【声明2016.11.18】国民本位の良質な専門医制度のために――新専門医制度の現局面における提案
全日本民主医療機関連合会理事会
2016年11月18日
今回の専門医制度改革は専門医の質を高め、国民がうける医療の質を向上させることを目的に議論が開始されました。しかし、その制度改革の行程で、日本専門医機構(以下、機構)のガバナンスが問題視され、また地域医療の現場への悪影響を懸念する意見が相次ぎ、開始時期の1年延長が決定されました。
私たち民医連は、2015年1月に、専門医制度の整備の必要性を支持しつつ、地域医療への重大な影響が起きないようにすべきである、医師数抑制・医療費抑制につながってはならない、臨床教育での総合性の軽視を懸念するという立場から「新専門医制度に対する全日本民医連の見解」を発表し、各団体と意見交換を進めてきました。
ここで、この間明らかになったいくつかの問題に触れつつ、専門医制度改革における私たちの提案を示します。
I.「開始延期」にいたる諸問題の原因はどこにあったか
地域でも大学でも病院勤務医が不足している現状において、専門医制度改革が、大学病院を中心とする設計で行われたことにより「新制度によって専攻医・専門医の大学や大規模病院への集中、新しい偏在が更なる地域医療の危機を招く」などの意見が出されるに至りました。
混乱した原因については以下の4点が挙げられるのではないかと考えます。
(1)国民・地域住民のための改革であるという視点が不足しており、国民・地域から見てこれからの時代に必要な専門医像の中身と需要の検討が不十分である。
(2)当事者である医学生や研修医へ周知されず、その意見がくみ取られていない。さらには少なくない医学生が「大学で初期研修をしなければ専門医になれない」に類する説明を受けている。
(3)事実上の制度設計を学会に個別に依存したことにより、多くが大学中心のプログラムとなり、専攻医・専門医の働く場所に制限が生じかねない制度となった。その結果、基本領域において従前のように中小病院を含む地域の病院で従事しながら資格を取得・更新することが困難となった。
(4)診療、学術研究、教育を同時かつ十分に実践していくだけの医師数が充足されていない状況の中で、とくに病院勤務医の絶対的不足という認識が不十分であった。そのため制度実施に伴って新たな偏在が生じかねない状況が懸念され、大学と地域医療が対立物のように映る議論が生じた。
II.あらためて専門医制度改革において重視すべき視点
(1)専門医制度改革において何より大切な前提は、国民本位の公正で必要十分な医療制度をまもり発展させることであり、そのうえで専攻医が安心して確かな力をつける制度が創られることが重要です。医師が国民の健康に対して専門的な立場からその社会的責任を果たそうとするならば、当然プロフェッショナルオートノミーを発揮して専門医制度を確立・発展させる必要があります。ゆえに機構は、国民皆保険制度が堅持・発展され国民の受療権がまもられることを前提に、国民の医療ニーズに寄り添い生命の平等をまもる医師の良心と責任を発現する、政府からも独立した組織として運営されるべきであると考えます。
一方で医療制度の改善についての責任は政府にあり、専門医養成における財政的保障を行うことが求められます。医師配置の問題はこの機構で調整することではなく、政府が進める医療提供体制の効率化縮小化という政策の推進手段として専門医制度が利用されることは決してあってはなりません。
(2)機構の整備指針で専門医像として示された「それぞれの診療領域における適切な教育を受け、患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」の具体像を適切に捉え追求することが必要です。卒後5~6年に到達すべき標準的力量は、その専門領域での基本的診療を患者中心に安全に実践できることです。そして、今後とくに求められる専門医像として、その領域の専門技量を獲得し、自身の学び探求する姿勢を持続させながら、現実には地域のプライマリ・ケアを一定担うような働き方・あり方が求められます。診療実践をサブスペシャルティに限定せず、自ら選択した基本領域でカバーすべき疾病と症候を確実に診療し、他の専門医と協働しながら、それぞれの地域のニーズに応えていく医師像です。そのためにも教育研修施設をより地域に幅広く配置することが欠かせません。
(3)今回初めて立ち上がる総合診療専門医は、国民からも、医療関係団体からも切望される領域です。今後時代の要請とも相まって、一層の専門分野としての発展と、診療・研究に携わる専門医集団の確立が強く求められます。同時に世界にも類を見ない速度で高齢化する日本において、診療の場の多様性をそのコア・コンピテンシーの中に明記している総合診療専門医が病棟、外来、ER,在宅など様々な診療現場で活躍する状況を遅れることなく目指すべきです。
III.当面の機構の行動に関する要望・提案
実施を延期した現段階において、まず行うべきこととして、以下の3点を提案します。
(1)この制度の地域医療への影響を客観的に調査公表し、併せて地域医療をまもる視点で制度とプログラムの再点検を行う。
i)地域医療への影響調査は学会へのヒアリングだけでは不十分であり、またプログラム上で二次医療圏に連携施設が存在することでその地域へ配慮しているという説明には説得力がない。少なくとも病院団体、専攻医に向けた調査を行うとともに、新制度対応プログラムを始動させた6学会へのヒアリング内容を公表する。
ii)内科、外科、整形外科、小児科、産婦人科、救急科、精神科などの領域での基本領域のプログラムでは、多様な地域医療の現場で総合性を獲得することを重視し、その期間を確保するとともに、地域の病院が基幹型施設を担えるように制度設計を再検討する。
iii)地域医療に従事している専門医が、概ね日常の診療実践を継続させながら資格を取得・更新できる制度設計へと整備していくとともに、医療資源の少ない地域での勤務とそこでの修練を可能にするようなプログラム上の配慮を行う。
(2)専攻医が安心して力をつけることができるように必要な整備を行う
i)医学生、研修医の意見をよく聞き、不安を解決し要望を受け止める場を設ける。
ii)専攻医が身分経済的に保障されるよう、制度の実施運用指針を示すとともに、専攻医自身の相談窓口を機構に準備する。
iii)専攻医のライフイベントやキャリアプランに合わせた修練ができるよう、実績積み上げ的な制度設計にするとともに、専攻医定数との関係では、枠外であっても中途からの参加をある程度受け入れられるよう柔軟性を持たせる。
(3)地域包括ケア時代に強く求められている多様な診療現場で活躍する総合診療専門医を積極的に養成するための制度設計を行う。
i)総合診療専門医の養成は、地域医療において主に病院医療を担う医師と主に診療所を担う医師とをどちらも不足なく育成していける制度設計であるべきで、総合診療専門医からも内科系サブスペシャルティを修練できるようにするなど、総合診療専門医を目指す専攻医を増やすような検討を行う。
ii)専攻医教育の実際を進めるために、担当学会を日本プライマリ・ケア連合学会を軸に明確にする。
IV.機構の運営に関しての要望
専門医の在り方に関する検討会の報告書では、「専門医を学会から独立した中立的な第三者機関で認定する」(3―(1)基本的な考え方)と記述されました。今後の専門医制度改革を、審査・認証・各種調整や制度設計は機構、教育内容は学会という役割分担と枠組みで進めるのであれば、機構理事は出身学会での役員を降りるなど、現実的で可能な方法で、できるだけ機構の第三者性を高める手段を講じるべきです。
制度運用に当たっては地域住民や専攻医、医学生の意見も反映させる視点で、現場からのフィードバックを受ける方法を具体化し、定期的に制度の点検や見直しを行うシステムをつくることを求めます。
地域住民にとっても、専攻医にとっても良質な制度をつくりあげてから出発するべきであり、懸案事項が多く残された状態での拙速な開始、見切り発車には反対します。
以上
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