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全日本民医連第46回定期総会 運動方針

第46回総会スローガン

  • 平和的生存権・人間の尊厳を守る立場で、国連憲章・国際法に反する暴力・戦争を止めるために行動しよう。
  • 大軍拡を止め、多様性の尊重・ジェンダー平等といのち第一の政治を実現するために、共同組織とともに、地域から人権・公正の波を起こそう。
  • 70年の歴史を力に、「ケアの倫理」を深め、「2つの柱」の全面実践で、「人権の砦」たる民医連事業所を守り、発展させよう。

【 目 次 】

はじめに

第1章 全日本民医連結成70年今後へ何を引き継ぐか~この10年の時代と民医連の奮闘をふり返る~
 第1節 この10年間はどういう時代だったか
 第2節 10年間の綱領実践の特徴と今後に引き継ぐべき教訓

第2章 今日の情勢をどうみるか
 第1節 平和と人権保障をめぐる世界と日本の情勢
 第2節 いっそう拡大する格差と貧困、戦争する国づくりによるさらなる社会保障の切りすて

第3章 ケアの視点で「非戦・人権・くらし」を高く掲げ、平和で公正な社会を実現しよう
 第1節 平和とくらしを守り、人権としての社会保障を
 第2節 一人ひとりの尊厳を大切にする医療・介護活動の発展を
 第3節 断固として経営困難を乗り越え、事業と経営を守り抜こう
 第4節 高い倫理観と変革の視点を育む職員の確保・育成の前進を
 第5節 私たちのあらゆる活動のパートナー、共同組織の前進を
 第6節 民医連の組織的な強みに確信を持ち進化させよう

おわりに

■本文中の(※)については用語解説を載せています

はじめに

 2年前の45回総会が開催される前日、ロシアによるウクライナ侵略が始まり、私たち民医連は、断固たる抗議を総会の特別決議として採択しました。その第45回総会は、運動方針で、人権と公正、個人の尊厳、ジェンダー平等をあらゆる実践に貫くこと、いのちとケアを大切にする社会の実現を目標に活動することを明確にしました。
 この2年間、私たちはどのような人びとの困難に向き合ってきたでしょうか。コロナ禍で受け入れ病院が見つからない人、搬送してもらえなかった高齢者、酷暑のなか経済的困窮から体調を崩した人、医療にアクセス困難な外国籍の人や性的マイノリティーの人など、社会から周縁化された人びと(※注)。一方で私たち自身は、国が「経済優先」で感染コントロールを緩和したために、激増した新型コロナウイルス感染症患者に全力で向き合ってきました。現場での人手不足、自らの感染予防と体調管理、診療報酬抑制のもとでの経営困難などのなか、職場や共同組織の仲間、家族・友人とささえ合い、苦悩しながらも民医連の医療と介護の現場に立ち続けました。
 感染拡大期に救急医療体制がなかば崩壊し、特に高齢者のいのちが差別的に扱われる現実にも直面するなかで、議会や行政に要求を提出し、たたかってきましたが、できなかったこと、悔しかったことは少なくありません。日常の医療・介護活動および身近な生活に政治が直結することを強く感じ、長期にわたる失政を意識せざるを得ない2年間でした。そしていま、新型コロナウイルス感染症の5類移行を経て、感染対策は継続しつつ、研修や会議の持ち方、地域での活動など、いろいろな場面で直接の対面も再開され、コロナ禍をくぐった新しい局面に向かいつつあります。
 「無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす組織」(民医連綱領)である私たちが、医療・介護の現場で、「誰も置き去りにしない」、「その人をその人として大切にする」、「患者・利用者といっしょに考え行動する」実践をするとき、そこにある人権の担い手としての倫理は、医療・介護の根本であり、戦争を含むあらゆる暴力を阻む力でもある「ケアの倫理」(※注)に通じています。ウクライナで、ガザで、殺りくと破壊と人権の蹂躙(じゅうりん)が今もなお続けられ、国内では岸田政権が国民の合意もない約束をアメリカに表明し、43兆円を戦争の準備につぎ込もうとしています。そのような一人ひとりのかけがえのない、いのちと自由と尊厳を奪っていく戦争の対極に、私たちは医療・介護従事者として立っています。そしてその立ち位置は、国の内外で、経済格差の是正、気候危機への抜本的対策、平和と核兵器の廃絶、人種やジェンダーをはじめ、さまざまな差別の根絶を求めて立ち上がり前進している人たちとつながっています。
 民医連は結成70年となり、今回、沖縄で46回総会を開催しました。
 辺野古新基地建設に県民の意志として幾度もNOを示してもなお、司法制度の濫用まで行い工事を強行する国に対して、粘り強くたたかいつづけている沖縄県民、沖縄民医連の仲間と強く連帯しながら、これから2年間の私たち民医連の活動方針を練り上げる総会となりました。
 第46回定期総会は、第1に前総会からの総括と46期運動方針、時代認識と民医連の役割、私たちの到達点を深め、2020年代中盤へ向けた民医連運動前進の方針の決定、第2に45期決算の承認と46期予算の決定、第3に全日本民医連会費基準改定の決定、第4に46期運動方針実践に責任を持つ役員を信任しました。
 すべての県連・法人・事業所で方針を学び具体化し、団結して実践をはかりましょう。
全日本民医連は2023年6月7日、結成70周年を迎えました。民医連綱領のもと無差別・平等の旗を掲げ、人権の尊重と平和のために力を合わせて奮闘してきた70年は、「日本に、民医連があってよかった」(※注)と評される信頼を築いてきた歴史です。

第1章 全日本民医連結成70年 今後へ何を引き継ぐか~この10年の時代と民医連の奮闘をふり返る~

 全日本民医連は2010年の第39回総会で、半世紀ぶりに綱領を改定しました。新しい綱領の最大の特徴は、日本国憲法に依拠して平和と人権の実現をめざすことを自らの基本的立場に位置づけたことでした。それは、新自由主義、すなわち大企業の利益のために権利としての社会保障を否定して、国民に競争と自己責任を強いる政治の台頭のなかで、民医連の今日的なありかたを探求した成果でした。
 その後、2011年の東日本大震災と原発事故、2020年からの新型コロナウイルス・パンデミック、2022年からのロシアによるウクライナ侵略など、社会のありかたや人びとの価値観を大きく揺り動かす出来事があい次ぎましたが、ぶれずに「いのちの平等」を貫いてきました。民医連は新しい綱領を力に、各地で貧困打開や原発ゼロなど、いろいろなテーマで市民の協力した運動が発展するなか、共同を促す架け橋の役割を果たして奮闘しました。
 2012年12月の総選挙で、自民党・公明党が3分の2の議席を獲得して第2次安倍晋三内閣が発足しました。それは、「大企業が世界一活躍しやすい国づくり」(安倍氏)および「戦争する国づくり」を本格的にめざす政治のスタートになりました。
 社会保障の分野では2012年に、権利としての社会保障を否定し国民に自己責任を押しつける社会保障制度改革推進法が成立しました。憲法25条の解釈改憲であるこの社会保障の理念の変質は、今日まで引き継がれています。これに対して民医連は、「人権としての医療・介護保障をめざす提言」を策定し(2013年12月)、あるべき社会保障について財源論を含めて発信しました。
 この章では、結成60年(2013年)以降の10年間の時代の特徴と民医連の奮闘について、いのち・憲法・綱領の視点でふり返ります。

第1節 この10年間はどういう時代だったか
(1)軍事大国化・新自由主義政治と憲法を守り生かす国民運動
〈いのちとくらしの困難、平和の危機とその原因〉
 この10年、日本社会では貧困と格差が拡大し社会保障の機能が弱まるなか、多くの国民にとってくらしの困難が深刻なものになりました。「失われた30年」といわれるように、日本経済が長期にわたる停滞と衰退に陥り、希望が見えない閉塞へいそくした状況が続いています。
 また、アメリカとの軍事面での協力の拡大、日本の軍事力の強化が近隣諸国との緊張を高め、日本がアメリカの戦争に巻き込まれる危険性が高まっています。
 これらの原因が、7年間の安倍内閣、それを継いだ菅義偉・岸田文雄内閣による、日本国憲法を踏みにじる軍事大国化と新自由主義の政治にあることは明らかです。自民公明政権がおしすすめた政治の特徴は、次のとおりです。
 第1に、大企業が利益を上げればやがてその富が国民にも届くというトリクルダウンの経済政策で、徹底的に大企業の負担軽減ともうけの拡大をはかる一方、国民の生活困窮を放置し、社会保障・社会福祉を削減したことです。
 株価つり上げのための異次元の金融緩和や優遇税制などで、大企業の利益のためこみ(内部留保)はこの10年間で180兆円近く増え、510兆円にふくれあがりました。一方で国民には、消費税増税(5%から、2014年に8%、2019年に10%)や、生活保護費の削減(2012年から10%引き下げ)をはじめとする年金・医療・介護での負担増と給付の削減、労働者の4割にまでひろがった非正規雇用などが押しつけられました。医療機関・介護事業所も、診療報酬の6回連続の引き下げ(2014年度改定の消費税増税対応のプラス分除く)、介護報酬のマイナス改定によって、経営困難と現場の疲弊が深刻になりました。地域医療構想で急性期病床の削減がすすめられ、それはコロナ禍での医療崩壊にもつながりました。
 第2に、憲法の平和的生存権を投げ捨てて、「戦争する国づくり」をすすめたことです。
 2015年の安保法制(戦争法)での集団的自衛権の行使容認、2022年の安保3文書での敵基地攻撃能力の保有と大軍拡は、憲法9条とはまったく相いれないものです。
 第3に、民主主義をないがしろにしてきたことです。
 数の力を背景とした国会の論議の軽視、多数の民意に背き地方自治の本旨をもないがしろにする辺野古新基地建設や原発推進、教育やメディアへの介入、日本学術会議会員任命拒否や経済優先のコロナ対策などにみられる学問・科学の軽視、森友・加計問題や「桜を見る会」問題にあらわれた国政の私物化、数々のジェンダー差別発言などの人権無視、日本のアジアへの侵略戦争の事実を認めようとしない歴史修正主義、カルト集団である旧統一協会との癒着、政治とカネの問題など、枚挙にいとまがありません。
 軍事大国化(改憲)と新自由主義の推進は、「第2自民党」と党代表が自らを規定する日本維新の会などの一部野党の基本政策でもあり、そのような補完勢力の協力によってすすめられてきたことも重大です。

〈国民の連帯・共同の前進、新しい市民運動の発展〉
 このような政治に対して、多くの市民が主権者として、平和・人権・民主主義をめざして連帯・共同の運動をつくり出し対峙たいじしてきました。特に2015年の安保法制の強行を契機に、女性や青年学生、学者、文化人など多彩な分野で新しい市民運動がひろがりました。民医連はこうした共同の輪に加わり、運動をひろげる役割を担いました。
 2010年代前半、基地のない沖縄をめざす「オール沖縄」の運動、岩手県では2023年に5度目の達増たっそ拓也知事当選を勝ち取るなど、経済界も含む「オール岩手」の運動が前進、一連の国政選挙でも日本共産党など憲法を守る勢力が躍進しました。
 市民運動の発展は市民と野党の共闘を生み出し、2016年の参院選以降、立憲主義にもとづき憲法の理念を具体化する共通政策をかかげた野党統一候補が、多くの1人区で勝利しました。特に2019年の参院選では、改憲勢力の3分の2割れを実現しました。
 2021年の総選挙では、史上初めて市民と野党の共闘が政権交代に挑み善戦しました。一方、権力を失う危機感を抱いた支配層が、組織をあげた市民と野党の共闘への攻撃をくりひろげて、各選挙区で「際どい勝利」(自民党幹部)をおさめ、小選挙区制中心の民意を反映しにくい選挙制度により、改憲勢力が3分の2以上を占める結果になりました。2022年の参院選でも、改憲勢力が議席を伸ばしました。

〈国際的な平和と人権保障の発展〉
 世界ではこの10年、平和と人権保障をめぐる市民の運動が大きく発展しました。
核兵器禁止条約の採択(2017年)とその発効(2021年)は、人類史上初めて核兵器の非人道性を認め違法化し、日本の被爆者をはじめ「核兵器のない世界」を求める人びとの多年にわたる共同のとりくみが結実した歴史的壮挙でした。
 また各地で起こる紛争を解決するために、大国中心の軍事力強化や軍事ブロックという枠組みではない平和の国際的な協力が発展しています。特に東南アジア諸国連合(ASEAN)(※注)では、紛争の平和的解決を掲げた条約を土台に平和の地域共同体がつくられ、アジア・太平洋地域全体にひろげる動きが強まっています。
 こうしたなか、2022年からのロシアによるウクライナ侵略、2023年のイスラエルによるガザ攻撃など、世界の平和と人権、社会進歩への深刻な逆流があらわれました。これらに対しても、国連総会で侵略を許さず停戦を求める決議がかつてない圧倒的多数の賛成で議決されるなど、国連憲章(※注)と国際法にもとづく世界の協力と団結がすすんでいます。
 人権の面では、特に多様性の尊重、ジェンダー平等を求める巨大なうねりが起きています。男女賃金格差の解消、性暴力の根絶、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)、性的マイノリティーへの差別禁止などの運動が、世界的規模で発展しています。

〈憲法が生きる社会への転換期、変革期〉
 軍事大国化と新自由主義の継続か、それとも憲法にもとづき平和と人権・いのちが輝く社会への転換か、日本におけるこのたたかいは今後もいっそうの激しさをともなって続くでしょう。
 重要なことは、平和と人権保障の発展という世界的な流れからみても、日本にとって大局的には憲法が生きる社会への転換期、変革期にあるということです。今の政治と国民のくらしとの矛盾はいよいよ限界点に達しており、この政治が続く限り問題を解決することはできません。憲法を守り生かす国民的な共同の運動を大きく前進させることが決定的に重要であり、そこにこそ未来への展望があります。

(2)新型コロナ・パンデミックと「ケアの倫理」
〈コロナ禍、私たちはいかに奮闘したか〉
 2020年からの新型コロナ・パンデミックは、長年の社会保障切りすて政策による救急医療システムや保健所の機能不全、国民の医療にアクセスする権利の侵害、経済優先の「Go toキャンペーン」や東京オリンピックの強行開催など、新自由主義の害悪を深刻なかたちで明らかにしました。
 特にオミクロン株に置き換わった2022年1月以降の第6波から第8波では、重症化率の低下にもかかわらず、爆発的な感染拡大により流行のたびに過去最大の死者を生み出しました。医療・介護職員自身の感染、病院・施設内クラスターの多発による診療の限界も各地で経験しました。そういうなかでの2023年5月の感染症法5類への移行には、専門家会議の中心的メンバーからも「慎重さが必要」などの懸念が表明されました。
 民医連は感染拡大のなか、多くのいのちが失われ、一部にそれはやむを得ないものだという風潮もひろがるなか、倫理的なジレンマに苦悩しながらも、一人ひとりのいのちに寄り添うという姿勢を貫いてきました。医療資源の枯渇などの事態にも直面するなか、知恵と力をふりしぼり、患者・利用者・地域の人びとの受療権を守るため「医療・介護活動の2つの柱」(※注 以下、「2つの柱」)を実践してきました。そして地域の人びととともに「なんでも相談会」や食糧支援などを行い、東京オリンピックの中止を求める横断幕などによるアピール、さまざまな記者会見や国会での参考人意見陳述など、現場の問題を世に問い働きかける多彩な活動をすすめました。
 これらを通して、感染対策をはじめとする医療・介護の質の向上や多職種協働、地域のさまざまな個人・組織との協力と連携、全国組織としての支援など機能発揮と相互連帯が大きくすすみました。
 また民医連は、政府が医療・介護従事者に犠牲を強いるようなコロナ対策を続けるなか、患者・利用者を守ることと同じように、職員を守ることを第一義的課題として位置づけ、メンタルヘルスをはじめさまざまなとりくみを発展させました。
 新興感染症は今後も起こります。4年以上におよぶコロナ禍での活動をしっかり教訓化しましょう。

〈ケア労働の重要性と「ケアの倫理」〉
 コロナ禍のもとで、人びとの生命・安全・生活に直接かかわる対人的な仕事である、ケア労働(※注)の重要性が誰の目にも明らかになりました。同時に、ジェンダー差別を背景として、ケア労働の社会的地位や労働条件が極めて低い状態に置かれている問題も浮かび上がりました。
 そして今、ケアといういとなみの倫理的な特徴が注目され、それを社会のありかたの基本に据えるべきだという考えがひろがっています。
 「ケアの倫理」は、人と人との関係性の倫理として、一人ひとりが人間として尊重され依存し合い、共感と信頼によって相互作用するというものです。したがって、新自由主義の競争的価値観や自己責任論とは対極にあり、それを乗り越えていく上でも大きな力になります。そして「ケアの倫理」は、いっさいの暴力や戦争を許さない、公正で平和な社会づくりにもつながっています。
 私たちは、こうした「ケアの倫理」について大いに学び深め、日々の仕事はもちろん、政治や社会に実践的に生かしていくことが大事です。

第2節 10年間の綱領実践の特徴と今後に引き継ぐべき教訓
〈憲法を生かすことを中心に据えた綱領の全面実践〉
 私たちはこの激動の10年、憲法を生かすことを中心に据えた綱領の実践で存在意義を高め前進してきました。加盟事業所数は2013年の143病院含む1806事業所から、2023年11月現在、143病院含む1733事業所、職員数は7万7456人から8万2154人、共同組織は359万7784世帯(人)から352万8070世帯(人)になっています。
 医療・介護活動では、「生活と労働の視点(※注)」「共同のいとなみ(※注)」「民主的集団医療」などの理念と実践を発展させ、その内容が国連を中心とした世界の健康権実現のとりくみ(「すべての人に健康を」「健康の社会的決定要因(SDH)(※注)」「ヘルスプロモーション(※注)」など)と響き合うことを確認し、確信にしてきました。特にSDHについての学びを深め、42回総会(2016年)で「2つの柱」を提起し、多職種協働や地域連携を充実させつつ、各地で豊かに実践してきました。
 そして、手遅れ死亡事例など現場の事実の重みにもとづく社保活動、地域の個人・団体との共同によるまちづくり・平和活動や政治を変える運動、高い倫理観と変革の視点を育む専門職の確保・育成、特に医学生への働きかけや研修の充実・民医連運動を担う医師の養成、地域の共有財産としての経営を管理するしくみと力量の強化など、民医連組織の強み(あらゆる活動のパートナーとしての共同組織、県連・地協・全国機能)を生かして奮闘し、貴重な到達を築いてきました。
 また私たちは、この間の災害支援、とりわけ熊本地震の被災者支援活動を通して、医療・介護従事者としての職員の心身の健康を守ることが、地域の医療・介護を守り継続させるために不可欠であるという認識を深め、その経験と教訓をコロナ禍で生かしてきました。
 なお全日本民医連は2022年2月、『旧優生保護法下における強制不妊手術問題に対する見解』を発表し、半世紀近くも続いた重大な人権問題を組織として認識できず、社会問題としてとりくめなかったことに重い責任を自覚し、被害当事者および関係者のみなさんに謝罪しました。そして自らの弱点として、当事者との結びつきの弱さやパターナリズムなど、人権意識・倫理観の不十分さなどについて自己分析。今後、こうした問題をくり返さないために社会進歩と自己変革の視点から「学び続け」、私たちの倫理規範として「共同のいとなみで個人の尊厳を守ることに最大の価値をおく」決意を表明しました。
 2013年12月に長野民医連・特養あずみの里でおやつを食べた入所者が死亡し、近くにいた職員が業務上過失致死罪で起訴されるという重大事態が起こりました。全日本民医連は現地の「無罪を勝ち取る会」とともに6年7カ月に及ぶ刑事裁判支援闘争を行い、2020年7月28日に東京高裁で逆転無罪を勝ち取りました。「日本の介護の未来がかかった裁判」として各方面に支援の輪が大きく広がり、被告とされた仲間の名誉を守りぬき、食の重要性を含む特養でのケアのあり方を示す画期的な勝利になりました。

〈今後に何を引き継ぐか〉
 民医連70年の歴史、特にこの10年をふり返って、今後に引き継ぐべき教訓は次のとおりです。
 第1、いのちに寄りそう医療・介護活動。
 パンデミックや戦争など「いのちの重み」がないがしろにされる状況を絶対に認めず、患者・利用者一人ひとりの尊厳を守り、いのちに寄り添い、そのくらしをささえることに専門職としての最大の矜持きょうじをもって知と技術を駆使してきたことです。そして「2つの柱」を明確にし、各地で豊かに実践してきたことです。
 第2、「たましい」としての社保・平和活動、政治を変える運動。
 「人びとの苦難あるところに民医連あり」「たたかいあるところに民医連あり」という伝統を継承し、日常的な医療・介護活動と一体に、「民医連運動のたましい」と言われる社会保障活動や平和活動、政治を変える活動に一貫してとりくんできたことです。日本での軍事大国化の動きが強まるなか、創立以来の「いっさいの戦争政策に反対する」立場を断固として貫き、非戦の旗を掲げ続けてきたことは私たちの誇りです。
 第3、職員の成長と健康を守る活動を土台に。
 綱領、憲法、人権を要とした職員の学習と日々の実践、それを通した成長を、民医連運動の維持・発展の土台として重視してきたことです。また、職員の心身の健康を守る活動の位置づけを高め、とりくみを発展させてきたことです。高い倫理観と変革の視点を育む職員育成と、健康で働き続けられる事業所・職場づくりが大切です。
 第4、非営利の事業と全国的結集・団結。
 科学的で民主的な管理と運営に努力し、非営利の事業・経営を継続させてきたことです。また、いろいろな組織的困難を全国の連帯の力で乗り越えてきたことです。特に経営の困難は、民医連の存亡にかかわる課題として認識を共有し、県連・地協・全日本の機能を高めつつ、結集と団結の強化をはかってきたことが重要です。
 第5、「共同のいとなみ」をあらゆる活動に。
 医療・介護活動や運動課題などすべての活動で、患者・利用者・地域の人びととの「共同のいとなみ」を大切にして貫いてきたことです。民医連運動にとって不可欠の存在、あらゆる活動のパートナーである共同組織と力を合わせ、また、さまざまな個人・団体との連帯・連携を大きくひろげてきました。そのなかで私たち自身が大いに学びながら成長し、組織を発展させてきたことに確信を深めましょう。

第2章 今日の情勢をどうみるか

第1節 平和と人権保障をめぐる世界と日本の情勢
(1)すべての国は国連憲章と国際法を守り、戦争の停止を
 2度にわたる世界大戦の教訓から戦争をくり返さないと決めた国連憲章を踏みにじり、国際人道法(※注)をはじめ、決して越えてはならないはずの人道上の危機が進行しています。
 ロシアのウクライナ侵略(2022年2月24日~)は終わりが見通せず、戦争の惨禍は拡大しています。イスラエルがガザ地区へ凄惨せいさん極まる軍事攻撃を続けています(2023年10月7日~)。
 国連は、総会で2022年、2023年に4回ロシアの行動を「国連憲章に違反する行為」として厳しく非難し、ウクライナからの即時の撤退を求める決議を行いました。2023年9月には、G20(金融・世界経済に関する首脳会合)でロシアを含め、この国連総会決議を再確認する首脳宣言が採択されました。
 イスラエル軍によるガザ地区の医療機関、学校を含む大規模な破壊がすすめられ、住民の南部地域への移動の強制や多くのいのちが奪われています。10月7日以降の2カ月で、パレスチナ側の死者は1万6000人を超え、死者のうち子どもは7000人以上です。これらは武力紛争の事態にあっても人道を基本原則として紛争当事者の行為を規制する国際人道法に違反する戦争犯罪であり、殺戮の規模と残虐さから禁じられている集団殺害(1948年ジェノサイド条約)に該当する可能性も指摘されています。直接の契機となった10月7日のガザ地区のイスラム原理主義集団ハマス(※注)による民間人の無差別殺害、拉致が国際法違反であることは明確です。しかしガザ地区は1967年の第3次中東戦争でイスラエル軍が占領した地域の一つで、2007年にはガザ地区を封鎖する政策を実行し、たびたびの空爆を行い、多くのパレスチナ人の虐殺をすすめながら領土拡大が続けられてきた背景があります。
 12月12日、国連総会の緊急特別会合の人道目的の即時停戦を求める決議案は、反対がアメリカやイスラエルなど10カ国に対し、賛成は日本を含む153カ国という圧倒的賛成多数で採択されました。ガザ地区に攻撃を続けるイスラエルと、イスラエルを擁護するアメリカが孤立し、国際社会の総意が即時停戦にあることが示されました。
 ウクライナ侵略とガザ危機という問題に対し、アメリカは、ロシアによるウクライナ侵略を国際法違反と非難しながら、イスラエルの国際法違反の行為を容認、「自衛権行使」の名のもとで擁護しています。ロシアは自国のウクライナ侵略を正当化しながら、イスラエルの行動を国際法違反と非難しています。こうした、アメリカとロシアの自国に都合のいいダブルスタンダード(二つの基準)で対応することは許されません。
 多数の民間人を犠牲にする戦争はあってはならないと多くの市民がウクライナ侵略、ガザ攻撃の即時停止を求めて声をあげています。
 どんな国であっても、覇権主義(※注)は許されず、国連憲章と国際法を守る一点で、対話を通じて争いを解決することこそ平和を実現する道です。

