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声明・見解

声明・見解

【要望書2002.04.05】診療報酬引き下げに反対し、診療報酬の再改定を求める

2002年4月5日
全日本民医連・会長 肥田  泰

 この4月1日より実施された診療報酬の改定は、診療報酬制度はじまって以来、はじめてのマイナス改定であり、しかも伝えられていた本体部分の1.3%、 薬価と医療材料で1.4%、あわせて2.7%のマイナス改定に留まらず、全日本民主医療機関連合会に加盟する医療機関のあてはめでは厚生労働省の発表を大 幅に上回る引き下げが続出しており、200床以上の病院では五%、小病院や診療所でも軒並み減収で、中には10%近い減収を余儀なくされているところも出 てきており、医療機関の経営に重大な影響を及ぼすことは必至である。
 国民皆保険制度のもとで診療報酬制度は患者・国民の公的保険医療の給付内容そのものであり、国民が等しく医療を受ける権利を保障するものである。同時 に、医療機関が安定して経営を維持できるかどうかの保証である。 今回の大幅なマイナス改定は医療機関にとっては、十分な医療の提供を行うための医療従事 者の確保や安全対策を保障するにはほど遠いものであり、医療の質の低下を招くものである。医療機関の経営がきびしいのであれば、差額徴収をとればよいとの 厚生労働省の「すすめ」となっており、地域医療の崩壊につながるものである。「保険でよい医療を」「安全・安心・信頼の医療の提供を」の国民・患者の期待 に背くものである。
 そもそも政府・厚生労働省にあっては、2002年度予算案において医療費当然増のうち国庫負担2800億円削減を前提に老人医療1割負担、健保本人3割 負担、保険料引き上げなど一連の医療「改悪」で年間900億円削減、診療報酬で1900億円の削減を行うところに出発点がある。国民の生命にかかわる医療 内容を規定する診療報酬が国会で審議されることなく、中医協というなかば密室状態での審議にもとづき厚生労働大臣の判断だけで決めることは重大な問題であ る。
 我々は、今回の診療報酬の大幅な引き下げと診療報酬制度の根幹にかかわるような意図をもった改定に反対するとともに、医療機関が保険外負担を患者に求めることなく安定した経営ができるよう診療報酬の再改定を強く求めるものである。

 なお、今回の改定の特徴と問題点を以下のとおり、列記する。
 第一に、医療機関の機能別分化を強引に行おうとするものである。96年の200床以上病院の初診料特定療養費化にひき続き、今回、再診に関しても特定療 養費化し、200床以上の外来診療を制限しようとしている。在院日数に関しては、その要件をさらに短縮し、医療機関のふるいわけを一層すすめた。また、従 来、混合病棟という形で100床以下の病院で、同一病棟内に一般病床と療養病床をもつことが認められていたものが、4月1日以降の申請が認められなくなっ た。100床以下の病院が、地域の医療要求に応えるために、少しでも一般病床を残すことに道を閉ざすもので、地域から一般病床がなくなる事態も予想され、 地域医療に大きな影響を及ぼしかねない。
 第二に、今日まで行ってきた患者の要求に応える医療が、継続できない改定となっている。今回、外来総合診療料を廃止した。これにより外来総合診療料を算 定していた医療機関は減収となるが、厚生労働省の反省なき誘導的点数改定には目にあまるものがある。また、今回リハビリテーションの見直しにより、大幅な 収入減になることが明らかになった。今後、リハビリテーション、物療関係を縮小する医療機関もあると考えられ、かかりつけの医療機関で、リハビリテーショ ンを継続することによって、かろうじてADLを維持してきた患者にとって、大きな影響が出る可能性がある。
 第三に、特定療養費の一層の拡大をはかったことである。従来、厚生労働省は特定療養費制度に関して、医療の「周辺部分」と説明してきたが、今回、200 床以上の病院の再診にかかわる部分や、180日超えの入院基本料など、医療の本体部分に拡大した。このことは、保険診療の「空洞化」につながり、公的保険 制度そのものの解体の危険をはらんでいる。180日超えの入院基本料の特定療養費化は、今日でも月平均5万円程度の負担が強いられている上に、特定療養費 化に伴いさらに4~5万円の負担増となり、とても耐えうる負担ではない。このことは、長期入院患者を在宅や介護施設へ追いやることをねらったものである が、介護施設は満床状態であり、また、在宅医療の条件も十分ではなく、「どこにも行き場のない患者」を増やすだけであり、大きな社会問題を引き起こすこと になる。

 第四に、減算方式を拡大したことである。院内感染防止や医療事故防止に積極的にとりくんでいる医療機関は、リスクマネジャーや感染対策看護婦の配置、手 洗いなどの予防策の徹底のために、多くの負担を強いられている。厚生労働省も、この点に関しては重視するという方針であり、今回思い切って加算すべき項目 として注目されていた。しかし、入院基本料を引き下げた上で、院内感染対策、医療事故防止、褥創対策をしなければ減算するという異常な手法がとられた。こ のことは、医療現場の切実な声である医師や看護婦の増員要求、院内感染対策や医療事故防止対策に逆行するものであり、「安心・安全・信頼の医療の実現」を 一層困難にするものである。
 第五に、手術料に、一物二価を導入したことである。同じ医療行為であっても、医療機関の施設基準(経験年数とその医師数、症例数)によって手術料の差別 化をはかり、施設基準に満たない医療機関にあっては手術料を七〇%に減算した。対象となる手術は、高度、専門的な医療だけではなく、すでに一般化している 手術も含まれている。今回設定された施設基準は、合理的根拠がなく、地域で担ってきた病院の機能を抑制し、地域医療の崩壊を招くことになる。また、高度医 療、専門的な医療の一極集中は、遠隔地の大病院に行くしかなくなり、患者の医療にかかる権利が制限されることにつながる恐れがある。こうした論理は、今後 さらに専門医とそうでない医師を診療報酬上で差別することや、施設基準維持のために無理な適応拡大につながる可能性もあり、安全性の問題や医療費の無駄づ かいにつながる危険性をはらんでいる。
 第六に、緩和ケア診療加算などいくつかの項目で、第三者による医療機能評価を受けていることが要件として設定された。第三者機能評価は、すぐに受けられ るものでない。医療機関の第三者評価は、医療の質の確保のために有効と考えるが、その主旨の周知徹底がないままに、診療報酬の算定要件とすることは極めて 問題である。

以上