【声明2020.11.02】介護事業所の経営実態をふまえ、介護報酬の大幅な底上げを実施することを強く求める
2020年11月2日
全日本民主医療機関連合会 会長 増田 剛
厚生労働省は、10月30日の第190回社会保障審議会介護給付費分科会において、「令和2年度介護事業経営実態調査」をはじめ、来春の介護報酬改定の向けた各種調査の結果を公表した。
介護事業経営実態調査では、全サービス事業の2019年度平均収支差率が2.4%となっており、前年度から0.7ポイント減少する結果となった。比較可能な22のサービス事業の8割弱にあたる17のサービス事業で収支差率が悪化しており、訪問介護が4.5%から2.6%に低下しているほか、これまで収支差率を伸ばしていた地域密着型サービスも大多数の事業で落ち込みが目立つ。介護保険がスタートして以来一貫してマイナスとなっていた居宅介護支援事業は今回も1.6%のマイナスという結果であり、介護保険制度の指定サービス事業であるにも関わらずそもそも経営的に成り立っていないという、きわめて不正常な状態が続いている。
同日公表されたコロナ禍の影響に関する緊急調査結果では、緊急事態宣言が発令されていた5月時点の収支について感染拡大前と比較して「悪くなった」という回答が47.5%と最も多く(事業別のトップは通所リハビリテーションで80.9%、次いで通所介護72.6%)、10月時点でも5月時点より収支が「悪くなった」との回答は32.7%と全体の3分の1を占めている。また各経費の増減では、マスク等の衛生材料の費用が「増加している」が5月時点で54.7%、10月時点でも53.7%と状況が変わらないまま推移している。これらの結果は、利用控え等による大幅な減収と、感染対策に係る費用の増大が事業所経営を大きく圧迫しており、それが現在に至っても解消されていないことを示している。
東京商工リサーチ調査では、2020年1月から9月の期間で老人福祉・介護事業者の倒産が94件に達し、過去最多を更新したことが報告されている。倒産件数は、介護報酬のマイナス改定(もしくは実質マイナス改定)のたびに増加の一途をたどっており、従来から介護事業所が抱えてきた経営難を今般のコロナ禍が加速させていることは明らかである。また「倒産」にカウントされない、廃業届による事業所の閉鎖は相当数に上ることも推察される。このままでは地域の介護サービス基盤が大きく損なわれ、介護崩壊という取り返しのつかない事態をまねくことにもなりかねない。
新型コロナウイルス感染症は、低く据え置かれてきた介護報酬、慢性的な人手不足によって疲弊しきっていた介護事業所を直撃した。コロナ禍で生じている事態は、これまで政府が進めてきた給付抑制一辺倒の介護保険・介護報酬の見直しが介護事業所にいかに困難をもたらしてきたかを浮き彫りにしている。同時にコロナ禍は、地域の第一線で高齢者の生活を支える介護の重要性と、その担い手の処遇・社会的地位の低さも明らかにした。コロナ禍のもと、介護事業所が現状で抱えている困難を早急に打開し、感染の再拡大・長期化に備えていく上で、また高齢化の進展に伴い今後いっそう増大していく介護需要に応えていく上で、次期改定において介護報酬を引き下げることは絶対にあってはならない。以下の2点を強く要望する。
- 「介護の質の維持・向上」「経営の安定性・継続性の確保」「職員の処遇・労働環境の抜本的な改善」
及び「感染症・自然災害への適切な対処」が可能となるよう、介護報酬全体の引き上げ、とりわけ基本
報酬部分(基本サービス費)の大幅な底上げを図ること - 改定に伴ってサービス利用に支障が生じないよう、利用料負担の軽減措置を講じること
以上
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