(2)核兵器禁止条約第2回締約国会議の成果、平和に向かう国際的地域協力
 2021年1月22日の核兵器禁止条約(以下、禁止条約)の発効は核兵器が国際法により違法化される新たな時代の幕開けとなりました。今日、禁止条約の実行力が発揮され、核兵器のない平和で公正な世界へ向け前進しています。
 2023年12月1日に開かれた核兵器禁止条約(TPNW)(※注)第2回締約国会議は、「人類の存亡にかかわる核兵器の脅威に対処し、禁止と廃絶に向けて確固たる決意でとりくむ」との政治宣言(以下、宣言)を採択し閉幕しました。宣言は人類は「世界的な核の破局」に近づき「核抑止論(※注)の正当化」は核の拡散のリスクを危険なほど高めており、核による威嚇は国際法に違反し世界の平和と安全を損なうだけと「核抑止力論」「核兵器使用の威嚇」を厳しく非難しました。その上で、現在と未来の世代のために、核なき世界の実現に向けたたゆまぬ努力を続けるとし、各国に対して核兵器禁止条約への参加を呼びかけました。
 この会議には、59カ国・地域のほかに、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツ、ノルウェー、ベルギーがオブザーバー参加。日本からは広島や長崎の被爆者が、自身の体験にもとづいた核兵器の非人道性を国際社会に訴えました。唯一の戦争被爆国としての重要な役割を果たすべき日本政府は、「核保有国が参加しておらず、その道筋もみえていない」として、第1回会議に続き今回も参加を見送りました。
 世界では平和のための地域協力がすすんでいます。10カ国が加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)が、紛争を平和的な話し合いで解決することを義務とした東南アジア友好協力条約(TAC)(※注)を締結、北朝鮮、中国も加盟するこの枠組みで対話を積み重ね、分断と敵対から平和と協力の地域へと変化させています。2019年には東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の合意による「ASEANインド太平洋構想(AOIP)(※注)」が打ち出され平和の地域協力をインド・太平洋という広大な地域にひろげ、将来的に東アジア規模での友好協力条約となるよう実践が始まっています。すでに、2023年9月の東アジアサミットでは、AOIPの実践とあらゆる政策に反映させ、ひろめていくことを支持する共同声明がまとめられました。東アジアを戦争のない地域としていくことは可能であり、憲法9条を生かした外交努力のできる日本の役割は大きなものがあります。

(3)気候危機の打開、脱炭素・脱原発~地球と人類を守るために
 気温の急上昇、洪水、森林火災、熱波、干ばつなど、気候危機が地球を襲い、人類のくらしを脅かし、たくさんのいのちを奪っています。気温上昇によって海面の上昇を引き起こし、環境、生態系に影響し、農業、漁業へも大きな影響を与えています。国際社会は、世界平均気温上昇を産業革命前に比べ1.5度に抑えることを共通の目標としています。
 国連環境計画(UNEP)が2023年11月20日に発表した温暖化対策についての報告書では、「各国が2030年に向けて掲げた温室効果ガス目標を達成しても、今世紀末までに世界の平均気温が約3度上昇する」との見通しを示しました。また、2023年の地球全体の平均気温は、観測史上最高となっています。まさに「地球沸騰化の時代(国連事務総長)」です。気候危機に歯止めをかけるとりくみに猶予はなく、温室温暖化ガスの排出の削減を確実で抜本的に強化、加速することが不可欠です。
 国連気候変動枠組条約第28回締約国会議COP28は、「化石燃料の段階的廃止」という文言をめぐって成果文書が合意されず、会期が延長されるという異例の展開となりましたが、最終的には「化石燃料からの脱却」で採択されました。今回、世界の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍にすることに日本も含む100カ国以上が賛同するという前進面がある一方で、2050年までに世界全体の原子力発電の設備容量を3倍にすることをめざす宣言に、日本を含む22カ国が賛同するなど、複雑な逆風が存在することが明らかになりました。
 気候危機にわが国のとるべき打開策は、脱炭素をすすめ、再生可能エネルギーへとエネルギー政策を転換することです。
 2023年2月、岸田政権は「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針」を閣議決定し、「GX脱炭素電源法」を強行しました。それは、原発の60年超運転を可能とし、原発の新増設にも踏み込む、原子力依存、推進への大転換です。現在、老朽原発の再稼働が次々とすすめられようとしています。
 東京電力福島第一原発事故から13年が経とうとしていますが、いまだ2万7千人もの人びとが避難生活を強いられています。避難指示地域の医療機関や学校などが十分に再開せず、同地域の居住者数は事故前に比べて低いままで、生業の復興も道半ばです。福島第一原発のALPS処理水(※注)放出は、政府が地元の合意なしには行わないという自ら結んだ最低限の約束も反故ほごにし、強行しています。
 北海道寿都町と神恵内村、山口県上関への核のゴミの押しつけ問題や、青森県六ケ所核燃再処理施設の稼働の動きに注視するとともに、住民運動で核のゴミ処分場誘致をはね返した長崎県対馬市の経験に学びながら、様々な課題で原発推進政策に対峙していくことが求められます。
 さらに気候変動の大きな要因である石炭火力について、火力発電のLNGや石炭を水素、アンモニアに置き換えれば「CO2を出さない火力発電」が可能と説明、「脱炭素化」して使い続けると強弁しています。しかし計画は、海外で天然ガス、石炭を改質し、水素、アンモニアをつくるとなっており、その製造や、タンカーでの輸送の段階で大量にCO2を出します。国際社会では2050年代までに世界で全廃、特に先進国は30年までに全廃することが必要とされているときに、この流れにまったく逆行し再生可能エネルギーへの転換を妨げる政策となっています。
 COP28で日本は、国際環境団体が気候変動対策に消極的な国に贈る、不名誉な「化石賞(※注)」を4年連続で受賞しました。

(4)人権、個人の尊厳、ジェンダー平等、多様性が尊重される社会をめざす運動の前進
 世界では、男女賃金格差の完全な解消をめざすEUの動き、同性婚の法制化、性的マイノリティーへの差別禁止、中絶の禁止の動きに対し、セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の保障、女性・子どもへの暴力根絶など、人権、ジェンダー平等、多様性が尊重される社会をめざす運動が大きく前進し、各国の政治を動かしています。2020年アメリカで起こったBLMの運動(※注)を契機に、オランダ、ドイツ、メキシコ、オーストラリアなどで、奴隷制度や先住民への虐待への謝罪などの動きがあり、世界的にひろがっています。
 国内でも各地で性暴力に抗議し、その根絶を求めるフラワーデモがひろがり、また自治体でのパートナーシップ制度は全国での人口カバー率が70%を超えました。同性婚を認めていない現行法に対する違憲判決があい次いで出され、性別変更における手術の強制は最高裁で違憲判決が確定しました。
 中核的人権条約を補完する選択議定書(※注)の早期批准を求める声、ジェンダーや多様性などへの理解をすすめるため、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」にもとづく包括的性教育(※注)の実施を求める運動もひろがっています。
 世界経済フォーラムが発表した2023年の日本のジェンダーギャップ指数は、146カ国中125位と過去最低となりました。2006年時点では80位でしたが徐々に低下、2015年以降、安倍政権(当時)のもとで急速にその順位を下げていることも特徴です。賃金の男女格差、女性管理職の少なさなど労働分野でのジェンダーギャップの大きさ、政治分野での女性割合(衆議院10%、参議院27%、女性首相が誕生したことがない)が大きく影響しています。賃金格差の実態は、平均年収で男性563万円、女性314万円。さらに非正規雇用の増大により、もっとも多い階層が男性では400万円~500万円に対し、女性は100万円~200万円と大きな差が生じています。
 また、岸田政権は、211通常国会での「LGBTQ理解増進法」(※注)、「入管法」改悪(※注)など人権問題へのとりくみを大きく後退させています。各界で長年にわたり起きていた性加害やハラスメントが顕在化しています。力ある者の業界支配、個人の人権がないがしろにされていることが見逃され、自浄作用が働かないまま総括されないことは、日本社会における人権保障の後進性が修正されないことにもつながり、看過できないものです。
 2022年9月、国連障害者権利委員会は、障害者権利条約に沿った日本の施策の進ちょく状況を審査し、総括所見(勧告)を公表しました。そこでは障害者の人権をめぐり、世界標準と日本との大きなギャップを改善するよう、多方面の勧告が出されました。法律・政策の基本的な考え方を医学モデルから社会モデル・人権モデルへ転換すること、そして政策などの意思決定過程に多様な障害者の代表を参加させること、「自立した生活と地域社会への参加」として、障害児を含む障害者の施設収容を廃止し、地域で自立して生活できるような支援を行うこと、精神科病院の強制入院を障害にもとづく差別として、自由を奪っている法令の廃止などを求めています。社会にひろがる優生思想や能力主義の撲滅と、旧優生保護法のもとで優生手術を受けた被害者に一時金を支給するという対応を変え、すべての被害者に謝罪と救済を求めています。

第2節 いっそう拡大する格差と貧困、戦争する国づくりによるさらなる社会保障の切りすて
(1)市民生活の困窮の拡大~その原因を断ち切ろう
〈市民生活の困窮の現実とひろがる格差〉
 日本での貧困のひろがりを見ると、年収200万円以下のいわゆるワーキングプアが非正規雇用を中心に1126万人(21.4%)、16年連続で1000万人を超え、高水準のまま推移し、女性労働者で約40%、男性で約10%を占め、同時に年収400万円以上の「中間層」の減少が顕著です(図1、2)。
 高齢者の安心できる生活をささえる公的年金制度は、1986年の基礎年金の導入以降大幅な引き下げが続き、20年以上の間、実質支給額が引き下げられ、年金だけではくらしが成り立たたない実態となっています(図3)。こうしたなかで、安倍政権以降、「生涯現役社会の実現」の掛け声のもと、高齢者雇用は300万人以上拡大しましたが、実態は低年金・無年金、労働力不足を補わされ、賃金の低い非正規雇用制度により、高齢者の生活困窮は拡大しています。
 子どもが家事や介護をささえるヤングケアラーが社会問題となっています。子どもの貧困率は11.5%に達し、就学援助の利用は129万人(14.5%)、貯蓄ゼロの世帯は単身で35%、二人以上世帯で23%となっています。内閣府の調査でも、ひとり親世帯の10%が「週に朝食をほとんど食べない」と回答、親の貧困と子どもの生活困難の連鎖が顕著にうかがわれる結果が表れています(図4)。
 労働者の実質賃金は10年間で年間24万1000円減少し、四半世紀で史上最低にとなる一方、大企業(資本金10億円以上)の内部留保金は増え続け、2022年で511兆4000億円、10年間で180兆円増加、格差がひろがり続けています(図5)。

〈物価高騰のもとでくらしの危機をもたらした要因、つくられた困窮〉
 こうした状況の根本的要因は、新自由主義的政策によって、企業の利潤のみを追求し、労働法制の規制緩和、低賃金を固定化し、税制と社会保障制度を改悪し負担増と給付削減をくり返してきた政治にあります。
 法人税率の引き下げとセットで消費税率を連続的に引き上げた結果、税収は史上最高となるなかで、逆進性の強い消費税が一番多い税収という姿となり、税金の持つ応能負担の原則と富の再分配という役割(※注)が果たせなくなっています。
 こうした政策に、コロナ禍、物価高騰が襲い、家賃、食費、学費などの日常の支払いに困っている人への融資はコロナ前(2019年)の2.8倍となる(生活サポート基金調査、2022年)など、市民生活は塗炭とたんの苦しみとなっています。
 私たちのとりくんでいる「コロナ禍の生活困窮調査」「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」「歯科酷書」など、健康権を侵害している困窮の事実を明らかにし、可視化する活動や、「2つの柱」の実践がますます重要です。

(2)岸田政権の政策動向~9条、25条の解体を実行するいのち軽視の社会
〈憲法違反の大軍拡の強行〉
 2022年12月に「安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)」が、国会で審議されることなく閣議決定されました。
 「安保3文書」の最大の問題は、憲法にもとづく専守防衛を取り去り、「台湾有事」を想定した「敵基地攻撃能力(反撃能力)」を保有することです。それにより台湾でアメリカと中国の軍事的衝突があれば、それを「日本有事」とみなし「安保法制(戦争法)」にもとづく集団的自衛権を行使、中国に先制攻撃を行う、そのために軍事力の増大(大軍拡)を行うとしたことです。
 岸田政権はこの大転換に伴い、安倍政権を超える大軍拡に踏み込み、日本の防衛費=軍事費を、5年間で総額43兆円、NATO基準のGDP(国民総生産)比2%にし、アメリカ、中国に続く世界第3位の軍事大国をめざしています。
 この背景には、アメリカのトランプ政権、バイデン政権が、対テロを掲げた戦争戦略から急速に台頭した中国への対決方針へ政策転換したことがあります。中国の武力行使による台湾の統一強要の危険性を指摘、アメリカと中国の武力衝突を想定したものです。もっとも軍事的に重視されるのが、フィリピンから台湾、沖縄、南西諸島、馬毛島までの地域であり、自衛隊の戦闘参加も前提となっています。
 自衛隊は、アメリカの世界戦略、中国敵視の政策に組み込まれ、アメリカ軍の指揮のもと、憲法違反の敵基地攻撃能力を持ち、集団的自衛権を行使することにより、戦争する軍隊につくり変えられつつあります。そのための防衛費の拡大は、社会保障をはじめ、くらしに必要な財源を削減することでしか実現しません。

〈強まった改憲の動きと阻止してきた運動の力〉
 敵基地攻撃能力や大軍拡による戦争の準備は、不戦と戦力不保持を定めた憲法に違反する事態です。岸田首相は、2024年9月までの自民党総裁任期中の改憲を明言しており、自民党、公明党、日本維新の会は憲法への自衛隊の明記、緊急事態条項の創設をめざしています。9条に自衛隊を明記すれば、戦力不保持・交戦権否認の規定が空文化し、自衛隊が何の制約もなく海外での戦争に参加できます。緊急事態条項の創設は、国民の人権を制限するもので、戦争する国づくりが目的です。しかし、国民世論は、岸田首相の在任中の改憲を行うことについて、「賛成」は35%で、「反対」が47%と、1年前の調査と比べて反対が賛成を逆転しました(2023年4月、毎日新聞調査)。改憲を止めてきたのは市民の運動の力であり、多くの国民が改憲を望まず、憲法を変えるより、憲法を守り生かすことを求めています。

〈辺野古新基地建設強行〉
 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設は、大浦湾側の軟弱地盤の存在によって工期が当初の5年から12年以上に延び、費用も当初の約2.7倍の9300億円にふくらみ、それ以上かかることが確実となっています。国が申請した軟弱地盤の改良工事の設計変更に対して、新基地建設に反対する県は不承認としました。ところが国は、県が上告中でも埋め立てできるように「代執行(※注)」という方法で強権的に基地建設を強行しました。しかし計画通りに工事がすすんでも施設の供用開始まで12年かかり、その間、米軍は普天間基地を使い続け、政府の言う「普天間基地の危険性を一刻も早く取り除く」という説明は完全に破たんしています。普天間基地の即時閉鎖、無条件の撤去こそ「危険性」を取り除く唯一の方法です。
 2023年11月、鹿児島県屋久島沖で米軍CVオスプレイが墜落し、米軍が所有するオスプレイの事故では過去最多にあたる8人の犠牲者を出し、米軍はオスプレイ全機の運用停止を発表しました。オスプレイは開発段階から事故をくり返し、構造的な欠陥機と言われてきた軍用機です。日本には、アメリカ以外で最多の44機が配備され、自衛隊への配備まで行われています。墜落事故後に日本政府はアメリカ側に「安全が確認されてから飛行」するよう求めるだけで、事故後1週間、日本国内でオスプレイは飛行を続けました。運用停止にとどまらず、全機撤去が求められます。
 辺野古新基地建設とオスプレイ配備に共通するのは、日本政府のアメリカ言いなりの姿勢です。その根底には日米安全保障条約(1952年発効、1960年改訂)(※注)によって、米軍基地の恒久化(全土基地方式)、米軍駐留費の負担(思いやり予算)、日米共同作戦(アメリカの戦争への参戦義務)などを内容とする軍事同盟と、この条約にもとづき米軍、米兵に特権を与えている日米地位協定(※注)があります。

〈異次元の大軍拡をまかなうための社会保障費削減、大増税、国民負担増、そして生活破壊〉
 「防衛力整備計画」にもとづく「防衛力整備事業」は、2022年から2027年までに総額43兆円(GDP比2%)となります。2028年度以降に支払う後年度負担額が16兆円あり、総額59兆円を超える規模となります。
 こうした莫大な財源を生み出すため、2023年の211国会では「防衛力強化資金」を強行可決で創設し、税外収入(4兆6000億~5兆円)、決算剰余金(3兆5000億円)、歳出改革(3兆円)、残りを所得税・法人税・タバコ税の増税で14兆6000億円程度を補うこととしました。歳出改革の大半は社会保障費の削減です。2022年12月、全世代型社会保障構築会議の報告書「全世代で支え合い、人口減少・超高齢社会の課題を克服する」(以下、報告書)が出され、211国会では、「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」を強行、大軍拡財源を安全保障財源と言い換え、それを確保するため社会保障費の歳出改革=削減をすすめるとされました。医療・介護を高齢者向けの社会保障とあおり、若い世代・子育て世代と対立させ、医療・介護の給付を削減し、負担を増加させるものです。

〈医療・介護制度改悪のプラン〉
 医療・介護の提供体制について2024年度からいっせいに開始される第8次医療計画の策定、第4期医療費適正化計画の策定、第10次高齢者保健福祉計画および第9期介護保険事業計画の策定へ向けた作業がすすめられ、全体として提供体制の縮小、負担増の路線がつくられようとしています。

①医療提供体制
 第8次医療計画の策定は、コロナ禍を踏まえた体制の充実をはかる方向ではなく、公的医療費抑制策の手段としてすすめられています。公立・公的病院の再編・統合、2次医療圏をより広域化しての再編・統合も検討され、コロナ対応で重要な役割を果たしてきた公立病院は「公立病院経営強化ガイドライン」によりいっそうの再編・統合をすすめるなど、さまざまな病床削減がすすめられようとしています。2024年から始まる絶対的医師不足の解消抜きの医師の働き方改革がすすめば、医療提供体制の縮小を加速させる可能性があります。
 2024年診療報酬改定は、安倍政権以降続いている本体のアップが0%台、薬価の引き下げのまま、6回連続でマイナス改定となりました(2014年改訂のみ消費税増税対応のためプラス1.3%改定)。厚生労働省の調査で、2022年度の一般病院の利益率はマイナス6.6%、コロナ禍で非常に悪化した前年と比べてもさらに1.2%の悪化です。診療所の利益率も、コロナ前とコロナ後は改善どころか横ばいとなっています。コロナ対応への財政支援が大幅に縮小されたため、2023年度は利益率の大幅な悪化、資金面でも危機に陥る医療機関の増加が予想されています。
 政府による公平に行き渡らない処遇改善策と各事業所の経営困難の拡大は、人材確保の厳しさを拡大し、医療機関の入職超過率(入職率―離職率)は、2017年から2019年の平均1.8%から2022年は0%にまで落ち込んでいます。

②介護保険、第9期をめぐる情勢
 2022年秋、政府は要介護1、2のサービス削減、ケアプラン有料化など「史上最悪」とも称された制度見直し案を提案しましたが、広範な反対世論を前に全面実施は先送りとなり、さらに検討が継続されていた利用料2割負担の対象拡大についても今回は見送られました。
 2024年度介護報酬改定は1.59%のプラス改定となりました。率としては過去2番目に高い引き上げであり、報酬の底上げを粘り強く求めてきた運動を反映したものです。しかし、全産業平均給与と月額約7万円の隔たりを解消する引き上げ水準とは到底いえません。この間の物価上昇に見合ったものではなく、実質的にマイナス改定といってよい水準です。訪問介護系の基本報酬を軒並み引き下げたことは断じて許すことはできません。さらに改定のなかで、福祉用具の貸与・購入選択制の導入、テクノロジー機器の使用を要件とした人員配置基準の切り下げなどの制度改悪が盛り込まれました。施設多床室の室料については、一部老健(「その他型」「療養型」)と介護医療院(「Ⅱ型」)において、8㎡/人以上の居室面積の場合を対象に、月額8000円相当を徴収することが確認されました(低所得者を除く)。介護保険料は、決して「高所得」とはいえない「年収420万円以上」の高齢者を対象に引き上げられることになりました。
 現場の人手不足は年々深刻化しています。ヘルパーの有効求人倍率は15倍を超え、事業の存続自体が危ぶまれています。2022年度は初めて介護職全体の就業率を離職率が上回るなど、他分野への人材流出も進行しており、このままでは事業の継続はおろか、介護保険制度そのものが維持できなくなる事態が生じかねません。しかし、政府は大幅な処遇改善・増員ではなく、少ない体制でケアを担わせる「生産性の向上」「効率化」を本格化させる方針です。
 こうしたなかで、2025年度には今回見送りになったケアプラン有料化などの改悪案の審議が開始されます。巨額の軍事費を聖域化した上で、新たな少子化対策の財源を確保するための徹底的な歳出改革がねらわれるなか、介護・社会保障給付に対する削減圧力が格段に強まることが予測されます。
 各自治体では2024年度から第9期の介護保険事業計画がスタートします。この土台とされているのが10年ぶりに見直された医療介護総合確保方針であり、「ポスト2025年の医療・介護提供体制」を示し、基本的な方向として、「地域完結型医療・介護提供体制の構築」、「人材の確保と働き方改革」、「デジタル化・データヘルスの推進」、「地域共生社会の実現」の4点をあげています。2040年に向けた今後の高齢者の増加、生産年齢人口の減少を前提に、地域の実情や要求を反映している側面はありますが、全体として介護給付費のさらなる抑制、提供体制の集約化、「生産性の向上」の名による効率化をいっそう強めていく方向です。地域共生社会を2040年に向けた実現目標として掲げており、地域包括ケアはそのための中核的な基盤として位置づけられていることが特徴です。

③少子化対策を社会保障削減と保険料の増額でまかなう
 2023年12月5日全世代型社会保障構築会議は、少子化対策の財源確保を口実として社会保障削減の工程案を示しました。2024年度に介護利用料の2割負担の対象拡大、入院時食事療養費負担の値上げ、2028年までに、医療・介護の3割負担の対象拡大、高額療養費の自己負担限度額の見直し、ケアマネジメントの有料化導入の実施検討・決定などを求めています。
 さらに新たに「支援金制度(仮)」を構築するとして、月額一人500円程度、本人と企業同額負担で1兆円をまかなうとし、社会保険料の負担増を打ち出しています。社会保険料の増加は、医療・介護の充実のための負担であり、その保険料を目的の違う少子化対策に使用することは、原則から逸脱した無法な行為です。

