安心・安全の医療を求めて(5) ISO“品質”=“よい医療”に読み替え ルールみ直し互いに点検
埼玉協同病院では、昨年6月にISO9001の認証を受けました。ISOとは? 取得することで得られたものは何か? 取材しました。
鐙(あぶみ)史朗記者
「ISO9001取得は、私たちがめざす『患者さんによい医療を提供する』ことと合致していました」と、埼玉協同病院でISO認証取得に中心的に携わった前田文代事務次長。
2001年4月に看護師、技師、事務の責任者七人のメンバーで推進委員会を立ち上げ、学習、研修会、通信教育などでISOに関する知識を深め、6カ月間かけて申請に持ち込みました。
ISOの要求事項の書かれたJIS規格(工業規格)を医療版に読みときました。「顧客」を主語に、誰が、いつ、何を、どうしたかを医療の現場に即して読み替え、3カ月で職場にあった手順書をすべて見直しました。
150もの要求項目を1項目ずつ文書のなかに具体化していくなかで、医療サービスの品質に影響する工程を明確にし、医療事故防止に役立つ手法も手順化されました。
例えば、看護部では点滴・注射について、部門によって準備の方法が微妙に異なっていました。それを「一患者一トレイ」とし、指示確認から実施までを手順化しました(表1)。
これをよく見てみると、一般のマニュアルとは違っています。このような手順書を、病院全体で100以上作成しました。各部では、必要に応じて朝会の時間に読み合わせ、手順通りに仕事が行われているかをチェックします。業務に適合していない項目があれば、是正要求書(表2)で報告されるしくみです。
医療事故・ミス防止にも
ISOの規格には「内部監査」「マネージメントレビュー(管理職評価)」という自らの組織の力によって、継続的に業務の見直しを図るしくみが備わっています。さらに、目標自体も高めていくことができるシステムです。
ISO審査機構による維持審査、病院内部監査はそれぞれ年2回行われています。医師を含めた職責など130人で構成するマネージメントレビューは年4回 行われます。監査員はあら探しではなく、よい点も確認できたら推奨事項として報告します。その上で要求項目に適合していないことや決められたことが実行さ れていない場合は、是正処置要求書を作成し、改善させます。
ISOのシステムには、医局を含めた全部門が参画しなければなりません。そのため、組織間の連携強化が実現できます。
また、ISOの品質マネージメントシステムは、医療事故や医療ミスの防止にも役立ちます。
同病院のヒヤリハットの分析報告は、ミス・トラブルの多くが「職種間の連携」「業務と業務の受け渡しのルール」「役割分担、責任のあいまいさ」から起 こっていると指摘しています。ISO導入によって、病院全体でどういうルールをつくるのかを考えたことで、職種や部門を越えて、互いの仕事の理解がすすみ ました。
各部の異動や、新入職員がきた場合、手順書が標準化されているので、すぐにその場に適応でき、職員が安心感をもちます。
医療サービスの質向上に
ISOの認証を取得したことで組合員さんからは「きちんとした仕事をしているね」と評価を受けています。一方で「待ち時間の短縮も項目の中に取りあげて いますが、今後の課題です。ISOを有効に活用すればいろいろな、医療サービスの質向上の可能性があります。また今後ISOを取得しようと考えるのであれ ば、パートナーによいコンサルタントを選ぶことも大事です」と、前田さんは話します。ISOの認証の援助をするコンサルタントは、全国に数多くあります が、熱心で医療に強いことを見極めて依託することがポイントです。
同院では、この他に98年2月に「医療機能評価一般B認定」、法人全体では、昨年11月「ISO14001(環境マネージメントシステム)」の認証を受けています。
(民医連新聞 第1302号 2003年3月1日)