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声明・見解

声明・見解

【声明2007.04.20】「高齢者は長生きするなというのか 自・公政権!」 後期高齢者医療制度創設や療養病床の削減中止・撤回を強く要求し、国民的大運動を呼びかける

~医療費抑制政策を抜本的に改め、医療、社会保障の拡充を~

2007年4月20日
第37期第15回全日本民医連理事会

 昨年(2006年)夏、国会で自民党、公明党によって強行可決された医療改革関連法は、 2006年10月から、現役並の所得がある高齢者の3割負担や療養病床の食費・居住費の保険はずしなどの自己負担化にはじまり、2008年4月からは後期 高齢者医療制度の実施や70歳から74歳までの高齢者の自己負担2割化、療養病床の削減計画の具体化、自治体健診の民間委託化など、様々な課題が本格的に 実施されようとしている。その内容は、約400の政省令に基づいて実施されるが、まさに「高齢者は長生きするな!」といわんばかりの耐え難い高負担となっ ている。
 全日本民医連は、医療改革関連法の実施中止、とりわけ後期高齢者医療制度や療養病床廃止の中止・撤回を強く要求する。そして、長年の医療費抑制政策の抜本的な転換を求める。
 そのために、国際的に見ても極めて低水準にある医療費、社会保障費への支出、中でも公的な支出を行うことを強く要求する(資料参照)。
 そうしない限り、日本の医療は確実に崩壊する。崩壊してからでは遅い。
 高齢者、国民の権利、日本の医療制度を守り、前進させるために、国民的大運動を呼びかけるものである。

seimei20070420

診療報酬引き下げなどですでに始まっている医療改悪と医療崩壊
 政府・与党は、昨年4月医療制度改革関連法の先取りともいうべき診療報酬引き下げ、介護報酬引き下げを行った。医科・歯科診療報酬で▲3.16%、介護 報酬で▲2.4%という史上最大の引き下げであり、医療機関の経営を極めて困難なものにした。今、全国の病院の半数以上が赤字経営に陥っている。自治体病 院では7割を超える赤字である。さらに、リハビリ医療が180日を限度に打ち切られ、療養病床が成り立たないような診療報酬が設定され、軽度介護者の電動 ベッド取り上げる(27万台)など、医療改革関連法の先取りともいえる「改悪」が連続的に行われてきた。 
 この結果、すでに全国各地で医療機関の閉鎖、廃止、診療科の廃止が相次ぎ、「介護難民」、「医療難民」、「出産難民」、「リハビリ難民」などといわれる ような状況が急速にひろがり、受け入れ先がないために妊婦が死亡するなどといった悲惨な事例も各地で生まれている。この数年間にお産ができる医療施設は半 減し、小児科も10年で2割減少した。急速に医療供給体制が崩壊しつつある。
 このようなことは、かつて経験したことのない事態である。これは、長年の政府・与党、中でも小泉・安倍政権の「医療・社会保障行構造改革」によって引き起こされたものである。
 しかし、この「医療崩壊」現象は、「序章」ともいうべきもので、2008年以降、本格実施されることにより、さらに取り返しのつかない事態が予想される。

史上最悪、世界にも類を見ない最悪の後期高齢者医療制度!
 2008年4月から実施の予定で、後期高齢者医療制度創設が準備されている。75歳以上の高齢者すべてを1つの医療保険にしようというもので、約 1300万人が対象となる。現在、子どもの扶養家族に入っている200万人も新たに保険料を徴収されることになる。また、夫が75歳以上で妻が75歳未満 の場合は夫の後期高齢者医療制度移行に伴い妻があらたに国民健康保険料を納めることになる。制度開始初年度である2008年度の平均保険料は61,000 円が想定され、しかも、月15,000円以上の年金者には、介護保険料とともに後期高齢者医療保険料も年金より天引きとなり、介護保険料と合わせて月1万 円以上の保険料が徴収されようとしている。窓口自己負担金も1割徴収される。保険料を滞納すれば国保と同様に、「資格証明書」が発行され、窓口では全額負 担となる。
 さらに、今後、現役世代の減少が見込まれるために保険料の引き上げが予定され、2015年には平均85,000円と推計されている。後期高齢者医療制度 における診療報酬は、一般とは区別され、「定額制」や「人頭制」が検討されている。
 病気が多いハイリスクな高齢者だけを集めた制度設計は、今後医療費が上がれば、保険料引き上げに連動し、保険料を上げないとすると報酬を引き下げるとい う「悪夢のサイクル」となる。透析患者でつくる全国腎臓病患者協議会はこうした制度によって高齢者の透析医療が切り捨てられるのではと危機感を強めている のは、当然のことである。
 病気を年齢で区別し、しかも報酬でも差別するという、これほど残酷な制度は、歴史的にも世界中でも類を見ない最悪の制度である。
 この後期高齢者医療制度に対し、経済同友会は、現役世代と同じ3割負担を要求しているが、高齢者のおかれている状況に全く無理解か、人権感覚が極めて低 い水準にあると指摘せざるを得ない。経済は、人間の生きる権利を守るためにこそある。それが日本国憲法の基本精神である。
 
