【声明2010.12.17】「特定看護師(仮称)」制度の創設に反対する
2010年12月17日
全日本民主医療機関連合会第11回理事会
2010年3月19日、厚生労働省チーム医療推進に関する検討会は、医師の包括的指示にも とづいた一定の範囲内の特定医行為を実施できる新資格「特定看護師(仮称)」の導入が盛り込まれた報告書を発表した。その後、議論は2010年5月に発足 した「チーム医療推進会議」、「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ」などに引きつがれ、「看護業務実態調査」が実施された。同ワーキ ンググループの議論では、調査結果について「看護師の業務範囲の拡大に関心のある医師・看護師が回答している」「回答者によってイメージする行為が異なっ ていた可能性がある」など正確性や客観性に疑問を呈する意見も強く出されたが、現在、この調査結果をふまえて特定看護師の養成・試行・モデル事業の募集等 が、急ピッチで検討されている。
議論の発端は、現場における深刻な医師不足問題をいくらかでも解消する一策として「チーム医療の推進」が提起されたことにあったが、看護師の業務拡大、 さらに、現在の看護師の上に固定した新資格を創設するという流れに変わっている。厚生労働省は「厚生労働分野における新成長戦略について」で、「地域にお ける医師の確保」は「チーム医療の推進等により、OECD平均並みを目指して実働医師数を増加」とし、その「チーム医療」については「『チーム医療の推進 に関する検討会』の報告書を受け、特定看護師(仮称)制度など、医療関係職種間の役割分担を推進」するとしている。
私たちは「特定看護師(仮称)」制度の創設をめぐる議論について3つの問題を指摘する。
ひとつは、これらの議論は、チーム医療推進の名のもとに、本来医師が行わねばならない医行為を「特定看護師(仮称)」に行わせることで、医師不足を安易 に乗り切ろうとするものであり、医師不足問題の根本解決にならないばかりか、閣議決定した医師増員の方針をもあいまいにすることが懸念される。
二つ目には、現在、医療現場では、医師の指示のもとに、保助看法上の「診療の補助」の範疇で少なくない医行為が看護業務として実施されている。どこまで を「診療の補助」とするのか、看護師が実施可能な範囲を明らかにし、法的問題、医療の安全性、信頼性が充分担保されるよう、医療関係者の議論を汲み尽くす ことこそ、国に求められる点である。
三つ目に、「特定看護師(仮称)」は、看護師のキャリアアップ(認定看護師、専門看護師など)の延長線上にあるものではなく、同じ看護師資格を持ちなが ら、これまでの看護師とはまったく異なる職種である。新たな資格の創設により、看護職の間での階層化、複雑化を招き、臨床現場を混乱させるばかりか看護教 育にも大きな影響を与えかねないことを危惧する。
医療現場では、医師だけではなく看護師不足も深刻である。
これまで、看護師は患者を生活行動面から援助する、「療養上の世話」を看護の専門的役割として位置づけ、深め、実践してきた。この役割に看護力をさくこ とができ、患者の「病気や障害を回復し健康を取り戻したい」という願いに応える実践ができるよう看護師の増員が求められている。
全日本民医連は、現場における医師、看護師の疲弊を少しでも早く解消し、国民の求める安全、安心の医療を実現するために以下の点を表明する。
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「特定看護師(仮称)」という、新たな資格を創設することに反対する。
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医師、看護師の増員、労働条件の改善を行い、患者、国民の権利である憲法25条に基づいた社会保障の充実に向けた政策転換を強く求める。
以上