(3))政府のDX政策とマイナンバーカード問題
 現在、岸田政権が強力に推進しているのが「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」(社会保障DX)であり、その柱とされているのが「全国医療情報プラットフォーム」の構築です。患者、利用者の医療・介護情報を収集して医療機関、介護事業所での共有化をはかる仕組みであり、医療・介護の質の向上や連携の強化に資するとともに、患者、利用者が自らの医療・介護情報にアクセスすることを可能とするものです。しかし、政府が運用するマイナポータルとマイナンバーカードを活用することが前提とされており、本来任意とされているマイナンバーカードの取得を強制するために、マイナンバーカードとの一元化による健康保険証の廃止がねらわれていることは重大です。受療権やフリーアクセスに対する許しがたい侵害であるとともに、カードの保管、更新手続きなどに対応せざるを得ない介護施設・事業所に、過大な負担とリスクを強いるものです。さらに、自分の情報を自らコントロールする権利を憲法上の権利として認めていないなど、システム運用の大前提となる個人情報保護に対する考え方や規定の整備も極めて不十分であり、欧州の保護水準から決定的に遅れている実態があります。
 マイナ保険証をめぐっては、情報の誤登録やひも付けの誤りなどのトラブルが多発しており、医療機関で保険資格の確認にマイナ保険証が使用された比率は毎月減少し続け、2023年12月現在、全体の5%を切っているありさまです。岸田政権は保険診療を大混乱させた反省もないまま、2024年12月2日をもって現在の医療保険証を廃止することを明言しています。保険証廃止後はマイナ保険証をもたない人全員に資格確認書を交付するとしていますが、そもそも現行の保険証を存続させれば不要です。巨額の予算と人手をかけて、欠陥だらけのマイナ保険証に一本化するのは愚策というしかありません。
 岸田政権が推進しているDX政策の背景には、個人情報を企業活動に活用したい財界の強い意向があります。本来、DXは日常生活上の利便性の向上や健康増進、社会参加や民主主義の推進などに資すると考えられますが、こうした目的を達成する「社会ためのDX」ではなく、人権を軽視し、利益の確保を目的とする「企業のためのDX」として展開されている点に、日本のDX政策の根本的な問題・矛盾があります。

(4)人口減少と地域課題
 日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少に転じています。出生率(合計特殊出生率)は1970年代半ばから鈍化し始め、その後年々低下し、2022年は1.26(人口維持可能な出生率は2.07)、出生数77万人といずれも統計開始以来最低の水準となりました。2023年4月、国立社会保障・人口問題研究所が公表した新たな将来人口推計では、総人口は2056年に1億人を切り、2070年は現状から3割減の8700万人、出生数は50万人まで落ち込み、高齢化率は4割弱に達すると予測されています。日本は、人口規模の縮小が急速な少子化と高齢化を伴う形(人口構成)で進展しています。
 第2次安倍政権は、「50年後も人口1億人程度を維持」という目標をあげ、さまざまな政策を掲げましたが、出生数の低下傾向が反転することはありませんでした。政府の人口減少・少子化政策の土台に据えられたのは、20~39歳の女性人口の減少を根拠に、2040年までに自治体の半数が消滅すると提言した「増田レポート」(2014年)です。政府は新自由主義政治を徹底するなか、「自治体消滅論」で危機感をあおり、都市部への資源の集中、自治体再編、公共施設・交通機関の統廃合などを推進してきました。その結果、地方の人口減少・過疎化が加速し、地域の疲弊・困難がいっそうひろがっています。岸田首相は「2030年までが少子化克服のラストチャンス」とのべ、2023年6月、「異次元の少子化対策」を打ち出しましたが、政策の中身も財政規模も不十分な内容であり、人口減を前提とした将来像を示すものとはなっていません。
 子どもを「産む、産まない」の選択は、個人の自由な選択に委ねられるべきものであり、それを前提にしながら、人口減少・少子化をもたらしている要因を明らかにし、それを取り除く抜本的な政策が求められます。出産・育児や子育て環境の整備、教育の無償化、家族の形成を可能にする雇用保障、多様なカップルによる出産・育児の保障など、経済成長を優先させてきた新自由主義政治を転換し、ジェンダー格差の打開をはかることが必要です。
 少子化、「超」高齢化が進展していくなか、地域の医療・福祉体制の確立は不可欠な課題です。現在、政府がすすめている地域医療構想にもとづく医療体制(入院病床と医師をはじめとする医療従事者)の集約化は、人口減少をいっそう加速させ、住めない地域をつくり出すものです。人口減少は医療・福祉政策を縮小させる理由にはなりません。それぞれの地域の実情に見合った医療・福祉の保障体制を当事者、住民参加のもとで築いていくことが求められており、国はそのことに責任を果たさなければなりません。
 総人口の減少が回避できないなか、人口増を前提にした高度経済成長時代の「成功体験」にもとづく、従来型の経済成長政策から早期に脱却しなければなりません。医療・福祉ニーズがいっそう高まっていくなか、ケアを中軸に据えた産業構造・就業構造への転換を含め、人口減を踏まえた新たな社会ビジョンをつくりあげ、それにもとづいて政治・経済、社会のありかたを抜本的に見直していくことが求められています。
 一人ひとりの人権が守られ、住み慣れた地域、本人が望む場所で豊かにくらせる社会をつくることが課題です。人口減少社会にどう向き合うのか、この点においても日本は重要な転換点にあります。

第3章 ケアの視点で「非戦・人権・くらし」を高く掲げ、平和で公正な社会を実現しよう        

 44回総会で私たちは、2020年代の4つの課題をまとめました。
(1)平和、地球環境、人権を守る運動を現場から地域へ、そして世界に
(2)健康格差の克服に挑む医療・介護の創造と社会保障制度の改善
(3)生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系と方略づくり
(4)高い倫理観と変革の視点を養う職員育成の前進
 その後私たちは、コロナ禍に全面的に立ち向かい、ウクライナ、ガザでの人権侵害に対して停戦・平和を求め連日街頭に立ち、国連憲章と憲法9条の重要性を訴え続けました。
 新型コロナウイルスに対し、科学的根拠に乏しい「5類化」にいのち第一の姿勢で臨み、補助金が打ち切られる状況下でも感染対策の基本を貫き奮闘しました。感染拡大や経済格差に苦しむ国民の実態に迫る、手遅れ死亡事例調査や後期高齢者アンケートなどにとりくみ、実態を社会に告発し、改善方向を示しました。2023年からは、感染対策を継続しつつ、諸活動の軸を「対面」に戻しはじめ、原水禁世界大会、学術・運動交流集会、辺野古支援連帯行動、70周年記念事業など重要な全国行事を実施しました。
 2022年参議院選挙、2023統一地方選に際して、コロナ禍での経験を踏まえ、社会保障とくらし、ジェンダー平等、地球環境保全などの要求を掲げ奮闘しました。
 『旧優生保護法下における強制不妊手術問題に対する見解』を踏まえ、人権・倫理について専門的に扱う体制を確立するため「人権と倫理センター」を立ち上げました。全国的な学習や倫理問題の検討などをすすめ、「SOGIEコミュニティ」が発足し、学術・運動交流集会でセッションを行うなど、個人の尊厳と多様性を尊重する組織に発展するための実践が具体的に開始されています。こうした45期の実践は、私たち民医連を一回り成長させました。2020年代の中間点に立つ今、あらためて第44回総会で示した4つの課題の視点で現状を評価し、これからの2年間に臨みます。
 46期は、人間の尊厳を断固守り、ジェンダー平等・ケアの視点で「非戦・人権・くらし」を高く掲げて、平和で公正な社会の実現に向け、大きく前進しましょう。活動の重点は、①日本国憲法の理念のもと、国連憲章に反する戦争や市民への暴力を止めさせ、日本の戦争国家づくりを断固阻止するために行動すること、②社会保障改悪を止め、地域で共同をひろげ、いのち第一のまちづくりと政治変革に挑むこと、③「2つの柱」を全面実践し、「人権の砦(とりで)」としての民医連事業所の事業と経営を守り抜くこと、④個人の尊厳・多様性を尊重する組織風土を確立するとともに、人権・倫理を重視した職員育成をすすめ、医師増員を勝ち取り、個人も地域も守られる働き方を実現すること、です。これらすべてのとりくみを共同組織とともにすすめます。
 以下、分野ごとに、45期のまとめと46期の方針を提起します。

第1節 平和とくらしを守り、人権としての社会保障を
 45期は、「かつてない憲法の危機という認識のもと、平和憲法を守り抜くこと」を最大の課題として位置づけ、全力でとりくむとともに、憲法を生かし、人権としての社会保障の実現めざし、ソーシャルアクション(※注)にとりくもうと提起し、地域からの運動を重視しました。2021年総選挙、2022年参院選で改憲勢力が大きく議席を伸ばしても、市民と野党の共闘の力で改憲を阻止してきました。軍事大国化と新自由主義の継続か、それとも憲法にもとづき平和と人権が輝く社会か、日本におけるこの2つの道の対決は、今後もいっそうの激しさを伴って続きます。
 46期も、ひきつづき平和憲法を守り抜くことを最重要課題として、改憲を許さず、平和で公正な社会の実現をめざして全国で奮闘しましょう。
 自民党の派閥による「政治資金パーティーの裏金事件」が明るみに出て、自民党政治を終わらせようと国民の怒りがひろがっています。岸田政権は国民の信頼を失い、さらに自民党そのものの支持率は14.6%(2024年1月、時事通信調査)と急落しています。現職大臣4人の更迭、自民党の中心幹部も交代し、今も検察の捜索が続く前代未聞の事態に直面しています。その自民党岸田政権が、さらなる国民負担増、大増税、大軍拡を押しつけ、社会保障を削減しさらに国民生活を壊そうとすることは、到底認められません。岸田政権の退陣にとどまらず、自民党政治の転換が求められます。
 第46期は2025年7月に参議院選挙、衆議院解散がなくても10月には任期満了で総選挙になります。これらの選挙は、「非戦・人権・くらし」を掲げ、いのち優先の社会を実現する絶好のチャンスです。患者・利用者、国民のいのちと人権を守り社会保障を拡充させるとともに、大きなウエーブをつくり始めた医師増員、ナース・アクション、介護ウエーブ、保険でよい歯科医療など、運動のいっそうの飛躍につなげましょう。
 2023年12月に「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」が、立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組、社民党、参院会派「沖縄の風」の5党派に野党の共通政策(※注)を提起しました。「憲法にもとづく政治」への転換を柱にしたこの共通政策を生かし、市民と野党の共闘を力に、憲法を守り生かし、いのち守る政治への転換をめざして、幅ひろい連帯をひろげましょう。
 45期、民医連の医療・介護保障提言プロジェクトで、社会保障政策全般を視野に入れつつ、特に、医療・介護における課題を中心に検討を重ねてきました。これをとりまとめ、全日本民医連としての、「日本の医療・介護制度への新しい提案(仮称)」を発表します。大いに運動に活用しましょう。また、45期にまとめた民医連の選挙要求に、各地の要求や、国際的な人権の視点も反映させ、「民医連の要求(共通要求)」として総選挙要求を提起します。

(1)憲法、平和を守る運動
〈改憲を許さないたたかい〉
 45期は、「憲法改悪を許さない全国署名」を中心に多彩なとりくみを展開し、全日本民医連憲法闘争本部会議で各地協の実践を共有し、いきいきとした豊かな経験に学びながら、運動をすすめました。憲法川柳・かるた、ポスター作成や平和の写真など、職員が継続して憲法を身近に引き寄せて学び考える工夫を凝らしました。街頭署名・宣伝にもとりくみ、長崎、熊本では商店街の大型ビジョンで憲法アニメも上映しました。「憲法改悪を許さない決起集会」を4回開催しました。
 46期も、全日本民医連憲法闘争本部を設置します。ひきつづき、各県連も憲法闘争本部を継続し、改憲阻止、絶対に戦争させない運動に全力を尽くしましょう。軍事大国化と戦争は、社会保障抑制、いのちや人権の軽視・無視につながります。いのちに向き合う民医連だからこそ、辺野古支援連帯行動や、地元の基地や戦跡のフィールドワーク、被爆体験や戦争体験の聞き取り、映像・書籍の活用など、五感に訴える平和学習を重視しながら、共同組織とともに、平和憲法の学習を継続しましょう。共同組織や地域の人びととともに憲法と平和を守る運動の輪をひろげ、9条の会医療者の会や、職場・職種の9条の会、地域の9条の会との協力・協同したとりくみも重視します。

〈辺野古支援連帯行動〉
 2023年5月、コロナ禍で中断していた辺野古支援連帯行動を再開しました。10月の辺野古支援連帯行動では、50次を記念して沖縄県の協力で平和祈念公園に「民医連平和の樹」を植樹して記念プレートを設置し、記念式典も開催しました。辺野古支援連帯行動には、2004年開始から50次までに全国から2721人が参加しており、これまでのあゆみを動画にまとめました。
 辺野古新基地建設は国による地方自治の否定であり、沖縄の基地問題にとどまらず、民主主義の破壊につながる全国に共通する問題で、「代執行」問題も含めた学習とたたかいが求められます。ひきつづき辺野古支援連帯行動にとりくみ、沖縄民医連と連帯してたたかっていきます。

〈核兵器廃絶をめざすとりくみ〉
 原水爆禁止2022年世界大会はオンラインで学習交流会を開催(314人参加)しました。2023年は4年ぶりに長崎で現地開催し、開会集会には全国の民医連から564人が参加、長崎民医連の青年による平和ガイドツアーのとりくみを集会で報告しました。
 2023年11月に、「日本政府に核兵器禁止条約の署名・批准を求める署名」141万7399筆(うち民医連は約24万筆)を外務省へ提出しました。2023年11月27日から12月2日までニューヨークの国連本部で開かれた第2回核兵器禁止条約締約国会議に、全日本民医連理事会は代表を派遣し、青年医師2人をはじめ、香川など各県から民医連職員も参加しました。ひきつづき日本政府が条約を批准し、核廃絶に向けた実効性のあるとりくみを行うよう運動を強めます。
 2024年3月にはマーシャル諸島への代表団派遣、日韓政府を核兵器禁止条約に参加させるキャンペーンへの協力なども要請されており、民医連に求められる役割を積極的に果たしていきます。

(2)人権としての社会保障実現をめざすとりくみ
 45期は、コロナ禍で困難だった社保運動の再開、再構築をすすめました。全地協で地協社保委員会が立ち上がり、地協内の実践交流が県連社保委員会の活性化につながりました。各県連の社保学校や平和学校も再開し始めました。
 受療権を守る活動では、国保の制度改善、後期高齢者窓口負担2倍化反対の運動、無料低額診療事業(※注)の周知や利用拡大、無権利状態におかれた非正規滞在の外国人(※注)の受療権保障などにとりくみました。手遅れ死亡事例、コロナ禍の困窮事例、75歳以上窓口負担2割化実施後アンケート、外国人医療の事例など各種調査にとりくんで、記者会見での告発や制度改善の要求などにつなげました。県連や法人でも、マイナ保険証をめぐる現場の事例など、受療権侵害のさまざまな事例をまとめて記者会見し、自治体に要請するとりくみがすすみました。コロナ禍でつながった地域の医療機関や介護事業所へのアンケート協力の呼びかけなど、民医連外への働きかけ、協力・共同がひろがりつつあることは大きな前進です。
 歯科の分野では、45期、人権としての歯科医療実現に向けて大きな国民世論をつくりだし、保険でより良い歯科医療を求める署名運動を前進させました。この署名は、2024年診療報酬改定に、より大きな影響を持たせるために、2023年通常国会中の6月に、集会も開催して国会に提出しました。目標20万筆に対し12万8338筆の到達でしたが、全日本民医連の社保運動重点課題のひとつと位置づけ、全県連的とりくみとして提起したことで、12県連が目標を超え、各県連で立てた目標(12万1948筆)を達成し、歯科事業所の目標達成率も108.9%(前回87.9%)でした。提出した署名は、衆参の厚生労働委員会にて審議されましたが、自民党、公明党が窓口負担の軽減の項目を理由に保留したため、審査未了の取扱いとなりました。
 また、地域へのアウトリーチも徐々にすすみ、フードバンクや青空相談会など、地域アンケート調査でつかんだ事例や実態を改善要求の運動に結びつけた県連や法人もありました。ソーシャルアクションとして、社保協などとともに行う自治体キャラバンも重視しました。子ども医療費窓口負担無料化や学校給食費無償化、生活保護行政の改善と「生活保護基準引下げ違憲訴訟(いのちのとりで裁判)」(※注)への支援、年金制度改善、高齢者の聞こえと社会参加の機会を保障する補聴器助成の運動など、さまざまな団体と協力しながら前進させました。
 2022年は社保委員長会議、2023年は人権としての社保運動交流集会を開催し、改憲阻止、軍事大国化反対と、人権としての社会保障運動を統合した運動の推進を提起しました。県連、法人の社保委員長や社保委員の日常的な学習や経験交流、社保課題の提起を目的に、社保委員長学習交流会を3回開催しました。「人権としての社保セミナー」では、各地協社保委員会の協力を得て地協ごとのフィールドワークを企画し、その実践を持ち寄って、アウトリーチ、ソーシャルアクションの大切さを学び合いました。学術・運動交流集会では、第3セッション「人権しゃべり場in石川~social actionやるんやよ~」で、ソーシャルアクションの重要性を学び合いました。
 46期、いのちと人権、受療権を守る課題では、第1に、マイナ保険証の強要と健康保険証の廃止ストップの課題に全力でとりくみます。保険証廃止は受診へのアクセスを阻害し、国際人権規約にも違反する重大な人権侵害です。「現行の健康保険証を残せ」の世論をさらにひろげていきます。2024年は国保運営方針の改定の年です。国保保険料の統一化がすすめば、保険料がいっそう引き上げられます。全国知事会も求めている国庫負担の1兆円の投入により、子どもの保険料無料化をはじめとした国保料引き下げの運動が急務です。国保44条、77条の活用(※注)、後期高齢者医療の負担増ストップ、子ども医療費無料化や補聴器助成を国の制度にしていく運動を重視します。保険でより良い歯科医療を求める運動も「保険でよい歯科医療を」全国連絡会とともに、2025年の通常国会提出をめざして、保険でより良い歯科署名に旺盛にとりくみます。
 第2に無料低額診療事業の拡充です。政府の抑制方針撤回をめざし、制度改善にとりくみます。実施医療機関への必要な財政支援、公立病院・公的病院も含め、どの地域でも必要な医療を受けられるよう実施事業所を増やすこと、保険薬局では無料低額診療事業を利用できない問題の解消など、政府に向けた改善を求める運動と、各都道府県での要請行動を強めます。
 第3に、人権学習をすすめながら、在留資格がなく無権利状態におかれた外国人に対する国の責任による医療保障、ジェンダー平等の実現、LGBTQや障害者への差別撤廃のとりくみも重視します。「いのちのとりで裁判」支援など生活保護制度の改善、最低年金保障の確立の運動にも連帯してとりくみます。
 第4に各県連、法人・事業所での地域の個別課題や、実践の積み重ねを重視します。県社保協、地域社保協とともに自治体キャラバンにも旺盛にとりくみながら、民医連事業所があるすべての地域で、地域社保協結成をめざしましょう。全日本民医連の「民医連の要求(共通要求)」に、各県連や法人で地域要求も盛り込み、自治体要請・キャラバンにも反映させて活用しながら、市民と野党の共闘強化、地方選挙で要求実現もめざしましょう。
 日常の医療・介護現場からとりくむ社保活動として、現場の事実の重みから出発し、事例や当事者の声にもとづく実態の告発と、その改善に向けた提案型の活動を重視します。現場の気づきを日常的に職場で共有し、職場会議などで自治体や国に向けた制度改善の課題を検討し、可視化、政策化しましょう。45期第3回評議員会で提起された「1職場1アウトリーチ」を全職場で具体化しましょう。全日本民医連として、職場からの社保運動や気づきからはじめるソーシャルアクションの実践例を共有・交流する企画や「実践集」を作成します。県連、法人・事業所の社保委員会で、ソーシャルアクション・プランを作成する力を高めましょう。
 また、職員育成の課題と社保運動を結び付けた学習やフィールドワーク活動をすすめましょう。45期の憲法を守る各地のとりくみも参考にして、職員が楽しく参加しやすい社保運動をめざしましょう。全日本民医連「人権としての社保セミナー」を開催します。
 共同組織とともに、地域での相談活動と、共同組織の居場所づくりを結び付け、のぼり旗1つで気軽にできる〝地域のしゃべり場〟づくりを提起します。そこでつかんだ地域の要求や困難をソーシャルアクションにつなげましょう。
 これらの活動を地協全体で共有し、ひろげていくためにも地協社保委員会を定期開催していきます。

(3)いのちとケア優先の社会をめざし、住民本位の医療提供体制の拡充を
 第45期は、総会運動方針で掲げた「人権を守り公正でいのちとケアが大切にされる社会の実現」をめざし、ナース・アクションや介護ウエーブに、全国各地で旺盛にとりくみました。
 医療費抑制のための地域医療構想ではなく、地域住民や医療機関の声で見直しさせ、公立・公的病院の機械的な統廃合の撤回はじめ、住民本位の医療提供体制の拡充を求めましょう。
 2023年12月、絶対的医師不足の解消めざす「医師増員を求める医師・医学生署名」がスタートしました。全職員が共同組織とともに医師増員の運動の意義を学習し、医師と医局集団を先頭に、「医師増やせ」を大きな国民世論に押し上げ、署名の目標達成をめざしましょう。歯科分野でも、歯科技工士をめぐってさまざまな深刻な課題があり、日本の歯科技工士の存続を求める運動が急がれます。保険で良い歯科医療の運動とともに、とりくみを強めていきます。

〈ナース・アクション「全ての看護職員の処遇改善」と「高等教育無償化」のとりくみ〉
 2022年10月の診療報酬改定で、新型コロナウイルス感染症の対応などで一定の役割を担う病院に勤務する看護職員の処遇改善を目的に、「看護職員処遇改善評価料」が新設されました。しかし、対象が就業中の看護職員約168万人のうち35%程度に限られたため、施設間や職種間での不公平が生じました。
 全日本民医連は、2023年2月理事会で、「全ての看護職員の処遇改善を求める請願署名」を提起し、医療・看護・介護団体などとの懇談など、幅ひろい共同行動を呼びかけました。いち早く福岡・東京が独自のアンケート調査や県議会への要請にとりくみ、全日本民医連も全国調査を実施しました。4月17日に35都道府県696事業所の看護管理者アンケート結果と署名第一次分3万筆余りを持って厚労省交渉と記者会見を行いました。5月13日の看護の日には全国いっせいナース・アクションデーを呼びかけ、5月30日の白衣の国会要請行動には全国から100人を超える看護師が参加し、約11万筆の署名を提出しました。紹介議員は超党派43人、団体署名は611筆となり、公的医療機関などからも寄せられました。衆参とも厚生労働委員会で審査未了となりましたが、その後も各県の看護協会との懇談や記者会見をはじめ、とりくみが続いています。
 また、「お金の心配なく看護師になりたい」と、コロナ禍で緊急給付金の支給などを訴えてきた看護学生支援の運動は、「高等教育無償化を求める請願署名」へと発展しました。看護学生委員会のアンケートには、「夜遅くまでアルバイトのため授業で眠ってしまう」など、学生の過酷な実態と声が多数寄せられました。日本政府も批准している国際人権規約による国際標準は、学費無償化です。
 2つの署名をナース・アクションとしてとりくみ、2024年度通常国会へ向けて各30万筆をめざします。ひきつづき、すべての看護職員の処遇改善や高等教育無償化を求めて運動をひろげます。各都道府県連で看護協会や自治体との懇談・交渉を続け、記者会見などで看護の現場や看護学生の深刻な実態を社会へ発信しましょう。

