【要望書2021.2.2】医療機関の経営崩壊回避に向けたさらなる財政支援を求める要望書
2021年2月2日
内閣総理大臣 菅 義偉 様
財 務 大臣 麻生 太郎 様
厚生労働大臣 田村 憲久 様
全日本民主医療機関連合会
会長 増田剛
1.2020年度に対応する緊急包括支援交付金の年度内入金を実施するよう国が責任を持って都道府県に徹底すること。
多くの医療機関が、当面の資金繰りのために福祉医療機構等からの運転資金を多額に借り入れて医療経営を維持しているのが実態です。5年間の返済据え置きや無利子枠の設定があるものの、5年後には返済をしなければならない借金です。現状でも返す当てのない借金を背負っている医療機関も少なくありません。これ以上の借金による対応は、近い将来の医療経営の破綻を招くのは明らかです。こうした状況にもかかわらず、昨年12月15日時点で全国の医療機関に届けられた額は8900億円と、予算規模に対して3割弱しか交付されていません。この間の緊急包括支援交付金の申請手続の医療機関への通知の遅れ、申請日から数ヶ月経過しても入金されていないなど、都道府県事務の遅滞は明らかです。国は責任を持って都道府県事務の遅滞への支援も実施しながら、2020年度分の交付金の年度内の入金を完了することを求めます。
2.この間の緊急包括支援交付金交付の遅滞の事実、その背景にある手続きの煩雑さを踏まえて、医療機関及び都道府県の事務負担のないシンプルな財政支援を実施すること。
1次補正、2次補正、2次補正予備費と小出しで、膨大な数の事務連絡等の通知が出され、これを読みとき対応する都道府県、医療機関の事務負担は限界に達しています。行政も医療機関も新型コロナウイルス感染拡大と目の前の患者のいのちと健康を守る取り組みに注力しなければならない事態の中で、各種交付金の対応準備や内容の検討など、通常発生しない事務負担が生じています。手続きはシンプルで簡素化されたもとのとなるよう検討見直しを図るべきです。
3.コロナ禍による急激な経営悪化と従前からの医療機関が経営困難であったことを認識し、国民のいのちと健康を守るための安定的医療経営実現のためのあらゆる措置を講じること。
①全ての医療機関に対して、収益規模に応じた経営支援金を一律に交付すること。
医療機関は一貫して、全ての医療機関へのコロナ禍による減収補填を求めてきました。しかし、この間出された内容は、コロナ患者受け入れ医療機関への空床確保料と僅かな診療報酬の特例措置程度となっています。コロナ患者受け入れ医療機関のみならず、地域医療は多様な疾患への対応を機能分担しながら面として支えています。医療経営を救済するため、感染拡大による減収を迅速かつ簡便な方法で補填するための支援金を思い切って予算化し執行することを求めます。
②この間実施されている診療報酬の特例加算等すべてを、コロナ感染拡大状況にかかわらず少なくとも2021年度中は継続すること。
特例加算等の9月までの延長等も打ち出されていますが、医療経営の実態を踏まえて、2021年度中は継続すること、さらなる特例措置の適切な追加を求めます。
③消費税を5%に引き下げる措置をとること、また、医療機関の負担する控除対象外消費税(収益比約2%程度)の2021年度分を特例的に還付する措置をとること。
国民の現状を踏まえて、速やかに消費税の引き下げを実施すべきです。このことは、多額の控除対象外消費税を負担する医療機関の支援にもなります。また、医療機関経営支援のための控除対象外消費税についての特例措置を求めます。
④コロナ患者受け入れ医療機関への空床確保料は、コロナ収束まで交付することを明確にすること。また、毎月請求、翌月入金となるよう措置すること。
医療機関の収入は翌月10日請求翌々月入金の仕組みです。資金不足に陥っている医療機関に適切に対応するために、減収補填である空床確保料は、毎月きちんと補填されるしくみの構築と実施が不可欠です。
⑤クラスター発生により、医療機関の収益減少が生じた場合の財政支援措置を追加補強すること。
現在、クラスター発生等により一時的にコロナ陽性患者を受け入れた医療機関に対して、重点医療機関としての空床確保料の補填ができる旨の通知が行われています。すべの医療機関が、いつクラスターが発生してもおかしくない状況の中、一度クラスターが発生すれば、入院、外来がストップし、大幅な減収が発生します。感染対策を必死にとりながら患者と向き合っている医療機関に、クラスターが発生しても、そのために生じた減収については前月収益の補償を行う等、経営の心配なくクラスター対応できるよう必要な措置をとること。
⑥医療従事者のコロナ陽性者、濃厚接触者の休業期間の賃金を全額医療機関に対して補填すること。
医療従事者にコロナ陽性者、濃厚接触者が発生すれば、休業により人員体制の困難と現場への労働負荷がかかります。雇用調整助成金等は、要件が厳しく通常では対象外です。休業者発生のたびに、医療活動の縮小が迫られ、経営へも負荷がかかることになります。医療従事者に院内感染防止のため、休業指示した場合の給与等について国の負担で補償することを求めます。
