【声明2025.02.27】過労死ラインの時間外労働および引退80歳を前提とする「医師偏在対策」は、「医師の働き方改革」に逆行する
2025年2月27日
全日本民主医療機関連合会
会長 増田 剛
厚生労働省は2024年12月、「医師偏在対策に関するとりまとめ(以下、とりまとめ)」を確認し、「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を公表した。そして、政府は、第217国会(常会)に「医療法等の一部を改正する法律案」を提出し、地域において必要な医療機能を確保するための診療所への勧告等の措置や新たな医師偏在対策事業の創設等を法制化するとしている。政府の医師偏在対策は、その基本的な考え方において、「医師数は毎年増加しており、医師の需要と供給は2029年頃に均衡する推計もある中、医師確保対策について、総数の確保から適切な配置へと重点をシフトしていく必要ある」としている。そして、「医師偏在指標」を用いて「医師多数県・医師多数区域」「医師少数県・医師少数区域」と分類し、経済的インセンティブと規制的手法(外来医師過多区域での開業抑制、保険医療機関の指定年数を6年から3年に短縮など)を用いて対策を強化しようとしている。
しかし、対策及びその前提に、大きな問題があると指摘せざるを得ない。
1点目は医師数に関する認識である。2022年までの10年間で医師数が約4万人増加しているのは事実である。しかし、人口10万対医師数はOECD加盟国平均に約13万人不足しており、国内で最も人口10万対医師数が多いとされる徳島県においてもその平均を下回っている。
2点目は「医師偏在指標」についてである。この指標については、政府自らが、仮定であるとデータの限界を認め、さらに医師の絶対的な充足状況を示しているものではないとしている。さらに、「数値を絶対的な基準として取り扱うことや機械的な運用を行うことのないように十分に理解した上で活用する必要がある」としている。しかし政府は、この指標を基に対策を進めており、「医師多数県」とされている都道府県の知事たちが政府に対し、「必要な医師を確保できない実態があり、指標は実情を表していない」と指摘し、医学部定員削減に反対との意見を表明している。医師が充足している都道府県はなく、医師少数県への医師のシフトは困難である。
3点目は、「医師需給推計」において、2029年以降医師が過剰になるとしていることである。この推計においては、OECD単純平均では46万人必要な医師数を36万人と低く設定するとともに、医師の時間外労働時間の前提は過労死ラインの年間960時間(宿日直は労働時間に含まず)としている。
4点目は、とりまとめにおいて、診療所医師の引退は仮定としているものの80歳としていることで
ある。
「月80時間の時間外労働」と「引退は80歳」を前提とし、さらに機械的な運用を行うことのないようにとしている「医師偏在指標」を政策判断の材料に使用し、「医師需給推計」では、必要な医師数を低く設定したうえで医師が過剰になるとしている。そして、2027年度から医学部定員の削減を行おうとしているのである。政府が進める医師偏在対策は、いまだに過重労働が解消されない医療現場の実態から目をそむけ、働き方改革に逆行するものにほかならない。
本来、求められる医師数の前提は、患者の人権と医師の人権が守られるものであるべきである。具体的には、①患者のいのちと健康を守ることができる(患者が適切に医療にアクセスができる、医療の安全・質が確保される)、②先進国の標準的な医療水準が担保できる(医師が適切な研修や研鑽をおこなって、キャリアアップできる、医学研究が十分におこなえる環境やマンパワーがある)、③医師の健康やワークライフバランスが守られる(医師がやりがいを持って健康に働き続けることができる、出産・育児・教育・介護など誰もが適切に保障される働き方が可能となる)があげられる。すべての医師の人権を保障し、健康を守りながら、今以上、医療需要を切り捨てないためには、偏在対策の強化ではなく、絶対的医師不足の解消こそが必要であり、医師増員へ舵を切ることを強く求める。
以上
(PDF)
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