師像を示し、具体的なプログラムを整え、来年卒一五〇人の受け入れをめざし奮闘しましょう。日生協医療部会から 「組合員が期待する医師像と医師養成の考え方(案)」が提案されました。民医連として大いに学び、活動に生かしていきましょう。

 臨床研修問題で、政府はいまだ、研修を保障する財源を明らかにしていません。財源をしっかりと確保してこそ、システムも運用できます。全日本民医連として、引き続き研修制度の充実をめざし要求していきます。

(2)医師問題の打開に向けて議論と実践をすすめよう

 全日本民医連理事会はこの間、医師問題の打開と前進をめざして集中的に討議を行ってきました。その中で医師問題 を医学対と研修という枠にとどめず、(1)民医連運動を担う医学対や医師養成の課題、(2)日常医療現場で解決すべき問題を含む医師に関わるすべての課題 の掌握と援助の問題として捉え、トータルな前進をはかることが重要、との認識を持つに至っています。

 医師問題打開のトータルな前進をはかる上で、これまでの県連や法人医師委員会のあり方、法人の役割などについて 見直しが必要と考えています。とりわけトップ幹部の役割が重要になってくるものと思われます。全日本民医連理事会は次期総会にむけて医師問題でのあらたな 組織方針を準備していきます。

 現時点での検討すべき課題、問題意識を提示します。各県連、法人で大いに議論していただくことをよびかけます。

 医療をとりまく環境の大きな変化と私たちがすすめてきた医療・経営構造転換のとりくみの上に、今後、民医連の事 業所が、日本の医療、地域の中で、どのようなポジションを担っていくのか、どんな医療目標を掲げてすすんでいくのかについて、医師集団の議論と合意づくり が重要です。

 また、医師集団がこの間の医療事故や事件、安全モニターの結果を通じて、技術水準や治療成績をスタンダードに照らして客観視すること、患者さんや他職種との民主的関係やコミュニケーションのあり方について見直し改善することが求められています。

 民医連の本質的な優位性である共同組織と患者参加の医療を志向する職員集団の存在に確信を持ち、転換期にふさわ しい医療構想づくりに医師集団として主体的にとりくむことをよびかけます。その中でめざす方向の具体的なイメージと一人ひとりの医師の役割を鮮明にするこ とが大切です。患者を中心に、急性期から慢性期、病院、診療所、在宅、生活の問題まで裾野を広く活動しているのが民医連の特徴です。

 今日、患者の要求に応える立場からは、医療の安全性や終末期医療のあり方と民主的集団医療の関わり、慢性疾患医 療、高齢者医療を担う医師のとりくみ、あたらしい医療技術の導入、獲得した医療技術の継承・発展、後継者問題などが重要なテーマですし、これまでの専門分 野にとらわれない総合外来、女性外来なども検討課題です。

 また、制度教育、地域活動参加のための具体的保障や援助が必要です。女性医師の参加が増える傾向にあり、県連、地協レベルでの女性医師の交流なども検討すべき課題です。

 一人ひとりの医師を大切にし、育ち、育ち合う関係を強めなければなりません。その一環として医師の「育成面接」 を検討しましょう。転換期の構想づくりと合わせ、具体的な医師像と二年目までの研修目標(ジュニア)、三年目以降の研修目標(シニア)の設定にとりくみま しょう。

5.現場から反民医連攻撃をうちやぶるたたかいを強めよう

 民医連の医療事故、事件を悪用した激しい謀略的な攻撃が民医連と事業所に行われました。この攻撃の本質は、医療 改悪推進の先棒をかつぐ公明党・創価学会の役割と政権政党への批判を覆い隠し、国民とともに「医療改悪反対、平和を守れ!」の運動を粘り強くすすめている 民医連に打撃を与えること、あわよくば民医連をつぶすことをねらったものです。

 全日本民医連と各地の県連、法人、事業所は国民むけの新聞号外、学習会、申し入れ、懇談などを通じて積極的に反 撃を行いました。全日本民医連が発行したパンフレットと二回の民医連新聞号外は合計六六七万部を超えました。全国組織では新日本婦人の会が機関紙に折込 み、農民連、全商連が機関紙で民医連特集を組むなど、反撃と民医連の押し出しをしていただきました。

 このとりくみを通じて、民医連の医療事故、事件に対する見解が多くの医療関係者、民主団体、国民の中に広がり、 共感が広がりました。民医連の歴史と役割に対する理解も広がりました。しかし、今後も住民運動を装った建設反対運動や議会、行政機関を使った大掛かりな攻 撃が継続的に行われることが予想されます。反撃の基本的な見地は、この攻撃の本質をしっかりとつかみ、民医連運動に職員が確信を持ち、医療機関や住民との 結びつきを強め、地域の中で信頼されささえられる力を蓄えていくことです。こういう時だからこそ、共同組織の中に「民医連」への理解を広げること、地域の 中で共同組織の力を大きくしていくことが重要です。

