小泉内閣が急ぐ 有事法制のホント - 内藤功弁護士にきく -
「メールが使えなくなるってホント?」「天気予報がなくなる?」―今国会で、「日本が戦争状態になったらどのように国民を巻き込むか」を決め る法律「有事法制」が審議されるのを知っていますか? 小泉首相や自民党は、とにかくこの法律を大急ぎでつくりたいらしい。なぜ? どんな内容? 私たち の生活にどんな関係があるの? 平和問題のエキスパート東京本郷合同法律事務所・内藤功弁護士にうかがいました。(編集部)
アメリカが決める日本の有事?!
―「有事」って、「有事法制」って何ですか?
「有事」とは平時ではない状態、つまり戦争状態のことです。「有事法制」とは、日本が戦争状態になったときのための法律のことで、戦争に国民の労働力を総動員するためのものなのです。
―「有事法制」はどういう中身なのですか?
中身は大きく三つに分類することができます。
まず、「人」と「物」の動員です。これは土地や建物、食料や燃料・医薬品などの「物」と、医療や土木建築工事、輸送に関わる「人」を動員するためのもの です(第一分類)。二つ目に米軍が日本で行動するために必要な米軍のためのもの(第二分類)。三つ目は国民生活に関わるもの(第三分類)です。
―「有事」かどうかは誰が判断するのですか?
内閣総理大臣が判断することになっています。しかし、日本の防衛庁がアメリカの資料をもとに判断することになっているので、実質はアメリカが「有事」と言えば日本も「有事」と判断することになります。
”医療は”真っ先に戦争動員
―「有事法制」によって医療はどうなるのですか?
まず医師・看護師、建設労働者、運転手・船員やパイロットは、真っ先に戦争のために動員されます。医療分野では、病院・診療所が負傷兵のために使われた り、医薬品や医療器械などの医療物資も、全て戦争のためだけに使用されることになります。みなさんの職場や仕事、仕事に対する誇り、また命までも奪われる ことになりかねない、医療関係者にはもろにかかってくるものです。
実は、これらの事項はすでに自衛隊法103条に明記されています。「有事法制」では、これらの条文の強制力をさらに強めるために、今の法律に罰則規定が 設けられることになります。つまり、協力を拒否することはできません。まさに、「張り子の虎に電気を通して自由に動けるようにする」これが「有事法制」の 中身です。
さらに、陸・海・空すべてにおいて国民生活に統制が加えられます。土地や建物なども戦争のために使われることになりますし、情報も規制されます。天気予 報は「機密事項」、メールや電話などの電波も軍事優先で規制される、ということも考えられているのですよ。
―なぜいま「有事法制」が急がれているのでしょう?
「テロは武力で撲滅する」というアメリカ・ブッシュ政権は、アフガニスタンだけでなくイラン・イラク・北朝鮮を「悪の枢軸」と断言し、世界的に戦争を拡げようとしています。
小泉首相は「もしアメリカが他国にまで戦争を拡げて、日本にも協力するように求めてきたらどうするのか」との質問に「その時は米軍の行動に対し、主体的 に寄与する」と答えています。いま「有事法制」が急がれているのは、アメリカの戦争に日本全体を動員するためなのです。
黙っていてはいけません
―アメリカの判断で日本が戦争状態になるなんておかしいですね。日本は「戦争をしない」と憲法で明記しているのに、こんなものが必要なのですか?
そうですね。私は「こんなものは必要ない」と思うのが当たり前の感覚だと思いますね。
小泉首相は、不審船問題や昨年のテロ問題などを例にあげ「備えあれば憂いなし」と言っています。しかし、不審船の問題には海上保安庁が対応できるし、テ ロ犯罪には国連で決議して対応ができます。ですから「不審船やテロの備えに有事法制が必要だ」という理由に結びつきません。そのような事態の時に、医師や 看護師を動員すれば解決するという問題ではないからです。
武力に武力で対抗するのではなく、話し合いで解決することが世界の平和をつくることにつながります。
みなさんにもどんどん議論をしていただいて、日本をアメリカの戦争に強制的に動員する有事法制は「おかしいぞ、必要ないぞ」との声をあげ、何としても阻止しなければ。黙っていてはいけませんよ。
プロフィール…(ないとう いさお)
1931年生まれ。砂川、百里、恵庭、長沼、沖縄反戦地主など、米軍と自衛隊基地に関する裁判の弁護団に。1974年から12年間参院議員として、有事法 制、基地問題、安保・防衛問題を追及。自由法曹団の沖縄・改憲阻止対策本部長。日本平和委員会代表理事。
(民医連新聞2002年04月11日 1273号)