劣化ウラン弾使用・核実験 米国がもたらした“被害”
被爆国日本の政府が何の異議申し立てもしない核兵器開発や劣化ウラン弾使用に、心を痛める人が数多くいます。静岡・三島共立病院の研修医と 医学生がアメリカ等の核実験で死の灰をあびたマーシャル・マジェロ島を訪問、今も残る被害を調査しました。「アラブの子どもたちとなかよくする会」の伊藤 政子さんは米国が劣化ウラン弾を大量使用しているイラクで「“核”による健康被害が多く多発している」と訴えています。
いまだに残る放射能への不安
今回の訪問は、ビキニ水爆実験※の被曝者から直接話を聞くこと、マーシャル諸島の医療の現状を知ることでした。
海外での医療活動に興味を抱いていた奨学生に、マーシャルを訪問した経験のある、きたはま診療所長の聞間(ききま)医師が、研修の地としてすすめたことがきっかけでした。
専門家による治療が不足
三月八日、一〇人を超える被曝者たちがロンゲラップ事務所に集まりました。被曝者の方は「タブーだから」と、被曝そのものについてはあまり話したがりま せん。でも「アメリカ人に診てもらうより、日本人の方がいい」「しっかりした専門家に診てもらいたい」と言っていました。
現在、ロンゲラップ島は、アメリカによる土壌の「クリーンアップ作戦」がすすめられています。しかし、島民たちは「再び島に戻っても、また何か起こるのでは」と放射能への不安をもらしていました。
私たちが行ったマジュロ島にマジュロ病院がありますが、外国人スタッフばかり。英語のわからないマーシャル人とは意思疎通が難しく、通訳はいても細かい点を省くため、自分の病状についてよく理解していない人が多くいます。
診察の結果、多くの被曝者に甲状腺機能障害が認められ、高血圧・糖尿病も目立ちました。
核被害を周りに伝えたい
私たちは、現地の青年や日本人観光客にも水爆実験のことを聞いてみました。核実験や被曝のことを知っている人は少なく、風化しはじめていると感じました。医学生たちは、この状況を見て、「核による被害のことを周りに伝えていきたい」と言っていました。
いま「歴史を伝え、子どもたちに核の恐ろしさと平和の尊さを伝えよう」と、現地にロンゲラップ平和ミュージアムの建設が予定されています。
※【ビキニ水爆実験】
一九五四年三月一日、アメリカが太平洋のマーシャル諸島のビキニ環礁で広島型原爆の一〇〇〇倍の威力といわれる水 爆実験を実施。爆心地から一五〇キロほどの所で操業していた日本のマグロ漁船「第五福竜丸」などが死の灰を浴び、ロンゲラップ島の住人も多数被曝、島は住 めなく。核実験は六七回も行われました。
「ガン・白血病の子どもたちを助けて」
イラクへの爆撃は「解放」「復興」という言葉の陰で今も続いています。バンカーバスターのような大きな爆弾が落ちたらどうなるかわかりますか? 二トン 爆弾は地下三〇メートルにも達し、周辺一キロ四方に震度七の地震を起こします。地域まるごと破壊されてしまいます。
攻撃が始まって、私はイラクの知人に電話をかけまくり、不通になる前に三人だけ連絡がとれました。そのうちの一人は「爆弾のアルミが燃えるイヤな臭いの 煙が立ちこめて苦しい」と言うのです。危険な煙を吸わずにいることも、避難することもできません。水で洗い流そうにも初日の空襲で水も止まってしまってい ます。私の仲よしの子、白血病のサファアの住む町にも、こんな空襲が連夜続いていると思うと、心配でいたたまれません。
子どもたちの命が犠牲に
イラクは一三年間も爆撃をくり返し受けてきました。湾岸戦争の直撃を受けたイラク側の死者は三〇万人といいます。さらに経済封鎖で食料を断たれ、治療を 受けられず、大勢死にました。大量に落とされた劣化ウラン弾による影響で、ガン、白血病にかかった子どもたちも数多く亡くなりました。
この人たちの命もマンハッタンの死者と同じ、たったひとつのかけがえのない命です。
戦争反対に理屈いらない
湾岸戦争で米軍が使った劣化ウラン弾による被害は目をおおうばかりです。彼らは放射性物質を含んだ爆風を吸い込み、今も汚染された水や食料をとっていま す。白血病、ガンのほか、先天性の障害を負って生まれてくる子、死産も数多い。しかも米国が「解放する」と言った南部のシーア派の人びとに一番多く患者が 発生しています。特に子どもたちが犠牲になっています。クルド人の患者も多いです。
石油関係施設や軍事施設などのある地域は集中的に爆撃されたため特に患者が多いようです。いま同じ場所に劣化ウラン弾をもっと使っているようです。犠牲者はさらに増えるでしょう。
日本政府が「人道援助」と言うならば、ハゲタカのような「戦地復興」でなく、被爆国として、劣化ウラン弾の被害者に手を差しのべてほしいと痛切に望みます。
絶対悪である戦争に反対するのに、理屈はいりません。戦争する人たちが理屈をつけるのです。戦争に反対するのが人間として自然な感情です。日本の憲法九条はそれを保障しています。
一九九一年の湾岸戦争で、米・英軍は新兵器の「劣化ウラン弾」をイラク軍に対し初めて実戦で使用しました。
「劣化ウラン」は天然ウランを濃縮する過程で出る核のゴミ。半世紀以上におよぶ核兵器や核燃料の生産で総計一一〇万トンでてきました。
七〇年代から兵器産業は劣化ウランの「固くて重い」性質に目をつけ、戦車の装甲や砲弾に使うことを考えました。
戦場となったイラクの軍人、市民らの他に退役米・英軍人やその子どもにも深刻な健康障害が広がっています。
劣化ウランを先端に装着した弾丸は戦車や建物を突き破り、まさつ熱で融解し爆発します。殺傷力が大きく、核物質で広い周囲を汚染します。
(民医連新聞 第1307号 2003年5月5日)