 また、反撃に当たっては、全国や県連に結集し、英知を集めて対応していくことが重要です。

 全日本民医連は、結成以来一貫してとりくんできた医療活動と社会保障・医療制度の改善との関係、すなわち「医療と政治との関係」について見解をまとめます。引き続き学習運動を強め、必要な組織的な整備を行い、攻撃をうちやぶっていきましょう。

6.全日本民医連組織の強化をすすめよう

 「経営困難法人支援規定(案)」を提案します。この規定は評議員会後、すべての県連の討議をへて、次期三六回総 会で正式決定する予定です。経営困難に陥った法人への支援は対策委員会を設置しての具体的な指導援助、人的派遣、資金面での支援、と多様です。こうした規 定を整備しておくことは、経営における危機管理の具体化であり、全日本民医連的な連帯・支援のあり方を規定化するものです。

 川崎、京都など再建運動にとりくんでいる法人・事業所への組織的支援を引き続き行います。川崎医療生協・川崎協 同病院は昨年度、危機の中でも患者減を最小限にとどめ、療養病床への転換、地域活動強化にとりくみ、出資金増など奮闘しました。現在、全国的な看護支援、 医師支援が現地のとりくみをささえています。再生運動は第二ステージに入り、「三つの再生プラン」(注‥医療の再生、経済の再生、組織の再生)の全面実践 が課題となります。

 京都民医連中央病院は六月、京都府・市からの医療監視・原因究明に基づく指導が行われ、改善計画書を提出し、再 生の決意を内外に示しました。しかし、事件の背景となった要因や体質についての自己分析と改善の運動は緒についたところです。経営や今後の事業計画遂行の 上では、いくつかの困難も予想されます。率直な分析と改善のとりくみは必ず全国の教訓となります。全日本民医連理事会として対策委員会、近畿地協を中心に 必要な援助を行います。

 福岡・健和会は二〇〇二年度も計画以上の経常利益を生み出し、中原病院の移転新築を完了させ、金融交渉を通じて再建の見通しが立てられる状況をつくりだしつつあります。

 大阪・同仁会はセラチア菌院内感染問題の教訓から医療安全のとりくみを重視し、全国に教訓・経験を発信しています。来年春より同仁会基金の返済が始まります。

 次期総会を来年二月、埼玉で開催します。五〇年を迎えた民医連運動は激変の情勢のもとで、新たな医療・社会保障 の展望づくりをすすめる課題、医療安全、医師問題の打開、次代を担う職員育成、管理運営、医療・経営構造の転換課題などで転換期にあります。二一世紀初頭 の民医連運動の新たな展望を切り開く総会として準備します。

 第三回評議員会では、次期役員の選考に当たる役員選考委員会を選出します。これからの半年間では、東京で開催す る「第七回全日本民医連共同組織活動交流集会」、一〇月沖縄で開催する「第三〇回全国青年ジャンボリー」とともに、一一月には「第六回学術運動交流集会」 を名古屋で開催します。いずれも重要な集会です。大きく成功させましょう。また、「経営委員長会議」「法人専務会議」など一連の経営関係会議を開催しま す。経営環境が大きく変わっている中で、全国的な経験や教訓を持ち寄り、経営を守り、民医連運動を前進させる決意を固めあう場として成功させましょう。

 五〇周年記念事業を成功させましょう。いくつかの県連も五〇周年を迎え、記念行事が予定されています。五〇周年記念事業のひとつであるアジアの平和と医療を探るツアーは延期しましたが、来春の実施を予定します。

 昨年一〇月に発足したNPO法人「非営利・協同研究所いのちとくらし」は全県連の参加と一六法人の参加などで正 会員一六二団体・個人、賛助会員二〇団体・個人となっており、この間三回の機関誌発行や公開講座などを開始しました。さらに大きな広がりが期待されます。 研究所に対し、診療・介護報酬の課題で研究委託しました。

 第三五回総会方針の総合的な実践の上で、引き続き地協機能、県連機能強化が重要です。第二回評議員会で提起した七つの県連機能を実践的に深めつつ、とりくみを強めましょう。

おわりに

 「力」と「競争」が謳歌する世の中ではなく「平和」と「共生」が大切にされる社会をめざしましょう。総選挙も間 近な情勢です。国政選挙は私たち国民の意思を表明するチャンスです。戦争容認・医療改悪勢力に国民の厳しい審判を下しましょう。秋の共同組織強化発展月間 は「地域」と結びつく絶好の機会です。地域から平和・人権・非営利の運動を強め、発信しましょう。

 各地での実践を持ち寄り、第三六回総会を迎えましょう。

以上

(民医連新聞 第1316号 2003年9月15日)