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【新連載】4.睡眠剤の注意すべき副作用

 一般名ゾルピデム酒石酸塩(商品名マイスリーなど)、一般名ゾピクロン(商品名アモバンなど)、一般名トリアゾラム(商品名ハルシオンなど)、一般名ブロチゾラム(商品名レンドルミンなど)、一般名フルニトラゼパム(商品名サイレースなど)、ニトラゼパム(商品名ベンザリンなど)、ラメルテオン(商品名ロゼレム)、スボレキサント(商品名ベルソムラ)、レンボレキサント(商品名デエビゴ)など


 睡眠への要求は切実ですが、睡眠剤を使用して副作用に遭遇することは珍しくありません。安全性が高いとされるベンゾジアゼピン系の薬剤が睡眠剤として繁用されていますが、筋弛緩作用や長期服用による効果減弱を背景とした多剤併用、依存性などの副作用を軸に考えると、睡眠薬事情の一端が見えてきます。これまではベンゾジアゼピン系薬剤の弱点である筋弛緩作用を軽減した一般名ゾルピデム酒石酸塩(商品名マイスリーなど)が多く使用される傾向でしたが、現在は、新規作用機序を持つとされる一般名ラメルテオン(商品名ロゼレムなど)、一般名スボレキサント(商品名ベルソムラなど)、という新規の非ベンゾジアゼピン系薬剤を使用する機会が増えています。
 2015年、当副作用モニタでは3種の睡眠剤を取り上げ、外国の動きを視野に入れながら問題を改めて提起しました。ゾルピデムについては、米国医薬品食品庁(FDA)が女性に対して初回投与量を5mgに制限するなど対策が講じていること(後述)、一般名トリアゾラム(商品名ハルシオンなど)については、英国放送協会(BBC)による報道を端緒に攻撃性亢進の問題が注目されはじめ、オランダでは販売禁止に、英国では保険適応を認めないなどの処置がされ、日本でも警戒される薬剤になっていること、そして、一般名フルニトラゼパム(商品名ロヒプノールなど)は米国などで麻薬として厳しい使用規制が設けられていること、これらを念頭に置いておくことで副作用への理解が進むのではないかと思います。一方で、日本における対策はというと、2014年10月からは同系統の睡眠剤を3種類以上併用すると診療報酬を減算する仕組みを導入しましたが、2015年9月の調査では、この方法では多剤併用をほとんど解消できないことが判明しています。一つ一つの薬剤の性格を理解し、リスクを十分に考慮に入れて処方する習慣が必要でしょう。
 当副作用モニターに、2015年9月までに報告された不眠症の適応を持つ薬剤の副作用を総点検し、主な副作用を抜粋してみました(別表 後掲)。

 最も報告件数が多かった薬剤は一般名ゾピクロン(商品名アモバンなど)で186件、ただし129件を占める「苦み」を除外して57件として扱うと、ゾルピデムが180件と、全体の約35%と突出した報告件数を占めていることがわかりました。
 ゾルピデムで発生した症状は、健忘症状47件、幻覚・幻聴18件、頭痛・頭重感15件、せん妄14件、興奮8件、夢遊症状6件、不穏4件、これらが他の睡眠剤と比べて多くなっています。
 ゾルピデム以外の薬剤を症状ごとにみると、健忘症状はトリアゾラム12件、ゾピクロン11件、一般名ブロチゾラム(商品名レンドルミンなど)6件と続き、幻覚・幻聴でトリアゾラム5件、悪夢は作用時間の長い一般名フルニトラゼパム(商品名サイレースなど)とニトラゼパム(商品名ベンザリンなど)で各7件、頭痛・頭重感はフルニトラゼパム、ニトラゼパム、一般名エスタゾラム(商品名ユーロジンなど)が各3件、めまい、ふらつき、翌朝以降の眠気などは2~3件程度、その他の症状の多くは1~2件にとどまりますが、嘔吐、吐き気、悪心、胃部不快感などの消化器症状はゾルピデムとゾピクロンで多い傾向でした。発疹などの過敏症状はブロチゾラム、ゾルピデム、フルニトラゼパム、ゾピクロンの順で多い傾向にありました。

