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声明・見解

声明・見解

【見解2013.11.25】原子力規制委員会「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(案)」に対する意見

2013年11月25日
全日本民主医療機関連合会
会 長 藤末 衛

 原子力規制委員会は、「帰還にむけた安全・安心対策に関する検討チーム」で検討してきた対策として、福島第一原発事故で避難している住民の帰還に 関し、1年間に被ばくする放射線量が20ミリシーベルト以下であれば健康上に大きな問題はないとする「基本的考え方」を11月中にもまとめるとのことであ る。「基本的考え方」には「20ミリシーベルト以下では発がんリスクが十分に低く、適切な対策をとればリスクは回避できる」との見方が盛り込まれる見通し である。

 被災者の健康被害を未然に予防する上では、これまで原爆症の認定(「新しい審査の方針」)やJCO臨界事故の周辺住民の健康支援策にあたって基準 とされてきた、公衆の年間追加被ばく線量1ミリシーベルトを基準に考えるべきである。今回、原子力規制委員会が検討している「基本的考え方」は、あきらか に二重基準で、容認することは到底できない。

 さらに、「20ミリシーベルト以下では発がんリスクが十分に低く、適切な対策をとればリスクは回避できる」とうちだされることによって、20ミリシーベルトに満たない地域に対しての補償が打ち切られ、除染目標を下げられる可能性がある。

 国連人権理事会のアナンドグローバー報告でも、日本政府に対して「低線量被ばくに関するリスクが証明されていない以上、もっとも影響を受けやすい 人の立場にたって、人権の視点から健康を守る施策を行うこと。そのために追加線量1ミリシーベルトを基準に住民への支援を行うこと」を勧告している。そし て、「年間1ミリシーベルト以下で可能な限り低くなったときのみ帰還が推奨されるべきで、その間は避難者が帰還するか避難を続けるか、自分で決定できるよ うに財政的支援を行うべき」としている。日本政府はこの勧告を真摯に受け止め、被災者の人権を守る観点で政策転換をすべきである。また、「基本的考え方」 では、帰還を進めるにあたって「個人線量」に着目するとあるが、個人の管理でどこまで正確に線量を測定できるのか。被災者に「自己責任」を押しつけるもの で、容認できない。また固定されたモニタリングポストだけでなく、よりきめ細かい測定を行政として責任をもって行い、住民に情報公開をしていく必要があ る。

 戻れない理由は線量だけではない。広野町や南相馬は、年間線量20ミリシーベルトをはるかに下回り、現在避難指示区域ではないが、戻って生活でき る状況にはない。残してきた家は小動物の棲家となっており、とても住める状況ではないし、水田・田畑は荒れ果てており、戻っても農業を再開できる見通しは たたない。すでに原発事故から2年8ヶ月経過しており、避難生活が長期にわたるストレス、生活・健康不安は計り知れない。被災者の実情に即した支援が必要 である。線量基準のみで帰還が可能か、不可能かを機械的に線引きすることで問題は解決しない。

 戻るか戻らないかは、あくまでも住民の自由な選択によるもので、自主的に避難生活を続ける人と帰還する人との間に支援、補償の内容に差別があってはならない。

 さらに、汚染水の処理の見通しすらたたないことに現れているように、福島第一原発事故は未だ収束にはほど遠い状態である。そして、20ミリシーベ ルト以下とされる地域は、インフラが整備されていない状況である。事故も収束していない、インフラ整備もされていない原発近くに、住民の帰還を強制するこ とはあってはならない。

 原子力規制委員会は、現在検討中の「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(案)」を抜本的に見直すべきである。なお、国と東電は事故の一刻も早い収束に全力をあげ、強制避難・自主避難の区別なく、被害に遭った全ての住民に対して補償を行う必要がある。

(PDF版)

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