ダム建設に“待った”が 川辺川利水訴訟で農民側に軍配
熊本・川辺川にダムを建設し水をひく「国営川辺川土地改良事業」に対する川辺川利水訴訟の控訴審で、一六日、福岡高裁は農民側に勝訴の判決を下しました。これを受け二〇日、農水省側は上告を断念。事業の見直しは避けられず、ダム本体工事の中止にむけた大きな一歩です。
熊本県民医連もこの訴訟を支援。職員は署名を推進し、利水事業の「同意者」を訪問する調査にも参加しました。
原告側の綿密な調査によって、「同意者」の三分の二が、死亡者の「同意」、虚偽の説明による「同意」などで不正なものと判明。判決はこの調査内容を全面的に採用しました。
川辺川ダムの目的とされた利水・治水・発電の根拠が破綻するなか、「虚偽の同意書までとって、なぜダム建設なのか」との批判が広がっています。
一六日夕に東京で行われた判決報告集会には、全国各地で環境破壊に反対し、公害病の補償や「公共事業」の見直しを求めている団体が駆けつけました。
水俣の橋口三郎さんは「川辺川にダムがつくられたら不知火海に被害が及ぶ。川がきれいにならないと海もきれいにならない。有明の漁民も勝訴を喜んでい る」と発言。東京大気汚染裁判原告団、高尾山の自然を守る会、農民連、労組などから「勇気が出た」との発言が続きました。
この勝訴は、各地の運動を励ましています。
【板井八重子熊本県民医連会長の談話】
流域出身の職員の熱意と農民の粘り強いとりくみが、多くの職員の気持ちを動かしました。今回の勝利は利水裁判なので、ダム建設中止までにはさらに運動が 必要です。政策が単純に変わるわけではありませんが、勝利判決をバックに有利になると思います。
今後の決定的なカギは熊本県にあると思います。ダム工事を前提に生活を変更してしまったり、工事に依存する生活をよぎなくされ、ダムが中止になると困る 人が現実にいます。しかし知恵を出し合えば、ダムに拠らない利水事業、「緑のダム」など、生活を守る事業への転換は可能だと思います。県には、住民の意見 を良く聞いて、工事を中止し、しかも全員が納得できるような方針を出してほしい。
ダム中止派としては、推進派を攻撃し対立するのでなく、働きかけ話し合うことが必要です。運動に携わってきた人たちは、行政も、農民・漁民・市民も討論 集会を積み重ねて、同じ人間として意見を交換することを学んでいます。それを生かすことが決め手だと思います。
【川辺川利水訴訟】
一九六六年、建設省(当時)が治水・利水・発電の多目的巨大ダム建設を計画。予算は四〇〇〇億円。関連した農水省の計画に対して、農民が「水は足りてい る」と提訴。農民側の二審の逆転勝利でダム建設の見直しが必至に。
(民医連新聞 第1309号 2003年6月2日)
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