〈介護ウエーブのとりくみ〉
 介護ウエーブでは、政府が提案した抜本的な改悪案に対して、各地域で反対世論を大きくひろげ、全面実施を撤回させ、審議が継続されていた利用料2割負担の対象拡大も中止させることができました。全世代型社会保障改革そのものを押し戻す大きな成果です。
 コロナ禍でさまざまな困難がありながらも、「民医連丸ごと」「地域まるごと」「ケア丸ごと」の3つのウエーブを旺盛にすすめ、2022年秋からとりくんだ請願署名では、過去最多となる23万筆を集約しました。職員一人ひとりが改悪内容を自分の言葉で伝え、新たなひろがりをつくり出してきたことも特徴です。各地で実態調査や記者会見、自治体要請などが旺盛にとりくまれ、国への意見書採択を実現させたところもありました。
 ひきつづき制度改悪の中止、介護報酬引き上げ、大幅な処遇改善、制度の抜本改善を基本要求として掲げ、実現をめざします。各自治体は2024年度から第9期に入ります。介護保険料の引き下げや基盤整備の拡充をはかることを、重ねて要請します。来年2025年は先送りとされた要介護1・2のサービスの削減をはじめとする改悪案の審議が開始されることが確実視されます。改悪案の提案阻止に向けて、出足早く反対の声をひろげていきましょう。
 介護保険は「介護の社会化」を掲げてスタートしました。しかし、あい次ぐ制度改悪によって、逆に「介護の再家族化・市場化」の流れが強まり、介護保険自体が「機能不全」「人手不足」「財政破たん」の3つの制度的危機に直面しています。介護保険財政における国庫負担割合の引き上げを柱に、「必要充足」「応能負担」原則を貫いた制度の建て直し・抜本的改善を求めていきましょう。介護従事者の低賃金の背景には、介護は女性による家庭内無償労働であり、職業化しても家計の補助労働にすぎないという根深い考え方(ジェンダー規範)があります。現在の介護保険の給付水準も家族(女性)介護の存在を前提として制度設計されています。介護従事者の給与を早急に全産業平均水準に引き上げること、介護保険を改善し公的ケアを拡充することはジェンダー平等実現への大きな一歩となります。具体的な政策提言を民医連としてとりまとめます。
 私たちは、昨年来のとりくみを通して、世論と運動をひろげることが制度改善、改悪中止を実現する具体的な力になることをあらためて確信しました。ひきつづき共同組織とも協力しながら、3つの「丸ごと」ウエーブを推進しましょう。ナース・アクション、医師増員を求める署名運動との連携や、保育・障害分野をはじめ地域のさまざまな当事者団体との新たな共同を追求しましょう。ケアを顧みない新自由主義政治が続くなか、日本は公的ケアが著しく不足する社会になっています。世代にかかわらず、ケアする人、ケアを受ける人がともに大切にされる制度・社会の実現をめざすケアウエーブとして、大きくひろげていきましょう。

(4)環境を守る活動
 第45回総会運動方針では、地域で環境問題にとりくんでいる先進例に学び、民医連内外の個人・団体と連携し、共同組織の仲間とともに多様な活動のありかたの模索を呼びかけました。
 全日本民医連では、2023年7月1~2日開催の第18回被ばく問題交流集会で、気候危機と原発をテーマにセッションを企画し、環境問題NGOのFoE JAPANの学習講演と各地のとりくみ報告を受けました。2022年参議院選挙、2023年統一地方選挙では、「気候正義の実現、エネルギー政策の転換で地球環境の保全」を要求の一つに掲げました。「原発再稼働、老朽化原発の運転、原発の新増設の中止」「原発ゼロ基本法(※注)のすみやかな制定」「温室効果ガス排出削減、特に石炭火力発電所増設中止」「大量生産、大量廃棄の経済活動からの転換」などを政策へ反映するよう、候補者や政党に申し入れる活動にとりくみました。
 島根・出雲医療生協では、共同組織とともに地元の海岸清掃にとりくみ、身近な環境問題にとどまらず、大量のゴミを生み出す社会構造にまで目を向けることにつながった実践が行われるなど、各地域で他団体や行政、地元企業などとつながりながら、少しずつとりくみが始まっています。
 ひきつづき先進例に学びながら、民医連外の個人・団体とも連携し、共同組織の仲間とともに多様な環境問題の活動を模索していきましょう。若い世代の問題意識も大事にして、積極的な提案も呼びかけましょう。全日本民医連として、そうした実践を集約してさまざまな機会を活用して全国にひろげていきます。
 原発をめぐっては、岸田政権は、GX推進法の強行で、再び原発推進に方針を転換しました。こうした動きに対峙する大きな運動が求められます。ALPS処理水の海洋放出は、2023年8月24日の放出決定から、1カ月足らずで15万の反対署名が集まり、地元合意のないまま強行した強権政治に対する怒りの声がひろがっています。全日本民医連も、各地の老朽原発の再稼働を許さないたたかいや、ALPS処理水海洋放出に反対し、署名や宣伝行動で奮闘しました。
 46期も原発をなくす全国連絡会に結集し、提起される署名や宣伝行動などにとりくむとともに、福島に連帯し、避難者訴訟や原発をめぐる裁判支援を継続します。また、全日本民医連として被災地に寄り添うとりくみとともに、各地で実施している避難者検診(※注)の継続などを行います。

第2節 一人ひとりの尊厳を大切にする医療・介護活動の発展を
(1)医科・歯科・介護を一体ですすめ、ケアが大切にされる社会をめざそう
①複合ニーズに応え、「2つの柱」のいっそうの深化を
 全日本民医連は2000年以降、健康権やヘルスプロモーション、健康の社会的決定要因(SDH)などの概念に触れ、それらがそれまで積み重ねられてきた民医連の実践と響き合うことに確信を深めました。1980年代からの公的医療・介護抑制政策とたたかいつつ、日々の臨床現場では、安全、倫理、QI活動、チーム医療など総合的な質向上のとりくみが行われました。そうした経緯を踏まえ、民医連がその医療・介護活動を推進する基本姿勢として確立した「2つの柱」(第42回総会、2016年)は、自公政権での社会保障改悪やコロナ禍に対してもその力を発揮し、当事者運動や「ケアの倫理」などからも学び、さらに進化・深化を続けています。
 現在、多くの地域で人口減少、少子高齢化、単身高齢者の増加、社会的孤立の拡大、ライフスタイルの変化などにより、人びとの医療・介護要求は多様化しています。そのようななか、医療ニーズは微増ののち減少に転じること、介護ニーズは上昇を続けることが予想されています。今後2年間では、政策的な受診抑制への誘導で、見かけ上医療ニーズが減少する場面があるかも知れませんが、提供できるサービスの量と質を維持していくことは重要です。地域のニーズは複合的で複雑であり、医療と介護は今後ますます相互乗り入れやオーバーラップする領域が拡大し、事業所や法人を超えた多職種協働が必須となる時代です。社会的背景も含めた複合ニーズに応えるためには、医療・介護事業にまちづくりを加えた総合的な活動が求められます。診療面での総合性に加えて、歯科医療、介護、ソーシャルワークなどを通じて国際生活機能分類(ICF)(※注)の中心的概念である「生活機能」をささえ、社保・平和活動も含めた大きな枠組みで私たちの活動の未来を展望することが必要です。
 情勢の変化にふさわしく「2つの柱」を発展させ、民医連の総合力を全面的に発揮して前進しましょう。

②無差別・平等の地域包括ケア実現のため、力を発揮しよう
 地域で安心してくらすには、急性期医療を含めた無差別・平等の地域包括ケアが、人権の視点で機能していることが必要です。
 急性期病院が集約化されるなか、高齢化による(医療・介護・生活支援の)複合ニーズの高まりや、医療から介護、病院から在宅への政策誘導もあり、一定の医療機能を持つ介護系事業所(介護医療院、老人保健施設、看護小規模多機能型居宅介護など)に求められる役割が、これまで以上に高まることが予想されます。また、中小病院の多くは、高齢者救急やリハビリ、在宅支援などの機能を備えた病院(いわゆる「地域密着型多機能病院」(※注))として、地域包括ケアのなかでその役割が期待されています。民医連の中小病院が存分にその力を発揮できる可能性が高く、積極的な検討が求められます。
 在宅医療の需要が今後ますます高まることは間違いなく、地域包括ケアの成否を左右する分野とも言えます。都市部では複数医師体制を備え24時間365日対応する在宅専門クリニックの進出で、高齢一人所長で踏ん張る民医連診療所の在宅部門が苦戦する例があり、逆に地方では訪問診療を担う事業所が少なく、民医連診療所の負担が重くなるところもみられます。在宅医療をめぐる状況を正確に捉え、地域の実情を踏まえた対応が必要です。 民医連在宅医療がこれまで培ってきた〝面倒見の良さ〟や無差別・平等であること、歯科や介護との連携の取りやすさなどの長所を生かし、事業所間連携で担当医の複数配置をはかるなど、持続可能性を担保する仕組みを構築することが重要です。
 政府は地域包括ケアシステムの上位概念として「地域共生社会」を唱え、行政の役割を「プラットフォーム・ビルダー」と、その主体的責任を放棄し、医療・介護のみならず、福祉や教育、貧困対策までも自助・互助を基本に地域完結ですすめることを求めています。行政に公的責任を果たさせるため、地方政治への働きかけも重要です。
 長年地域で医療・介護事業に携わってきた民医連には、連携を深め、医療・介護を一体的に展開する好条件と役割があります。無差別・平等の地域包括ケア実現に向け、これまでの経験を力にして実践を強化しましょう。

③医科・歯科・介護の一体的提供を通じて「食」への総合的支援を
 医科・歯科・介護の一体的提供の典型例として「地域で食にこだわる活動」があります。食べることは生活に直結しています。病院では、病棟への歯科衛生士や介護福祉士の配置を通じて、入院早期から地域に戻った時の生活を意識した支援に努めましょう。入院中から口腔こうくうリハビリテーション、歯科医療の介入、栄養管理を積極的に行い、後方病院や介護施設、在宅に戻っても切れ目なくサービスが受けられるような支援チームが必要です。在宅医療分野では、嚥下えんげ内視鏡が普及し始めており、生活の場面での嚥下機能評価にもとづいた摂食嚥下指導や栄養指導が行われています。また、経済格差は口腔格差となって現れやすく、援助者すべてが口腔ケアに積極的に関与することが求められています。地域の食を支援するためには医師、歯科医師だけでなく、看護師、リハビリ技術者、介護福祉士、歯科衛生士、栄養士、調理師など多職種で構成されるチームが必須です。実現可能な地域から挑戦していきましょう。
 「『食』への総合支援」には、子ども食堂や困窮者へのフードパントリーなど、社会的な要請にもとづく活動も含まれます。これらの総合的なとりくみは特色あるまちづくりにもつながることが期待されます。

④ヘルスプロモーション活動としてのまちづくり
 民医連はまちづくりを一つの重要なヘルスプロモーション活動と捉えています。医療的側面からは、在宅での治療を継続するために社会環境の整備が必要であり、社会的孤立に対しては地域資源を利用した社会的処方が必要となります。健康的な地域をつくっていくことは、ヘルスプロモーションの重点活動分野でもあります。生活をささえる介護の側面からは、女性や子ども、高齢者・認知症、障害のある人たち、性的マイノリティー、外国人に優しい地域社会が必要です。
 今後は経営課題にも配慮しつつ戦略的に地域にかかわっていくことが求められます。これまでの共同組織や職員のとりくみに加えて、各地域の「まちづくり協議会」への参加や、さらにひろい視野で地域分析や営業活動など総合的な地域戦略を担当できる部署を設けることも検討課題です。
 そして、住み続けられるまちづくりには行政の力が欠かせません。健康的な公共政策づくりはヘルスプロモーションの重点活動分野の一つです。地方自治の中心に「ケア」が位置づけられるよう働きかけを強めましょう。
 2024年度から始まる国の健康政策「健康日本21(第三次)」では、その基本方針に「健康寿命の延伸と健康格差の解消」を掲げ、そのために「社会環境の質の向上」が必要とのべています。それを実現し得る政策が重要であることは言うまでもありません。民医連は共同組織とともに活動することにより、ライフコースに寄り添った長期の支援や、社会環境への働きかけ、個人の健康づくり活動まで貢献することができます。より健康的な社会の実現のために力を尽くしていきましょう。
 2024年11月に広島でHPH国際カンファレンスが開催されます。組織委員会顧問には、日本医師会会長や全国医学部長病院長会議会長など、医療界の重鎮が名を連ねています。民医連がこの運動にかかわって10年以上が経過しましたが、初の日本開催をその運営側として迎えることは、私たちのヘルスプロモーション活動にとってさらなる飛躍の機会と言えます。成功のため奮闘しましょう。

(2)医科分野のまとめと活動方針
〈45期のまとめ〉
 45期は人権と公正を重視した医療・介護活動を展開する2年間と位置づけ実践を重ねました。
 コロナ禍で経済的困窮と健康格差が以前にも増して深刻化するなか、「2つの柱」を地域でより豊かに実践すること、地域のニーズをしっかりと受け止め、医療・福祉複合体としての真価を発揮し、「ケアの倫理」に根ざした無差別・平等の医療・介護サービスを一体的に提供することをめざし奮闘しました。各民医連事業所は、コロナ禍で傷んだ地域において、医療、介護、生活支援、居場所づくり、保健予防活動など、総合的な役割を担う「人権の砦」としてその役割を果たしました。また、自らの事業所内で多様性を認め合い、みんなにとって働きやすい職場環境になっているか、障害者やLGBTQ、高齢者や認知症患者とその家族、外国人を含む社会経済的に困難を抱える人びとにとって、利用しやすい環境が提供できているかなど、私たちの現状を評価し、組織として人権の感度を高めていく課題にも挑戦してきました。
 「2つの柱」を進化・深化させるとりくみとして、8つの分野でとりくみを強めてきました。具体的には、①感染対策の再点検、徹底、強化、②コロナ後の医療活動を見据える、③医科・歯科・介護の一体的な実践で、「口腔保健」を改善し、地域の「食」を総合的に支援する、④地域での連携と共同を強め、社会的処方を推進し、組織としてソーシャルワーク機能を発揮する、⑤すべての事業所で、まちづくりやヘルスプロモーションなど地域を志向した活動にとりくむ、⑥気候危機など新たな課題にとりくむ、⑦労働者の健康を守るとりくみ、⑧認知症のとりくみです。
 また、民医連事業所の役割について病院委員会、診療所委員会、10年ぶりに開催した訪問看護ステーション交流集会などで交流、討議を行いました。

〈46期の活動方針〉
 ―「人権の砦」としての役割を発揮し、「2つの柱」をさらに進化させよう―
 人権のアンテナを高く掲げ、人権と公正の視点で活動を見直し、共同のいとなみで無差別・平等の医療・介護を実践しましょう。

①患者の受療権を守り、医療・介護へのアクセス保障にとりくもう
 コロナ禍を通じて医療・介護から遠のいてしまった人や困窮のなかで医療にアクセスできない人のアクセス保障にとりくまなければなりません。無料低額診療事業、まちかど相談会や訪問活動など、受療権を守るアウトリーチ活動をひきつづき継続、発展させていきましょう。各種メディアや他団体との連携による宣伝活動にもとりくみましょう。
 外来医療のありかたについての見直しも必要です。安全・感染対策、ジェンダーなど人権への配慮、接遇、交通手段がなくて通院できない人の送迎など、利用者の立場に立ったものになっているか、ふり返りを行いましょう。また「慢性疾患管理」の内容を点検し、がん検診の推奨など、生活実態に寄り添った内容に発展させましょう。
 コロナ禍や選定療養費(※注)を課す政策の影響もあり、医療機関、特に病院の外来を受診しにくい状況がつくられています。今後の外来活動は、アクセスの容易さとともに、日常生活の一部のような気軽さで受診できるような工夫も必要です。病院や診療所の外来の存在や職員の顔をひろく知ってもらうことも重要であり、まちづくり活動や地域のイベント・行事への参加などを通じて地域になじむ活動が求められます。

②民医連病院の急性期機能を輝かそう
 2024年の診療報酬改定では、急性期医療に対して、政府の「良し」とする急性期医療(内科系ではカテーテル治療や内視鏡手術、がんの化学療法、外科系であれば全身麻酔手術や鏡視下手術)の実施の多さを要件として、振り落としが始まります。現状の継続では、高齢者の急性期医療を多く担っている民医連病院の経営は、今まで以上の困難に陥ることが懸念されます。運動を通じて診療報酬の改善を求める一方で、地域情勢や医療を取り巻く環境などを客観的に判断して、ふさわしい事業計画を策定する必要があります。人口減少、在院日数の減少などから、地域で必要なベッド数は減少していくと予想されており、リニューアル時期にあたる病院では、今後の医療ニーズを考慮してベッド数を減らすことや、病院機能の転換を選択する場合もあると思われます。自らの経営体力も十分考慮しながら慎重な判断が求められます。重要なことは、自らが地域の医療・介護活動に根拠とやりがいを持っていきいきととりくんでいなければ、患者・利用者も後継者も集まらず、経営もついてこないということです。全職員参加の医療構想づくり、中長期計画づくりが望まれます。
 一方で、急性期医療を無差別・平等、公正、ケアの視点で行うことは、地域包括ケアを人権の視点で発展させる上で重要な意義があり、民医連病院の果たす役割は大変大きいと言えます。常に地域での立ち位置を確認しながら、主体的力量を勘案しつつ、適切なポジショニングを探る努力を続けましょう。ポジショニングの選択のなかで、選定療養費が診療報酬本体に導入されています。そこでのジレンマを放置せず、受療権を守る運動につなげることが民医連の役割です。
 医師臨床研修制度や専門医制度への対応、同時に、看護師や各メディカルスタッフの教育・研修にとって、急性期医療の果たす役割は絶大です。事業所間連携や県連間協力も進化させつつ、後継者育成の場としての病院の役割についてもさらに重視し、その強化をはかっていきましょう。

③診療所の役割を発揮しよう
 全国各地の民医連診療所では、地域住民の要求に応え、発熱外来や訪問診療、ワクチン接種活動などにとりくみ、8割が診療・検査医療機関として届出し、奮闘してきました。在宅や介護施設で療養が迫られるなかで、保健所や病院と連携し、いのちと健康を守る実践をすすめました。フードバンクなど生活支援活動もとりくまれ、無料低額診療事業を行っている診療所は6割となり、さまざまな課題での自治体への要請も行われました。地域での新たなつながりや、まちづくりの実践は、今後の診療所の医療・介護、経営活動の前進に向けた土台となるものです。
 民医連医師を育てる上でも、診療所は重要な役割を果たしています。高校生・医系学生の見学・実習受け入れは6割、初期研修医の受け入れは4割、医師の後期研修プログラム登録は2割の診療所となっています。
 全国的な診療所数の増加傾向と異なり、民医連の医科診療所は減少傾向にあり478所(2023年10月現在)となっています。診療所への医師をはじめ職員の配置が困難な状況が続き、コロナ禍前の事業収益、患者数には回復しておらず経営的にも厳しい状況です。
 全日本民医連として、2年に1回開催している診療所交流集会の他に、オンラインで500人が参加し第1回診療所実践交流集会(2023年2月)を開催しました。46期は役職者と対象とする診療所交流集会、全職員を対象とする実践交流集会を開催予定です。「民医連の診療所活動ミニマム」(1999年11月発表)はより実践的な内容への改訂に着手しており、地域包括ケア・まちづくりの時代にふさわしい診療所活動の手引きを作成します。
 2040年代を展望して、民医連診療所として共同組織とともに人権とケアが大切にされるまちづくりにかかわり、地域の困難に寄り添い、かかりつけ医療機関としての役割・ポジションを常に確認しながら、歩みをすすめていかなければなりません。直面している医師をはじめとする職員の確保と配置、経営課題については、法人・県連として打開していくとりくみを重視します。

④認知症のとりくみ
 45期はコロナ禍も後半に入り、認知症ケアチームの設置、認知症サポータ養成講座、診療・介護報酬の加算への対応、VRを活用した職員研修、県連・法人主催での学習会やセミナーの開催など、認知症へのとりくみの強化が各地ではかられてきました。コロナ感染症の状況をみながら、認知症班会や認知症カフェの開催、ネットワークづくりなどの地域活動もひろがりをみせています。法人グループとして認知症方針を改定したところもありました。全日本民医連認知症委員会として「認知症実践セミナー」を2022年10月に開催し、ユマニチュード(R)について学びました。2023年9月、4年ぶりに第10回認知症懇話会(主管・奈良民医連)が、「こころの声を聴き、光る想いをみつけたい―人によりそう、人とともに生きる」をテーマにオンライン開催され、全国から397人が参加しました。分科会では79演題が発表され、BPSD(認知症の行動・心理症状)への対応や環境づくり、病院、施設、在宅でのとりくみ、家族支援をはじめ、この間の各地の実践を豊かに交流しました。
 2023年6月、認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)が成立しました。2025年には認知症をもつ人が全国で700万人、高齢者の5人に1人を占めると推計されているなか、認知症の人が尊厳を保ち希望をもってくらせるよう、基本理念として認知症の人の意見表明や社会参加の機会の確保、良質かつ適切な保健医療・福祉サービスの提供、家族支援の推進などを掲げています。理念に沿った具体的施策や予算措置の実現を政府、自治体に求めていくことが必要です。日常の医療・介護、まちづくりのなかで、認知症の人とその家族に寄り添った実践をひきつづきすすめます。法人・県連として認知症に対する総合的な方針・政策をもち、各地の経験を学び合いながらとりくみ全体を強めていきましょう。

⑤環境分野のとりくみ
1)PFAS
 PFASとは有機フッ素化合物の総称で、PFASのうち「PFOS」と「PFOA」は水や油をはじき熱に対し安定的な特性があることから、消火剤、フライパンのコーティング剤、包装紙、スキーのワックス、半導体や金属メッキの製造過程などにひろく使われてきました。 自然界で分解しにくく水などに蓄積することがわかったほか、腎がんや脂質異常症、低体重児など、人への毒性が明らかとなり、国際条約で廃絶や使用制限が行われ、国内でも製造と輸入が禁止されました。環境省は2020年、水道水や環境中のPFOS+PFOAの濃度が1リットルあたり50ナノグラム以下という暫定目標値を設けました。アメリカの環境保護局は2023年3月、基準を厳格化し、PFOSとPFOAの基準値をいずれも1リットルあたり4ナノグラムとしました。
 2023年12月、世界保健機関(WHO)は、PFOAを4段階ある分類のうち、もっとも高い「発がん性がある」に位置づけ、喫煙やアスベストと並ぶ危険な物質と認定しました。PFOSについては、上から3番目の「発がん性がある可能性がある」に位置づけられています。国や自治体による調査では、2023年1月までに全国の139地点で暫定目標値を超える値が検出されました。環境省はPFASの健康影響について、国内での被害事例は確認されておらず確定的な知見はないとしていますが、地域住民の不安が高まり、環境調査や住民の健康調査を求める運動が各地で起こっており、民医連の多くの事業所が協力しています。東京、愛知、岐阜、大阪の各県連ではPFAS相談外来を開始し、東京民医連では県連の検査センターである病体生理研究所にPFAS測定装置の設置を決めました。環境汚染の原因と想定されているのは米軍や自衛隊の基地、精密機器製造工場、産業廃棄物処理場などです。全日本民医連は、国や自治体の責任として環境モニタリングと住民の健康管理を行うことと、農業などの地場産業に対する風評被害対策を行うよう求めていきます。

2)アスベスト問題についてのとりくみ
 第45期労働者健康問題委員会では、全日本民医連のホームページにある「アスベスト関連疾患診断支援サイト」の更新を行い、『民医連医療』に「全てのアスベスト被害者に救済を」という連載を2022年5月から2024年2月まで計16回行いました。
 また、各団体と共同して、「建設アスベスト給付金制度についての関係団体懇談会」を4回開催し、意見交換を行いました。今後の課題として、①後継者の確保と養成、②各団体との共同をさらにすすめること、③新たなアスベスト被害を防ぐことがあげられます。

