転倒・転落事故の防止、 入院当日の事故、ハイリスク患者に注意/ 転倒予防、家族の理解求めて
第6回看活研集会特別報告より
転倒・転落事故の防止、入院当日の事故、ハイリスク患者に注意
全日本民医連安全モニター委員会転倒・転落検討チーム
発表された「転倒・転落調査のまとめ」の概略です
【調査方法】
(1)対象 全日本民医連の医療安全モニター登録事業所中、63病院・3老健施設・1特養ホーム
(2)期間 01年10月1日~02年1月31日
(3)方法 インシデント・アクシデントを、所定の用紙で以下の項目を報告を受け集計・分析(病床区分別・性別・年齢別・事故までの入院日数・発生時間帯・発生場所・被害の状況・原因行動・職員が側にいたかの状況・背景要因27項目の有無)。
【結果および考察】(集約数2048件、有効回答1618件)集計結果から主要な特徴をあげます。
第一は、転倒・転落事故が後期高齢者に多発していました。入院患者全体の年齢構成と比較しても明らかで、一般病棟は75歳以上に、療養病棟では80歳以上の患者で起きやすいと言えます。
第二は、入院早期に多発していました。特に入院当日に集中しています(図1)。この傾向は一般病棟ではさらに顕著です。入院という環境の変化に適応できないことが原因と考えられ、入院(転室・転棟)時点で即、対策を取ることが重要です。
第三は、発生場所では実に七五%が病室内で発生していました。続いて廊下、トイレ、浴室などとなっています。病室内の対策が急務です。
第四に、「排泄にともなう行動」の際に多発していました。療養病棟では、次に多いのが「移乗」の際で、一般病棟では「不穏」によるものが続いています。
また、90%以上が職員が側にいないときに発生し、夜間帯での発生が相対的に多くなっています。
第五に、背景要因27項目の検討です。1人の患者が5~7つ、平均で6.3の背景要因を持っていました。そして以下の10項目に該当する患者が98%で した。この項目が重要なリスクであることが示唆されています。(1)尿・便意がある、(2)転倒の経験がある、(3)補助器具を使用している、(4)慎重 性に欠ける、(5)脳卒中後遺症、(6)向精神薬を使用している、(7)一部介助が必要である、(8)痴呆、(9)ポータブル便器を使用している、 (10)骨関節疾患。さらに、視力・聴力の障害、トイレが遠く、歩きにくいなどの施設的な条件が関係している可能性もあります。
【提言】これらの結果から、機敏なリスク評価シートと対策が求められます。転倒・転落チームでは、以下の提言をまとめました(図2)。またリスク評価(案)を検討しました(図3)。 今回の調査対象の患者にこの評価(案)を当てはめると、5点以上になる人が八九%でした。5点以上をハイリスクの患者と考えて対応することが求められま す。 今回の調査結果を参考に各事業所でできるようなものを作成し、転倒・転落防止対策に生かしていくことをよびかけます。
=看活研分科会より=
転倒予防、家族の理解求めて
(北海道・勤医協中央病院7階病棟)
第6回看護活動研究交流集会の「転倒転落」の分科会報告から第2分科会の北海道勤医協中央病院七階東病棟の「家族と共同の視点をもった転倒事故予防のとりくみ」を紹介します。
◆ ◆ ◆
「今まで何度も家で転倒していたし…」退院を前にした家族面談で、Tさん(83)の長男は言いました。
このように家族は、「高齢者は転ぶのがあたりまえだ」というように認識し、その危険性を理解できずにいます。Tさんの長男も転倒による骨折についてのイ メージがもてずにいました。家族は今まで元気な患者の姿を見てきているため、病状や痴呆の状態の変化と転倒の危険性を理解するのに困難な状況があります。
今回、家族と面談を重ね、実際にかかわってもらう中で、理解がえられ、私たちも学ぶことのできた事例を紹介します。
〔事例〕
●何度か転倒、骨折を経験している一人暮らしの8歳女性Kさんの場合。家族は、「心配であるが本人も家で暮らしたいといっている。自分たちもできるだけの 援助をして、将来はいっしょに住むことも考えている」と今回も退院後は在宅の方向を検討することになりました。
家族には、再び転倒を起こせば在宅生活が困難になることを理解してもらうことが必要でした。
退院前訪問をして、家族とともに家の中を点検しました。電話の位置など変更し、Kさんが動く範囲からつまずきやすいものを除き、整備をしました。
また、デイケア利用やヘルパー、冬季の往診などのサービスを増やすことでKさんが一人の時間を減らしました。長男にも週に何度か安否確認をお願いし、家族の忙しくなる月末には短期入院をして、リハビリをする予定にしました。
いまは、転倒せずに本人の希望どおりの在宅生活を送っています。
●独居で自宅で転倒を繰り返していた83歳女性Tさんの場合。退院にあたり家族と面談しました。
私たちは、独居での生活は難しいと判断し、「家族といっしょならサービスを利用し、可能だろう」と話をしても、家族は理解できないようでした。
そこで、「家族にTさんの生活を実際に見て、状況を知ってもらおう」と、試験外泊で家族と一日過ごしてもらいました。家に帰っても寝たきり状態で歩けず、痴呆も進行し身のまわりのことができない様子をやっと家族も理解しました。
Tさん本人の希望もありグループホームへ入所しました。
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北海道勤医協中央病院では、2000年に療養型病床がスタート。2002年回復期リハビリ病棟になりました。病棟での転倒事故をふり返り、学習会を行い、安全に自立へ導く介護についても議論と検討を行い、個別の具体策を行ってきました。
しかし、「病棟の中で転倒転落を防止できても、退院後の安全をどうするのか」を考えたことから、病態から起こる事故の予測、対応などを家族にも理解してもらうことの重要性に気づきました。
二つの事例にとりくむ中で、患者・家族とともに同じ視点で、同じ目標をもって歩んでいくことが今後重要になっていくことを学びました。
(民医連新聞2002年10月21日/1290号)