【要請書2022.07.26】介護職員等の抜本的な処遇改善を求める要望書
内閣総理大臣 岸田文雄 殿
財務大臣 鈴木俊一 殿
厚生労働大臣 後藤茂之 殿
2022年7月26日
全日本民主医療機関連合会
会 長 増田 剛
本年2月より、介護事業所・従事者を対象に新たな処遇改善(介護職員処遇改善支援補助金)が開始されています。
しかし、引き上げ幅は9000円とされており、全産業平均水準とはいまだ月額8万円強の乖離がある給与差を埋めるには程遠い水準です。現場からは「一桁違う」との声が相次いでいます。しかも対象とされている職員全員が9000円引き上がるわけではなく、サービス事業ごとの補助率の違い、想定する対象者を実人員でカウントしていない等の制度設計により、実際は平均6000円~7000円前後にとどまっている事業者が多数を占めているのが実態です。
さらに、ケアマネジャー、福祉用具相談員など一部の職種・サービス事業が対象から除外されており、病院など医療機関で働く介護福祉士も対象にふくまれていません。とりわけケマアネジャーが就業する居宅介護支援事業所は、介護保険制度が施行されて以来、厚労省の介護事業経営実態調査において収支差率がプラスなったことはなく、公的制度による指定事業であるにも関わらず不正常な事態が続いていますが、依然として処遇改善策の対象からは外されたままとなっています。また、対象外となっている職員の給与の引き上げが経営的に困難であるという理由から、職員内でのバランスを保つために今回の補助を敢えて申請しないケースも生じています。
こうした結果、「配分」の多寡や有無をめぐって法人・事業所と職員との間、及び職員相互の間に不要な軋轢や混乱がもたらされており、制度に起因するこれらの問題への対応がすべて法人・事業所の責任に帰されており、現場の矛盾を深めています。
10月からは介護報酬上の加算に組み替えられることになりますが、これまでの加算措置と同様、実施されれば加算分が利用料負担に反映し、介護サービス利用の抑制要因となります。利用者・家族からは、「なぜ、職員の処遇改善で利用料負担が増えるのか」という強い疑問の声が出されています。コロナ禍のもと、利用者・高齢者のADL低下やうつ・認知症状の進行、家族の介護負担の増大などが指摘されている中で、経済的な理由で必要な介護サービスの利用に支障を来すことがあってはなりません。
以上のように、今回の処遇改善は、岸田首相が掲げる「分配」政策の一環として実施されたものですが、分配の水準が不十分であるとともに、法人・事業所と職員、職員と職員との間、さらに事業所と利用者の間の分断を広げるものです。そもそも介護は、様々な職員・職種、事業所による多職種協働によって提供されており、特定の職種、サービス提供事業を対象から外し、取り扱いに差をつけることは適切ではありません。また、職員の処遇改善が利用料負担の困難によるサービス利用抑制を広げることは許されません。
政府が介護従事者の賃金の低さを認め、全産業平均水準の確保を表明したことは、介護現場の声を反映したものとして歓迎します。しかし、その達成時期や具体的な施策が示されていないことに加え、そもそも現在実施されている処遇改善策自体、性格・財源が異なる3種類の施策(加算)を積み上げたものであり、介護事業者・従事者にとって先を見通せる内容となっていません。
深刻な人手不足の背景に様々な事情があることが指摘されていますが、低い給与水準がその主要な要因であることは間違いありません。政府は2025年度に32万人、2040年度に69万人の介護職員が不足すると推計しています。必要な介護従事者を確保し不足状況を打開するためには、大幅な処遇改善が不可欠であり、全産業平均水準の給与を実現することはその第一歩です。全産業平均水準を早急に達成し、その上でさらに介護の専門職にふさわしい給与を実現することが求められます。そのための具体的な手立て、計画を明らかにし、着実に処遇改善を進めていくことが必要であると考えます。
以下、要請します。
- 全産業平均水準給与の実現に向けて
(1)公費の投入によって、介護施設・病院等の就業場所や職種を問わず、すべての介護従事者の給与を全産業平均水準まで早急に引き上げること
(2)そのために必要な予算を2023(令和5)年度予算編成において確保すること - 全産業平均水準、さらに専門職にふさわしい水準の給与の実現に向けて、介護事業者・介護従事者が見通しをもてるよう、その達成時期、具体的な手立てについて政府として明らかにすること
- 当面予定されている10月からの介護報酬への移行に際して
(1)現行の「9000円水準」を大幅に引き上げるとともに、すべての職種・サービス事業所を対象とすること
(2) 介護報酬の上乗せ分について利用料の対象から除外すること
(3) 以上の財源を確保するために、今年度予算において補正予算を急ぎ編成すること
以上
(PDF)