【声明2023.12.01】医療提供体制・介護サービス基盤の崩壊を招く財政制度審議会の建議に強く抗議し撤回を求める
財務相 鈴木 俊一 殿
2023年12月1日
全日本民主医療機関連合会
会長 増田 剛
財務省諮問機関の財政制度等審議会は、11月20日、2024年度予算編成に関する建議を鈴木俊一財務相に提出した。全日本民主医療機関連合会(以下、「全日本民医連」)は、医療、社会保障を徹底的に削減する建議に強く抗議し撤回を求める。
建議は、コロナ禍で国民のいのちと健康を守り抜くことに奮闘した医療機関に対して敬意もねぎらいも無く、医療という非営利事業に対して、コロナ禍で「もうけ」たかのように繰り返し主張し、診療報酬本体の引き下げを求めた。その理由として、過度な利益が生じている診療所の報酬単価を5.5%引き下げる等の暴論を展開した。「高齢化等による国民負担率の上昇に歯止めをかけることが必要」と、財務省の機動的調査で判明した診療所の経営状況を踏まえて、報酬単価が全産業やサービス産業の利益率3.1%~3.4%と同程度となるよう求めた。そもそも医療機関は非営利であり、営利企業と比較することが暴論ともいうべき内容である。診療所の収益についても過去2年間で12%増加、費用は6.5%増加、経常利益率は3.0%から8.8%に急増と主張するが、対象とした改善の比較を2020年のコロナ禍による深刻な経営状況の中におかれたデータと比較すること等、まったく根拠を持たないものである。
建議は、医療従事者の処遇改善、医師のいのちと人権を守る働き方改革に対して、国が責任を持った安定的な財源確保とするのではなく、診療所を経営する医療法人に積みあがった利益剰余金を原資として活用するとし、医療従事者の処遇改善に背を向ける暴論を展開した。
今、医療機関の置かれている状況は、事業の継続に必要な職員の確保、処遇改善、設備投資すら困難な状況が生じている。診療報酬は1996年以後、本体のみで見ても2022年度改定までの26年間の伸び率は年平均僅か0.27%である。入院基本料は2006年度から15年間は消費増税時を除きほぼ据え置き、入院時食事療養費は1994年に導入(現物給付はずし)され、1998年に消費税分20円引き上げて以降、消費税増税時も含めて患者負担増の一方で1円も引き上げられていない。そもそも診療報酬は国民の財産である安全・安心の医療提供体制を確保する基盤となるべきものである。医療は社会的共通資本であり、コロナ禍の教訓を踏まえれば、事業・経営に平時から余力が必要であり、これらを保障する診療報酬の大幅な引き上げが必要なことは、コロナ禍での教訓であることは明らかである。
建議は、介護報酬について2015年改定以来、一般中小企業の利益率と介護事業所の収差率を比較し、後者が高いことを理由に報酬の引き下げを一貫して主張してきた。今回は訪問介護、通所介護をはじめとするサービス事業種別の収支差率を個別に抽出し、一般中小企業の利益率よりも高いサービス事業の報酬を引き下げることを求めた。そもそも公共サービスを提供する事業者として指定を受け、介護報酬という公定価格下で運営されている介護事業所と一般の中小企業を同列に置いて比較する手法に正当性は何ら認められない。昨年の老人福祉・介護事業者の倒産件数は143件、廃業に至った事業所は495件といずれも過去最多を記録した。これまで介護報酬は低く据え置かれてきたが、コロナ禍に伴う大幅な減収、昨年来の物価高騰が事業所の経営難に拍車をかけている。介護現場の人手不足は年を追って深刻化しており、訪問介護員(ヘルパー)の2022年度有効求人倍率は15倍を超えた。このままでは事業所の存続はおろか事業そのものが崩壊しかねない。しかし、こうした事態のもとで介護従事者の給与は全産業平均から未だ7万円もの開きがあり、低賃金を理由とする他産業への人材流出に歯止めがかからない。高齢化が進展する中、介護サービス基盤の強化は社会の要請であり、そのためには介護報酬(基本報酬)の底上げが不可欠である。
全日本民医連はいのちと健康を守る立場から、財政制度等審議会の建議のすみやかな撤回を求める。誰もが安心して医療にかかることができ、必要な時に必要な介護サービスが保障されるための社会保障制度の充実と診療報酬・介護報酬の大幅な引き上げを強く求める。
以 上
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