いのちと人権をまもれたたかう列島/“手術の施設基準で報酬減は不当”外科医のレポートから
4月にマイナス改定された診療報酬で支払いが始まりました。減らされた実額が明らかになり、問題視する 声が高まっています。手術の施設基準(年間症例数など)が拡大され、基準を満たさない病院で行われた手術の報酬が30%の減額になったこともその一つ。徳 島健生病院・外科の佐々木清美医師から「この報酬減額は不当」とのレポートが寄せられました。
当院は198床、外科医師数4人、全身麻酔による手術件数が100例あまりです。心臓血管外科を除く外科一般を守備範囲としており、ヘモ、ヘルニア、アッペなど消化器外科から、甲状腺・乳腺、呼吸器外科と、地域の組合員さんの要望に応えて日々研鑽を重ねています。
今診療報酬改定で、8区分76に分類される手術が年間症例数を満たしていない施設で行われた場合は3割減額。膵頭一二指腸切除もこの対象になりました。
膵頭一二指腸切除は、普段は年に1例あるかないかですが、偶然にも2002年6月は3例ありました。多臓器の切除と再建が必要なこの手術は、外科医に とっては気苦労でもある一方、闘志をかき立てられるものです。3例のうち2例は下部胆管ガン、一例は交通事故の外傷による膵頭部断裂でした。いずれも今永 I法で再建を行い、術後合併症も交通外傷の症例で皮下膿瘍を認めた程度で、極めて順調な経過でした。
大規模な施設ではしばしば、切除チームと再建チームが別のスタッフによって編成されますが、当院のような規模では、術者1人、助手1人、麻酔医1人。毎回の手術で精神力と体力の限界を試される思いです。
このような思いで医療を行った6月の外科病棟の診療報酬は、ふたを開けてみると予算に対して4万点のマイナスでした。その点数は、ちょうど膵頭一二指腸切除の3例の減額分に相当します。
患者の回復を喜びながらも、徒労感はぬぐえません。今回の改定には心底怒りを覚えます。
同病院の武市和彦事務長は「地域の組合員・患者さんが、住まいに近くて、なじみの医師がいる差額料のない健生病院に入院して手術を受けたいと希望するの は当然です。医師たちはその要求に応えて努力してきました。減額だからといって断ることはできません」。
佐々木医師は「過去の治療成績が良くても減額。医師にとっては納得できるはずがありません」。「また医療の安全確保や事故防止には費用がかかるのは自明のこと。それを無視して医療費を削減するなんて」と憤ります。
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日本病院会では四月、「手術にかかる必要症例数等施設基準について」の意見書を厚労相あてに提出。その中で、手術料に「一物二価」を設けるしくみは公的医療保険制度においては絶対に回避すべきこと、「患者の権利」「患者本位の医療の提供」に反すると指摘。
また、手術の評価を、治療成績とは関係のない症例数においていることを批判、医師の基本権が侵害されている疑念を述べ「倫理と法の面から深く検証し問題解決を」と、求めています。
さらに手術が一部の医療機関に集中し、医師の労働環境を悪化させたり医療過誤などリスクを増加させるおそれがあることを指摘しています。
全日本民医連・保団連だけでなく4四病院団体協議会も声明を出し、この問題も含めて「納得できる改定」を求めています。
(民医連新聞2002年08月11日/1284号)
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