⑦2022年度診療報酬改定に向けて、大幅なプラス改定が実施できるようあらゆる措置を講じること。
医療機関の経営は、コロナ禍以前からギリギリの経営を継続しています。次期診療報酬改定に向けて、国民のいのちと健康を守る視点で抜本的な引き上げを求めます。
4.日夜奮闘しているすべての医療従事者の処遇改善に向けて、すべての医療機関で賃金の一律上乗せを国の責任で実施すること。
この間の慰労金、12月24日及び1月7日通知のコロナ対応職員への手当の実施など、医療従事者を支援する趣旨での交付金は、医療機関間や職場間での処遇の差異への不満や不平等感を生じさせています。また、労使間での合意づくりなど大きな矛盾と負担が生じています。OECD諸国の平均より大幅に少ない医師体制、診療報酬基準ギリギリの少ない看護師体制でなければ成り立たない経営実態です。経営の状況から賃金の引き上げや賞与支給にもコロナ禍が重なりさらなる困難が生じています。経営の安定化と職員の奮闘に応える賃金・労働条件の改善を一体的に進めることが求められています。個別医療機関内及び地域医療機関間での矛盾を生む支援ではなく、医療労働者の賃金を一律に引き上げる措置をとることが必要です。
5.この間の緊急包括支援交付金における問題点と都道府県によるばらつきのある解釈や判断を是正し、通知に沿った統一的対応を徹底すること。
①重点医療機関、協力医療機関の都道府県による指定時期の認識や考え方のバラツキを是正するとともに、実態に即した柔軟な対応を徹底すること。
2020年10月中に都道府県による重点医療機関、協力医療機関の指定が書面で行われました。10月指定は明確ですが、6月の都道府県による重点医療機関及び協力医療機関の指定(第2次補正事務連絡)が不明確もしくは公式な指定を行っていない都道府県がほとんどです。このことを巡って、「指定した記録がない」「都道府県としての認識をきちんとしていなかった」等を理由に、指定の時期を10月の書面での指定以降に限定する、夏頃に実施した病床確保についての意向調査をしたことをもってこの時点以降から指定したと見なす、とするなど混乱が生じています。指定したとする以前の空床確保料の単価を指定以前は「その他病院」であるとし41,000円、16,000円しか交付しないという対応もなされています。コロナ感染患者及び疑い患者を4月以降実態として受け入れてきた医療機関に、国が決めた空床確保料(2次補正予備費)が、2020年4月より遡及して支払われるよう徹底してください。
医療機関を指定した具体的事実がなくとも、都道府県における医療機関のコロナ患者受け入れの事実を確認し重点医療機関、協力医療機関の指定をしたものとして取り扱うよう徹底してください。
②フェイズが上がることに対応して、コロナ感染患者受け入れの即応病床に指定された医療機関は、その解除まで重点医療機関の指定をしたものであることを明確にすること。
一部の都道府県では、ローカルルールと公言し、陽性患者受け入れ病床が10床以上でなければ、重点医療機関ではないという見解が示され、対応する空床確保料も協力医療機関としての単価しか補償しないとしています。また、新たに指定した部分に関連する空床確保料はその他病院の単価しか出さないなどの見解もあります。いずれも、なんとか受け入れ病床を増やし頑張ろうとする医療機関の意欲をそぐものとなっています。速やかに不当な対応の是正を要請します。
③クラスターが発生した医療機関が一時的に陽性患者の入院対応を行う場合の空床確保料の交付について、その内容の明確化と都道府県に対する徹底をすること。
12月14日事務連絡として再度出された、重点医療機関としての空床確保料について、都道府県及び医療機関への徹底が未だ不十分です。また、都道府県が重点医療機関と見なすことが要件となっており、解釈にバラツキが生じる懸念があります。病床単位、病棟単位にかかわらず、実態として、陽性患者対応のため、やむなく休止せざるをえない病床が生じた場合、その期間の空床確保料は、重点医療機関としての単価での交付を行うようにしてください。
④各種機器備品等の交付申請に当たって、相見積もり、競争入札等不要であることを徹底すること。
都道府県によっては、交付金申請に当たって各種購入機器備品の相見積もりをとることを条件としたところがあります。通常の補助金とは違って、コロナ禍の中で、感染対策に要している諸費用です。緊急包括支援金申請対象の費用について、相見積もり等は不要であることを徹底してください。
6.その他関連事項
①新型コロナ陽性となった医療従事者の労災申請後の認定を適切かつ速やかに行うこと。
労災申請から決定通知に時間を要しています。医療従事者の労災認定については特段の配慮を持って認定を行うべきです。また、ホテル隔離期間のみを対象とし、退所後のメンタルケアのための休業期間を対象外とする決定通知も行われています。陽性となった医療従事者は様々なストレスを受ける環境におかれることになります。十分なケアを受け、職場に復帰できるまでの期間は、休業補償の対象とすることは当然のことです。
以上
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