ゾルピデムによる健忘症状などの副作用

 「米国では、自動車事故を起こしたのに運転していた自覚がまったくないなど、夢遊病のような状態の運転手の血液からゾルピデムがよく検出され、そのような運転手のことを『アンビエンドライバー』と呼ぶそうです。法医学的には、事故とゾルピデムの服用が関係あると考えられているようです。」この“睡眠ドライバー”の話はニューヨークタイムス紙で取り上げられた記事なのですが、2006年に、この記事を日本自動車連盟(JAF)の雑誌が紹介しています。ゾルピデムは筋弛緩作用が少なく使いやすい睡眠導入剤、という触れ込みが功を奏し、2015年現在、日本で最も使用されている睡眠導入剤のひとつになっています。当モニターの集計をまとめてみたところ、これまで使用されてきた睡眠剤と異なる副作用の傾向が見えてきました。前述のとおり、健忘症状が多いのが特徴です。そして幻覚や幻聴、せん妄、加えて、他の薬剤ではほとんど報告されていなかった「アンビエンドライバー」に通ずる夢遊症状が複数例で報告されています。ゾルピデムの適応症が「統合失調症及び躁うつ病に伴う不眠症は除く」という但し書きがされているのは、臨床試験で効果が認められなかっただけではなく、幻覚幻聴、せん妄が多いことと無関係ではなかったのかもしれません。「民医連新聞(副作用モニター情報)」に掲載した記事を統合し、特徴的な副作用を再確認してみたいと思います。
(下記、クリックすると民医連副作用モニター民医連新聞記事一覧がご覧になれます)
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

 ゾルピデムは2000年9月に日本でも承認された睡眠剤で、ベンゾジアゼピン骨格を有さず、ベンゾジアゼピン受容体のうちω(オメガ)1受容体と親和性が強いのが特徴です。ω1受容体は小脳、嗅球、淡蒼球、大脳皮質第4層などに多く存在しているのに対して、ω2受容体は筋緊張に関与する脊髄や記憶に関与する海馬に多く存在するとされています。そのため、筋弛緩作用が弱いとされ、転倒リスクの高い高齢者にも使われるようになりました。さて、筋弛緩作用が少なく使いやすい、というふれ込みのゾルピデムは、本当によい薬なのでしょうか?

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○副作用の傾向と分析

 2003年から2006年10月までに寄せられた副作用報告を分析しました。38例のうち、健忘症状などの記憶障害が12例、幻覚やせん妄など5例、興奮や不穏が3例、頭痛・頭重感が5例、悪夢2例、口渇2例などでした。
 2009年度の副作用報告は、一過性前向性健忘9件、せん妄2件、興奮2件、幻覚1件、ふらつき1件、嘔吐・物が二重に見える各1件、頭痛1件、発疹1件でした。
 報告の中で特に多い前向性健忘とは、服用後ある一定期間または夜間に中途覚醒した時のことが思い出せない状態です。その発症年齢は、69歳以下が4人、70代3人、80代2人で、投与量は5mgが1人、10mgが7人、15mgが1人でした。

 症例1)50代女性。帰宅してマイスリー5mgを1錠服用し、入眠する。夜中に食事をつくって食べ、再入眠したが、翌日、夜中の行動をまったく覚えていなかった。

 症例2)50代女性。マイスリー5mgとブロチゾラム0.25mgを各1錠ずつ服用後、すぐに眠らず、お菓子などを食べていた。家族から食べすぎを注意されたが、翌日それらを思い出せない。

 症例3)80代後半女性。エチゾラムからマイスリー5mg1錠に変更。その夜、服用1時間後に写真が動いているように見え、誰もいない部屋から話し声が聞こえた。翌日以降、同様の幻覚・幻聴が出現、5日分を服用した時点で服用中止。エチゾラムに戻すと幻覚や幻聴は消失。統合失調症ではない。

 症例4)60代女性。不眠のためブロチゾラム0.25mgを服用していたが効果が弱くなったため、ゾルピデム10mgに変更。服用1時間後、入眠中に友人から電話があり会話をしたが、翌日その記憶がなかった。会話の内容に不自然な点はなかった。

 症例5)70代女性。認知症の既往なし。不眠のためゾルピデム10mgを開始した。夜中に裸で歩いていたのを夫が気づいたが、本人はまったく覚えていない。このようなことが2回ほどあった。

