【見解2014.11.07】「患者申出療養(仮称)に対する全日本民医連の見解」
2014年11月7日
全日本民主医療機関連合会
会長 藤末 衛
厚生労働省は「患者申出療養(仮称)」制度を2015年の通常国会に提出予定の健康保険法改正案に盛り込むために、10月22日、中央社会保険医療協議会に運用について論点提示、11月5日には制度の枠組みを議論するなど準備を進めている。
この「患者申出療養(仮称)」制度は、保険外併用療養制度を拡大して国民皆保険制度の空洞化をねらうものであると同時に、保険給付の縮小と大幅な患者負 担増で医療の営利化を推し進める2025年に向けた社会保障解体路線そのものである。
無差別・平等の医療をめざす全日本民医連は、お金のあるなしで受けられる医療に格差を生み、国民皆保険制度を崩壊させ、国内未承認薬の利用など安全性の 面でも重大な問題のある「患者申出療養(仮称)」の創設に反対し、導入の撤回を求める。
6月24日に閣議決定された『日本再興戦略』改定2014において、「選定療養」「評価療 養」とならぶ新たな保険外併用の仕組みとして、「患者申出療養(仮称)」制度の創設が位置づけられた。この制度が従来の「評価療養」と決定的に違う点は、 「患者起点」の制度という点にある。また、国内未承認医薬品等の使用や国内承認済みの医薬品等の適応外使用などを迅速に保険外併用療養として利用できるよ うにする。
当初、規制改革会議で「選択療養制度(仮称)」として提案した際、「困難な病気と闘う患者が、治療の選択肢を拡大できるようにする」と、患者要求に応え るかのポーズを示した。しかし日本難病・疾病団体協議会は、安全性・有効性への懸念と同時に、患者の選択による自由診療の公認=「事実上の混合診療解禁」 だとして、国民皆保険制度の堅持を要望している。「患者申出療養(仮称)」と名を変えても、患者に自己責任を押しつける制度は、国民の願いに逆行するもの である。しかも、医師が治療内容や安全性・有効性などを十分説明して、理解、納得したうえで患者が申出することとしており、万一被害が生じた場合、その責 任を申出した患者本人に負わせることになりかねない。このような制度創設は断じて許すことはできない。
この「患者申出療養(仮称)」の創設は、財界やアメリカの強い要求にもとづく医療・介護の 市場化・営利化のねらいと一体のものである。まさに安倍内閣の自立・自助を強制する新自由主義的な社会保障制度改革推進法の具体化であり、「国民に医療を 保障する責任を、公的な医療保険で国と保険者が負う」という、憲法25条の理念に関わる根幹の問題である。
現在、非正規雇用が雇用者の4割を占め、年間200万円以下の給与収入の労働者が4人に一人という状況のもとで、消費税増税や医療の窓口負担増、保険料 の引き上げなどによって、いっそう受診が困難になっている。いまこそ、「現物給付」と「混合診療禁止」の国民皆保険制度の原則に立ち返り、保険証があれば いつでもどこでもお金の心配なく安心して受診できる医療の実現が求められる。以前より全日本民医連は「患者申出療養(仮称)」の創設に反対し、健康保険法 改正案を提出しないこと、保険給付対象の拡大や安全性・有効性が確認された新規治療や新薬の保険収載を速やかに行うよう要望しており、ひきつづき多くの医 療関係者、国民と共同して奮闘する決意である。
以上