【見解2012.11.02】「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」 の施行にあたって、医療関連死は対象としない旨を明確にすることを求める
2012年11月2日
全日本民主医療機関連合会
会 長 藤末 衛
6月15日、議員立法で提出された「死因究明等の推進に関する法律」(死因究明法)および「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」(死因身元調査法)が成立した。2013年4月から死因・身元調査法が施行される。
日本は諸外国と比較して死体解剖の体制が脆弱で解剖率も低く、死因究明の点で多くの課題をかかえている。死因究明法は2年間の時限法でプログラム法とい えるもので「死因究明及び身元確認の実施に係る体制の充実強化が喫緊の課題となっていることに鑑み、死因究明等の推進に関する施策の在り方を横断的かつ包 括的に検討し、及びその実施を推進するため、基本理念・国等の責務・基本方針等を定める」としている。そして第16条に「医療の提供に関連して死亡した者 の死因究明のための制度については別途検討する」との1文が明記されている。その理由として「医療行為は一定の危険性を伴ううえに、死因究明に臨床、解剖 などに関する高度な専門性を必要とするからである」としている。このように、医療関連死や医療事故の究明は、専門性の高い中立的な組織でなされるべきであ り、犯罪捜査の見地で行うものではない。
一方、死因身元調査法は、犯罪死の見逃しを防ぐために、「警察官が取り扱う死体」について死体発見時の調査、検査や解剖などについて警察の権限を強化する内容である。
この2つの法律は一対のものとして議論されてきた経過がある。しかし死因身元調査法には医 療関連死に関する明確な記述はなく、医療関連死、あるいは経過の中で少しでも医療機関が関与した死亡について警察が「犯罪の可能性が完全に排除されない」 と判断すれば、変死体として捜査することが懸念される。
死因究明の推進は積極的に進めるべきである。そのためには法医、解剖医、病理医等の計画的な育成をはじめ、専門的な機関の整備、組織の独立性・中立性な ど、総合的な検討が必要である。そうした議論は全くこれからの段階で、警察にのみ広範囲に権限を与える死因身元調査法は、とりわけ医療関連死との関係で、 死因究明を進める制度設計を歪める恐れがあり、強い危惧をおぼえる。
実際に、この法律案が提出された時期に、われわれの団体に加盟しているある病院で、「犯罪 の可能性が残されている」からと、被疑者不詳のまま「殺人」の罪名で差押令状までとって捜査に入った例がある。病院で夜間の救急外来を受診し、帰宅した後 に死亡された例であったが、医療過誤でもなく、前後の経過から病院が犯罪に関与していないことが明らかな事例で、非常に不当な出来事であった。死因身元調 査法の運用によっては、警察が「犯罪の可能性が完全に排除されない」と判断すれば、このような異常な捜査も今後想定される。
死因身元調査法の施行にあたって、医療関連死は対象としない旨を明確にすることを求める。
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