 ゾルピデムは作用発現までの時間が短く、作用の持続時間も短いため「超短時間型」睡眠剤に分類されています。高齢者では最高血中濃度がばらつきますが、健康成人に比べ2.1倍と高くなり、血中半減期も1.8倍(4.6時間)で、決して「超短時間型」とは言えません。臨床試験においては、一過性逆行性健忘(発症以前の、過去の出来事に関する記憶を思い出すことが一時的に障害される)の副作用が1%(11 / 1,102例)ありました。2000年12月~2003年11月の3年間の市販後調査では、2 / 3,443例で0.06%でした。一般に、作用発現が短い睡眠導入剤は、服用してから就寝するまでに薬効が現れ「もうろう状態」になり、記憶があいまいになる恐れがあると考えられます。高齢者では「もうろう状態」がより持続する可能性があります。ゾルピデムの用量上限は10mgですが、高齢者は半量に減量するのが望ましいと考えられます。

(民医連新聞 2007年1月22日・2010年8月16日)

 参考:米国医薬品食品庁は2013年1月に「一部の患者ではゾルピデムを服用した翌朝も血中濃度が高く、自動車の運転など注意力を要する活動に支障をきたすおそれがあるとの新たなデータが示され」たとして、女性の就寝直前の服用については、推奨開始用量を10 mgから5 mgに減量すべきである、男性の就寝直前の服用については,「医療従事者は可能であれば低用量(5 mg)で処方すること」との内容を添付文書に記載すべきである、女性では男性よりゾルピデムが体外に排泄される速度が遅いため、女性と男性で推奨用量を変えるべきだ、とシグナルを発しています。高齢者も同様の傾向にあると予測できます。

フルニトラゼパムによる呼吸抑制などの副作用

 フルニトラゼパムは依存性が強いとされ、米国や韓国では麻薬として規制されています。日本においてもベンゾジアゼピン系薬剤の中では珍しく、規制区分は第2種向精神薬に分類されています。作用時間が長い、さらに代謝物にも活性があることも他のベンゾジアゼピン系薬剤と異なる一つの特徴です。副作用報告の件数はトリアゾラムやブロチゾラムと大きな差はありませんが、どうしても眠れない時の最終手段として用いられることが多く、抗精神病剤などとの併用が必然的に増え、フルニトラゼパムが原因とは考えにくい報告も含まれる中、ひとたび問題が起こると危険な状態に至ることが見えてきます。

フルニトラゼパム錠による呼吸抑制について

 2008年4~7月の集計でフルニトラゼパム錠による呼吸抑制が1件、血中の二酸化炭素濃度が著しく上昇するCO2ナルコーシスにいたった例が1件報告されました。

 症例)70代男性。入院し、せん妄と認知症を治療中の患者。慢性閉塞性肺疾患、胃癌。併用薬はクエチアピン、リスペリドン、テオフィリンなど。夜間の不眠と不穏に対して、ロヒプノール1mg1錠を開始。4日間服用後、改善したので中止。翌朝になって呼吸不全、意識レベル低下がみられた。JCS(意識レベル)III-100、PCO2:102.8、PO2:47.9。その後、処置により午前中に改善し、自発開眼した。

 フルニトラゼパムはベンゾジアゼピン系の中時間作用型の睡眠薬です。ベンゾジアゼピン系薬物は致死毒性が弱いなどの点で安全とされ、不眠症や麻酔前投薬などに汎用されています。一般的には呼吸中枢の抑制作用は弱いと言われていますが、まれに強い呼吸抑制を起こすことがあります。服用開始3~5日で定常状態に達し、最高血中濃度は服用初期の約1.3倍になります。また、代謝物にも活性があり、その半減期が31時間と非常に長いので、日中にも注意が必要になります。
 本症例のように、基礎疾患として慢性閉塞性肺疾患がある場合は特に注意が必要で、添付文書上は肺性心、肺気腫、気管支喘息及び脳血管障害の急性期などで呼吸機能が高度に低下している場合は、CO2ナルコーシスを発現しやすいため原則、禁忌です。また本症例は常用量1mgで発現しています。特に高齢者には注意し、起床時の強い頭痛や、めまい、頻脈、息苦しさなど初期症状がみられた場合は中止するなど適切な対応が求められます。
 外来で30日の長期処方も可能になったので、投薬の際には患者さん、ご家族に、丁寧に服薬指導し注意を促すことが大切です。

(民医連新聞2008年12月1日)

フルニトラゼパム製剤静注の適応外使用による幻覚、興奮の副作用

 症例)50代男性。不安が強く、不眠のためロヒプノール注2mg1Aを静注。その後、幻覚が現れ、服を脱いだり、吸盤を外したりと興奮状態になり理性的抑制が効かない衝動行為が現れた。ロヒプノール注を中止すると改善した。ジアゼパム注に変更後は、上記の副作用症状はみられない。

