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【新連載】49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用

 今回、2009年から2013年までの5年間に副作用モニターに報告された、鎮咳去痰剤に関する副作用272件について、あらためて概括してみました。被疑薬として10件以上よせられた製剤は、カルボシステイン(ムコダインなど)80件、デキストロメトルファン(メジコンなど)37件、ヒベンズ酸ピペチジン(アスベリンなど)36件、コデイン系製剤(配合剤含む)33件、アンブロキソール(ムコソルバンなど)29件、リン酸ベンプロペリン(フラベリックなど)19件、クロフェダノール塩酸塩(コルドリンなど)12件でした。
 発疹や掻痒感など過敏症が135件とほぼ半数を占めています。ついで、眠気やめまい、幻覚・興奮などの精神神経系の副作用が59件、便秘や悪心・嘔吐などの消化器系の副作用が40件ありました。


 鎮咳去痰剤は一般にかぜや呼吸器感染症に、複数処方され、総合感冒剤や抗生物質などとも併用されることが多く、副作用の被疑薬も複数となり特定がむずかしい側面があります。投与期間も短いことからアレルギーによる副作用や、その薬理作用にもとづく軽微な副作用が多くを占めていました。

 カルボシステインやアンブロキソールなどの去痰剤は、発疹などの過敏症がほとんどで、デキストロメトロファンやヒベンズ酸ピペチジンなどの中枢性鎮咳剤では、発疹などの過敏症とともに眠気やめまい・ふらつき、幻覚・興奮などの精神神経系の副作用が報告され、リン酸コデインやリン酸ジヒドロコデインとその配合剤(抗ヒスタミン剤含有)では、便秘、口渇、など消化器系の副作用や尿閉などの副作用が報告されています。特異的な副作用として、リン酸ベンプロペリン(フラベリック)で聴覚異常(半音下がって聞こえる等)が12件報告されています[表]。

 重篤度がグレード3で報告された症例は6症例ありました。1)デキストロメトルファンとアンブロキソールおよびレボフロキサシンの併用での白血球減少、2)フスコデ配合錠による腸閉塞、3)カフコデN配合錠とアンブロキソールによるスティーブンスジョンソン症候群、4)フスコデ配合錠・総合感冒剤・ロキソプロフェン・トラネキサム酸によるアナフィラキシーショック、5)カルボシステインとセフカペンピボキシルでのアナフィラキシーショック、6)ヒベンズ酸チペピジンシロップとカルボシステインシロップでの無呼吸発作(ただし因果関係は不明として報告)です。フスコデ配合錠による腸閉塞以外の症例では、被疑薬が複数あり鎮咳剤の副作用と特定されてはおりません。

 注意すべき副作用として、フスコデ配合錠による腸閉塞の事例を再掲します。また、リン酸コデインやリン酸ジヒドロコデインおよびその配合錠については、2017年7月に重篤な呼吸抑制のリスク回避のために、12歳未満の小児および18歳以下の肥満、閉塞性睡眠時無呼吸症候群又は重篤な肺疾患の患者へは使用しないこととされました。今回調査したモニターには呼吸抑制の副作用名はありませんでしたが注意が必要です。

副作用モニター情報〈433〉 フスコデによる腸閉塞

 フスコデは咳止めとして用いられています。
 これまでに当モニターに報告されたフスコデの副作用をまとめると、最も多かったのが便秘で13例、排尿困難と尿閉が計13例、次いで、発疹と薬疹が計13例、めまい4例、動悸3例、以下、1~2例の副作用が続きました。重篤なものでは、腸閉塞が1例、今年度に報告されています。
 2000年頃までは総合感冒剤のPL配合顆粒やペレックス配合顆粒との併用で、尿閉や排尿困難、便秘などの副作用報告が多くみられましたが、最近は抗ヒスタミン剤の重複を避けるようになったためか、併用例での報告はなくなりました。

