【声明2007.04.04】原爆症認定集団訴訟・仙台および東京地裁の判決についての声明
2007年4月4日
全日本民医連・原爆症認定訴訟支援医師団
全日本民医連被ばく問題委員会
- 3月20日、仙台地裁は、胃がんおよび膀胱がんのいずれも術後の治療で申請を行った原告2名にたいし、国の決定を取り消す全面勝訴の判決を下した。
これは、国の審査の方針(DS86や原因確率)について「一要素として考慮すべきであるがこれのみを機械的に適用して判断すべきではない」という大坂・ 広島・名古屋地裁判決の流れを追認するとともに、胃がん術後のダンピング症候群について、「放射線に起因する胃がんに罹患した結果、胃切除後障害を発症し たものということができ、胃切除後障害についても放射線起因性が認められる」とし、術後5年以上経過した原告の要医療性について認めた画期的判決である。
また、膀胱がんの内視鏡的摘出術後の原告については、「より長期間にわたって検査を必要とするものと解すべきである」として、要医療性についてより踏み込んだ判断を示したことを大いに歓迎する。 - 続いて3月22日、東京地裁は、30名の原告のうちの21名にたいし国の認定棄却の決定を取り消し、厚生労働省がこの間行ってきた原爆症認定行政を批判する判決として昨年の大阪地裁から5地裁連続の勝利判決を下した。
とくにDS86について、現在の科学水準から評価されるべきものとしながらも、遠距離での線量の過小評価の可能性があること、放射性降下物や誘導放射能 による残留放射能、内部被曝の影響を否定し去ることができないことなどから、「放射線による急性症状等が生じていると認められる事例が存在するのであれ ば、その事実を直視すべきなのであって、それがDS86による線量評価の結果と矛盾するからといって、DS86の評価こそが正しいと断定するとはできな い」と判断したことは注目される。
また原因確率については、個々の被爆者の放射性起因性を示す概念ではないと判断し、その基礎になる放影研のデータについても、「過去の傾向を調査したも のなのであるからこれによって将来の傾向をすべて予測することが可能であると考えることにも問題がある」こと、「原因確率が低いとされた事例については 個々の被爆者の個別的事情をふまえた判断をする必要がある」と機械的な当てはめを明確に批判した。
さらに起因性の判断手法として、「被爆状況や、急性症状、その後の生活や病歴などを総合的に考慮した上で、合理的な通常人の立場において、当該疾患は放 射線に起因するものであると判断し得る程度の心証に達した場合には、放射線起因性を肯定すべきである。」と判断し、このことが「審査の方針において放射線 起因性が認められていない疾病についての判断においても、同様に判断されるべき」としたことも評価できる。
一方で、却下された9名の原告のうち8名が多重がんを含む悪性腫瘍であるが、被曝の事実を認めながらもその線量が「高度な」、「相当程度の」、あるいは「健康状態に影響を与える程度の」被曝とは認められないとして斥けている。
判決では、これらの原告の今日までの病状経過よりも、急性症状の記憶や具体的記述がないこと、あるいは被爆地点が遠距離で「被曝線量を増加させるような 作業等に従事していない」ことが重視され、また急性症状に類似した症状がある場合でも審査の基準を超えるような被曝は認められないから「感染症等の可能性 を否定できない」とするなど、放射線被曝の影響をあまりにも軽く見ており納得できない。
また甲状腺機能低下症の放射線起因性を認めながら、2名の原告のうち妊娠9ヶ月で被曝し、直後から防空壕に避難した1名については、急性症状があり、か つ放射線による過剰リスクが示されている多くの疾病に罹患したにもかかわらず、被曝の程度は「相対的に少ない」として却下したことも納得できない。
これらの却下理由は、結局、放射線による悪性腫瘍の発生が確率的影響である事実、甲状腺機能低下症が低線量でも生ずる可能性が否定できないという科学的事実を無視した判断である。
また、本来あってはならない原爆被爆という異常な災禍によってもたらされた被爆者の苦悩への共感と、具体的な事実にもとづく放射線被害への理性的な判断こそ求められるべきであり、9名の原告の却下は医師団として容認できないものである。 - 3月30日、国は仙台・東京両判決の国敗訴の部分について控訴を行った。われわれ全日本民医連医師団として控訴に強く抗議するとともに、原爆症認定集団訴訟への継続的な支援をあらためて表明するものである。
東京の原告30名のうち11名は判決を聞くことなくこの世を去っている。国・厚労省は5たび否定された現行の「審査の方針」を撤回し、司法の判断に従い認定行政の抜本的な改善を行うべきである。
以上