 フルニトラゼパムの注射剤の適応は、(1)全身麻酔の導入、(2)局所麻酔時の鎮静だけです。内服と異なり不眠症の適応はありません。強力な催眠・鎮静作用があり、静注直後に最高血中濃度に到達し、重大な副作用として錯乱、無呼吸、呼吸抑制などがあります。また、覚醒困難、興奮、多弁などの副作用もあり、適応症を遵守し、十分な管理下で使用すべき薬剤です。特に重大な副作用が生じるのは投与後30分以内が多く、2時間以内では副作用発現の危険性があります。不安が強く、不眠がある患者に対して使用できる注射薬にジアゼパム製剤がありますが、これも「刺激興奮・錯乱」などの副作用の危険性は避けられません。睡眠導入に対しては、注射製剤の使用を避け、できる限り内服にすべきです。睡眠コントロールや不安への治療などで原則的に対応し、今回のような適応外使用だけは絶対に避けてください。

(民医連新聞2007年5月7日)

トリアゾラムによる異常行動などの副作用

 トリアゾラム服用後の異常行動による殺人事件が英国BBCにて報道され、一時、社会問題となりました。承認用量を減量し、当初1mgだったのが、国内では0.125mg製剤が登場するという、用量の過量に関しては非常に警戒している製剤です。トリアゾラムの副作用報告を症状ごとにまとめてみると、最も目立つのが中枢系の症状で、特に、記憶喪失や前向性を含む健忘症状が12件(1件は夜間徘徊に至った)と、全体の21%を占めました。幻覚が5件、というのが目を引きます。中枢を抑制する副作用が発現するのは薬理作用から予測がつきますが、幻覚や悪夢、不眠、興奮などかえって睡眠とは逆の「起こす薬剤」になってしまった事態が合計10件17.5%を占めています。ベンゾジアゼピン系薬剤は薬物相互作用が少ないと考えられていますが、相互作用の結果、過量投与と同じことになってしまった事例を紹介します。

トリアゾラムとイトラコナゾール(抗真菌剤)の相互作用による認知症状の急性憎悪

 症例)肺疾患でイトラコナゾール200mg/日を長期内服している70代男性。軽度認知症はあるが日常生活に支障はなく、妻と2人暮らし。夫に不眠症状、夜間徘徊行動がみられたため、介護者の妻が他院で処方された自分の服用薬、トリアゾラム0.25mg錠を飲ませた。翌朝から認知症状が憎悪、尿失禁がみられ、自立歩行できなくなり寝たきり状態となる。症状は2日間継続したがその後急速に回復、歩行、排泄とも自立し、会話も正常に戻った。以後、症状の憎悪・再発はない。CTを撮影したが新たな梗塞はなく、両剤の相互作用による可能性が強く疑われた。

 臨床試験では、イトラコナゾール服用中のトリアゾラム0.25mg内服併用では、単独投与時と比べトリアゾラムのAUC(血中濃度-時間曲線下面積、area under the blood concentration-time curve)が27倍、最高血中濃度は3倍、消失半減期は7倍になることが認められています。また、被験者のほとんどで、健忘と翌日までの錯乱等の症状が認められています。イトラコナゾールは消失半減期が約30時間と長く、肝臓への蓄積性も高い薬剤です。他剤との相互作用は服薬中止後も約3週間持続することが示唆されています。そのため、イトラコナゾールのパルス療法時の休薬期間中も、トリアゾラムなどの禁忌薬は服薬しないよう、注意が必要です。また再発防止のため、患者様の併用薬が禁忌薬であるか否かを点検することはもちろん、併用禁忌医薬品名はじめ、具体的な情報を患者様やご家族に確実に提供する事が必要です。

(民医連新聞2006年3月6日)

 ゾルピデムとベンゾジアゼピン系薬剤との違いは幻覚が多いだけでなく、「食べること」のエピソードが見られることも気になります。「夢遊飲食」は、患者の血糖コントロールを乱す可能性があり、糖尿病治療を困難にしてしまう恐れがあります。これらはゾルピデムの構造に由来することなのかもしれません。ゾルピデムはベンゾジアゼピン骨格を持っていませんが、セロトニンに類似した化学構造を持っています。セロトニン作用を持つ物質で幻覚が出ることはLSD(リゼルグ酸ジエチルアミド・幻覚誘導剤)などの麦角系物質やシロシビンなどの毒物でよく知られていますし、セロトニンと食欲の関係についてもよく研究されています。これらの奇妙な副作用の機序が明らかになれば、ゾルピデムの使用は十分な配慮のもと行われるようになっていくでしょう。