全く国民に知らされず、安倍首相のもとですすむ療養病床削減の準備
 療養病床削減も、2012年までに、38万床から15万床へと厚生労働省の指示にもとづいて各都道府県で、数値目標を設定し、削減にむけて具体的な準備 がすすめられている。
 例えば、高知県では、現在の8千床を3千床へと5千床もの削減が迫られている。施設や在宅の受け皿も整っていない、貧弱な条件のもとで、どうして老後の 「安心」を確保せよというのか。全く乱暴な計画である。しかも、これほどひどい制度であるにもかかわらず、ほとんどの国民には知らされていない。実施前1 年を切った現時点でも、なんら具体的な情報が知らされてないことは、大問題であり、大混乱が予測される。
 
全世帯の4割が生活保護基準以下の高齢者の生活~全日本民医連高齢者実態調査から~
 全日本民医連は、昨年秋、全国で2万人の高齢者を対象に生活・医療・介護の実態調査を行った。調査では、月収10万円未満の人が全体の4割を占め、特に 女性では過半数を超えた。これは生活保護基準と同じか、それ以下の生活を余儀なくされていることを意味する。回答者の3人に1人が「生活が苦しい」と答 え、6人に1人が、生活費が足りず、食費・被服費などを切りつめ、それでも足りずなけなしの「蓄え」を取り崩している人が1割を超えている。さらに、所得 が低い人ほど、外出頻度が少なく、月収10万円未満の人の35%以上が「ほとんど」外出しないと回答しているなど、孤立を強めざるを得ない状況下にあっ た。このことは、今、大地震に見舞われ、生活不安を抱えている石川県輪島市で被災高齢者のおかれている状況に見られるように、全国の多くの高齢者の生活実 態である。
 調査結果は、高齢者にこれ以上の負担を強いることは、限界をはるかに超えていることを示している。
 推計年間1万人を超える孤独死の実態や国保証取り上げで「手遅れ死亡」、介護疲れによる介護殺人が後を絶たない。1973年、全国一律で老人医療費無料 化が実現した。時の総理大臣はこの年を「福祉元年」と宣言した。しかし、10年後には再び有料化となり、負担は増加の一途をたどっている。日本は、いつか ら、これほど高齢者に冷たい国になってしまったのか。
 新たに耐え難い負担を強いる後期高齢者医療制度、療養病床大幅削減などの医療制度改革関連法の実施は、日本の医療制度と高齢者をはじめ国民の人権を著し く侵害するものであり、将来に対して大きな禍根をも超すことになり、直ちに中止すべきである。
 
