【声明2008.07.04】微量採血用穿刺器具の取り扱いに関する厚労省調査および今後の対応についての要望
厚生労働大臣
舛添 要一 殿
2008年7月4日
全日本民主医療機関連合会
会長 鈴木 篤
微量採血用穿刺器具の取り扱いに関する厚労省調査および今後の対応についての要望
貴省は、微量採血用穿刺器具(針の周辺がディスポーザブルタイプでないもの)の取り扱いについて、全国的な調査を実施し、公表を予定しています。いくつかの県ではその調査結果を新聞報道などで公表しています。
私たち全日本民医連は今回の調査にあたり、(1)使用人数、使用状況など事実を正確に把握し報告すること、(2)万一、不適切な使用(①針自体を交換せ ずに複数人に使用していた、②針は交換していたが針の周辺部がデスポタイプでない器具を複数人に使用していた)が明らかになった場合には、可能な限り患者 の特定に努めるとともに、院内掲示などで患者・住民に周知すること、また、必要な方にはウイルス検査を呼びかけること、を基本に加盟事業所に対して呼びか けています。今後、医療機器の添付文書の遵守、行政からの通知内容の徹底、医療機器の目的外使用を避けるなど、医療機関として再発防止を検討する必要があ ることは当然です。
しかし、今回の件に関しては、行政とメーカーの責任も大きいといわなければなりません。また、マスコミ報道のあり方にも大きな問題があると考えます。島 根県の1診療所の事件に端を発して、「穿刺針自体の交換」と「周辺部分の交換」の明確な区別もなく、「使い回し」という表現で国民の不安をあおり、あたか も多くの医療機関がずさんな対応をしていたかのように連日報道されています。貴省におかれましては、報道関係者への正確な情報提供と説明を行っていただき ますよう、お願いします。
以下、今回の微量採血用穿刺器具の取り扱い調査と今後の対応について5点要望します。
1.2006年3月3日付厚労省通知(薬食安発第0303001号)の科学的根拠を示してください
これまで日本国内では、「針の周辺部分を交換しなかったことによる感染例の報告はない」と伺っており、穿刺針自体を交換している場合には感染の危険性は極めて低いと考えられます。
2006年3月に出された通知は、英国の介護施設での感染例をもとに注意喚起しているものと考えますが、国内では感染例の報告がないことをふまえ、あら ためて通知の科学的根拠を示して下さい。また、ここまで社会問題となった背景要因について、貴省のお考えを明らかにして下さい。
2.調査結果の公表にあたって、事実が正確に伝わるよう留意して下さい
調査結果で「不適切使用」があったとしている内容のほとんどが、「穿刺針自体は交換しており、キャップなど周辺部分を交換せずに複数人に使用した」とい うものです。公表にあたっては、「穿刺針自体の交換」と「周辺部分の交換」の違いと、穿刺針自体を交換していた場合の感染の危険性について明確にし、事実 が正確に伝わるようにして下さい。
また、器具の製造販売時点にさかのぼって調査がおこなわれているため、2006年の通知を受けて改善した医療機関であっても「不適切使用」に該当する場 合があり、一律に扱われることのないよう、十分留意して下さい。
3.メーカーおよび販売業者に対する監督責任を果たして下さい
販売時に医療機関に対して「使用方法や禁忌に関する十分な説明がなかった」、地域によっては「『複数使用不可』のシールが確実に配布されなかった」、な どが明らかになっています。また、自己血糖測定という一つの目的に対して、少しずつ使用方法の異なる数十種類もの製品が存在すること自体、安全性の点から 見て問題があると言わざるをえません。
さらに、健康チェック(血液サラサラチェック)に使用していたケースが多数報告されていますが、「血液サラサラチェック」専用に販売されているセットの 中に、当初「複数使用不可」の器具が含まれていたことが判明しました。販売業者によると、2006年の厚労省通知以後、セットに組み込む器具は「複数使用 可」の製品に切り替えたとのことですが、その徹底は極めて不十分であったと言わざるをえません。そもそも、目的外使用に当たることを販売業者が堂々と薦め ていたということから、メーカーおよび販売業者の責任は免れないと考えます。
ディスポの器具を販売しながら、キャップの交換が必要な器具を併売していたことも混乱の要因です。2006年7月に販売が開始された器具では、メーカー からキャップ提供サービスもあったようです。こうした器具を厚労省も認可していることは、今回の事態に対する行政側の不備を指摘せざるをえません。メー カー等に対する監督責任を果たしていただくことを強く要望します。
4.厚労省通知が徹底されるよう、情報伝達の在り方を検討・改善してください
県によっては、通知そのものが各医療機関に知らされていなかった場合もあることが明らかになっています。厚労省通知は、医療機関にとって重要な意味を 持っていますが、公的医療機関ですら理解・徹底されていない状況などをみると、どこまで現場に徹底されていたのか疑問です。必要な情報が各医療機関・医療 関係者に徹底されるよう、自治体・医師会など医療関連団体との間で情報伝達の在り方について検討・改善を求めます。
5.住民への正確な情報提供・説明と、自治体のウイルス感染検査の実施・拡充をしてください
今後、自治体・保健所などから正確な情報提供・説明を行うとともに、自治体の責任でウイルス感染検査の実施・拡充をして下さい。
器具の製造時点にさかのぼると、感染の可能性が否定できない人は相当数にのぼります。使用状況も、診療の現場から健康チェックや健康教育の活動まで多岐 にわたっており、該当者を特定できる状況ではありません。検査希望者への対応、検査の実施を個々の医療機関の責任だけに帰することは適切ではありません。 既存の肝炎ウイルス検査を拡充するなど、国全体としてのウイルス感染対策が重要だと考えます。
また、検査によってウイルス感染陽性者が認められたとき、その真の感染原因を改めて調査・検討しなければなりません。その場合、貴省に相談窓口を設置す る、あるいは保健所や公的な専門機関への紹介(照会)などが可能となるようにしかるべき対策を求めます。