【声明2013.12.24】介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」について-新たな困難を押しつける給付抑制・負担増の制度見直しに断固反対する-
2013年12月24日
全日本民主医療機関連合会
会長 藤末 衛
12月20日、社会保障審議会・介護保険部会は、次期介護保険の見直しに向けて、「介護保険制度の見直しに関する意見」を決定しました。社会保障制度改 革推進法、社会保障制度改革国民会議「最終報告」を土台に、「適正化」及び「効率化・重点化」の名によるいっそうの給付抑制、負担増を方向づけるものであ り、政府が推進する社会保障・税一体改革全体を先導する内容となっています。
1 「介護保険制度の見直しに関する意見」は、今回の制度見直しの基本的な考え方として「介護保険制度の持続可能性の確保」を掲げました。しかし、利用者・高 齢者の立場からのものではなく、あくまで財政事情を何よりも優先させた「持続可能性」の追求に他なりません。具体的に示されているのは、徹底的な介護給付 費の削減、受益者負担の強要です。
第1に、予防給付のうち利用者が多い訪問介護、通所介護を給付体系から切り離し、市町村が実施する事業に丸投げすることを提案しています。市町村の事業 では、サービス提供はボランティアでも可能とされ、事業所に委託する場合は単価の切り下げ、事業費用全体の上限設定などの方針がすでに示されており、現状 のサービスの内容が大幅に縮小されることは確実です。私たち民医連の「予防給付の見直し」影響予測調査(回答767件)では、疾病や障がいを抱えながら、 訪問介護、通所介護を利用して在宅生活を続けている要支援者の事例が多数報告されました。市町村事業への移し替えによってサービスが減ったり、打ち切りに なれば、在宅生活に重大な困難が生じることは明らかです。ボランティアでも可能とするのは、ヘルパーをはじめとする介護職の専門性を全面的に否定するもの に他なりません。また、国が一律の基準を定めず、サービス内容などを市町村が決定するというしくみでは、財政力や、ボランティアをふくむ地域資源の事情に 起因する市町村間の格差をいっそう広げることになるでしょう。
第2に、特別養護老人ホーム入所対象者の要介護3以上への「重点化」は、介護者不在や認知症の周辺症状などの事情で在宅生活が困難な「軽度」高齢者の行 き場を奪うものです。厚労省は、要介護1、2でも特別な事情があれば入所を容認する修正案を示しましたが、要介護1、2を基本的に排除するという本質に何 ら変わりはありません。見直しの理由として、要介護4、5の在宅待機者が数万人に及ぶことを挙げていますが、根本問題は40万人の入所定数に対して待機者 が42万人に達するという特別養護老人ホームの絶対的不足にあり、整備の強化を抜きにした小手先の対策では解決しないことは明らかです。
第3に、一定以上所得者の利用料負担を2割に引き上げる案です。「一定以上所得」として年金収入で単身280万円、夫婦で359万円などの案が示されて いますが、倍増する利用料負担の支払いが困難になってサービスを減らす、とりやめるという事態が生じることになるでしょう。今回は一部の利用者を対象とし た利用料の引き上げですが、今後すべての利用者の利用料を2割に引き上げる突破口になると考えられます。
第4に、低所得施設入所者にたいする居住費・食費負担軽減制度の要件の厳格化です。収入認定の際、世帯分離前の配偶者の所得を勘案することなどが提案さ れています。全施設の6割、特にこのうち特別養護老人ホームでは8割の入所者が補足給付を受けており、見直しは低所得者から特養に入所する権利を奪うもの です。第5に、「充実」の課題として低所得者を対象とする保険料軽減策の拡充が盛り込まれています。しかし、その財源は消費税の増税分で賄うとしていま す。逆進性が高く低所得層ほど負担が大きい消費税は、低所得者の救済を目的とする負担軽減制度にふさわしい財源ではありません。
さらに、今後の見直しの課題として、「被保険者の範囲の見直し」、「ケアマネジメントの利用者負担の導入」などをあげているとともに、「保険給付と給付 外サービスの組み合わせの在り方」を掲げ、混合介護の拡大に道を開く検討を方向づけている点も重大です。
2 基本的考え方の2つめに掲げられたのが「地域包括ケアシステムの構築」です。地域包括ケアは「日常生活圏域を単位として、住まいを基本に、医療、介護、予 防、生活支援サービスが一体的に提供される体制」とされており、このこと自体は今後高齢化が進むもとで実現が求められる課題といえるものです。しかし、政 府が実際に推進しようとしている地域包括ケアは、「自助」(市場サービスの購入もふくむ)、「互助」を中心にすえ、「住み慣れた自宅で最後を」という高齢 者・国民の願いを逆手にとり、医療・介護の公的給付の抑制をはかるシステムとして設計されています。相次ぐ社会保障制度の改悪、貧困や社会的孤立の広がり によって、そもそも地域の「自立・自助」の機能そのものが弱体化・崩壊している中で、「自立・自助」に重心をすえる方向では、在宅療養の条件を広げるどこ ろか、逆に地域包括ケアならぬ「地域“崩壊”ケア」ともいうべき事態を広範につくり出すことになりかねません。
3 介護保険制度のスタート以降、「利用できない介護保険、利用させない介護保険」ともいうべき深刻な事態が広がり続けています。改めて、誰のための、何のた めの「持続可能性の確保」なのかが正面から問われています。いま求められている見直しとは、現在の介護保険制度が抱えている様ざまな矛盾や問題点を抜本的 に検証・改善し、在宅でも、施設でも、必要な介護が適切に保障される制度に転換することです。高齢者・国民の人権と生活が保障される地域包括ケアは、公的 制度の拡充によってこそ実現可能です。
私たち民医連は、「介護保険制度の見直しに関する意見」が示した利用者・高齢者への新たな困難の押しつけに断固反対するとともに、改めて以下の点を求めます。
(1) 要支援者のサービスを市町村の事業に移さず、内容を充実させること
(2) 利用料の引き上げを実施しないこと
(3) 施設入所の対象から「軽度者」をはずさないこと、低所得者が安心して入所できるよう費用負担の軽減制度を強化すること
(4) 介護保険財政への国庫負担を大幅に増やすこと
(5) 社会保障制度改革推進法を廃止すること、消費税の増税でなく、大企業や富裕層に応分の負担を求めることで必要な財源を確保すること
以 上