前代未聞のマイナス改定
―2002年からの診療報酬―
2月20日、坂口厚労相は中央社会保険医療協議会に対し、2002年4月実施の診療報酬改定について諮問 し、同協議会は即日答申しました。その内容は医科で1.3%減、薬価の引き下げを含めると2.7%ものマイナス改定です。歯科、調剤部門でも技術料が大幅 に引き下げられました。
全日本民医連理事会は2月23日付けで「病院つぶしをすすめ、受療権を大幅に侵害する診療報酬『改定』は白紙撤回を」の声明を発表しました。声明は「病 院つぶしと患者・住民と医療従事者を分断し、患者に二重三重の痛みをおしつける」今回の診療報酬改定を「医療改悪反対の大運動のうねり」で撤回させようと 述べています。
診療報酬を引き下げるのは改定史上初めてのことで、医療機関に多大な影響を及ぼすことは必至です。また「特定療養費化」によって保険給付の枠が狭めら れ、差額徴収を拡大する、患者にとっても最悪の内容です。主要な内容は以下のとおり。詳細は3月中旬に告示予定です。
再診料に逓減制外来診療料も
外来再診料(診療所・200床未満病院で算定)は、月に四回目以降の点数が半減しました。200床以上病院の外来診療料は2回目以降が半減。また来院日数の多い「消炎鎮痛処置と湿布処置」にも5回目から逓減制を導入しました。
平均在院日数制限厳しく減算項目を拡大
入院日数制限がいっそう短縮されたほか、「感染対策」「褥瘡対策」「手術における医師の経験年数・症例数」につ いて、要件を満たせない場合の「減算」項目が拡大されました。要件を満たせない病院が大幅な減収になります。充実させるはずだった小児医療も入院評価に、 医師数・施設要件が課せられたため、限定されました。
六カ月超入院を「特定療養費」化
従来「アメニティの選択」と言ってきた「特定療養費」を、医療本体にまで拡大しました。医療上の必要度の少ない6カ月超の入院、200床以上病院の再診料などを「特定療養費」とし、実質的に患者に差額負担を求めさせる内容です。
「包括化」で給付内容を削減
透析医療の所要時間による評価をやめ、食事加算を廃止しました。リハビリでは実施時間による評価をやめ、一単位20分の個別・集団指導の体系とし、施設条件による差別化が盛り込まれました。
療養型病床では初期加算が廃止、単純XP、簡単なリハビリが包括化されました。
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そのほか大学病院などの特定機能病院に、1年後をめどに日本版DRG/PPSを導入することが盛り込まれたことにも、注意を要します。
薬剤・医療材料・検体検査を大幅に引き下げ
薬価は1万1191品目中9096品目が引き下げ(98品目が引き上げ)、医科・歯科用材料の716品目のうち 626品目が引き下げとなります。ペースメーカ、PTCAバルンカテーテル、冠動脈用ステンセットが2005年まで段階的引き下げとなるほか、ダイアライ ザーが9.5%、歯科充填材料IIが13.8%の大幅引き下げになります。
2002診療報酬改定の問題点こう見る
6カ月超入院の「特定療養費」化は重大
佐藤誠一(全日本民医連老人医療・福祉部)
6カ月超「社会的」入院の特定療養費化は極めて重大な問題。深刻な事態を引き起こす。特に北海道は、冬場に在宅で過ごさせるのは困難。吹雪の中、昼夜訪問看護・介護に行くのは命がけだ。介護施設もベッド枠がほぼ満杯で建設できない。
10月に実際の対象者が出るまでに、報酬上の具体的適用について改善を迫ることが必要。患者の自己負担の対応上は自治体との交渉も必要となる。
訪問歯科診療受けにくく
原田富夫(全日本民医連歯科部)
歯科初診料を引き下げ、「かかりつけ歯科医初診料」への誘導をねらう点数改定となっている。歯周患者のメンテナンスの点数設定がされたが、再診料、検査・処置などを包括する内容となっている。
また、訪問歯科診療料の引き下げのみならず、対象患者の制限や屋内での診療に限るなど、訪問診療を制限する内容となっている。
調剤技術料はじめて引き下げ
川添政彦(全日本民医連薬剤委員会)
「医薬分業」を政策誘導する時代は終わったとして、調剤技術料が4.5%も引き下げられたのは前代未聞。
わずかに増点となったのは算定条件の厳しい特別指導や医師への情報提供、後発医薬品についての調剤と患者説明だけ。ほとんどすべての薬局に関わる薬歴管理の基本部分と内服薬の調剤で大幅な減点になった。薬局経営への影響は大だ。
院内検査をいっそう困難にする
安井重裕(検査部門委員会)
検体検査では、改定のたびに「市場実勢価格」に合わせた点数の「適正化」が行なわれて来た。とくに今回は細菌検査や各種マルメの15%引き下げをはじ め、軒並み10%を越えるダウンである。検体検査管理加算が引き上げられたとはいえ、院内での検査の継続がいっそう困難になることは間違いない。
検査部門では昨年策定した「検査活動指針」の討議を軸に、「医療・経営構造転換」時代の「たたかいと対応」をきっちりすすめる必要がある。
症状に合わせたリハビリを困難にする
菅原芳紀(全日本民医連リハビリ技術者委員会)
リハビリの個別療法自体の点数が著しく減点された。早期リハに対する加算を足しても、減点になる。
詳細がまだわからないが、発症1カ月以内の退院を促すだけの改定であり、症状に合わせた治療を困難にさせるもの。回復期リハ病棟の取得、在宅でのリハ充実が改めて重要になっている。
MRI撮影の減点多大な影響
三宅孝俊(全日本民医連放射線部門委員会)
北海道・中央病院で、MRIの撮影点数引き下げについて、影響額を試算したところ、年間1200万円もの減収となった。経営に大きく響くし、機械の買い 換え費用にも響く。普及してきたから削るというのだろうがひどい。そもそもMRIについては、早くて精密に検査できる機種を用いても、そうでなくても同じ 点数という問題もある。CTについての影響の試算は年100万の減収になる。
透析食は治療食加算廃止は困る
佐藤拓也(全日本民医連臨床工学技士委員会)
透析時間の「評価」廃止は、透析時間短縮をまねき、ひいては患者の予後の悪化につながる。海外ではすでに「透析時間を長くとる方が予後が良い」という調査も発表されているほどだ。
また、透析食は治療食の意味合いが強く「食事加算の廃止」は困る。
「障害者加算の対象の見直し」で、糖尿病患者への加算制約が厳しくなる。
また、「加算拡大」とされている対象の条件は、外来透析ではめったに扱わないもので、「拡大」にならない。
(民医連新聞2002年03月01日 1269号)