【声明2012.06.01】意図的な生活保護締め付けキャンペーンに断固抗議し、権利としての生活保護制度の充実を求めます。
2012年6月1日
全日本民主医療機関連合会
会 長 藤末 衛
一部芸能人の事例を取り上げて、生活保護の締め付けが必要であるかのような報道が毎日のよ うにされています。小宮山洋子厚生労働大臣は、「生活保護を受ける人の親族に扶養が困難な理由を証明する義務を課す」いわば、親族による扶養を義務づける 法改定を検討するとしています。しかし、そもそも親族による扶養は、生活保護利用の要件とはなっていません。民法上でも扶養義務があるのは夫婦間と未成熟 の子に対する親のみで、それ以外に経済力のある親族がいても「自分の社会的地位に相応しい生活を成り立たせた上で、余裕があれば援助をする」とされていま す。小宮山氏の発言は法的に間違っており、現職の厚労相として極めて不適切です。即刻発言の撤回と国民への謝罪を求めるものです。
自民党は、生活保護基準の10%引き下げ、生活保護受給期間の「有期制」の導入をはじめと した生活保護政策を発表しています。厚労省は「不正受給」を口実に警察官OBを各福祉事務所に配置することを全国の自治体に指示しました。不正受給の割合 は、金額ベースの発生率では0.4%弱と言われています。悪意のある不正に対しては対処すべきですが、今回の一連の動きは、あたかも不正受給が蔓延してい るかのように描き出し、意図的に生活保護の締め付けを行うキャンペーンであることは明確です。
最近では、札幌市白石区の姉妹餓死事件などが大きく取り上げられていますが、行政に相談に 行っているにもかかわらず親族に養ってもらえと窓口で追い返し、生活保護の申請が出来ないまま餓死や孤独死・孤立死するケースが増えています。これ以上生 活保護の申請がしづらくなれば、このような悲劇が増えることは明らかです。こうした生活保護制度や受給者への締め付けをさらに強めることは許されるもので はありません。
非正規雇用・貧困が広がる中、生活保護受給者が209万人を超え過去最高を更新していま す。しかし、他国(イギリス9.3%、ドイツ9.7%)に比べると日本の利用率は1.6%程度と著しく低く、生活保護の対象となる人の2~3割程度しか受 給できていない現状こそ問題とすべきです。
「仕事がなく日雇い労働をしながら生活しており、体調が悪かったがお金がなく受診をぎりぎ りまで我慢。入院後にやっと生活保護を申請したが数ヶ月後に亡くなった」「独居で身寄りもなく、無年金で貯金を切り崩して生活。救急車で運ばれて入院。生 活保護申請したが、医療費のみの生活保護受給。入院4日後に亡くなった」私たち民医連の現場ではこのような事例が多数報告されています。生活保護がもっと 利用しやすい制度であれば助けられたと思われるケースがたくさんあります。
今必要なのは、憲法25条に保障された「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」に則って、国民の命を守るセーフティーネットとして生活保護制度を充実させていくことです。
全日本民医連は、今回の意図的な生活保護締め付けキャンペーンに断固抗議するとともに、憲法で保障された「いのちの平等」を貫き、いのちと健康を守る立場から生活保護制度の改悪を許さず、充実のため奮闘します。