3)水俣病
 メチル水銀曝露による水俣病は、多くの患者が存在しながらも環境省や日本神経学会理事会がそれを無視・放置してきましたが、民医連の事業所と全国の民医連の医師・スタッフ集団は、多くの被害者の診療を行い、患者の立場に立って水俣病裁判をささえてきました。
 2019年3月31日からは、チーム・ミナマタ(※注)として会議が始まり、これまで2回のシンポジウムを行い、実際の裁判でも、意見書提出や医師証人としての証言などを通じて水俣病の医学的知見を明らかにし、2023年9月27日の近畿訴訟(大阪地裁)では、医師団の提出した共通診断書(※注)の信用性を認め、原告の全員勝訴につながりました。2024年は、3月22日に熊本地裁と4月18日に新潟地裁で判決が出る予定になっていますが、これらの裁判においても、民医連の医師・スタッフは重要な役割を果たしてきました。
 多くの化学汚染物質などによる健康被害から国民を守るという点で、水俣病は日本国民の将来にかかわる問題です。世界では小規模金採掘などによって水銀汚染の被害がひろがっている状況に歯止めをかける必要があり、国内外での民医連の果たす役割はますます大きくなっています。

4)振動障害についてのとりくみ
 第36回振動病交流集会を2023年3月に開催しました。そのなかで、民医連の事業所を対象とした「全日本民医連振動障害診療実績調査」の概要が報告されました。民医連の事業所において、多くの医師が振動障害の診療に関わっています。また他の医療機関に比べて、民医連の事業所では多くの労働者の診療を行っている一方で、検診の実施数は少ないという結果でした。関東圏では、振動病の診療ができる施設はしばらくありませんでしたが、その医療要求を受けて、神奈川民医連で検診や診療を行う準備がすすめられ、2020年1月に神奈川・汐田総合病院で振動病検診を初めて開催しました。2024年3月には第37回振動病交流集会を神奈川で開催します。

(3)介護分野のまとめと活動方針
 コロナ感染症が急拡大し、過去に経験したことのない過酷な事態に直面するなか、各地の介護施設・事業所では、職員を守り、利用者・家族の生活と療養を必死にささえてきました。こうした状況のなかで介護・福祉分野のとりくみの前進がはかられ、特に介護ウエーブでは「史上最悪」と称された制度改悪案の全面実施を先送りさせることができました。 高齢化の進展と格差・貧困の拡大、困難の多重化・世帯化で、介護や生活支援への要求はいっそう切実化しており、民医連の介護・福祉事業に対する期待が一段と高まっています。政府による新たな制度改革の動きを踏まえ、地域の要求にさらに応えていくために、「民医連の介護・福祉の理念」(※注)をひきつづき土台に据え、制度改善を求める介護ウエーブ、質の向上、経営と事業活動、職員の確保・養成を総合的・一体的にすすめていきましょう。

①介護実践
 2024年度報酬改定は、トリプル改定のもとで質の向上や医療との連携をいっそう強化していく方向を打ち出しました。介護職と医療職の相互理解、職種間の権威勾配のない心理的安全性が担保された関係性の構築などが、あらためて重要な課題となっています。重点とされている「リハビリ、口腔、栄養」の一体的提供や看取り、中重度、認知症ケアなど、個々の事例を通して課題を共有し、連携を強めていきましょう。病院で働く介護職の役割、専門性の明確化とその発揮が求められます。それにふさわしい制度上の呼称や診療報酬上の位置づけについても、見直しを求めていく必要があります。
 「自立支援」の名のもとに、必要なサービス・支援を削減する政策的な流れが強まっています。本来の自立とは、政府が言う「介護が不要な状態」ではなく、必要な介護を受けることで、いつまでもその人らしく生きることです。この自立に対する捉え方は、他者の存在・ケアを前提とする「ケアの倫理」とも響き合うものです。自立に対する誤った見方は、介護の質の評価にも持ち込まれています。私たちが実践的に追求する介護の質とは、政府が求めている生産性の向上につながる効率性や要介護度の改善をめざす一面的なものではなく、その人に寄り添い、その人らしく生き抜くことをささえることであり、一人ひとりを大切に、それぞれに合った介護の「個別性」を多様に実践していくことにこそ、介護の専門性があります。介護の質をめぐる議論や評価が一面的にならないよう事例を大切にし、現場のなかにあるより良い介護の質を明らかにして発信し、共通言語としていくことが大切です。
 さまざまな療養・生活上の困難・課題を抱える高齢者が、地域で増えています。介護・福祉の現場では、「まずみる・寄り添う、支援する、なんとかする」の視点で、無差別・平等の実践をすすめていきましょう。これは、「利用者の実態と生活要求から出発する」「共同のいとなみの視点を貫く」「利用者の生活と権利を守るために実践しともにたたかう」という「民医連の介護・福祉の理念」が掲げる3つの視点に根ざしたものです。

②事業基盤の強化
 低く据え置かれた介護報酬、コロナ感染症の拡大、物価高騰のもとで、介護事業経営はこれまでにない厳しい状況におかれています。当面の重点は2024年度改定報酬への対応です。今回は4度目のトリプル改定であり、介護・障害、医療の連携をいっそう評価する内容となっています。加算の算定を通して質の向上、医療との連携強化をはかり、経営改善につなげていきましょう。時機を逸しない対応が重要であり、医療現場といっしょに検討することが必要です。新たな報酬のもとで、必要利益にもとづく予算・方針をつくり、「全職員参加型」でとりくみをすすめましょう。法人として、現在の介護・福祉事業の内容が、地域要求や主体的力量に見合っているのかあらためて検証し、職員の再配置、新規事業の開設、事業の再編成を含めた、思い切った対策を検討することも必要です。
 前回総会以降、看多機(※注)などの地域密着型サービス事業所をはじめ、新たな事業が展開されており、第9期に新規開設を計画している法人もあります。46期は2020年代の折り返し地点にあたり、「生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系と方略づくり」に向けて、高齢化の進展と生産年齢人口の減少、地域ニーズの変化、政府の新たな政策動向や自治体の基盤整備方針などを見据え、各法人・県連の介護・福祉事業、まちづくりの構想をさらに深化させ、推進していくことが必要です。介護・医療の複合ニーズをもつ利用者・患者の増加が見込まれるなか、同一法人または県連内法人グループの各事業所群では、事業展開や日常の経営管理において、介護・医療を一体的にすすめることが要請されています。各エリア・圏域において、複数の法人がかかわる場合を含めて構想段階から共同して検討する仕組みをつくり、新たな介護・福祉事業の展開や病院、診療所のありかたなどについて、具体的に検討することが必要です。最適な介護・医療の提供が適宜可能となるよう、情報共有をはじめとする日常的な連携と一体的な管理運営・経営管理が求められます。

③職員の確保と養成
 職員確保の困難は、今後も続くことが見込まれます。ひきつづき法人・県連の総力をあげ、確保にあらゆる手立てを尽くしましょう。職員や共同組織での紹介活動、養成校との関係強化による経年的な新卒受け入れなど、実績を生み出している法人もあります。「介護の魅力」や法人の特徴をアピールするとともに、SNSの有効活用など情報発進力を高めていくことも必要です。各県連・法人でのさまざまな経験を共有しながら、職員確保のとりくみを強めていきましょう。
 ケアマネジャーの不足が、ここ数年深刻化しています。生活上のさまざまな困難がひろがるなか、利用者の生活と権利をささえるケアマネジャーに、大きな期待が寄せられています。ケアマネジャーの現状、民医連ケアマネジャーの役割をあらためて確認・共有しながら、確保と養成、ケアマネジメントの質の向上、制度改善を求める運動を総合的にすすめていくために、県連・法人が方針・政策を明らかにすることが必要です。
 民医連内での外国人介護職の受け入れは年々増加傾向にあり、今後検討する法人も増えています。受け入れの際は、介護職員であると同時に生活者として対応することが必要であり、習慣や文化(宗教)の違いをお互いに理解し、包摂していく環境を整えることが重要です。有料職業紹介事業者(紹介会社)の多額の手数料負担が、事業経営に大きな影響をおよぼしています。手数料の上限設定などの社会的規制の強化や、公的紹介事業の拡充を政府に重ねて求めます。
 介護・福祉分野では、これまで民医連綱領、「民医連の介護・福祉の理念」を自分の言葉で語ることができる職員の養成をめざしてきました。ひきつづき日常のさまざまな活動を職員養成の機会として捉え、「職員育成指針2021年版」にもとづき、とりくみを前進させきましょう。「辞めない」職場づくり、「健康で働き続けられる」職場づくりをすすめます。ノーリフティングケアを先進的な経験に学び推進します。子育て世代、高齢世代の状況に合わせて、業務分担や勤務形態の見直しなど多様な働き方を追求します。ICT機器を積極的に活用し、人員削減や労働強化につながらないよう留意しながら業務の効率化をはかります。県連、地協で管理者の養成を推進しましょう。前期にひきつづき全日本民医連医として「法人介護・福祉責任者研修会」の開催を検討します。

④「民医連の介護・福祉の理念」をすべての活動の土台に据えて実践しよう
 「民医連の介護・福祉の理念」は、日常の介護実践や職員の確保・養成、介護ウエーブなど介護・福祉分野の活動の礎になってきました。「理念」をあらためて学び直し、介護のさらなる質の向上をめざしていきましょう。政府による「自立」理念の転換や、データやアウトカム重視の流れのなかで、介護の根本があらためて問われています。介護の質とは何か、本来の自立とは何か、介護に求められる専門性とは何か、「理念」に照らして日々の実践を通してまとめ、現場から発信していきましょう。

(4)歯科分野のとりくみと方針
①人権としての歯科医療の実践の課題
 口腔保健法の改正に伴い、その「基本的な方針」として「歯・口腔に関する健康格差の縮小」が位置づけられました。また、歯科口腔保健は、「健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしており、健全な食生活の実現や社会生活等の質の向上等に寄与している」とされ、その重要性が強調されています。
 民医連が告発してきた口腔崩壊を根本的に解決するためには、歯科医療・口腔保健が健康権であり、人権として位置づけられる必要があります。民医連歯科部では、『歯科酷書(※注)第4弾』を発行しました。厚生労働省記者会で記者会見を行い(2022年6月2日)、コロナ禍で「健康・経済格差の拡大」がいっそう進行したことにより社会的困難を抱えた19事例を通して、口腔の健康に大きな影響を与えたことを報告しました。歯科酷書は、法人・事業所内のさまざまな集会や、共同組織の班会などでも学習会の題材となり、歯科部として学習会用資料を作成しました。
 民医連歯科が、地域の歯科口腔保健の改善にとりくむことは、アウトリーチなどを通じて歯科受診が困難な人びとへのアプローチをすすめることです。無料低額診療事業などで、人権としての歯科医療を実践していきましょう。
 WHO総会での「口腔保健」決議を受けて、韓国の健康社会のための歯科医師会との懇談もとりくみました。今後、東アジアでの口腔保健改善のためのとりくみを交流していきます。

②「保険で良い歯科医療を」全国連絡会のとりくみ
 全国連絡会では「保険でより良い歯科医療を求める」請願署名のとりくみの他に、歯科技工士問題について歯科技工士シンポジウム(2022年10月29日)を開催しました。現場の声の高まりに対し、厚労省も歯科技工関係の検討会を開催しましたが、デジタル化、合理化などの問題かのような論点に終始し、問題の根源である歯科医療費抑制政策のもとでの低歯科技工料問題の議論は、いっさいされていません。患者、国民を巻き込んだ、さらに大きな運動にしていくことが重要となっています。
 また、「子どもの歯科矯正治療に保険適用の拡大」を求めるとりくみでは、2023年11月10日に日本矯正歯科学会との懇談が行われ、学校歯科検診で指摘される「不正咬合」への対応について、意見交換と情報共有されました。
 民医連としても、これらのとりくみについて、さらなる運動の拡大をすすめていきます。

③歯科学運交のとりくみ
 第23回全日本民医連歯科学術・運動交流集会(テーマ「つなげよう、つながろう~私たちの役割と可能性~」2023年4月29日開催)は、近畿東海北陸地協歯科委員会が主管となり、今回初めてWEB形式での開催となりました。記念講演のほかに、実行委員会が優秀演題として選出した8演題の報告・質疑や、歯科医療活動調査・経営調査の結果にもとづき民医連歯科の特徴をまとめ報告するオンライン交流会などを行いました。全体の参加者数は事前に520人を超える参加申込があり、当日は全国から360を超えるアクセスで大きく成功しました。

④歯科医師をはじめとした職員の確保と育成の課題
 歯科奨学生会議(2023年6月19日)をWEBで開催し交流しました。今回、初めて歯科衛生士学生、歯学生の奨学生が合同の歯科奨学生会議を実施し、実習などでの悩みを共有して歯科奨学生の一員として、民医連歯科の役割などへの理解やつながりを深める機会となりました。
 青年歯科医師会議(2023年7月8~9日)は長崎で開催。フィールドワークを行い、原爆の悲惨さと平和の尊さを学び、日頃の悩みや医療活動・技術の課題で交流し、青年歯科医師のつながりを構築する機会となりました。
 中堅歯科医師交流集会(2023年10月7~8日)は福島県で開催。フィールドワークと日々の悩み、中堅としての役割などについてグループディスカッションを行いました。
 歯科医師支援では、北関東・甲信越地協で新潟民医連のかえつ歯科へ、2023年6~10月までの5カ月間の歯科医師支援を行いました。
 「民医連歯科衛生士の基本となるもの」は、45期第2回理事会で報告し、たくさんの意見や期待が寄せられ、多職種との連携を前進させるための工夫などの議論を行いました。
 歯科技工士は、この2年間で2021年度179.5人(常勤149.3人、非常勤30.2人)、2022年度170人(常勤142.7人、27.3人)と推移しています。養成の問題としては、あい次ぐ育成機関の廃校と志願者の定員割れに歯止めはかからず、有資格者の離職も続いています。歯科事業所では、具体的に確保にとりくむところと、前進できずにいるところの二極化がすすんでいます。
 医科法人が展開する歯科事業所の事務職員は、事務長ひとりが複数の歯科事業所や医科診療所、介護事業所の業務を兼務することもあり、方針の遂行、歯科医師をはじめとする後継者対策、経営だけにとどまらない幅ひろい役割が求められます。事務の人員を含めた経営計画とともに、事務養成にかかわる研修への参加機会の確保などが必要です。
 日本の歯科医師養成の現状は、歯科医師数「抑制政策」のもとで歯科医師国家試験合格率が60%となり、合格実数2000人以下の過去最低となっています。しかし歯科医師の管理者の年代は60代が最大となり、36%(歯科医師全体の平均年齢は52.4歳(2020年))、管理者の継承も「予定なし」が半数以上(52.5%)と、今後歯科医師は不足する方向に向かっていくと思われます。すべての県連、法人、事業所が地域の歯科医療を守り、人権としての歯科医療を実践するためには、全日本民医連全体で歯科医師養成の意義を確認し、とりくみを強化することが求められます。その前提として、民医連歯科全事業所の参加による歯科医師養成と育成の議論を開始しましょう。現在ある事業を維持していくための臨床研修医の確保と2年目以降の定着、民医連歯科医療の中心を担う、中堅歯科医師の結集をはかるとりくみが求められています。また、奨学生、臨床研修医、臨床研修修了者、中堅中途採用者などの目標を設定したとりくみが必要となっています。
 民医連歯科衛生士は、歯科標榜のない病院や老健などにも配置され、医療・介護の現場で口腔に関する専門家としての役割が期待されています。しかし、歯科衛生士は依然として離職後の復職率が低く、養成校の定員割れなど歯科衛生士をめざす人材は不足している状況となっています。このようななかで、養成校訪問をはじめ高校生の歯科医療体験会や奨学金制度の導入など、歯科衛生士を増やすとりくみを各地ですすめましょう。「民医連歯科衛生士の基本となるもの」は、2024年4月の歯科衛生士全国交流集会で学習や活用につながる企画を通し、完成させることを計画しています。
 歯科技工士は、「保険で良い歯科医療を」全国連絡会と連携を取りながら、歯科技工問題について歯科医療費抑制の抜本的な改善をはかり、運動をひろげていきます。確保と育成の課題では、新卒の確保は今後さらに厳しくなることが予想され、当面の課題は、現在の院内歯科技工士を維持することが重要となります。そのために事業所ごとに歯科技工士の役割を再確認し、歯科技工士の確保と育成にとりくみましょう。

⑤「民医連歯科読本」の改定と「全県に歯科を」のとりくみの課題
 「民医連歯科読本」改定は、歯科部の各職種から構成されたプロジェクトメンバーの選定が行われ、2023年10月から始動しました。民医連歯科の実践は、この15年間で大きく変化しています。『歯科酷書』の発表、保険で良い歯科医療のとりくみなど、人権としての歯科医療の実践や全歯科事業所黒字化のとりくみである「3つの転換」、超高齢社会への対応や医科・歯科・介護の一体的な提供とフレイルなど共同のヘルスプロモーションの実践は、社会的な大きな共感とひろがりを示しています。民医連歯科の軌跡と方向性、課題をプロジェクトで確認、論議し、国際的な情勢の変化を加味しながら、あらためて民医連歯科のポジショニングなど、今後の方向にかかわる改定を目標とし「全県に歯科を」のとりくみにつなぐことをめざします。

第3節 断固として経営困難を乗り越え、事業と経営を守り抜こう
 民医連医科法人の経営は、かつて経験したことのない「経営危機」に直面しています。長期にわたる困難のなかで、こうした状況は民医連に限ったことではありません。2023年度の全国の医療機関、介護事業所の状況は、このままでは事業の継続が危ぶまれる状況であり、まさに医療・介護の提供体制は危機に直面しています。保険薬局法人も、処方せん枚数減少による技術料収益の減少、薬価改定による薬価差益の減少で、2022年度は75法人中27法人が赤字決算となりました。また、社会福祉法人(49法人)は、2022年度の経常増減差額率(経常利益率)が過去2番目に低い平均1.05%となっており、資金繰りに困難を生じている法人も少なくありません。歯科合計は、2022年度経常利益8億4000万円の黒字(予算達成率129%)ですが、新患数をはじめとしたのべ患者数は減少傾向となっています。
 根本的原因のひとつは、政府による社会保障抑制政策と患者・利用者の自己負担増による受診抑制などです。診療報酬、介護報酬の大幅な引き上げを求めるとともに、民医連事業所への期待と信頼を今まで以上に生かしきり、民医連経営の最大の強みである「全職員参加の経営」と自分事としてささえ合う「全国組織の連帯と団結」の力を発揮することが求められています。
 さまざまな運動が生まれ、蓄積されていることに目と耳を澄ませて、共同をひろげ、地域の医療機関、介護事業所とともに「オール地域」の視点で国民の「いのちと健康」を守り、地域の財産としての医療・介護経営を守り抜きましょう。私たちの事業と経営は「社会的共通資本(コモン)」(※注)です。地域の人びとの要求があり、存在意義が明確である限り、「経営危機」はどんな困難があろうともかならず突破できます。

(1)経営危機を乗り越えるために確認すべき基本点
 経営困難打開の基本方針は、①全日本民医連が提起する医療・介護活動方針に沿って活動の質・量の充実をめざすこと、②経営の改善は管理の改善であることを掲げて、経営管理の力量を学習と討議実践を通じて大きく引き上げること、③経営の視点からも多様な連携をすすめ、地域全体の医療・介護の事業を守り抜き、「たたかい」の前進で診療報酬、介護報酬の大幅引き上げを実現すること(第45期全日本民医連運動方針)です。また、民医連綱領に掲げた6つの目標実現をめざしたとりくみの前進こそが、経営改善の力となります。
 私たちの事業と経営は、民医連綱領に掲げた無差別・平等の医療と福祉の実現という目標のために、必要不可欠な条件であり手段です。また、私たちの経営は利益を目的とせず、非営利・協同をその理念としています。一方、私たちの目的の実現のためには、必要な利益を確保しなければなりません。必要な利益を獲得できない状況が継続すれば、地域住民の財産であり、医療・介護の最後の拠り所としてのかけがえのない民医連事業所を失うことになります。民医連の事業と経営の破たんや後退は、地域の人びとの「いのちと健康」を脅かす事態を招くことを意味するとともに、地域経済やまちづくりにもマイナスの影響を与え、職員の生活にも重大な困難をもたらすことになります。
 事業と経営の維持発展に求められる利益(必要利益)は、①医療・介護活動の水準を維持向上させるため、②職員の生活保障、労働条件の向上のため、③安定的経営基盤、中長期の医療、介護構想実現のためのものであり、断固として「必要利益」を確保し、事業と経営を維持・発展させなければなりません。

(2)民医連経営の現状
〈コロナ禍の経営環境の厳しさと特殊性〉
 医科法人の2022年度決算の経常利益率は4.6%、2021年度6.2%、2020年度2.9%と、コロナ禍での空床確保料などの補助金や診療報酬特例加算、ワクチン接種などにより、過去最高の利益となりました。事業キャッシュ率も2022年度8%、2021年度10.2%、2020年度6.6%となっており、過去にない高い水準となりました。特殊な状況下での「改善」に加えて、コロナ禍での緊急融資による運転資金の借り入れ(医科法人合計339億円)も加わり、2022年度末時点での医科法人の現預金残高合計も過去最高水準となっています。こうした結果は、空床確保料などの多額の補助金を獲得した法人による影響を受けています。コロナ禍3年間の結果だけみれば、今まで経験したことのない、利益と事業キャッシュを獲得した法人がある一方で、事業キャッシュ2%未満と極めて低水準の法人も17法人あります。17法人の多くがコロナ関連補助金をほとんど受けていない法人となっていますが、最高で収益比16.8%と多額の補助金を含めても事業キャッシュが少額となっている法人もあります。コロナ関連補助金は、3年間で375億円、収益比8%にもなります。一方で、一定積み上がっているはずの資金が2022年度までに流出している法人、2023年度の大幅な赤字により急速に資金流出してしまっている法人が少なくありません。コロナ関連補助金を除く経常利益率は、2022年度は過去最低のマイナス2.3%、2021年度マイナス0.7%、2020年度マイナス1.2%と大幅な赤字です。コロナ関連補助金を除く事業キャッシュ率は、2022年度2.2%、2021年度5.3%、2020年度3.5%と、機会損失への補てんがなければ、経営の維持が困難となる水準でした。

〈岐路に立つ民医連経営〉
 コロナ禍の3年間は、患者・利用者減少、電気・ガス料金、食材費などの急激な物価高騰により、実態としての収支構造が大きく悪化していることは明らかです。また、そもそもコロナ禍前の2019年度時点で、7年連続して経常利益率が1.0%に届かないという到達点でした。コロナ禍での複雑で困難な経営環境のなか、従来から課題となっていた改善課題の着実な実践や、コロナ禍後の出口戦略の論議と確立の不十分さを抱えたままで、2023年度を迎えることとなりました。2023年度上半期集計結果は、さらに深刻な状況となっています。まさにこのまま破たんへの道に突きすすむのか否かの大きな岐路に立っています。モニター法人調査対象28法人のコロナ関連補助金を含めた上半期決算合計では、経常利益率マイナス1.7%(予算マイナス1%)で、赤字決算法人は20法人(71.4%)、償却前経常利益で3.2%(予算3.7%)しかありません。予算そのものが「必要利益」に届いていない法人が多数ななか、補助金込みでも予算利益にすら届いていません。地協経営委員会で月次にて集計可能な130法人の上半期決算でも、経常利益マイナスが73法人(56.2%)、償却前経常利益でもマイナスとなっている法人が34法人(26.3%)あります。このままでは2023年度には大幅な資金流出となる状況です。
 2023年度地協県連経営委員長・経営幹部会議の問題提起では、医科法人の2019年度実績の事業キャッシュ額をベースに2027年までのキャッシュフローシミュレーションを提示しています。結果は2027年度末までに資金残高が月商倍率0.7倍を下回り、経営破たんとなる可能性の高い法人が26.9%となる衝撃的内容となっています。現実には2023年度は、2019年度並の事業キャッシュから大幅に後退している法人も少なくない状況であり、事態はより深刻です。保険薬局法人、社会福祉法人も過去最低水準の経営実態となっています。とりわけ、資金流出構造となっている法人は、中長期の利益・資金の見通しを確認し、必要な手立てを早急に打つ必要があります。

