介護実態調査が示したもの/実態に合わない認定
2000 介護実態調査がしめしたもの
日本リハビリテーション医学会報告(4)
実態に合わない認定
―要介護度認定痴呆の場合に低く―
水尻強志(宮城・長町病院 医師)
【痴呆のある要介護者の場合、介護限度額利用率が高い傾向にあるのは介護度が低く認定されるため。通所ケア や短期の入所ケアの利用が多いのは介護者の負担が重いことを示す。現状の介護認定の方法では痴呆の介護度が正しく判定できない。水尻強志医師が学会発表で 明らかにした問題です。詳しい内容を聞きました】
Q.痴呆があっても歩ける群では、要介護度が低く認定される傾向があるそうですね。
A.要介護者について自立度と痴呆度をもとに、虚弱群、痴呆群、移動困難群、移動困難+痴呆群の四群に分けて検討しました(表1)。
それぞれの群で最も多かった要介護度は、虚弱群で要介護1、痴呆群で要介護2、移動困難群で要介護4、移動困難+痴呆群で要介護5でした。
介護保険利用単位は痴呆群と移動困難群では差がなく、約1万1500単位でした。限度額利用率=利用単位/要介護度別限度額ですので、利用単位に差がなくても要介護度が低いと限度額利用率は上がります。
各要介護度ごとの利用単位と区分限度額利用率を比較しました(図)。他の群の平均利用率が約四〇%であるのに対し、痴呆群は50%になっており、痴呆群の限度額利用率は統計学的に有意に高くなっています。
Q.痴呆群では利用する介護サービスに特徴はありますか。
A.通所ケアと短期入所の利用が目立ちます。
痴呆群の通所ケア利用率は78.3%、利用回数は週2.9回です。他の群ではそれぞれ約50%、週2回程度ですので、有意に高率でした。
短期入所利用率は27.1%、利用回数は半年で4.8回です。移動困難+痴呆群の利用率34.3%、利用回数5.5回に次いで多い値となっています。
通所ケアと短期入所は介護者の休息のために利用するサービス(レスパイトケア)の代表的なものです。歩行可能な痴呆の方の場合、問題行動への対応や転倒 予防など長時間の見守りを必要とします。介護負担は重く、レスパイトケアへのニーズが高いことがうかがえます。
Q.今後、要介護認定方法の改善は期待できるのでしょうか。
A.全国高齢者保健福祉・介護保険関係主管課長会議(厚労省、2002年2月12日)では、「痴呆性高齢者が低く 評価されているのではないか」などの指摘があることをふまえ、2003年度からの「全国市町村における要介護認定ソフト(改訂版)の円滑導入」の検討がさ れていることが報告されています。今年の七月からは全国30カ所で改訂版ソフトの試行がされる予定です。
表2をご覧下さい。厚労省のホームページから引用したものです。痴呆群における一次判定と審査会結果の一致率がきわめて低い事が分かります。要支援で 15.8%、要介護1で31.3%です。さすがにこれでは問題があると厚労省は判断したようです。
Q.来年度から新しいソフトが導入されれば、痴呆の方の認定改善に役立ちますか。
A.そうとはいえません。
民医連の(2000年)介護実態調査は二次判定をもとに実施したものです。調査結果でも、要介護認定を行い、区分限度額という上限を設けたことの問題が 明らかになっています。そもそも介護認定制度があるために、充分な介護を受けることができない。これは制度自体が内包する深刻な矛盾です。
私としては、要介護認定制度は不要であり、撤廃すべきとの意見を持っています。
(民医連新聞2002年07月21日/1282号)