医療構造改革の狙いは国民の自己負担を増やし、国庫負担の削減をすること 

 そもそも、小泉・安倍政権のもとですすめられている医療構造改革路線の最大の狙いは、 2025年までに現在の国民医療費を年額8兆円削減し、国庫負担を減らすことにある。必要な医療を求めるなら、「どうぞ自己負担、自己責任でおこなって下 さい」、「民間の医療保険や介護保険を大いに活用して下さい」という、「自己責任論」と「医療営利化」が根底にある。医療負担が増えるほどビジネスチャン スが広がるとして民間保険会社が虎視眈々としている。
 1994年以来、毎年出されるアメリカから日本政府への「年次改革要望書」でも、「医療分野」への規制緩和を求める強い要望が出され続け、財界からの強 力な要求とともに、政府・与党は医療・社会保障の制度改悪と規制緩和によってその要望に最大限に応えてきた。アリコやアフラックなど外資系民間医療保険が 毎日のようにテレビ、新聞で宣伝しているのはその表れである。これら「第3分野」といわれる民間医療保険は急増し莫大な利益を得ている。
 医療や介護は憲法で保障された国民一人ひとりの固有の権利であり、お金のある人が買える「商品」にしてはならない。
 世界的に見てもあまりにも少ないGDP対比、医療費、社会保障への支出の少なさにこそ、最大の要因がある。それでも国際的に高い評価を得ているのは40 年来貫いてきた全ての国民を公的医療保険で網羅する国民皆保険制度と改善を求める国民的運動の結果である。
 また、少ない人員、貧困な予算の中でも献身的に働いている医師や看護師や医療関係者の奮闘があるに外ならない。WHOの統計では、人口10万人当たり日 本の医師数は192人で世界第63位、看護師は第27位と低水準で、OECD加盟30カ国中では第27位である。問題は医師の地域偏在ではなく、絶対的医 師不足にこそ問題がある。少なくともOECD平均水準(人口10万人当たり300人)するには、あと約13万人の医師の増員が必要である。 
 世界各国が医師数を増やす努力続けてきたこの25年間、日本の政府と厚生労働省は「医師過剰論」を振りまき、医学部定員を減らしてきた失政に問題があ る。医師の過労死・過労自殺もあとを絶たない。日本看護協会の調査では新人看護師の9.4%があまりにも過酷な労働実態のために1年以内に職場を去る現実 がある。この数は看護学校140校分に相当する。過酷な労働実態を改めるのは、すべての患者に行き届いた看護体制を確立し、働き続けられる条件整備を急が ねばならない。

seimei20070420-02

国民の生命・健康を守るのが政治の責任、せめてヨーロッパ並に医療・社会保障に税金を使え!
 全日本民医連は、せめてOECDなみに「医療費を使え!」と強く主張する。それだけで12兆24百億円(2003年ベース)の医療費の確保が可能であ る。高齢化がピークを迎える2025年の総医療費を政府、厚生労働省は43兆円と予測している。現在の医療費総額が30兆円であることを考えれば、十分可 能である。これが実現すれば、この間行ってきた数々の医療費負担増を元に戻すことができ、さらに医療制度改革関連法による新たな負担増は不必要となり、医 師や看護師増員も可能である。
 全日本民医連は改めて要求する。

<わたしたちの要求>

  1. 医療費抑制ではなく、GDP比10%の医療費に向けた根本的政策転換を行うこと。安全・安心の医療実現のために診療報酬を引き上げること。
  2. 絶対的医師不足に対し、OECD平均並みの医師養成に早急に手を打つこと。看護師の大幅増員や就労条件の抜本的改善に着手すること。
  3. 後期高齢者制度の中止・撤回を要求する。
  4. 療養病床削減計画を中止すること。
  5. 公費負担を大幅に引き上げ、患者負担をなくすこと。

以上の実施を強く求める。
 全日本民医連はこれらの実現めざして医療関係者のみならず医療、社会保障の拡充を願う国民的大運動を呼びかける。

以上

■資料:〈医療改革関連法の主な内容〉

  1. 現役並の所得のある高齢者の患者負担を2割から3割へ引き上げること(2006年10月実施)。
  2. 70歳から74歳までの高齢者の患者負担を1割から2割へ引き上げること(2008年4月実施予定)。
  3. 療養病床に入院する高齢者の食費・居住費を保険外負担にすること(2006年10月実施)。
  4. 高齢者の月額医療費負担限度額上限の引き上げること(72,300円+医療費総額から控除した残りの1%→81,000円+医療費総額から控除した残りの1%へ)
  5. 都道府県単位の後期高齢者医療制度を創設し、75歳以上の後期高齢者に1割の保険料の徴収と1割の患者負担を導入すること(2008年4月実施予定)。
  6. 介護型療養病床(13万床)の全廃止、医療型療養病床を25万床から15万床へ削減、あわせて38万床ある療養病床(長期入院病床)を15万床へ約60%削減すること(2012年までに完了予定)。
  7. 政府管掌健康保険(中小企業を対象にした健康保険)を民営化(「全国健康保険協会」)し、都道府県単位に保険料率を設定すること(2008年10月実施予定)。
  8. 保険者に対する予防健診などを義務づけるとともに自治体や事業所が行っている健康診断を民間に外部委託し、民間業者が参入すること(2008年4月実施予定)。