【声明2007.07.23】特定健康診査等の実施に関する基準(仮称)の規定に基づき厚生労働大臣が定める者(案)等について
2007年7月23日
全日本民主医療機関連合会
会長 肥田 泰
示された案を撤回し、以下の内容で見直すこと
1.憲法25条にもとづいたすべての国民の健康を守る制度とすること。
理由は以下の通りである。
特定健診・保健指導制度は、国の医療給付費削減(医療保険の医療費削減)のためのもので、国民の健康をまもり増進させることを直接意図したものではない。
さらに保険者が実施主体となることで、被扶養者が健診を受診できるかどうかが不明確であること、保険証が交付されていない人などが排除されようとしてい る。39歳以下の健診があいまいであること、自治体によっては75歳以上の高齢者が対象からはずされる可能性があり、実施した場合の負担分が保険料の増額 になる可能性をもっていること、などがある。健康診断や保健指導は、国、自治体や事業主の事業として、国民の「公衆衛生の向上および増進」を国の責務とす る憲法25条第2項にもとづいた制度とすることが必要である。
2.生活習慣のみを問題とせず、労働環境などの外部環境なども視野に入れた健診・指導とすること。
理由は以下の通りである。
「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準(仮称)の規定に基づき厚生労働大臣が定める特定保健指導の実施方法」(案)の「第一 動機付け支援 の実施方法」及び「第二 積極的支援の実施方法」のそれぞれの文中の「二 支援内容及び支援形態」については、従来の健康状態全般を対象とした健診からメ タボリック症候群(内臓脂肪症候群)を対象とした健診内容へと変更されことが明らかにされている。健診そのものが食事や運動、喫煙など「生活習慣」を改善 するための保健指導の対象者をセレクトするための健診となる。しかし疾病の発生には、生活習慣要因のみならず、遺伝要因、外部環境要因が考えられ、栄養や 貧困、労働環境の問題をはじめ、個人の努力を超えた様々な要因が複雑に関与している。長時間労働、過重労働や職業性のストレスが、高血圧などの疾病や過労 死、過労自殺の要因となっていることを指摘しないわけにはいかない。
職場では、事業主の労働者の健康を守る義務を明確にしている労働安全衛法にもとづく健診が、自己責任原理を明確にしたこの制度による健診と重なり合うこ とになるが、長時間労働、過重労働、有害な作業、有害な化学物質などの管理が改善の対象とならず、個人責任が強調される「生活習慣」のみが改善の対象とな るような「指導」であってはならない。実際、厚労省のもとに組織した専門家による「労働安全衛生法における定期健康診断等に関する検討会」報告書でも「特 定健康診断と本来趣旨・目的が異なるので将来連動させるべきではない」との意見が付記され、生活習慣病対策だけでは労働者の健康は守れないことを銘記して いる。
3.不健康な人の社会的な排除にならない制度とすること
理由は以下の通りである。
各保険者の特定健診の受診率、特定保健指導の実施率、メタボリック症候群の減少率により、後期高齢者保険の拠出金をプラスマイナス10%の範囲で加算・ 減算することになるが、保険者は拠出金を減らすため健診の受診率を上げ保健指導を強化せざるを得なくなる。この結果、健康人と不健康人に国民は分断され、 しいては不健康な人の社会的排除につながることを危惧せざるを得ない。経団連などは健診を受診しない人へのデイスインセンティブ(罰則)を課すことを主張 し、世論づくりの一翼を担っている。
4.国民の健康を守る上での国、自治体の責任を明らかにし、市場原理にまかせないようにすること。
保険者はこの事業の多くを外部委託することになるが、フィットネスなどの健康産業が特定健診、保健指導に参入する動きが広がっている。介護保険における コムスンの不祥事を見れば明らかなように、市場競争にまかせては国民の健康は守れない。国、自治体の公的責任を明らかにした制度とすること。
5.現在の健診で認められている医師の裁量権を認め、必要な精密検査が行われるようにすること
〇特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準(仮称)の規定に基づき厚生労働大臣が定める項目(案)
(内容)
2 心電図検査および眼底検査
「次の一から四までに掲げる基準に該当した者」を「次の一から四までに掲げる基準のいずれかに該当した者および医師が必要性を認めた者」に変更すること。
理由:いずれの基準に該当する者は循環器系のリスクを有するので、心電図検査および眼底検査を実施する必要があり、また、問診などにより医師が必要と判 断した者については心電図検査・眼底検査を実施できるようにする。
「3 血清クレアチニン検査、尿酸」を医師が必要と認めたときに行う検査として追加する
理由:現行の自治体健診にて実施されている。
「4 胸部レントゲン撮影検査」を医師が必要と認めたときに行う検査として追加する。
理由:現在自治体が実施する健康診断において胸部レントゲン撮影検査が実施されており、国民の公衆衛生の向上のためにも、現在の健康診査の内容は今後も 維持される必要がある。また、労働安全衛生法に基づく事業者が実施する健康診査との整合性を図る意味でも実施されるべきと考える。
〇特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準(仮称)の規定に基づき厚生労働大臣が定める特定保健指導の実施方法(案)
(内容)
第二 積極的支援の実施方法
二 支援内容および支援形態
12 ウ 「グループ支援にあっては、10分間の支援を一単位とし、一単位あたり10ポイントとすること」を「グループ支援にあっては、10分間の支援 を一単位とし、一単位あたり20ポイントとすること」に修正すること。
理由:グループ支援は参加者の交流を行うことにより個別支援に劣らず有効であり、個別支援より低いポイントを設定する根拠はない。
〇特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準(仮称)の規定に基づき厚生労働大臣が定める者(案)
(内容)
第一 特定健康診査の外部委託に関する基準
四 健診結果等の情報の取り扱いに関する基準
1 特定健康診査に関する電磁的記録を作成し、保険者に対して当該電磁的記録を安全かつ速やかに提出すること
以上の「電磁的記録」を「電磁的記録または紙による記録」にあらためること
理由:現在圧倒的多くの医療機関では紙により診療記録が保存されている。こうした実情を考慮する必要がある。
第二 特定保健指導の外部委託に関する基準
四 特定保健指導の記録等の情報の取り扱いに関する基準
1 特定保健指導に関する電磁的記録を作成し、保険者に対して当該電磁的記録を安全かつ速やかに提出すること
以上の「電磁的記録」を「電磁的記録または紙による記録」にあらためること
理由:現在圧倒的多くの医療機関では紙により診療記録が保存されている。こうした実情を考慮する必要がある。