*       *

 そこであらためて注意を喚起したいのが、腸管の蠕動(ぜんどう)運動を抑制する作用のあるジヒドロコデインが関与する便秘です。フスコデには、3種類の薬効成分が配合されています。錠剤では、ジヒドロコデインリン酸塩3mg、dl-メチルエフェドリン塩酸塩7mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩1.5mgです。1日量の9錠なら、それぞれ27mg、63mg、12mgになります。
 今回報告された腸閉塞の症例は、開腹手術歴があるため、それによる腹膜癒着で腸閉塞を起こすリスクが高い患者でした。そうした危険があるにもかかわらず1日量である9錠を投与したことが、腸閉塞の引き金になったと考えられます。
 コデインを処方するときは酸化マグネシウムなどの下剤を併用するなどの工夫をしている場合がほとんどだと思いますが、この症例では併用されていませんでした。
 ジヒドロコデインはコデインよりも作用が強く、ジヒドロコデイン30mgの作用は、コデイン60mgと比べて配合量が少なくみえても眠気がやや弱いこと以外は、鎮咳、鎮痛、止(し)瀉(しゃ)作用について、大きな違いはないとされています。ジヒドロコデインは、処方せんがなくても購入できる咳止めに配合されている場合もあります。フスコデが便秘を起こしやすい成分の配合剤であることを認識しておきましょう。
(民医連新聞 第1592号 2015年3月16日)

2022年4月に、「難治性の慢性咳嗽(がいそう)」を適応症とするゲーファピキサント(リフヌア錠45mg® 以下、本剤)が発売されました。本剤は、咳嗽時に重要な役割をする気道のP2X3受容体を遮断することで迷走神経の活性化を抑制し、結果として咳嗽を抑えると考えられています。

ゲーファピキサントによる味覚関連障害
症例1)40代女性
開始日:ひどい咳(せき)が継続、いろいろな薬を使用するも改善しないため本剤開始。
開始約1週間以内:コーヒーがしょっぱい、お茶が金属の味がする、ごはんがまずい、などの味覚不全の症状発現。咳の改善を優先し本剤継続。
開始36日目、50日目:定期受診、味覚不全改善なし、咳嗽継続。

症例2)80代女性
開始日:喘息(ぜんそく)治療中、咳が止まらないため本剤開始。
開始14日後:開始翌日から煮物などの味を感じないため、4日服用し自己中止。中止翌日には味覚は戻った。

 非臨床試験において、P2X2/3イオンチャネルの欠損または機能的阻害と味覚の変化との関連を示す報告があり、同様の機序に起因して、本剤の味覚関連事象が発現することが示唆されます。
 製造販売承認時までに実施された国際共同第III相試験、海外第III相試験のデータにおいて、味覚関連の副作用(味覚不全、味覚消失、味覚減退、味覚障害)は63.1%(431/683例)に発現しています。多くは投与開始後9日以内に発現し、軽度または中等度で、投与中または投与中止により改善しています。
 なお、本剤の母集団薬物動態/薬力学解析(PPK/PD)の結果から、有効性を得るために必要な血中濃度-時間曲線下面積(AUC)と味覚障害の頻度が高くなるAUCが近似していることが読み取れます。そのため、常用量(1回45mg1日2回)では高頻度で味覚関連の副作用が発現すると考えられます。
 本剤による咳嗽の治療は、あくまで対症療法であることから、リスクとベネフィットを考慮し、漫然投与とならないよう注意しましょう。

(民医連新聞 第1795号 2023年11月20日)

■画像提供 奈良民医連 一般社団法人 奈良保健共同企画
http://www.aoba-pharmacy.com/

■副作用モニター情報履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

■「いつでも元気」くすりの話し一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=26

■薬学生の部屋
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/index.html

**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み  *タイトルをクリックすると記事に飛びます
  1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
  30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
  32. ATP注の注意すべき副作用
  33. 抗がん剤の副作用
  34. アナフィラキシーと薬剤
  35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
  36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
  37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
  38.漢方薬の副作用
  39.抗生物質による副作用のまとめ
  40.抗結核治療剤の副作用
  41.抗インフルエンザ薬の副作用
  42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
  43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
  44.薬剤性肝障害の鑑別
  45.ST合剤の使用をめぐる問題点
  46.抗真菌剤の副作用
  47.メトロニダゾールの副作用

  48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用

 

■掲載過去履歴一覧
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