【2011.09.16】福島第一原子力発電所事故の被災者に関する要請
2011年 9月16日
内閣総理大臣 野田佳彦 殿
全日本民主医療機関連合会
会 長 藤末 衛
東日本大震災・福島第一原発事故への救援、復興に向けた昼夜をわかたぬご奮闘に敬意を表します。しかし震災後早くも半年が過ぎましたが、被災した住民に明るい希望が見えているとはとうてい言えない状況です。
菅内閣から野田内閣に替わり、震災復興のスピードを上げるとの発言がありましたが、今こそ、政治の果たす役割は重要です。
私たち全日本民医連は、3月11日の福島第一原発の事故を受け、緊急被曝事故対策本部を立ち上げました。
当初から全国の加盟院所から駆け付けた医師たちを中心として福島県に入り30キロ圏内の自治体や医師会、拠点病院等を訪問し懇談を重ね、独自の医療支 援、生活支援だけでなく、日本医師会のJMATや、心のケアチームの派遣やコーディネートに参加してきました。
福島県内の全日本民医連加盟事業所からの支援医師とともに県内各地で地域住民向けの放射線被曝についての講演を続けてきました。
原発事故そのものの収束がない中で、30km圏外にもホットスポットが複雑に存在し、また 基準値超えの肉牛や野菜等についての報道が6ヶ月後の現在も続いていることは、環境汚染が複雑な経路で拡散したことを教えています。除染について国民的議 論が一定すすんでいますが、市街地、田畑等でも本格的除染はまだ始まっていません。他方全国の少なからずの自治体が避難者の受け入れに際し独自の施策を積 極的に始めていることも評価すべき出来事と言えます。
私たちは6ヶ月の経過を踏まえ、以下の事を要請するものです。迅速なご検討をお願い致します。
記
I.当面の緊急要請項目
1.土壌汚染に対する本格的な除染活動を開始すること
2.子どもを守ること。食品の安全を確保すること。農産物、畜産物、海産物の生産者を守り、食品の安全を確保すること
3.避難指示住民の避難所避難者・仮設住宅避難者に対する総合的施策を打ち出すこと
4.自主避難した住民に関係自治体と連携して生活支援、財政支援を行うこと。週末避難や「避難休暇制度」に対して補助金を出すなど財政的援助をすること。
5.医療・介護従事者の確保に特段の措置を行うこと。
<当面の緊急項目について>
1) 住民にとって土壌汚染の低減が引き続き最重要課題でありますが、未だ本格的な活動には 至っていません。国の責任で詳細な線量マップを引き続き作成するととともに、それに対応する除染活動を本格的に始動すべきです。また住民に見える形で除染 のロードマップを提示し、必要な予算措置、法的整備を整えるべきです。
2) 内部被曝について住民の不安が高まっていることを真摯にうけとめ、食の安全と食の安定 供給に万全の対応が求められています。食品の汚染防止は子供を放射線から守るうえでの中心的課題です。生産と流通過程のそれぞれにおいてきめ細かな調査計 測、迅速な情報公開、行政対応が求められます。国は各省庁の緊密な連携のもと、汚染防止に向けた十分な体制整備がもとめられます。また生産者の営農を守る ことなくして継続的な「食品の安全」は果たせません。すでに苦境に立たされてきた生産者に対する特段の支援が求められています。
3) 国によって避難を指示された住民の置かれた状況は多様です。現在も体育館など雛難所生 活をつづけている住民は健康的な食事の確保ができず、プライバシーの確保が出来ない中で極めて困難な生活を強いられています。既存のアパート群や新たに建 てられた仮設住宅への集団入所という形を取っている住民は、いずれの場合も、本来の自生的な地域コミュニティはありません。また働くことを奪われた状況で 移住された方々です。中高年となった避難者においては一日中、独居を強いられた状況と言えます。あらたな人災を未然防止するためにも、これまでの経験を生 かした地域コミュニティづくり、仕事づくり、生きがいづくり、健康づくりに国が率先して関係自治体に働きかけ、必要な財政支援も行うべきです。
4)自主避難を選択した住民についても関係自治体と連携し、きめこまかな相談体制を構築し、 可能な生活支援を行うべきです。週末避難を希望する住民に対して財政的支援をすること。また、有給による避難休暇制度を創設し、補助金を」出すことなど、 あらゆる形態の避難に具体的な生活上、財政上の支援が行うべきです。
