【声明2009.02.16】臨床研修制度のあり方等に関する検討会「まとめの骨子(たたき台)」についての見解
2009年2月16日
全日本民主医療機関連合会
会長 鈴木篤
2月2日、厚生労働省と文部科学省が合同で設置した「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」から「まとめの骨子(たたき台)」が出され、2月中に最終案をとりまとめ、2010年度から実施をめざすとしている。
新医師臨床研修制度が導入されてからまだ約5年しか経過しておらず、臨床研修を受けた当事者の意見も十分に反映しているとは思われず、極めて性急な感が否めない。
今回の「まとめの骨子(たたき台)」は、多くの病院関係団体やメディアからも“大学寄りの答申”といわれているように、今日の医師不足の要因を新医師臨 床研修制度に求め、当面する「地域の医師不足」に対応するため、大学の医師派遣機能を回復させることに重点を置いた内容となっている。
そもそも「地域の医師不足」も、「大学の医師不足」も新医師臨床研修制度導入以前から深刻であった。その最大の要因はOECD30カ国中27位の医師数 (人口あたり)であり、これまでの閣議決定を見直し、今年度より医学部定員増員政策に転換を図ったとはいえ、絶対的な不足にあることは厳然たる事実であ る。
かつての研修制度は研修医の労働条件、賃金条件をほとんど無視し、労働力のように使ってきた歴史がある。また、総合的診療能力に欠けるといった意見が多 かったことを踏まえ、長年の運動を反映して新しい制度が誕生した経過がある。今回の見直し案では大学に研修医を集めやすいように専門医を選択するキャリア コースを創出するという流れが見られる。方針が恣意的なので課題の抽出からすべて根拠に乏しい浅薄な内容である。
新医師臨床研修制度に対する肯定的評価は少なくない。本道であるべきこの制度が国民医療の向上に応える制度としてどうなのか、という視点から、広く意見を求めるべきものである。
大学の医師不足は、大学院大学や、新医師臨床研修制度と同時にスタートした国立大学法人化等の影響の下で、勤務している医師も限界、研修医教育も充実で きない、故に研修医も選択しない、という悪循環に陥っていることによると思われる。この悪循環を断ち切ることなしに、現時点で大変な状態の大学に研修医を 入れたからといって医師派遣機能が回復する保証はどこにもない。
また、ローテーション方式の導入が研修医の意欲を損ねているとの意見が「まとめの骨子(たたき台)」に出されている。モチベーションが低下してしまうと いうのは、ローテーション方式そのものの問題ではなく、その診療科にその期間全て丸投げして、細切れになってしまっていることに問題があるのではないか。
「研修病院の病床規模が大きい=研修の質がいい」というのも、論拠および検証のないものである。習得した診療技術、基本的医学知識、問題解決能力に、問 題なく到達している中小病院は数多く存在する。むしろ患者、家族の話をしっかり聞き、全身をきちんとただしく診察する、といった基本的なことが大規模病院 でおろそかにされている傾向にあるのではないのだろうか。
更に、患者の立場に立って地域医療に従事しようという意識の醸成についても、中小病院での優位性が伺える。いずれにしても根拠のない話を課題として設定することは間違いを生む原因となる。
医師派遣機能の再構築というのであれば、行なうべきは、大学での医師の労働条件の改善と教育研修内容の改善、さらには研修修了後の後期研修医が赴任しや すい環境整備のための前提条件となる、大学予算の大幅な拡充である。医療団体や学会と大学関係者が手を結び、日本の医療界あげて取り組むべき課題ではない か。
全日本民医連は、こうした見地から性急な見直しに反対を表明し、広く意見を聞き、検証を続けより良い制度への拡充を求めると同時に、社会保障費と大学予算の大幅な増額に向けて、多くの医療関係者と共同した取り組みを強めるものである。
以上
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