(3)困難打開に向けて思い切った実践を
①診療報酬・介護報酬の大幅引き上げは絶対的条件
 本来、コロナ禍の3年間程度の事業キャッシュが通常の状態でなければ、安定した経営の維持はできません。この点からは、診療報酬・介護報酬の不足はおおむねコロナ関連補助金額に匹敵する、ともみることができます。経営の危機は、不合理な診療報酬、介護報酬に最大の原因があります。診療報酬の改定率は、1996年を100とした場合、本体のみでみても、2022年度改定までの26年間の伸び率106.95%と年平均わずか0.27%しかありません。必要な設備投資すら困難になっており、職員の賃金・労働条件改善を実施する経営的余裕はまったくなくなっています。「たたかう経営」の真価を今こそ大いに発揮し、「オール地域」の視点で、地域の医療・介護を守り抜く強い決意を固め、2024年トリプル改定以降も再改定を要求し声をあげましょう。

②変革の立場とリアリズムの視点で、経営管理力量の強化を
 2023年度予算目標にしている経常利益そのものが、本来の「必要利益」に届いていない法人(中長期の資金計画にもとづく必要利益の認識が持てていない法人もあり)が多数です。2023年度決算は、その予算にすら届かない法人も多数となる見込みです。このような状況は、残念ながら今に始まったことではありません。この間の地協・県連経営委員長、経営幹部会議の問題提起や福島・郡山医療生協、長野・東信医療生協の経営対策委員会総括などをどう受け止め、何を学び実践してきたかが問われています。とりわけ経営幹部は、自らの経営実態を「リアル」に捉えること、そして「変革の立場」で自法人の改善・改革をすすめる強い決意と覚悟を持つことが求められます。
 民医連統一会計基準にもとづく財務会計・管理会計制度や中長期経営計画など「基礎的課題」(※注)の整備と確立は、この間くり返し提起してきた課題です。しかし、経営困難法人をはじめ、十分なとりくみとなっていない状況が見受けられます。「基礎的課題」は、全職員参加の経営のための前提条件です。そもそも中長期経営計画(利益・資金計画)(※注)なしに、単年度の「必要利益」は認識できません。
 とりわけ、今後の事業キャッシュ獲得の見通しとあわせて、中長期の利益・資金計画はこの点からもあいまいにできない課題です。医科法人に比べても、薬局法人・社会福祉法人の「基礎的課題」の整備は遅れています。厳しい経営状況を乗り切るための前提として、早急に力量を強化することが求められています。「保険薬局法人要対策項目」「社会福祉法人の経営指標」などの内容をきちんと理解し、自己点検もすすめましょう。

③検討・実践の求められる課題
 経営を取り巻く情勢の変化と多面的な困難が、一気に私たちに降りかかっています。ここでは、いくつかの課題の検討・実践すべき方向について提起します。とりわけ、2023年度、2022年度の地協・県連経営委員長、経営幹部会議(2022年度は理事長・専務も招集)から、ヒントをつかみ取ることを重視しましょう。
 次々と打ち出される政策や議論を、適切に捉えることのできる力を強化するための方策を具体化しなければなりません。情報の収集と分析のできる体制の確立とスキルの構築、DXなどへの対応促進など課題は山積みです。デジタルツールを医療や介護の場で活用していくために、職員のデジタルツールに対する知識やスキルを含め、地協・県連・法人でこうした課題への対応力を引き上げるとりくみを重視し、具体化をはかりましょう。全日本民医連としてのとりくみの具体化もすすめます。
 資金困難打開には、なによりも損益の改善を実現しなければなりません。とりわけ、多年にわたり赤字構造を続けている事業所の経営改善は重要です。病院の大きな赤字を診療所など他の事業所でささえることでなんとか経営を維持する収支構造の民医連医科法人も少なくありません。事業所には、改善に向けていくつもの障害があります。思い切った改革に伴う決断と実行は、これ以上避けて通れない課題です。経営改善とその裏付けとなる医療・介護活動は一体的・総合的に検討することが重要です。生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系づくりを通じて、地域ニーズに応えることが、経営改善はもちろん事業活動の維持・発展につながります。
 すべての事業所・法人・県連のリポジショニングと経営戦略の見直しを確実にすすめましょう。リポジショニングをきちんと実施するためには、まず現在果たしている医療機能を、地域全体の医療・介護提供体制のデータなども含めて確認することが必要です。その上で、今後の需要予測・人口動態予測、地域医療構想、病床機能報告、外来機能報告などでの位置を踏まえて、中長期的にどういう機能と役割を果たしていくか、目標を明確にしましょう。2024年度から「医療機能情報提供制度の全国統一システム」がスタートします。データの活用と自らの地域への情報公開のありかたで踏み込んだとりくみが求められます。
 外来患者数の減少は、地域との結びつきや地域の人びととの接点が少なくなっているとも言えます。通院患者、在宅患者に留まらず、地域との多面的な結びつきを強めつつ(外来機能の総合的強化)、患者・利用者の確保にもつなげるとりくみを、大きく飛躍させることが求められます。地域の「まちづくり運動」や「多様な市民運動」などとの新たな連携のなかで、「安心して住み続けられるまちづくり」に向けたネットワーク(網の目)を構築するための、プラットホームづくりにも努力するなど、ダイナミックな活動をめざしましょう。自己完結型から地域完結型へ、大きく転換するためのとりくみも重要課題です。患者・利用者増が経営改善の基本です。経営の基礎データとして、地域医療機関、介護施設との連携状況、重視すべき連携点数算定状況など、外来機能の総合的強化の到達点把握のための整備も大きな課題です。
 これまでになく情勢も複雑であり、法人の枠を超えた県連、地域ブロックとしての構想、戦略なしには解決できないケースも覚悟しなければなりません。法人単独の努力では、現局面での経営困難打開が難しくなっている県連・法人も少なくありません。経営危機の局面では、県連、地域ブロックでの民医連加盟事業所を持つ法人全体の経営実態の把握分析にもとづく戦略の確立と、その具体化が強く求められています。社会福祉法人、保険薬局法人も含めて、法人経営幹部が自法人の枠を超えて、民医連運動の陣地を守り発展させる立場での議論・検討ができるか、県連がその役割を十分発揮できるかが鍵です。県連経営委員会の体制・機能の強化の具体化が求められます。全日本民医連経営部、地協経営委員会も危機認識に対応した体制・機能の強化をはかります。「経営危機」対応は、通常の「経営改善」のとりくみと同列ではありません。スピード感を持ってなんらかの打開策を決断・確立し、効果的な対策を実行しなければなりません。民医連の「連帯と団結」の力をいかんなく発揮しましょう。

第4節 高い倫理観と変革の視点を育む職員の確保・育成の前進を
(1)職員育成
〈「職員育成活動2021年版」の論議・具体化の特徴〉
 「職員育成指針2021年版」(以下、「育成指針」)が各地で大いに歓迎され、論議と具体化がすすんでいます。
 その第1の特徴は、民医連運動の基盤として育成活動の重要性が深められ、多くの県連・法人で育成方針や教育要綱の見直しや改定に着手して、7つの具体的指針(「育成指針」第2章」)が総合的、相乗的に実践されていることです。
 職員育成委員会の役割を明確にし、県連と法人の整合性ある制度教育要綱への充実がはかられています。他の委員会と協力し、職員育成を基本に運動課題や多職種協働などの発展をめざすとりくみも行われています。専任の担当者の配置、県連担当者や職員育成委員会による各法人・事業所のとりくみの把握と経験交流、困難なところへの援助などがすすんでいます。管理メンバーを中心にした推進体制が各地で整備され、共同組織の役員も委員に加わった法人もあります。地協単位でも、北関東・甲信越、近畿、中国・四国地協で育成責任者(担当者)の定例会議が開催され、九州・沖縄地協で育成活動交流集会が開かれました。
 第2の特徴は、組織文化醸成の基本的な場、育成活動の拠点として、育ち合いの職場づくりが重視されていることです。職場づくりをテーマにした学習会や実践交流集会の開催、「育ちあいの職場づくりに必要な8つの視点」(※注)を踏まえた自主点検シートの作成・活用などのとりくみがひろがっています。職場づくりで大切にされていることは、①「職場管理者の5つの大切」(※注)に沿ったていねいなとりくみ。②月1回以上の職場会議や朝会を成長の場として重視、③心理的安全性の学習や職場運営のルールづくり。④育成面接を位置づけることなどです。
 第3の特徴は、コロナ禍で集合や対面、地域でのとりくみが一定制限されたなかでも、オンラインの活用をはじめ、活動を後退させない懸命な努力がされたことです。そして、コロナ禍を経て、「育成指針」にもとづき活動のバージョンアップがはかられていることです。

〈「育成指針」第2章の具体的課題のとりくみおよび学習運動〉
 指針の第2章で提起した重点課題のうち、多職種協働や各職種の育成では、中堅職員対象の多職種協働教育(京都)、多職種参加による一職場一事例報告会(山形)、職種ごとの「大切文書」づくり(長野)、職種政策やラダーの見直し・改定が行われています。
 制度教育では、綱領、憲法、人権、健康の社会的決定要因(SDH)などのテーマが重視され、障害者、LGBTQの当事者の話を聞く企画も持たれています。心理的安全性(※注)、ハラスメント、マイクロ・アグレッション(※注)、ヘルスケア、経営・会計、共同組織論などを内容とした研修がひろがっています。
 地域へのアウトリーチの実践を制度研修に位置づけ(鳥取など)、職責者が励ましの言葉を添えてレポ―トを返す(広島)などの工夫もされています。
 共同組織の班会参加や地域訪問活動をはじめ、フードバンク、子ども食堂、何でも相談会、気になる患者訪問、災害公営住宅訪問調査(宮城、熊本)、震災被災地訪問(岩手)、SDGsを実践する農場見学(埼玉)、水俣病フィールド(新潟、熊本)、海岸清掃や地域のお祭り参加(島根)、島の居場所見学(香川)などが育成の視点で位置づけられています。
 青年職員の育成では、人権と平和を学ぶ体験的連続学習会、平和ゼミ、平和学校などが活発に行われ、職員育成委員会や青年委員会によるJB活動の位置づけが強化されるなど、ていねいな組織的援助によって青年の自主性・自発性が生かされています。40回目の民医連全国青年ジャンボリーは2023年11月にサテライト会場をオンラインでつないで開催され、約900人の青年と助言者(青年援助者)が参加しました。「会って話そう つながって学ぼう~あらためて知りたい47都道府県みんなのこと」のスローガンのもと、記念講演「私たちの社会は私たちの手でつくっていこう~核も戦争もない世界を目指して」をはじめ、8セッションで学び交流を深めました。コロナ禍でもつながりを大切にした青年自身の努力と、それをささえる県連や地協の青年担当者との共同で未来を語る集会となりました。
 『旧優生保護法下における強制不妊手術問題に対する見解』や『にじのかけはし/すべての民医連職員のためのLGBTQ基礎知識』の学習運動が全国で継続されています。個人の尊厳と多様性を尊重する文化を深く根づかせる上で、極めて重要なとりくみです。
 各地でジェンダー委員会やSOGIプロジェクトなどがつくられ、学習会や環境整備などの活動がすすめられています。

〈あらためて「職員育成指針2021年版」の今日的意義〉
 「これまでの民医連の歴史において、民医連運動を主体的に担う、綱領で団結した職員集団の育成の成否が民医連の存在を左右するものとして認識され、職員育成活動は民医連運動の基盤となる活動として特別に位置づけられ、実践されてきました」(「育成指針」)。「育成指針」は、その歴史と教訓を継承し、「競争と自己責任の社会から、いのちと人間の尊厳が大切にされる社会へ」(同)の変革を国民とともにめざす時代に、どういう職員育成をすすめるかを明らかにしたものです。
 その核心は、人権の尊重と共同のいとなみを大切にする組織文化をいっそう発展させて、高い倫理観と変革の視点を育む職員育成活動を前進させることです。

〈綱領、憲法、人権の学習、知の獲得と深化を〉
 民医連運動の輝きの土台に、綱領や憲法と人権についての職員の学習があります。
 綱領になぜそのことが書かれているかを歴史や憲法との関係で学ぶことは、民医連運動をさらに前進させ、民医連職員として成長していく上での根幹です。『学習ブックレット/民医連の綱領と歴史・なんのために・誰のために』を活用しましょう。
 また、「世界人権宣言」(1948年)や国際人権規約をはじめ国際的な人権保障の発展の内容、旧優生保護法下『見解』や『LGBTQ基礎知識』をひきつづき学習しましょう。
 2024年3~6月、第46回定期総会運動方針学習月間にとりくみましょう。

〈トップ幹部と担当者が役割を果たし7つの具体的指針の具体化を〉
 「育成指針」は、ベテラン職員も含めてあらゆる世代が「専門職として、民医連職員として、市民・主権者として」相乗的、一体的に成長することへの支援を強調しています。「人が育つ組織」の特徴として5点(※注)を明らかにし、育成で重視すべき基本点として示しています。その上で、7つの具体的指針(※注)を提起しています。ひきつづき、育成指針の論議と具体化をすすめ、特に、職員育成活動への医師の参加を追求しましょう。
 地協単位での職員育成委員会の設置や活動の交流をすすめましょう。全日本民医連職員育成部として、各地のとりくみの経験・教訓を把握し普及する活動を強めつつ、期に1回以上、実践交流会を計画します。
 「職員育成は自然発生的にすすむものではなく、職場を基礎に多彩なあらゆる活動を職員の成長に生かす目的意識的なとりくみが必要です。職員育成活動が組織全体のとりくみであることがトップ幹部により認識され、どういう組織をつくっていくか、そのためにどのように職員育成をすすめるかといった組織的な論議」(「育成指針」)が求められます。
 学び成長することは一人ひとりの職員の要求です。それはまた市民・主権者としての生涯教育の一環でもあり、常勤職員はもちろん非常勤職員、中途採用者を含め、すべての職員の権利として位置づけることが大事です。あらためてトップ幹部先頭に、役職者と担当者(委員会)が「育成指針」と全国の経験・教訓を学び深め、活動を推進しましょう。

(2)健康で働き続けられる職場づくり
 今期、10年ぶりに『健康で働きつづけられる職場づくり』パンフレットを改訂しました(以下、『改訂健康パンフ』)。医療・介護現場では、コロナ禍前から心身ともにストレスが多く、メンタルヘルスの悪化がみられていました。ぎりぎりの医療・介護体制の上にパンデミックによる破たん、倫理的ジレンマなども加わり、ストレスはいっそう深刻となりました。
 これらのことも踏まえ、改訂では主に次の点を整理しました。①労働安全衛生の基本(そもそも論)にあらためて言及、②小規模事業所および介護事業所、在宅分野での安全衛生活動、管理職の健康管理への言及、③「ノーリフト」から「ノーリフティングケア」に(福祉機器などの活用で介護の安全性と質を高め総合的な腰痛予防を提起)、④医師の働き方改革への言及、⑤職員のメンタルヘルス対策、ストレスチェック制度の現状と活用の考察、⑥心理的安全性の高い職場づくりが職員のメンタルヘルス維持に重要であること、⑦暴言・暴力・ハラスメントへの対応、⑧多様性などに配慮したヘルスケア(新たに障害のある人、新入職員、LGBTQ、高齢労働者へ言及)、⑨コロナ禍など長期の災害時のヘルスケア、などです。
 労働安全衛生法は職場の健康管理の責任が「事業者」にあると明確に位置づけ、「安全配慮義務」を課しています。「安全文化」「予防文化」を職場に根づかせることは経営にも直結します。各県連、法人・事業所トップの責任で、『改訂健康パンフ』の普及と活用をすすめましょう。医師や看護師をはじめ、医療労働者が労基法を守る働き方で経営が成り立つ診療・介護報酬を求めることも重要です。また、労働安全衛生5管理(①労働安全衛生体制の確立、②作業環境管理、③作業管理、④健康管理(健康診断)、⑤労働者教育)にもとづき、すべての県連・法人・事業所で衛生管理者・衛生推進者を決めるよう呼びかけます。小規模事業所での衛生推進者の配置、介護事業所での安全対策体制整備をはじめ、事業継続計画(BCP)(※注)の作成なども大切です。
 メンタルヘルス対応は、職員を大切にする組織風土づくりにおける眼目のひとつです。心理的安全性の保障によりコミュニケーションが活発になり、医療事故リスクや離職の減少、業務の効率化などにつながります。組織のトップによるメンタルヘルス対策推進の宣言や対策部署の設置、規定や指針、マニュアルの明文化にとりくみましょう。また、4つのケア(セルフケア、ラインケア、事業場内産業保健スタッフなどによるケア、事業所外資源によるケア)を実践しましょう。新入職員への支援をはじめピア・サポート(仲間同士のささえ合い)も大切です。2022年4月から中小企業を含め全企業でパワハラ対策が義務化され、自治体の動きもひろがっています。民医連であればなおのこと、ハラスメントを起こさない実践が必要です。
 LGBTQなど多様性に配慮したヘルスケアは、健康の社会的決定要因(SDH)の健康格差7原則のうち「弱者集団アプローチとして特に手厚く対策を取るべき」とされています。アライ宣言(マイノリティーを支援する立場の表明)やSOGI(「性的指向」「性自認」を表す言葉)ハラスメントを許さないとりくみなどをすすめましょう。また、民医連の事業所で働く職員の約70%が女性です。女性特有の健康課題についてすべての職員が理解することは、誰もが働きやすい職場づくりにつながります。さらに高齢労働者の労災防止、発達的な特性や心身の障害への合理的配慮、病気治療しながら働く職員への両立支援などにとりくみましょう。
 コロナ禍も続き、また災害がくり返し起こるなか、災害時の職員の健康を守るとりくみもひきつづき重要です。全日本民医連は、『新型コロナウイルス感染症に関する職員のヘルスケア指針』(増補改訂版)、「職員のみなさんのセルフケアのための10のヒント」とあわせ、動画配信や集会などで全国の知恵と経験を共有してきました。『改訂健康パンフ』とあわせ、「大災害の時こそ職員の健康を守るとりくみが民医連の文化」となるよう、とりくみを続けましょう。感染後の療養者への対応、職務上による感染の労災対応へも考慮しましょう。
 45期は、労働安全衛生そもそもセミナーを毎年開催し、ヘルスケアチーム実践交流セミナーや公認心理師・臨床心理士交流会を初めて開催、第11回職員の健康を守る交流集会で実践を共有しました。
 46期は、『健康で働きつづけられる職場づくり』(2024年改定版)の学習会や実践交流会を計画します。

(3)医師の確保と養成
〈真の医師の働き方改革、医師増員を求める署名運動〉
①政府の医師偏在対策、働き方改革(※注)をめぐる問題
 日本の医師数は、OECD平均値と比較して13万人不足する絶対的医師不足の状態にあります。しかし政府は偏在対策に終始し、さまざまな問題が生じています。たとえば、一部地域での医学部地域枠プログラム辞退者への高額な違約金制度(※注)、マッチング定数削減によるアンマッチの増加、専門医制度での都道府県ごとの専攻医採用定員数の上限設定など、医学生の将来や研修医・専攻医の選択の自由を奪うものになっています。
 また2024年4月からスタートする医師の働き方改革を前に、専攻医の過労死事件、実際には働いているにもかかわらず労働時間にカウントされない名ばかり宿日直許可の乱発、大学病院からの派遣医師の引き揚げによる地域の医療提供体制縮小や医療機関の再編統合、医学教育や研究機会の減少など、さまざまな問題が浮かび上がっています。
 医師増員のない働き方改革は、国の医療費抑制政策と病床削減の一環でしかありません。医師の人権と地域医療が守れるか、重大な局面を迎えています。絶対的医師不足の解消の声を今あげなければ、名ばかりの宿日直や過労死水準の2倍の時間外労働を是認し、国の施策を後押しすることにしかなりません。一方で、対応できなければ医師の確保や養成もできず、医療機関がさらなる経営困難に陥り、地域医療崩壊を招くだけです。これまで医療界は、自己犠牲的な長時間労働を容認し、女性やケアを担う人の犠牲を見過ごしてきました。患者の受療権を医療従事者の犠牲で守りささえることは、すでに限界を超えています。患者の人権と同様に、医療従事者の人権も同じ守るべき権利という視点が必要です。「ケアの倫理」と人権を守る視点を貫いて、医師増員を求める運動の飛躍と、課題への対応をすすめていきましょう。

②師増員を求める署名のとりくみ
 2023年12月に提起された「医師増員を求める医師・医学生署名」にとりくみます。地協・県連を軸にシンポジウム、医師会・連携事業所・行政などとの懇談をすすめましょう。各地で、医師を中心とした大宣伝行動や医師による街頭でのリレートーク、地域の医療機関に署名を送付するなど、具体的な行動がひろがっています。先進的・教訓的なとりくみを共有し、全国の仲間の知恵と連帯の力で、46期を医師増員の分岐点とする大きな運動をつくります。
 日本弁護士連合会は2023年10月、「人権としての『医療へのアクセス』が保障される社会の実現を目指す決議(※注)」を発出しました。日弁連から声があがったように、人権、社会保障という共通の課題で、より広範な人たちと手を結べる展望が見えています。
 運動をつくるためには、当事者である医師が先頭に立って、現場の実情を共同組織・地域住民に伝える必要があります。医師労働を改善することが、医療現場全体の労働環境の改善にもつながります。さまざまな学習機会をつくり、個人の意識改革、民医連の組織変革、そして日本の社会変革をいっしょにすすめ、政府の分断策動を許さず、地域のなかから国民的な世論を巻き起こしていきましょう。

〈2024年春に500―200―100の実現をめざす活動(※注)の到達点と46期の重点〉
①奨学生500、新卒医師受け入れ200の目標について
 2023年12月現在、1年生の奨学生決意は過去30年で最小の30人となり、奨学生全体数は394人(前年同時期比マイナス48人)、2024年卒研修医マッチング結果はこの10年で最低の155人です。
 コロナ禍での医学生をささえるエール飯や、学びの要求に応える活動など、医学生担当者の奮闘はあるものの、厳しい結果の要因として、コロナ禍で医学生との深いつながりづくりや奨学生の集団化のとりくみが制限されたことがあります。それに加え、医学生担当者の約半数がコロナ禍前から交代し、これまで行ってきた密な活動が十分継承されず、さらに事務職員の不足や組織的な位置づけの弱まりにより、2018年比で全国の担当者が18%(39人)減少、他の業務を兼任する担当者も増加(全体の22%)しています。また、連続してフルマッチしている病院の一部にはその結果から、奨学生確保と育成を軽視する声もあります。
 6年ぶりに開催した医学生委員長会議では、奨学生はともに民医連の未来をつくっていく仲間と提起するとともに、①奨学生1・2・3大作戦(※注)、②奨学生の多様性の尊重と「骨太」の奨学生育成、③密な活動を取り戻すことを呼びかけました。あらためて、多くの医学生に働きかけ、そのなかで奨学生を確保し育成することの重要性を確認することが大事です。
 医学生運動は、医学生の学ぶ要求を実現する場である全国医学生ゼミナール(医ゼミ)をはじめ発展しています。2022年の和歌山県立医科大学に続き、2023年は大阪公立大学と2年連続近畿で医ゼミが開催され、医ゼミを経験した医師が協力・共同の立場で支援を行いました。
 46期は、「奨学生1・2・3大作戦」で成果をあげられるようとりくみ、1学年の奨学生0人県連の克服と奨学生の集団づくりをめざします。奨学生500人確保の目標を掲げた際、それを可能とし維持できる組織づくりを行うことをあわせて提起しました。医学生担当者や研修担当事務は、医学生や研修医に寄り添い、自らも学びを深めるなかでともに成長しています。医師をささえる医局事務集団の役割も重要性を増しています。医学生にかかわる活動の抜本的な再構築と飛躍、医局づくりの前進のために医学生・初期後期研修・医局にかかわる事務の配置と育成をはかることは、幹部集団の位置づけと構えの問題です。
 特に医学生に直接かかわる担当者については、「早急に求められる医学対担当者の育成と集団化のために」(2014年理事会)に立ち返り、①幹部が自らの重要課題であるとの認識を深め、県連・法人あげて、まず担当者の配置を行うこと、②地協を軸に、医学生担当者と研修担当事務、医局事務集団の相互交流と育成をすすめること、③医学生に寄り添いともに学び育ち合う担当者の成長を組織的に援助する体制づくり、④医師政策・医療構想のなかで医師の後継者づくりの方針を位置づけ、全職員で共有すること、⑤医師のみならず幹部を先頭に全職員、県連・事業所でとりくむ課題であることの位置づけを再度確認します。