5) 原発事故により福島県の産業、教育、医療・介護は著しい後退を余儀なくされました。事 故の終息が見えないという中で、福島県の産業、教育、医療・介護の再建は短期、及び中長期の相互に関連したプランが必要となっています。生活基盤の崩壊の もとで教育も医療・介護も成立しません。福島県における再生プランは、被害の特質から国の重要施策として位置づけられるべきものです。国民生活の再生と福 島県の復興は不可分の関係にあります。福島県復興とは逆の方向となる弱者切り捨て、格差社会の推進、増税への道は、断固として避けなければなりません。
II.個別項目
1、 情報公開を徹底すること。今まで、国や自治体が実施した調査、並びに大学等研究機関が調査した情報を開示すること。
(1) 核種ごとの積算線量を、地域ごとに公開すること。
(2) 積算線量の測定地点を、地域くまなく増やし、自治体と住民の力を借りて詳細な汚染
マップを作製し、ホットスポットの詳細が逐次閲覧できるようにすること。
(3) 地元農産物、海産物、飲料水の放射線量を公開すること。
2、 住民の避難に当たっては、強制避難だけでなく、汚染マップに従い避難している住民を含め、避難費用だけでなく安心した暮らしが出来るよう財政的な支援を国が保障すること。
3、 子どもたちのいのちと健康を守る施策を迅速に行うこと。
(1)空間線量率計(サーべメーター)、積算線量計(ポケット線量計)等を、各学校、幼稚
園、保育園、町内会等に配置し、測定方法等の住民学習会を開催すること。
(2)内部被ばく線量を測定するホールボディカウンター、農産物・海産物等の放射線量を
測定する機器を整備し、食物の安心、安全を確保すること。
(3)福島県内でホットスポットから外れた地域に、汚染地域にある小中学校の分校や体育館、プール、図書館等の教育文化体育施設、研修センター、保養セン ターをつくり、一時的にでも被曝から離れて生活するなど心身のリフレッシュを支援すること。
4、 高齢者、障害者に対する施設入所者、在宅介護者、仮設住宅入居高齢者には、きめの細かい施策を講じること。
(1) 施設入所者が、震災のため避難した環境になじめず、精神的ストレスが引き金となって衰弱し死去した例が多く報じられている。こうした二次人災の防止のために必要な体制を充実すること。
(2)介護施設職員の増員、訪問系看護、介護施設の充実を図り、高齢者、障害者が安心し
て地域で暮らせるよう予算措置を行うこと。
5、 過剰汚染地域の土壌の除染など出来る限りの対策を早急に行うこと。
(1)放射能除染のために、住民や全国組織の推薦する専門家を参加させた会議を早急に開
催し、公開すること。
(2)汚染された土壌、瓦礫の処理に関する指針を早く打ち出し、新たな法律をつくること。
6、 原発労働者に対して、いのちを守る施策を最優先で講じること。
(1)すべての作業員の内部被曝線量の測定を厳格に行い、劣悪な宿泊施設を含めた生活環境を改善し、作業員の命と健康を守ることに責任を持ってあらゆる努力を尽くすこと。
(2)事故収束のために働いている正社員、下請け労働者、派遣労働者などすべての作業員
に対し、分けへだてなく安全管理を行うよう、国として東京電力に対し責任を持って
指導すること。
(3)派遣労働者が「今後、健康被害が起きても事業者の責任を問わない」とする「被曝承
諾書」にサインを強要されている実態が明らかになった事は、企業の社会的責任から
も許し難いことである。早急に改善をさせること。
7、 被災住民の健康管理に責任を持つこと。
(1)福島県内だけでなく、他県に避難した元住民も含め、全県民に対し早期に健康調査に
取り組むこと。
(2)住民一人一人に健康手帳を配布し、受診率を高めるための諸方策を実施し、経年的な
健康診断を国の負担で実施すること。
(3)健康管理調査の経年的結果については、住民が自分の情報にアクセスできるようにし、定期的に速やかに公開し、広く住民、医師会、関係諸団体の意見や要望を受ける体制をつくること
8、 国は、被災した自治体、被災した医療機関や介護事業所の再建のための財政的支援を
行い、地域の復興に全力を上げること。
(1)被災した自治体の再建に、国として、財政支援と人的支援を行い、スムーズな住民へ
のサービスを行えるようにすること。
(2)被災者の雇用の受け皿として自治体職員の確保を支援すること。
(3)地域の医療機関、介護事業所は住民の安心の拠り所です。事業所の再建のための、き
め細かい支援を行うこと。医療従事者確保に特段の施策を行うこと。
なお、全日本民医連では、引き続き支援活動に取り組んでまいります。国からのご要望やご要請がありましたら積極的に応えていく所存です。
以上