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民医連新聞

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イギリスの核実験 被害はまだ闇の中フイジー核実験被ばく兵士の健康調査を行って 斎藤友治(静岡・浜松佐藤町診療所)

 日本原水協の代表団の一員として、フィジー諸島共和国を訪問し、核実験被害と健康調査を 行った齋藤医師の寄稿です。この訪問はフィジー核実験退役兵士協会(FNTVA)と非核独立太平洋運動の事務局(太平洋問題資料センター)の要請を受け、 今年5月9~20日の12日間にとりくまれました。

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 1946六年に、ビキニ環礁で米国が核実験を行って以来、太平洋の植民地化された島じまでは、米国、英国などによって数多くの核実験が行われました。
 現地の住民や漁民、実験のために植民地から駆り出された兵士のなかに沢山の被害者がつくり出されました。しかしそれらの事実はまだまだ闇の中にありま す。核保有国が核実験の実態、記録を一切公表しないためで、核実験被害者は謝罪も補償もないまま放置されています。
 1957年から58年にかけて英国が中央太平洋のモルデン島・クリスマス島(現在のキリバス共和国・地図参照)で行った9回の核実験には、英国やニュー ジーランドの兵士らと共にフィジーから約300人の兵士が動員されました。この内の200人は既に死亡しています。
 受け入れ団体であるFNTVAは、フィジーの元兵士たちが英国の核実験に参加し被ばくしたことを英国政府に認めさせるため、1999年に設立しました。 英国政府はこの間「核実験による被ばくはなかった」との姿勢を崩しておらず、実験により生じた健康上の問題に対する倫理的、法的、財政的責任をいっさい拒 否しています。FNTVAは、この問題をハーグの欧州人権法廷に提訴し、元兵士と家族に適切な補償を求めています。今回の健康調査の結果と自らの聞き取り 調査のまとめを法廷に資料として提出したい考えでした。
 5月11日、診察を受ける予定の被害者とその家族80人余りが集まり、ボウル・オブ・ヤコナと呼ばれる伝統的な儀式で歓迎式典が開かれました。kava という木の根から抽出した液体を互いに飲み交わす儀式で、日本式に言えば契りの杯でしょうか。

現地は連日報道
 式典で私たちは「広島・長崎の原爆被害と核実験被害の相違」や「放射線被 曝による人体への影響」についてプレゼンテーションを行いました。この模様はフィジー放送の取材を受け、同日夜のニュースで報道され、フィジーの元兵士た ちが核実験被害にあい、現在も苦しんでいるという事実を、広く国民に知らせる初めての機会となりました。今回の訪問を現地のマスコミは、「日本の医師と広 島の被爆者を含む5人の日本原水協代表団が、フィジー核実験被害者を援助するために来た」とテレビや新聞で連日取り上げ、話題となっていました。

待たれていた調査
 5月12日は安息日で休日なので、13日から本格的な健康調査・診察が始 まりました。診察会場となった太平洋問題資料センターの事務所には朝から核実験被害者とその家族がつめかけ、13日から16日の午前中までに元兵士たち 62人とその家族60人を診察しました。また17から18日にかけては、脳梗塞後遺症のため診察会場まで来ることのできない一人の被害者とその妻の診察の ため、飛行機で40分程の離島へも行きました。
 被害者の年齢は57歳から88歳(大多数が60~75歳)で、1~3回の核実験に参加、半年から1年間核実験場に滞在しました。核爆発に伴う熱や爆風を 感じた人はいても、放射性降下物(灰や雨)にさらされた覚えは誰1人ないようでした。実験場周辺で獲れた魚、椰子ガニなどを、量の違いはあれ全員が少なく とも毎週末には食べ、水は海水を淡水化して飲んでおり、持続的な体内被爆は受けたと考えられます。

英国の情報隠しで
 実験後の症状としては下痢や発疹がしばしば聞かれ、帰還後の症状としては 視力低下(近視)、喘息、関節炎、皮膚疾患が目立ち、また現在では高血圧や糖尿病、変形性関節症などの慢性疾患も認められました。甲状腺腫疑いが2人程に 見られ、悪性腫瘍は皮膚ガン、前立腺ガン1人ずつ、精巣腫瘍疑いが1人でした。
 今回の調査を通じて放射線障害と類似性をもつ症状はいくつか認められましたが、現段階では被ばく線量が不明なため、確定的なことが言えません。放射性降 下物はどのあたりに降ったのか、作業をしたところにどの位の残留放射線があったのかなどのデータを英国が一切公表していないためです。
 今後の課題としては、核実験に参加した元兵士と参加していない元兵士の間で疫学的な比較研究を行うこと、ニュージーランドやイギリスなどの元兵士たちを 対象に核実験被害を調べている研究者に協力を求めること、既に死亡した元兵士達の死因、病歴を調査することなどです。染色体から被ばく量を推定する手法を 応用することも検討が必要でしょう。
 太平洋の国ぐにを始めとして、世界各国には核実験の被害に遭いながらも放置されている人びとがまだまだ沢山いると思われます。こうした人びとに光をあ て、核保有国を国際世論で包囲してゆくとりくみが今後も重要になると考えます。

(民医連新聞2002年07月11日/1281号)