②民医連らしい初期研修が後継者確保のカギ
 初期研修医は2次募集も含めて、目標の200人に近い一定の到達を築いています。この間継続して実施している初期研修医満足度調査では、民医連医療、そして社保・平和などの運動への共感が高まっている一方で、実際に運動参加の経験は低い結果となっています。45期の特徴的なとりくみとして、奨学生であった初期研修医を中心としての、ロシアによるウクライナ侵略を許さない戦争反対の運動や、選挙に行くことを呼びかける動画の作成など、青年医師が社会に訴える活動に、多くの職員が励まされました。また自治体キャラバンに研修医もいっしょに参加するとりくみをはじめた県連もあります。各地の経験に学びながら、運動への参加を促すとりくみが求められます。
 4年ぶりに研修委員長・プログラム責任者会議を開催し、「民医連の研修」と「民医連らしい研修」をあらためて確認し、研修の改善や、基幹型臨床研修病院を持たない県連の医師受け入れと養成の推進など11のアクション(※注)を提案しました。臨床研修定数確保のたたかいでは、大阪などで研修の質を高め訴えることで定数増を勝ち取り、兵庫では研修病院維持の運動を継続しています。2025年まですすめられる初期研修医定員削減に対し、ひきつづき全国的に貴重な民医連の臨床研修定員を守るたたかいと、増員も視野に入れたとりくみが重要です。オール民医連・オール地協での定員削減への対抗、民医連の後継者を生み出すことのふたつの軸で、フルマッチをめざします。2026年から、医師多数県の募集定員の5%程度を医師少数県や少数区域に所在する臨床研修病院で半年以上研修を行う「広域連携型プログラム枠(仮称)案」に充てることが、厚労省臨床研修部会で提起されており、今後の動向を注視します。
 専門医取得のために外部研修にすすんだ専攻医の、研修後の帰任率は7~8割であることが、医師部の調査で明らかになりました。このことからも、民医連らしい初期研修の具体化と実践が、後継者育成のためのカギであると言えます。すべての研修医に「患者と地域の視点から社会をとらえ医療を行うこと」「患者のかかえる問題の真の解決のためには地域、行政、政治がつながっていること」を実感できるような研修を、多職種協働と共同組織の力でつくり出すことが必要です。そのために民医連医療を実践と語りを通し研修医に伝え指導する指導医の養成をすすめ、プログラムと指導の向上をはかりましょう。また、職員育成の視点が貫かれた心理的安全性の高い職場と多職種でともに成長する集団づくりをすすめましょう。気候危機への研修の取り入れをひきつづきすすめます。

③多くの専攻医の合流をめざした後期研修づくり
 専攻医100人の目標は、修了後に民医連への帰任予定の医師を含めると達成しています。奨学生は7割前後が、民医連内や民医連とつながりのある後期研修にすすんでいます(奨学生でなかった研修医は3割)。このことからも、奨学生の確保・育成と初期臨床研修が、後継者の獲得に非常に重要と言えます。
 後期研修では、「オール民医連」と「地域連携のなかで進める研修」の2つの位置づけをあらためて確認します。ひきつづき基幹施設の要件に手の届く分野について、積極的にプログラム認定をめざします。この間認定が増えている内科領域について、委員会の立ち上げを検討します。高齢化と医療構造転換のなかで、今後、社会的ニーズが高まる総合診療プログラムは多くの基幹施設をもつことから、マッチングを増やすためにプログラムの質の向上をはかるとりくみをいっそうすすめます。TY(トランジショナルイヤー)研修について、言語化・ブランド化と合流しやすい位置づけが必要です。サブスペシャリティ領域のプログラムへの参加状況について調査をすすめます。2010年に提起された民医連の専門医像について、あらためて議論し提起します。あわせて専門医制度に対する評価と提言を行います。

〈医師委員長会議で提起したこと〉
 45期は3年ぶりに医師委員長会議を開催しました。第1回は2022年9月に開催し、大切文書の議論を通して医師政策への結実を呼びかけ、作成に向けてのポイントとして、①どんな医療を行うのか、医学生・研修医も未来を描ける医療構想、②医療活動・技術建設も含めての民医連運動、③リポジショニング(中長期経営計画とのリンク)の3点を提起しました。各県からのグッドプラクティス報告は、強い共感をもって受け止められ、特に山梨がとりくんだ「自己紹介カード」から共通項を導き出す医師政策づくりは、参加者を励まし、複数の県連において、その内容を生かした医師政策づくりがすすみました。2023年7月には、政策づくりの進ちょくと実践を確認し交流することを目的に第2回を開催し、この会議で、医師の健康と経営、国民のいのちと健康を守る視点で医師増員を求める運動を提起しました。この到達を受け、第3回評議員会方針で提起した、医師増員を求める運動と人権の視点を持って業務構造の見直しをすすめるために、パターナリズム、男性中心の権威勾配とジェンダー差別を乗り越える意識改革と組織改革が必要との訴えは、特にケア労働を担いながら医療実践を行っている女性医師に、強い共感をもって受け止められました。
 46期は、幹部と医師集団が何を大切にするのか、くり返し議論し、医師政策づくりと改定をすすめます。医療構想や中長期経営計画のなかでの位置づけが重要です。自己犠牲的な働き方を是認する業務構造の転換をどうはかるか、継続して議論していきましょう。あらためて、「ケアの倫理」の視点で、多様な世代や立場の声を聞き、誰も犠牲にすることのない働き方や、女性医師のキャリア支援、ジェンダーバランスの均衡をめざすことなど、医師も労働者としての権利を有していることを共通の認識にしていくことが必要です。
 全日本民医連の医師数(2022年度)は、新卒・既卒の入職が増えていることを受け3610人と、2020年度調査より134人増加しました。しかし、キャリアアップ・専門医・認定医取得のための退職が増加し、特に29歳までの退職が最多となっています。既卒医師の確保も必要であり、常勤医師確保のための全国会議のなかで議論を深めます。あわせて医局事務交流集会を開催し、事務集団をはじめ全職種とともに医局集団づくりをすすめます。
 医師の確保と養成の課題は、44期運動方針の2020年代の課題のなかで、「綱領を実践する民医連組織として打開が急がれる課題」であると位置づけられました。この課題で、大きく前進するためには、2020年代の折り返しとなる46期の2年間が非常に重要です。民医連運動の発展にとっての最重要課題であることを再度確認し、医師の後継者対策を抜本的に強化しましょう。

〈領域別委員会のとりくみ〉
 外科医療委員会では、外科懇話会を開催し、①人事交流、②後継者育成、③他施設研究について継続的な議論と実践をすすめています。委員会の議論を通じて、民医連の多くの病院が参加する外科専門プログラムを沖縄協同病院で準備し、認可を受けました。
精神医療委員会は、精神科病院代表者会議、第24回精神医療・福祉交流集会を開催するとともに、2023年7月末から精神科医が不在となっている北海道・勤医協中央病院への医師支援を行いました。
 産婦人科医療委員会では、HPVワクチンや旧優生保護法に関する継続討議をはじめ、セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツやLGBTQ、生理の貧困、健康の権利について活動目標を設定しました。性教育が身近な人権の学習になることから、「人権尊重に繋がる性教育」を企画し、職種の枠を超えた学習会を開催しています。
 小児医療委員会は、これからの民医連小児科のありかたを小児科医だけでなく、職員や共同組織も含めて考えてもらうための「民医連の小児医療の発展に向けて」をまとめ、発信しました。
 整形外科医療委員会は、整形外科リウマチ懇話会をWEB開催しました。
 総合診療はネットワークとして、SNSでのグループを立ち上げ、交流を開始しています。

(4)各職種の活動
 ここでは、全日本民医連に委員会がある職種について記述します。
①看護
 新型コロナウイルス感染症への対応では、全国から沖縄への看護支援を実施、地協や県連内でも支援を通して連帯の輪がひろがりました。5類移行の対応に向け、「感染管理認定看護師・感染制御実践看護師(ICN)WEB交流会」を開催。ICNの専門性と経験を交流し、感染症への対策強化につながりました。また、コロナ禍における全国各地の看護の貴重な実践を歴史に残すため、『未来にのこしたい コロナ禍のキラッと看護介護実践集』の制作にとりくみました。
 新卒確保は、2022年、2023年ともに1000人超となり、12年連続で目標を達成しました。しかし達成率の低下や、奨学生確保に苦慮している現状もあります。また、44期から継続している看護学生実態調査では、経済的困難による看護学生の厳しい生活実態がより深刻になっていることがわかりました。学生のなかにも「高等教育無償化を求める請願署名」がひろがっています。
 看護管理実態調査による2022年度の離職率は、正規雇用看護職員9.6%(前年9.9%、全国11.6%)、新卒採用者7%(前年9.6%、全国10.3%)、既卒採用者10.2%(前年16.7%、全国16.8%)と全体的に低く、コロナ禍による大きな影響は見られませんでした。一方、既卒採用においては、多くの法人が人材紹介会社に頼らざるを得ないなど、状況は深刻です。とりわけ病棟夜勤者や訪問看護ステーションでの確保は厳しく、多様な働き方や一人ひとりの状況を踏まえた新たな発想での体制・業務形態など、働き続けられる職場環境の整備が求められます。看護理事会議では、夜勤・交代制勤務の負担軽減に向けた学習会や、多様性に配慮した実習受け入れのための「LGBTQ講座」などを開催しました。また、SNS活用促進セミナーを開催し、民医連看護のホームページ「きらり看護」の活用がすすんでいます。
 45期、10年ぶりとなる訪問看護ステーション交流集会を開催しました。医療・介護複合ニーズの増大や、在宅分野の総合的な強化に向けて期待される訪問看護ステーションの役割を明らかにし、事業方針として位置づける重要性を確認しました。
 特定行為(※注)については、44回総会運動方針(2020年)で、法人・事業所の医療活動のなかで実施する必要性や方針をもつことが提起されています。この間、民医連のなかでも特定行為研修受講者は増加し、特定行為の実施にとりくむ法人もあります。協力研修機関も増え、民医連初となる指定研修機関登録施設の準備をすすめている法人もあります。診療報酬改定で特定行為研修修了者がチーム加算などの要件に追加されたことも後押ししています。県連・法人・事業所では、全日本民医連が把握する全国の情報を参考にしながら継続的な検討をすすめ、特定行為研修の受講と修了後の活用などについて組織的に合意形成をはかっていくことが必要です。同時に、看護本来の業務に専念できる環境づくりや、医師・看護師不足解消を国に求めたナース・アクションのとりくみが重要となっています。
 46期も、看護職員の確保と養成、働き続けられる職場環境の保障は最重要課題です。ひきつづき、新卒確保1000人以上の達成、看護学生実態調査や卒1アンケート調査を実施します。看護学生委員会活動マニュアルを改定し、学生一人ひとりの背景をていねいにつかみ、地協の看護学生のつどいなど、学び合いの場につなげることを重視します。卒後研修のあり方や職場での育成活動などの経験交流もすすめます。看護の働き方改革や多様な勤務体制、訪問看護などの在宅分野での新卒看護師・新任看護師の育成にも積極的にとりくみましょう。
 大学のみならず、民医連の看護専門学校への入学者が減少しています。紹介運動にとりくむなど、県連・地協をはじめ関係する組織が一体となって民医連の看護学校を守りましょう。
 民医連の看護の継承とさらなる発展に向け『民医連のめざす看護とその基本となるもの』ブックレットを改定します。看護の専門性とケアへの追求、各地の豊かな実践を盛り込みます。
 46期も看護幹部研修会を開催し、民医連の看護を継承し新たな時代を切り開く看護幹部の育成をめざすとともに、経営をリアルに捉える力量を高め、経営改善にも積極的にとりくみます。
 第16回看護介護活動研究交流集会は、2024年10月に熊本で開催します。メインテーマは、「憲法でアクション?ケアこそ未来を切り拓く」です。民医連の看護・介護の豊かな実践を持ち寄り、ケアに満ちた社会へ向けて交流しましょう。

②薬剤
 2019年末からの長期にわたる医薬品の供給不足は、毎年の薬価改定など、政府の医療費抑制政策に原因の一端があります。供給不足に対し、厚労省は有効な対応をすることができず、国民のいのちを守る医薬品の供給が滞るという問題となっています。薬剤師は医薬品確保に忙殺され、本来業務に影響が出ています。患者に必要な医薬品が提供できるよう、国に早急な対策を求めていきます。
 厚労省による新薬メーカーのイノベーション推進は、新薬に高額な薬価をつけ、長期収載品の患者自己負担増をすすめ、患者に経済的な困難を与えます。民医連薬剤師は、経済的な理由で薬物療法が困難になることがないよう、格差と貧困に立ち向かい、いのちとくらし、受療権を守る薬剤活動にとりくみます。
 病院薬剤師は、体制が厳しいなかでもチーム医療への参画がすすんでいます。病院薬局長同士が相談できる環境やつながりを実感できる場として、オンラインの病院薬局長交流集会や病院薬局長オンラインサロンを開催しました。
 保険薬局は、これまでの地域での薬剤活動の実践から「地域連携薬局」の認定取得がすすみ、対物から対人業務へ大きく評価が変わった調剤報酬への対応を行ってきました。「健康サポート薬局」(※注)の取得で、地域の健康づくりへのとりくみもすすんでいます。
 かかりつけ薬局の機能の強化と、オンライン服薬指導・電子処方箋など医療DXへの対応が求められます。
 病院薬剤師、保険薬局薬剤師ともに、医療・介護活動に大きな役割を果たしていますが、診療報酬・調剤報酬でかならずしも十分な評価がされているとは言えません。特に病院薬剤師の処遇改善が求められます。安全で有効で経済的な薬物療法を提供できる医薬品政策と、薬剤師への適正な評価を求める運動(ファーマウエーブ)へのとりくみをすすめていきます。
 新型コロナ治療薬などの緊急承認制度の問題など、薬剤の有効性や安全性について迅速に評価が求められています。新型コロナワクチンの健康被害も注意が必要です。新薬評価モニター、副作用モニターを強化していきます。
 2020年から病院・保険薬局どちらも新卒入職数が大きく減少しています。厚労省の全国調査では、薬剤師偏在指数が保険薬局1.08に対し、病院薬剤師は0.8となっています。病院薬剤師の確保は喫緊の課題です。世代交代もすすむなか、後継者の養成と民医連薬剤師として成長できる職場づくりにとりくみます。
 改訂された薬学教育モデル・コア・カリキュラムでは、求められる基本的な資質・能力に「総合的に患者・生活者をみる姿勢」が追加されました。健康の社会的決定要因(SDH)の視点にもとづいた民医連薬剤師の活動を生かして、育てる薬学対にとりくみます。

③事務
 44回総会運動方針で、事務職員は「民医連運動の発展に重要な意味を持つ多職種協働のコーディネーターでありその当事者である」と位置づけました。事務職員は、患者・利用者と医療・介護、専門職種間、現場と制度や行政、地域の事業所間などを結びつける重要な役割をもっています。
 45期は事務育成に関して2つの全国集会を行いました。おおむね10年目以下を対象とした民医連事務集団「3つの役割」(※注)実践交流集会には約170人の若手職員が参加し、「3つの役割」に沿って持ち寄られた50本の演題では、事務同士の学び合いから地域活動や経営改善の工夫まで、多様な場面での実践とそのなかでの自身の奮闘がいきいきと語られました。民医連事務としての確信が深まった、モチベーションが上がったとの感想が多数寄せられました。「多職種と共に育ちあう事務育成実践交流集会」には育成にかかわる約140人が参加し、多様な工夫、県連的な枠組みの模索など交流し、今後の具体的行動目標も確認し合いました。いずれも、「民医連事務」育成における到達と現状の課題を整理し、次の展望を探る重要な機会となりました。
 「3つの役割」を身近に引き寄せながら育ち合うとりくみは全国ですすめられていますが、集団化や次世代を担う幹部候補の育成にはまだ不十分です。確保の困難は共通した課題ですが、世代交代や事務に求められる重要な役割を鑑みれば、具体的な確保戦略と従前とは違うとりくみが求められ、経営的背景のみを理由とした採用控えなどには留意が必要です。また、民医連の存続を左右する厳しい医師体制克服につなげるためにも、医学生担当者を積極的に人選、配置するような県連的討議がくり返し求められます。あらゆる民医連のフィールドで活躍し、民医連綱領実現の要としての役割を担う事務職員の確保と、多職種協働のなかでの「3つの役割」に沿う実践・経験を通した体系的な育成を最重要課題と位置づけましょう。
 事務委員長アンケートによれば、ブラッシュアップを呼びかけた事務政策が「ある」37県連のうち、6県連は45期中の策定です。また9県連が改定論議に着手、「ない」のうち4県連が策定論議に着手しています。法人人事政策とも連動させた中長期的な民医連事務の採用と育成をセットで盛り込むことも念頭に、すべての県連で事務政策の策定または改定をめざしましょう。
 県連や地協主催の事務幹部養成学校はコロナ禍を経て再開、定着してきています。内容のさらなる向上や各地・各階層の研修にも生かしていくことが求められます。全国的視野を持つ事務幹部養成も待ったなしの課題であることから、多職種構成型PJにて「全日本民医連事務幹部養成アカデミア」を準備、開催しました。40県連から53人が受講し、民医連運動の理念や各分野の理論を学習し、幹部としての姿勢やかまえについて考え、全国的な仲間の集団形成と団結をはかりました。事前事後の机上課題に加え、受講生自らが地域の諸問題に向き合う通年テーマを設定し、約1年かけて仲間を組織しながら実践課題にとりくみました。次代の事務幹部を育成するためには、自覚的学びはもちろん、現場での多職種協働や地域とのかかわり、県連・法人の位置づけと日常的なフォローが大切であり、それらを通して次を担いうる構えが醸成されます。ひきつづき「3つの役割」の実践、多職種のなかでの職場実践や階層別教育、そして法人や県連を越えた学び合いを重視していきましょう。
 46期は、第2回「3つの役割」実践交流集会および事務幹部養成アカデミア第1回受講生のフォローアップと第2回の開催、「民医連事務」育成指針の作成を検討します。

④ソーシャルワーカー
 SW委員会では、各地のとりくみや事例を「あの街この街かわら版」で発信し、地協・県連を越えた相互交流を深めました。全国の生存権裁判(「いのちのとりで」裁判)の進ちょく状況や判決の情報、生活保護行政のローカルルールをめぐる実態なども、地協の委員会などを通して全国で共有してきました。どの県連でも課題となっているSWの採用・育成の課題、先進事例の情報交換も行いました。
 全国企画として2023年6月、オンラインの中堅研修会を開催し、「人権のにない手として―社会保障・社会福祉、健康権とソーシャルワーカー」をテーマに、井上英夫さん(金沢大学名誉教授)が講演しました。また、2024年1月、第45期SW県連代表者会議・指導者研修会を現地集合形式で開催し、安田菜津紀さん(フォトジャーナリスト)の「ウクライナ情勢から平和や民主主義」、増田剛会長の「民医連SWに期待すること」などの学習講演、今期の総括と来期への課題の討議を行いました。
 46期は、憲法25条の理念にもとづき、人権の担い手、福祉専門職のSWとして、患者や利用者の人権、社会保障制度を守り、さらに拡充させていきます。そして、いのちと人権が否定される戦争への道、憲法改悪を許さないとりくみをすすめます。
 政府の医療費抑制政策のもと、診療報酬などで誘導され、SWの業務も細分化がすすんでいます。そうしたなかで、県連SW部会への結集や参加が厳しい現状があります。県連SW部会や地協SW代表者会議を通して、民医連SWの集団づくりを意識的に行います。またSW部会のない県連は、地協で課題を共有しささえていきます。県連のSW政策づくり、職能団体への加入と研修、活動への積極的な参加も位置づけてとりくみます。

⑤リハビリテーション
 コロナ禍の感染拡大が続くなか、特に高齢者を中心とした低活動や閉じこもり、廃用症候群の進行は社会問題としても取り上げられ、各地でセラピストが共同組織活動の一環に積極的にかかわるなど、リハビリの活動がひろがった2年間でした。
 2022年の診療報酬改定では、運動機器導入加算によるDXなどの対応で実践に踏み出した事業所がありました。また、透析リハビリ加算が新設され、各地で多職種連携による運動療法の導入も試みられています。介護分野ではひきつづき、LIFE(※注)の対応や、リハマネ加算の充実、リハビリと機能訓練・口腔・栄養の充実に向けたとりくみがすすんでいます。
 リハビリ技術者委員会では、多職種連携を踏まえたセラピストの働き方に関する議論や管理運営に関する調査と分析を行い、急速に増加したセラピスト集団の管理運営について、組織にみあった階層的な管理機構の整備や管理者研修などの課題を共有しました。42期、43期に開催した幹部講座参加者のフォローアップ研修を実施し、地協での中堅研修を再開して、職員育成を推進しました。2023年12月の県連・法人代表者会議では、医療・介護人材が減少するなかでのセラピストの働き方のふり返り、管理運営に関する情報共有と組織整備の課題を中心に議論しました。
 46期の実践課題として、①急性期365日リハビリの実践と普及、②在宅リハビリの強化、③がん・予防・産業領域への業務拡大、④小児リハビリを含む障害児者のリハビリの情報収集、⑤多職種や地域連携のハブとしての役割強化、⑥世代交代を含めた管理者・経営幹部の養成、⑦職責者研修、などをとりくんでいきます。

⑥放射線
 44期に放射線部門の3つの課題(人材確保、人事育成、医療安全)を中心に全日本民医連放射線部門委員会の役割を整理し、「地協からの情報共有」「インシデントレポートの構築」「技師政策の改訂」などをめざしましたが、コロナ禍による会議の延期やWEBによる制限で十分な論議が困難となりました。
 45期中盤から集合開催が可能となり、より積極的な意見交換や論議がすすみました。しかし、コロナ禍による人びとのつながりの希薄化や生活様式の変化が職場運営や技術研修、運動課題への参画や人事交流に影響したこともあり、「3つの課題」をめぐり、さらに困難な状況を抱える県連・法人も少なくありません。また、診療放射線技師の法律改正により業務範囲の見直しに伴う告示研修の受講が義務づけられました。研修受講の困難事例や受講後の業務内容の変化への対応が課題となっています。さらに医師の働き方改革をすすめるためのタスク・シフト/シェアの推進とも相まって、放射線部門は大きな変革期を迎えています。
 46期は、ひきつづき「3つの課題」(人材確保、人事育成、医療安全)を整理し前進させます。また「技師政策の改定」「地協・県連との連携強化」「告示研修受講と運用」を重要事項としとりくみます。全日本民医連放射線部門代表者会議を開催し、活発な意見交換と情報共有を通して、これからの民医連放射線技師としての羅針盤となる場にしていきます。

⑦検査
 コロナ禍、全日本および地協レベルでさまざまなとりくみが交流・共有され、PCR検査や発熱外来など、その時々で変化するコロナ対策に検査部門として大きな役割を果たしてきました。医師の働き方改革にかかわって、タスクシフトについては、一般社団法人日本臨床衛生検査技師会の設立母体別会議に結集しつつ、民医連としてまとまった要望を技師会として反映させるよう努めました。民医連のなかでは、タスクシフトで必要な検査技師の資格拡大のための講座受講も積極的に呼びかけてきました。すべての事業所で積極的にとりくむまでには至っていませんが、ひきつづき推進をはかっていくことが求められます。
 2001年に策定された民医連における検査技師活動指針は、2016年から見直し作業が始まり、「2つの柱」を実践することで技術・技能を向上させ社会的な使命の自覚を高めることをめざしてきました。そして、2021年に新しい活動指針として改定され、45期に2期ぶりに広島で開催された対面での検査部門全国交流集会で報告・議論されました。検査技師として「2つの柱」のとりくみをどう発展させるか、チーム医療のなかで検査技師としての役割をどう拡大していくか、民医連の後継者育成をどうすすめるかなど、ひきつづき検討していきます。46期の検査部門交流集会は熊本で開催します。

