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民医連新聞

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イレッサをめぐるいくつかの問題点と求められる対応について

全日本民医連理事 東久保隆

 厚生労働省によると「イレッサ」の副作用被害は、二月末現在で五二三例に達し一七七例が死亡となっています。この問題点を整理し、私たちの対応のあり方について提言します。
 「イレッサ」に伴う副作用被害が拡大した最大の要因は、(1)イレッサのような分子標的薬*1では、医薬品として価値があるかどうかを見極める治験基 準*2が確立されていないまま、従来の抗癌剤と同じように腫瘍縮小効果で価値を確認しようとし、安全性が未確認のまま市場に出したこと、(2)厚生労働省 が国内死亡症例をつかんでいながら優先審査*3した問題、(3)アストラゼネカ社が副作用情報の報告を遅延させたこと、が上げられます。
 そして、重大な副作用が出た後も、厚生労働省とアストラゼネカ社は適切な対応を取らず、副作用被害に拍車をかけたことは、その後の死者の推移からも明らかです。
 この事態に対して患者の人権をまもる立場から、以下の対策を早急に取るべきだと考えます。

  1. イレッサの新規導入は行わない。患者・家族から強い要望がある場合でも、リスクが予見できないことを可能な限り伝え、投与を回避するよう、インフォームドコンセントの努力をつくすこと。
  2. 現在、投与継続患者で腫瘍縮小が確認できている場合は、病態の管理を徹底するとともに、延命という最終目的が確保できるかどうかを適切に判断すること。
  3. 適応外使用・併用療法など能書にない治療は実施しない。治験には参加しない。一部の専門医が実施し ていますが、倫理判断が求められます。もし紹介患者や調剤薬局で受けた処方箋にこうした治療方法が他院所から持ち込まれた場合、患者の安全を確保するため に、意見を付けて当該施設へ戻すことも必要です。

 今後も「ピカ新」として宣伝される新規薬は、様ざまな情報ツールを介して利点情報だけが一人歩きする状況が生じます。患者の人権を守る観点から、投与の 可否について冷静に判断できるまで、その使用を控えるなどの対応が求められています。

(とうくぼたかし・薬剤師)

*1 分子標的薬:腫瘍上の特定の成長因子等への阻害作用で腫瘍破壊を狙いとする薬
*2 治験基準:医薬品の有効性・安全性を確認する方法や拠り所
*3 優先審査基準:患者の生命に関わる病気で既存薬より有効性・安全性が上回ると考えられる場合に約一年の審査機関を数カ月に短縮する

【解説】イレッサ錠250
 (ゲフィチニブ) EGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤。製造販売元はアストラゼネカ社(本社:英国)。手術不能または再発非小細胞肺ガンを適応症とす る。二〇〇一年一月に申請、五カ月後の七月五日に「超スピード承認」。薬価収載八月三〇日付。薬価:一錠七二一六円。
 発売前からガン細胞だけを標的にし、正常な細胞は傷つけない安全な「ガン分子標的剤」と宣伝され、国内八九病院の医師が無償提供を受けていた。承認前の 五月、すでに副作用による死亡者が発生。この報告を受けた厚労省は、薬事審議会に報告せずに隠す。一〇月までに死亡者八一人となり、厚労省が緊急通達を出 す。しかし一二月までに一一四人が死亡。この時点で一万九〇〇〇人に一〇〇万錠処方されたと推定。
 副作用の本質は上皮の再生が障害を受けることによる急性の肺傷害、びまん性肺傷害と考えられている。EFGは血球以外の細胞に広く分布するため、腸、 肝、腎などが侵され多臓器不全を起こす場合もある。吸収・代謝に個人差が大きく、血中濃度の個人差は三〇~一〇〇倍にも。副作用症状が現れてから死亡まで の時間が短い。一相~三相・臨床試験の二八〇七例中、死亡が一七一例(六・一%)。このデータを知ったアメリカのFDA(食品医薬品局)は承認を延期して おり、発売は日本が初。
 「薬害オンブズパーソン会議」などはイレッサの承認取り消しと販売中止、データの全面公開を求める要望書を厚労省とアストラゼネカ社に提出。同社は九月 時点で重大な副作用の発生が臨床試験の倍以上に達したことを知りながら、厚労省への報告を怠った疑いも。イレッサ「安全性問題検討会」の委員一二人中一一 人が同薬承認の当事者だったことも判明。

参考:薬害オンブズパーソン会議ホームページ/NPO医薬ビジランスセンター『薬のチェックは命のチェック』

(民医連新聞 第1307号 2003年5月5日)