【声明2023.07.12】政府は一般診療とコロナ診療を両立させる責任があることを自覚し、新型コロナウイルス感染症第9波への対応を国の責任で進めることを求める
2023年7月12日
全日本民主医療機関連合会
会長 増田剛
新型コロナウイルス感染症が5月8日を持って、感染症法上の扱いが5類に変更されて以降2か月が経過した。7月7日発表分の感染状況では、定点あたりの発生数は全国平均7.24で上昇し続けている。現在のところ、新型コロナウイルス感染症については、他の5類定点把握感染症のように、定点あたり報告数による警報・注意報レベルの設定はないが、季節性インフルエンザに置き換えると、全国の現状は「流行」状態であり、沖縄は48.39で警報レベルである。沖縄独自の要因もあるにせよ、伝搬力の強さや、5類化以降の行動緩和の影響は、他の都道府県も同様であり、今後全国的に波及する可能性は大きいと判断せざるを得ない。
都道府県の入院調整機能がなくなった影響も出ており、各医療機関が独自に入院先を検索せざるを得ず、日常診療に大きな影響が出ている。そんな中、ある県では、後期高齢者の呼吸不全患者の入院調整を巡って、高齢を理由に人工呼吸器の使用を拒否されるなど、重大な倫理問題も発生している。
政府による「5類化」の動きは、経済優先が最大の動機であり、拙速感が否めないと多くの識者が指摘し、専門家からも懸念が表明されていたが、科学的検討内容が国民に開示されないままに進められた。全日本民医連は今年2月、「5類化」に対して見解「新型コロナウイルス感染症法上の位置づけ変更にあたって」を発表し、その中で「留め置き」解消と医療提供体制の整備、患者負担とせず公費医療を継続、医療介護事業所への財政支援などと併せて、国民へのリスクコミュニケーションを徹底することを政府に求めた。しかし、現政府の対応はそうした声に丁寧に応えるものにはならず、「3密」や「5つの場面」など、感染機会に対する警戒が一気に緩んだと言える。
このことは小児医療へも甚大な影響を及ぼしており、コロナ以外にもRSやヘルパンギーナなど数種類の感染性疾患の大流行を招いている。都市部を中心に、病床も外来も逼迫状況が見られ始めており、発熱外来を予約数制限している施設が多いため、発熱した子どもの受診先が見つからず右往左往するという事態が拡がっている。
5月24日の朝日新聞記事「コロナ5類、専門家たちの葛藤」という特集の中で、京大の西浦医師は「5類移行は科学でなく空気感で決まった」「大きなリスクが残ったまま」と批判的な意見を表明した。
更に同氏は、7月8日の毎日新聞のインタビューに応えて、5類移行後のデータ収集の困難さを指摘した上で、7月~8月にピークを迎える可能性に言及した。そして「今回の波の社会的特徴はコロナを以前のように社会的な問題として意識的に見ないようにしている人がいること。医療が逼迫し、助かる命が助からなくなるかも知れない」と述べ、第6波での心疾患の超過死亡の内、7割は医療逼迫が原因だったことを紹介した。
医療逼迫や高齢という要因で、適切な医療が受けられない状況は断じて避けねばならない。政府は一般診療とコロナ診療を両立させる責任があることを深く自覚し、以下の対策を早急に行う事を要請する。
- 年齢のみを理由とした治療制限は、決して許されるものではない。適切な医療が保障されるよう指導を徹底すること
- 国民に事態を正確に伝え、手洗いや換気、「密」状況でのマスク着用など、行動制限をしない形での必要な感染対策の推奨・リスクコミュニケーションを強化すること
- 補助金カットや検査体制の縮小など、後退させた公的施策を早急に再開すること
以上
(PDF)