(別表 PDF9KB)

ベンゾジアゼピン系以外の睡眠剤

 2010年以降に発売された新規作用機序の睡眠薬として、メラトニン受容体作動薬のロゼレム(一般名:ラメルテオン)、オレキシン受容体拮抗薬のベルソムラ(一般名:スボレキサント)、デエビゴ(一般名:レンボレキサント)があります。それまで主流であったベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、GABA受容体に作用して脳の興奮を抑えることで睡眠を促すのに対して、これらの薬剤は睡眠の リズムを整えることで不眠を改善するため、依存性がなく、安全性が高いと考えられています。しかしながら、使用量の増加にともない、当モニターにもこれらの薬剤に関連する報告が散見されるようになってきました。
 最近の約半年間に寄せられた報告は以下の通りです。
 ロゼレム錠 浮動性めまい1件、傾眠 1件 ベルソムラ錠 ふらつき2件、幻視1件、悪夢2件 デエビゴ錠 眠気1件、吐き気(悪心)2件、悪夢2件
 ラメルテオンは、睡眠ホルモンとも呼ばれるメラトニンが作用する受容体に働き、メラトニンと同じように刺激して、自然な睡眠状態を促します。生体内におけるメラトニンは、光と年齢に大きく影響されるため、日中はしっかりと光を浴び、夜は光を避けることも大切です。スボレキサントは、オレキシン受容体に働き、覚醒物質であるオレキシンをブロックすることで睡眠作用をもたらします。悪夢の副作用が他の睡眠薬と比べて多いのは、ノンレム睡眠だけでなく、レム睡眠も増加させ、夢を見ることが増えるためとされています。レンボレキサントの作用機序はベルソムラと同様ですが、半減期が50時間超と非常に長く、持ち越し効果が生じやすいため、用量設定には注意が必要です。ベンゾジアゼピン系薬剤の過量処方や長期処方による弊害が問題視されているなか、これらの睡眠薬には一定の有用性があると思われます。しかし、医師や薬剤師をはじめとする医療スタッフが、それぞれの特徴や副作用をしっかり把握した上で処方および服薬指導などを行うことが、安全な薬物治療においては欠かせないと考えます。

(民医連新聞 2022年5月2日)

レンボレキサントによる 口渇の副作用

 近年、ベンゾジアゼピン系睡眠剤の漫然とした継続投与による長期使用の回避が推奨されており、オレキシン受容体拮抗薬の睡眠剤の使用が増えてきています。本剤は2020年4月の薬価収載から3年近くが経過し、それに伴って副作用の報告数も増加しています。報告された副作用の多くは「悪夢※」の副作用でしたが、今回は「口渇」の副作用が報告されたので紹介します。
 症例:70歳代男性 不眠症の病歴があり、ブロチゾラム錠0.25mgを服用中。睡眠剤の切り替えを行うためデエビゴ錠5mgへと薬が変更となった。2ヵ月後の定期受診の際に「デエビゴを服用するようになってから口が乾いて余計眠れなくなって薬を止めました。止めると乾きは出ません。薬を飲まない日は口の渇きは出ません。」と報告あり。その後、デエビゴ錠から同じオレキシン受容体拮抗薬であるベルソムラ錠へと切り替わって以降、口渇は出なかった。

 レンボレキサントの口渇の副作用は、添付文書上「口腔乾燥」として1%未満の頻度で記載されています。また、製薬メーカーにもこれまで30件弱の報告があるとのことでした。発生機序については今のところわかっていません。一般的に口渇の副作用として推察されるのは抗コリン作用ですが、オレキシン受容体拮抗薬では考えにくいとのことでした。
 レンボレキサントを含めたオレキシン受容体拮抗薬の使用量は今後さらに増えていくことが予想され、未報告の副作用にも注意が必要です。
※「悪夢」とは、「悪い夢」ではなく、「遅刻をする」など現実を見ているような夢のこと。

(民医連新聞2023年4月3日)

**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました(下記、全日本民医連ホームページでご覧になれます)。
 今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。

https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

<【薬の副作用から見える医療課題】当面連載予告>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用

  以下、57まで連載予定です。