【声明2017.5.26】詳細な内容を明らかにしないまま、利用者、介護現場にいっそうの困難を押しつける介護保険の見直しに断固抗議する
2017年5月26日 全日本民主医療機関連合会 会長 藤末 衛
5月26日、参院本会議において、介護保険の見直し法案(地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案)が、民進党、共産党、希望の会(自由・社民)等をのぞく与野党の賛成多数で可決されました。前回「改正」による影響の検証を実施しないまま、また法案の内容自体が十分明らかにされていないにも関わらず、「持続可能性の確保」の名の下に、さらなる給付削減を盛り込んだ今回の「改正」に対して強い怒りをもって抗議します。
法案審議に際し政府与党は、衆院厚生労働委員会では与野党の合意を踏みにじり、わずか22時間で審議を一方的に打ち切って採決を強行し、参院厚生労働委員会では、首相質疑すら実施せずにさらに短い16時間の審議で採決を行いました。市町村に関係する事項が多いにも関わらず、地方公聴会も開催しませんでした。そもそも性格の異なる大小31本の「改正」法を十把一絡げに束ねて一括法として審議すること自体が実に乱暴なやり方であり、しかも多くは200本を越える政省令に委ねられており、上程された法案だけでは詳細はほとんど分かりません。それにも関わらず、十分に審議を尽くさないまま採決に踏み切った政府の責任は二重三重の意味で重大だと言わざるを得ません。
法案の内容についても、両院厚生労働委員会の審議で次々と問題点が明らかになりました。
「利用料3割化」については、野党の追及により政府は前回「改正」で導入された2割負担の影響を検証すると答弁せざるを得なくなりました。そうであるならば、利用者に生じている個々の困難を具体的に把握し、必要な対策を講じないままで「利用料3割化」を実施に移すことは絶対に許されません。これは利用料の問題だけにとどまりません。総合事業の実施、特養入所対象の制限、補足給付への資産要件や配偶者要件の導入など、前回「改正」の影響を全面的に検証し、利用者・家族、介護現場に生じている困難を打開するための施策が講じられなければなりません。
「保険者機能の強化に対する財政的インセンティブの付与」では、「自立支援・重度化防止」を市町村に競わせることで、自治体による介護サービスの打ち切り(=「卒業」ならぬ強制退学)をさらに拡大させる危険性があることが、現在の総合事業の中ですでに起こっている深刻な実態を通して明らかになりました。参考人質疑では、「改善」に一面化した「自立支援介護」は、「尊厳を保持し、その有する能力に応じて自立した日常生活を営むこと」を目ざすとした介護保険の目的そのものを変えるものだとの指摘もありました。
新たに制度化される「共生型サービス」については、「介護保険優先適用原則」を強化するとともに、介護・障害サービスの「安上がり」な複合化につながるおそれがあること、土台とされている「我が事・丸ごと地域共生社会」方針が公的支援を住民の「互助」に「丸ごと」移し替えていくものであり、「共生」の名の下に、公的福祉、社会保障を縮小・解体させる新たな仕組みづくりにつながることも浮き彫りになりました。
介護従事者の処遇改善については、いま最も急がれる給与の引き上げ、全労働者平均と月額10万円の給与差を縮小させていくための取り組みや、現場の実態と乖離したまま放置されている施設等の人員配置基準の見直しなどについて、政府から実効性のある方策を講じるとの回答はありませんでした。
今回の「改正」法が審議の方法の面でも、内容の面でも、介護の充実を求める高齢者・国民の願いからかけ離れたものであることは明らかです。いったい誰のための「持続可能性の確保」なのか、何のための介護保険制度なのか、政府に対し改めて正面から問わなければなりません。「介護の社会化」という介護保険制度の原点に立ち返り、「医療・介護は国の責任で」の立場から、今回の「改正」法に対する総合的な検証と制度の抜本的な見直しを引き続き求めていくものです。
以上
(PDF版)