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声明・見解

声明・見解

【2010.03.12】激変緩和措置の撤廃に反対し、2014年の省令見直しまでの継続を望みます

2010年3月12日
全日本民主医療機関連合会
会長 藤末衛

 2004年から開始された新医師臨床研修制度の理念は国民の願いに応えるものであり、私た ちは、地域医療を担う第一線の医療機関こそが、その基本理念であるプライマリケアの基本的な診療能力を身につけるためにふさわしい場と考え、全国58病院 が基幹型臨床研修病院となって、臨床研修を行うと共に、その質の向上と充実に取り組んできました。
 今回、「基幹型臨床研修病院が新しい基準を満たすための猶予期間として24年度から研修を始める研修医の募集まで継続した後に廃止する」「過去3年間に 研修医の受け入れ実績のない基幹型臨床研修病院は激変緩和措置を適応しない」とされたことに対して、真摯に臨床研修に取り組む中小病院を一律に基幹型臨床 研修病院から排除することにつながるため、これに反対し、2014年まで激変緩和措置を継続していただくよう要望します。

1、年間入院患者数3000人についてその根拠を示さず、基幹型研修病院の質の評価をしないまま指定取り消しを行うことに反対します。
 年間入院患者数3000人について、研修の質の担保として設定されたものと理解しますが、その根拠は明らかにされていません。「省令見直しについての意 見募集の結果について(平成21年4月28日付厚生労働省医政局医事課医師臨床研修推進室)」をみても、年間入院患者数3000人については、多くの反対 意見や疑問が寄せられていることから、客観的な基準として妥当性がないと言わざるをえません。
 研修医1人あたりの年間入院患者数に関しては、REIS(臨床研修プログラム検索サイト)の資料によると、研修医の多い大学病院が圧倒的に少ないことが 明らかです。入院数を研修の質の担保にするのであれば、大病院こそ問題が大きく、矛盾が生じると考えます。また、大学病院など専門分化した大病院では研修 理念であるプライマリケアの研修ができないことは大学所属の医道審議会医師分科会医師臨床研修部会の委員自身も認めていることです。
 研修の質は、2年間でどのような医師に成長したかで評価すべきであり、初期研修医の到達目標の達成度や満足度は重要な指標であると考えます。そして、いずれも中小病院において高いことがこの間報告されています。
 省令に述べられている基幹型臨床研修病院の指定基準に基づいた内容を評価基準とし、総合的で客観的な評価を国が行った上で、3000人要件に妥当性があるかをまず検証すべきです。
 NPO法人卒後臨床研修評価機構は、現在、上記のような第三者評価を実施している唯一の機関です。昨年の臨床研修研究会で「民間のやっていること」と厚 労省からの発言がありましたが、評価は本来制度をつくった国が行うべきものです。にもかかわらず、国の責任を棚上げする一方で、真摯に臨床研修の質の向上 に取り組み、機構から認定を得た病院が、3000人要件を満たさないことを根拠に切り捨てられることは許されるべきことではありません。
 厚生労働省科学研究で行っている臨床研修制度の評価に関する調査結果も出ていない中、なんらの客観的な評価もせず、明確な根拠を明らかに示すこともない まま、指定基準の激変緩和措置を廃止することについて納得が得られるものではありません。

2、地域の実情を無視したまま、基幹型臨床研修病院指定取り消しを行うことに反対します。
 初期研修医の大都市集中と地方離れは国自身も認めていることですが、取り消し対象となる病院の多くは地方に存在し、ほとんどが救急医療に取り組み、7診 療科必修を継続するなどプライマリケアの習得には充分な機能を有し、地域医療を支える上でも大きな役割を果たしています。
 昨年の省令見直しの説明会では、「指定要件を満たせるよう努力していただく」とし、各病院が研修体制の一層の充実に努力している最中に、このような短期 間のうちに、不十分な議論のまま措置の打ち切りを決定し、これら基幹型臨床研修病院の指定を取り消すことは、地域医療を担う医師を地域で養成できなくなる ばかりでなく、地域医療崩壊の加速化を招くものと懸念されます。
 また、大学関係者を中心にコムソシアムの形成と基幹型臨床研修病院の協力型病院化について主張がされていますが、現基幹型臨床研修病院が大学病院との連 携を申し入れたところ、断られた例があります。「コムソシアムの形成」が進んでいない中、指定取り消しのみを推し進めることは、地方や地域の病院群の臨床 研修機能を崩壊させるものであり、現状では性急な結論と言わざるを得ません。
 関連して、この間、地域の実情について都道府県の意見を聞くとしています。しかし、都道府県の対応は、「臨床研修協議会」などを開催し協議しているところから、一切関与しないとしているところまで様々です。
 激変緩和措置は「地域医療に与える影響を懸念する指摘」から「地域の実情や研修医の受け入れ実績等を充分考慮して指定の取り消しを行うか否かを決めるも のである」と定めています。今回、国が地域の実情を把握するよう努めるどころかこれを無視して、廃止時期のみを議論し決定したことは、地域医療の再生を願 う国民や医療従事者に大きな打撃を与えるものと言わざるをえません。

3、医学部定員増の方針の中、今後を見通しての方針か疑念を抱かざるをえません。
 政府は地域医療再生のために医学部定員1.5倍化の方針を掲げています。この3年間で1221人の定員増が行われ、更には医学部新設の動きが報じられて います。一方、省令見直しによる定員数削減の根拠は、募集定員が研修医数の1.5倍であることを理由にしたと報じられています。今回、臨床研修病院を削減 することは、医学部定員増の政府方針と明らかに矛盾するものです。
 このような事態は、真面目に将来を考え、臨床研修に期待する医学生に、不安と混乱をもたらし、研修先選択の自由を狭める結果になることは明らかです。今 まさに求められていることは、臨床研修病院の数を増やし、その質の向上を図ることです。

 私たちは、上記のような理由から、国民、医療従事者、医学生の願いに逆行する今回の決定の撤回を求めます。そして、制度の理念と目標に照らして臨床研修制度をさらに充実させることを要望します。

(PDF版)