⑧栄養
 第45期は、食材料費や水光熱費の高騰、そして人手不足問題がとりくむべき重要課題になりました。調理師の離職防止を目的に、民医連運動と調理師の仕事の意義についてオンライン学習会を開催し、グループ交流で仲間意識を高め合うことができました。食材料費高騰問題では、約30年間不変の入院時食事療養費を改定する要望書を厚労省へ提出し、早急な対策を国に求めました。あわせて、改定されても患者負担増のないよう強く訴えました。多職種連携が重視されるなか、学術・運動交流集会の食に関する多職種セッションに調理師が参加して、栄養部門の活動を知ってもらう機会となりました。
 第46期は、嚥下調整食の向上を前期からの継続課題としつつ、①魅力ある職場づくりと職員育成、②在宅を見据えた多職種連携、③診療・介護報酬改善に向けたとりくみの3点を重点課題とします。栄養部門活動の他部署へのアピールも重視していきます。

⑨保育
 医療・介護の現場で働く保護者の就労をささえるために、院内保育所の存在は不可欠です。院内保育は、待機児童の受け皿機能、保護者の勤務時間(夜間・休日含む)に対応した柔軟な受け入れ、病児・病後児保育など多くの役割があります。2023年度民医連内保育実態調査によると、運営形態は認可外が7割(企業主導型含む)を占め、そのうち「認可外保育施設監督基準を満たす旨の証明書」の保有率は56%、夜間保育も75%と高い実施率です。認可外の保育所は、国による運営費や補助金、保育士の処遇改善事業の対象外です。保育士確保も56%が苦慮していると回答しています。
 第45期保育交流集会では、「病院の経営や少子化の影響に不安を感じながら運営しているが、つながりを大切に、学びながら困難に立ち向かいたい」「子どもを真ん中に、工夫しながら安全な保育をすすめたい」などの感想が寄せられました。また、2023年度社会福祉法人専務・事務局長・施設長会議では、社会福祉事業における保育事業のとりくみと経営について議論されました。
 子どもの人権が真に保障されるためにも、保育士処遇改善、配置基準の改善を求め、保護者を社会全体でささえていけるよう運動をひろげます。

第5節 私たちのあらゆる活動のパートナー、共同組織の前進を
 45期、地域で「ひとりぼっちにさせない」「〝困った〟に寄り添う」とりくみを通じて共同組織の真骨頂を発揮し、人と人をつなぐ共同組織の存在の重要性が改めて鮮明になりました。コロナ禍でもオンラインの活用など工夫してつながりを継続し、各地でフードバンクなどにもとりくみながら徐々に訪問や班会、サークル活動なども再開させました。
 2023年6月に開催した45期共同組織委員長会議では、コロナ禍でも地域の「困った」に向き合い、今こそ共同組織の役割を存分に発揮しよう、共同組織の「5つの特徴・役割」を念頭に置いて活動を進化させようと提起しました。新たな班会や支部づくり、法人・事業所や共同組織の計画への「居場所づくり」の位置づけ重視も呼びかけました。
 45期の共同組織拡大強化月間では、コロナ禍でもつながりを絶やさず、声をかけ合うとりくみを重視しながら、5万の仲間増やしと1万の『いつでも元気』読者、職員の購読率50%の目標を呼びかけました。2022年は、地域に足を踏み出し、地域からの期待を実感して励まされた県連・法人があった一方で、なかなか外に足を踏み出せなかったところもありました。2023年は全国で積極的に「外へ」と踏み出しました。「減らさず増やして純増」をめざすとりくみ、新規加入を意識した共同組織の秋のイベントへのお誘い、健康相談会やまちかど健康チェックでの加入訴えなどの奮闘で、10月は1378人、11月は3042人の純増の到達になりました。マイナ保険証問題の学習や署名活動と結びつけた『いつでも元気』普及、体操教室の案内といっしょに『いつでも元気』購読チラシを配布するなど、減誌が続いていた『いつでも元気』は、10月は97部増になりました。また、月間中に手配り協力者を募り、担い手づくりにつなげる工夫もありました。
 46期は、一層地域に出る行動を広げ、共同組織とともに地域で求められる役割を果たしていきましょう。
 第1に、「民医連のあらゆる活動のパートナー」、「民医連の方針と密接に結びついて、地域の要求を実現する自立した地域住民組織」である共同組織の前進をはかる2年間にしましょう。会員拡大や『いつでも元気』読者拡大についてしっかり議論し、目標と計画を立てましょう。日本全体が人口減少に向かうなかで、共同組織だけが右肩上がりには増えないという意見や、活動の中心的な担い手の高齢化の指摘もあります。安心して住み続けられるまちづくりに、共同組織の存在は不可欠です。会員自身の要求の実現をもっとも大切にしながら、地域でその存在意義を輝かせる共同組織として前進することが、いのち守る社会への転換をすすめる力になります。
 第2に、地域に出て、幅広い団体・個人とつながり、地域の要求に応えるとりくみをすすめましょう。各地でまちかど健康チェック、イベントやサークル活動も再開して軌道に乗り始めています。コロナ禍に続く物価高騰のもと、地域の生活実態も深刻です。物価高騰からくらしを守るとりくみも重視します。
 コロナ禍でも食糧支援や地域での相談活動を通じて、さまざまな団体や個人、行政や民間企業も含めて新しい人たちとのつながりがひろがりました。楽しい活動への参加を呼びかけ共同組織を理解してもらう、地域で分断された人びとの思いを聞いて受け止める、今までつながりのなかった人たちにも、新しい方法で工夫して働きかける。こうした各地の実践から学び、地域の要求に応えながら、新しい人と出会ってつながる地域戦略を立てましょう。そのなかで、仲間増やし、『いつでも元気』読者拡大も意識的にすすめましょう。
 第3に、職員の共同組織活動への参加を重視します。全日本民医連として『学習パンフレット共同組織とともに』を改定し、職員学習を呼びかけます。また、職場で『いつでも元気』を活用しながら、職員の『いつでも元気』購読率50%も早急に達成しましょう。
 第4に、これらのとりくみの前進の要となる共同組織担当者の育成は重要な課題です。地域で共同組織担当者が求められる役割は多様です。共同組織担当者が集団で課題を話し合える機会づくり、さまざまな分野の学習や情報共有も必要です。県連、法人、事業所で育成方針を立て、育成の「戦略と計画」をつくって具体化しましょう。

〈共同組織活動交流集会〉
 2022年第15回共同組織活動交流集会は、「富士のふもとに思いをはせ、コロナ禍に立ち向かい つながり広げる共同の〝わ〟 ~憲法・平和・いのち・人権を大切に 誰ひとり取り残さないまちづくりを!~」を集会テーマに、山梨での現地参加144人、3300人にWEB配信で開催しました。
 記念講演「貧困・格差による健康問題と共同組織の役割」(近藤尚己さん、京都大学大学院教授)は、共同組織の活動にあらためて確信を持てる内容でした。また、19分科会167演題の発表を行いました。山梨開催にあたり、実行委員会の意向を踏まえて、共同組織の発展を促す契機となった山梨勤医協の倒産問題を学ぶ動画「いのち燃えて 山梨勤医協倒産と再建」を作成して当日も視聴し、大きな感動を呼びました。
 第16回共同組織活動交流集会は、2024年9月、5年ぶりに岡山現地開催で準備がすすんでいます。テーマは「地域の中からつながり広げ、平和・いのち・人権が大切にされる世界へ~あらたな担い手とともに、誰ひとり取り残さないまちづくりを~」です。全国各地の創意工夫を凝らした多彩な実践、活動のひろがりを交流し、共同組織の役割を確認し合う集会として大きく成功させましょう。

第6節 民医連の組織的な強みに確信を持ち進化させよう
(1)全日本民医連のとりくみと県連・地協活動の機能の強化
①災害対策強化のとりくみ
1)令和6年(2024年)能登半島地震へのとりくみ
 2024年1月1日午後4時10分、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震(令和6年能登半島地震)が発生、石川、新潟、富山で家屋倒壊、火災、津波の被害が広範囲にわたり、石川県内での被害は日を追って明らかになっています(図6)。

 石川民医連は、発災当日に対策本部を設置し、職員の安否確認、被害状況の把握にあたり、全日本民医連役員とMMAT(※注)委員の参加(WEB)で、合同の対策会議を行いました。現地対策本部へ1月4日よりMMAT委員、事務幹部の支援、つづいて薬剤師、心理士の支援を開始しました。医師、看護師の支援も準備に入りました。また、各地のDMAT(※注)チームから民医連の職員も奥能登地域へ支援に駆け付けています。
 羽咋診療所は1月2日から訪問スタッフにより備蓄飲料水を配りながら訪問を継続し、1月3日当番医から通常診療を行っています。
 輪島診療所は、市内全域の道路の損傷が激しく通院が困難な状況となるもとで、安全確保しながら利用者への訪問、電話対応・避難所への訪問にとりくみました。幹線道路及びライフラインが寸断され、患者・利用者の多くは、金沢などへ1.5次、2次避難しました。対策本部は金沢から110km離れた輪島に1月12日より定期的な支援往復便の派遣を開始しました。
 災害の度にくり返される避難所の劣悪な衛生環境の改善、避難中感染症患者のプライバシーと受療権が守られる療養環境確保、被災者の入院時食事療養費免除など、喫緊の課題にとりくみながら、生活再建に向けた権利の保障を含む長期の災害支援、被災によって損なわれた人権の回復をめざすとりくみを全国災対連や他団体と協力し続けていきます。長期におよぶ支援となりますが、被災地の困難に寄り添い、ひきつづき全国の連帯でとりくんでいきます。
 今回の地震で、地震大国の日本に原発がある限り再び過酷事故を引き起こす危険性が露になりました。志賀(しか)原発(※注)の地震被害の全容と原因は明確でなく、原子力規制庁が調査を指示した段階です。「志賀原発」は、福島事故後に策定された再稼働の前提となる新規制基準に適合していません。今回、設計の想定以上の揺れが原発で観測され、外部電源の一時停止、変圧器の配管破損、使用済み核燃料プールで水の飛散など深刻な事態となりました。あらためて福島原発事故前の見込みの甘さが露呈しました。原子力災害時の基本的避難ルートは、「国道、県道などの主要な幹線道路」となっていますが、幹線道路が寸断された能登半島地震によって、避難計画は絵に描いた餅となっています。事故による避難が出来ない原発は廃炉しかありません。

2)自然災害の新たな状況を踏まえBCP(事業継続計画)を整備し地域と民医連の事業を守ろう
 全事業所がBCP作成を行えるよう作成支援を行い、全国規模の医療・介護の団体のとりくみとして災害医療学会では、優秀演題として学会誌に掲載されました。震度5弱以上の地震が2022年15回(2016年熊本地震以来の頻度で発生)、2023年9回(2023年11月末まで)、福島沖地震(2022年3月)能登地震(2022年6月)での震度6規模の地震が発生、ひきつづき地震活動が活発となっています。群発地震の増加で液状化による住宅損傷が震源から遠方でも発生しています。気候変動の影響で、全国各地で線状降水帯の頻発などにより下水道などの排水施設の能力を超え、雨水が排水できなくなり浸水する「内水氾濫」が頻発しました。医療・介護施設への浸水により多くの被害が発生しています。
 想定される南海トラフ地震、首都直下型地震など大規模災害にとどまらず、頻発する規模の大きな地震、台風の巨大化、豪雨災害・内水氾濫の頻発など、新しい災害がひろがっています。最新の事業所周辺のハザードマップの確認、BCPの策定と更新は、これまで以上に重要です。BCPをもとに災害訓練を実施し、くり返し見直しを続けていきましょう。共同組織、地域住民とともに、減災をめざしまちづくりの課題として運動化していくことも必要です。
 BCPの策定や災害訓練は、少人数の事業所などで実施困難な悩みや課題も寄せられています。県連、法人単位で各事業所のBCPに関するとりくみの交流をすすめ課題を解決していきましょう。BCP策定が2024年4月から義務化となる介護施設では、民医連版のひな形の活用などとりくみをすすめていきましょう。

②民医連の組織改善
 「人権と倫理センター」は、45期①人権と倫理にかかわる情報の整理・発信をする、②民医連の構成員・各委員会・各部などのハブ的な存在となり、各所での問題意識を可能な限り把握し、組織としての活動につながるような時にはそれを支援していくという2点を主な役割とし、ニュースを作成して全国に情報発信しています。また自らの組織状況を認識するため、全法人向けに「ジェンダーとりくみ状況アンケート」を発送し、報告書を公開しました。46期の課題は、センターの横断的な性格を生かした活動をひろめ、各部・委員会(特に医療介護倫理委員会)とのコラボレーションを具体化し、他のコミュニティーが立ち上がることを支援すること、また国際的な人権規約やそれにもとづく法律などについて学習をすすめ、センターとしての理論的基盤をつくることの2点を強めていきます。センターの認知度を高め、全国の仲間の倫理と人権に関するもやもや、問題意識を受け止める力量をさらにつけ、民医連の人権と倫理観をアップデートしていきます。
 全日本民医連46期役員選出の方針では、「結成70年を経た全日本民医連の活動をいっそう豊かに総合的に発展させていくうえで、女性役員の比率を遠くない将来、40%、50%をめざしていく必要があります」「各県連・法人の幹部構成においても、ジェンダー平等の観点から方針を明確にし努力されることを期待します」と呼びかけました。
 役員選出の方針を受け、全日本民医連は初の試みとして当事者である女性の理事の懇談会をオンラインで開催し、交流しました。46期全日本民医連役員推薦名簿の女性比率は32.6%です。
 今期、ハイブリットの運営をコロナ対応にとどまらず活用し、夜間、休日の会議開催を可能な限り減少させるなど、参加しやすい環境整備にとりくみます。それらは役員の健康管理の上でも必須です。また、実際の活動方針をつくりあげる上で多様な当事者の参加を促進していくこと、参加しやすい環境づくりをすすめます。
 各職種の幹部養成研修でのジェンダーバランスは県連によって大きく異なっています。選出段階でのバランスの改善を呼びかけます。

③全国的な視点を持つ幹部養成、病院長会議
 全国的な視点を持つ幹部養成をすすめるため、幹部研修、交流にひきつづきとりくみます。理事長、病院長、看護部長、専務など、法人・事業所のトップ幹部研修、経営幹部の育成、集団づくりをひきつづき、各専門部の共同で企画しとりくみます。
 第45期病院委員会は、それぞれの病院の民医連病院として発展をめざした病院三役へのエンパワーメント、診療報酬制度など国の病院政策、地域医療構想、働き方改革など眼前の課題についてのたたかいと対応の促進、を目的に、全国の病院長会議を初めて定期開催しました。合計6回の会議を開催し、通算で約90%の病院、85%の病院長が参加しました。病院長が直接民医連の全国方針を受け止め議論することができた、さまざまな病院の実践交流で横のつながりが深まった、病院長および三役にとって深い学びと活力を生む機会となった、など大変意義のあるとりくみとなりました。対面で4年ぶりに開催された2023年6月の病院長会議では、民医連病院が、1)地域の健康権の担い手として、ソーシャルワーク機能を実装した「地域密着型多機能病院」としてまちづくりの実践のなかで発展すること、2)平和と人権を掲げて、事業所から地域、世界へととりくむこと、を確認しました。また新たに、民医連病院長の交流サイトを開設し、病院長会議の講演や報告の共有、日常的な情報交換と交流の場となりました。
 46期には、全国の病院長から寄せられているさまざまな意見、感想を踏まえて、さらに参加しやすく参加しがいのある病院長会議の開催と、日常的な交流の促進を軸に活動を発展させていきます。民医連病院に求められ実践する課題は、人権・健康権、ジェンダー平等、医療の質、医療技術獲得と実践、職場づくりと職員育成、ポジショニング・事業継続・経営、まちづくり、平和・気候危機など多岐のジャンルにわたり、それぞれの民医連病院における豊かな実践と前進が重要です。とりわけ重大な局面を迎えている経営課題、本格化する医師の働き方改革と医師増やせ運動、医師確保・養成など、全国の民医連病院の知恵と力を結集するとりくみをめざします。

④県連、地協機能の強化
1)民医連運動における県連
 全日本民医連は、民医連綱領、規約を承認する県連を基本単位として成り立つ組織です。各県連はそれぞれに歴史的な特徴を持ち発展してきましたが、共通する役割として重要なことは、全加盟事業所が結集し、無差別・平等の医療と福祉の実現をめざし活動すること、各都道府県で民医連運動のセンターとして、代表して他団体や個人との共同のとりくみを発展させることです。それにふさわしい県連理事会と事務局体制を確立し運営をはかることが必要です。

2)県連機能の発揮とその強化
 全日本民医連は、第35期第2回評議員会で県連活動の柱として①全国方針の討議・具体化、理事会機能と機構の整備、②県連長期計画の策定、経営の掌握と指導・援助、共同事業の推進、③県を代表する運動組織、④共同組織の拡大交流、『いつでも元気』の普及、⑤職員育成、教育事業の推進、⑥医師問題での前進、医師養成の地協的共同、⑦民医連組織を守る、をミニマム案として提起し実践を強めてきました。また、経営課題に対しても県連経営委員会のミニマム、地協経営委員会ミニマムを方針として確認し県連、地協で改善をはかってきました。
 今日、2020年代の課題(平和、地球環境、人権を守る運動を現場から地域へ、そして世界に・健康格差の克服に挑む医療・介護の創造と社会保障制度の改善・生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系と方略づくり・高い倫理観と変革の視点を養う職員育成の前進)をさらにすすめる上で、県連活動の強化は必須です。すべての県連が標準的に確立する機能として県連機能ミニマム(案)を「県連の備えるべき7つの役割」として各県連の機能強化の方針とします。
 県連機能強化にとって会長・事務局長の研修機会を保障していく事が重要です。ひきつづき県連会長研修、事務局長研修、新任事務局長研修会を実施します。県連事務局員の学習を充分に保障しましょう。県連事務局員研修を全地協単位で開催することをめざします。全日本民医連事務局への出向を各県連の人事政策に位置づけるなど、育成の機会として積極的にとりくみましょう。

3)全日本民医連理事会の機能としての地協の強化
 1997年に発生した大阪・同仁会の経営危機の教訓から全日本民医連理事会として各県連内の状況把握をより現場際で早期に行うため第33回定期総会で「理事会機構としての地方協議会の設置」を決定、規約改正しました。医師養成の推進、経営問題の把握による対策、医療・介護活動の交流などにもとりくんでいます。全日本民医連理事会の機能として地協の役割を強化し、それを通じて県連機能を強化することも含め、理事会と地協運営委員会を軸にとりくみを強めます。

⑤全日本民医連創立70周年記念事業
 「コロナ禍を乗り越えて、今つながろう! 行動しよう! いのちと人権が守られる平和・公正な未来へ」をスローガンに、創立70周年記念事業にとりくみました。①つながり・つなげる(全国、県連、法人・事業所、歴史、未来など)、②楽しく、元気になるように職員、共同組織がいっしょに参加する、③歴史、民医連綱領を学ぶ(たたかい、いのちをまもる、憲法をまもるなど)の3点を事業の柱にしてきました。70周年記念レセプションは、2023年8月19日に東京ドームホテルで行い、海外来賓を含め360人が参加しました。当日は21人の来賓があいさつし、川嶋みどりさんが「歴史の岐路に立って平和と人権を守り抜く責務」をテーマに記念講演をしました。『無差別・平等の医療をめざして』『学習ブックレット民医連の綱領と歴史』の追補を行います。

(2)共済会・退職者慰労会
 コロナ禍のためスポーツ全国大会はひきつづき中止しました。全国スポーツ大会の開催に向けて整備を行い、ピースリレー、モルック、フットサル、ボウリング、野球、バレーボール6つの競技を3年毎に行うことを決定しました。新たに採用したモルックの普及にも力を入れました。2023年度にゲリラ豪雨による水害が多数発生しました。被害を受けた職員に見舞金を支給しています。同性婚・事実婚への共済給付について検討します。LGBTQの対応としてサポートを考える視点から、共済給付の約款を見直します。全国スポーツ大会の実施に向けて各スポーツ委員会を開催していきます。共済活動交流集会やブロック実務研などをWEB会議での開催から集合しての開催へと切り替えていきます。各県支部、ブロックでの積極的な参加をお願いします。
 2022年4月より退職者慰労金制度改定を行いました。長く民医連で働く職員が増えていること、職員数が現状維持から減少傾向になったことが原因です。ひきつづき退職慰労金制度存続のためのシミュレーションを続けていきます。

(3)乳腺外科医師冤罪事件の全国支援
 乳腺外科医師冤罪事件では、22年2月に最高裁判所は2審の有罪判決を破棄、東京高等裁判所に差し戻しました。今年、高等裁判所で公判が開始されれば早期に判決が出される可能性が予想されます。無罪判決を求める署名は4万筆提出されています。外科医師は無罪です。医師とその家族の人権を守り、医療現場の萎縮を招かないために、外科医師を守る会への支援を一層強化し、無罪を勝ち取りましょう。

(4)国際活動
 25の声明、要請書を世界に発信をしました。『歯科酷書第4弾』の英訳版を作成しました。
 国際交流では、キューバ大使館よりICAP(キューバ諸国民友好協会)創立60周年を記念したメダルが授与されました。「公共医療と社会保障のノート」を主管するリムーザン医師(保健センター養成および医療実践評価全国連盟:フランス)より民医連のコロナに関するとりくみのレポートを依頼され、雑誌に掲載されました。韓国からは74人が来日し、交流を再開しました。民医連70周年レセプションに参加をした健康社会のための歯科医師会(健歯)と民医連歯科部にて日韓の歯科医療について懇談を行いました。また、緑色病院は20周年を迎え日本から記念式典に参加しています。
 非核化・平和のための国際交流、国連経済社会理事会(ECOSOC)(※注)への事業報告を準備します。世界的な格差と貧困のひろがり、そのなかでの経済大国である日本の現場から、民医連の各種の調査活動について知らせる活動は極めて大きな意義を持ちます。ひきつづき声明や調査報告を英訳し発信をしていきます。国際交流は、緑色病院、韓国社医連などの交流やこれまでの友好団体・個人と豊かにとりくみます。フィールド学習の場として、医療視察、平和と戦争の歴史を学ぶ企画をひきつづきとりくみます。

(5)広報の改善
 民医連の活動、方針を内外に知らせるため公式X、Facebook、インスタグラムを開設して情報発信、ホームページ改善にも着手しました。記者発表を16回行いました。各県連で独自に行った記者会見が地元テレビ、新聞で報道されることも増えました。ひきつづきSNS発信の強化、記者会見の援助などにとりくみます。

おわりに

 岩手県旧沢内村は、1960年に日本で初めて高齢者医療を無料化、翌年にはその年齢を引き下げるとともに、乳幼児医療無料化を実施しました。故深沢晟雄まさお村長の言葉です。「本来、国民の生命を守るのは国の責任です。しかし、国がやらないのなら、わたしがやりましょう。国は必ず後からついてきますよ」。合併し西和賀町となった今も、収入により医療費の自己負担を無料にするなど、旧沢内村の生命尊重の精神は受け継がれています。次回の第47回総会はその岩手県で開催します。
 平和でいのちが大切にされる社会のために、憲法の理念の実現が今ほど求められているときはありません。川嶋みどりさん(日本赤十字看護大学名誉教授)は、全日本民医連70周年記念の講演でこう語りかけました。「誰もが尊厳ある生をまっとうして生きぬくために、医療・看護・介護は、その知と技術を駆使すべきです。いのちとくらしを脅かす健康障害、自然災害、感染症パンデミック、そして最大最悪の戦争、そのすべてに直面している今だからこそ、私たちに何ができるか真剣に問われているのです。平和と人権のために憲法を守りぬき、民医連綱領の目標を普及することが人びとの尊厳あるいのちとくらしの実現に通じる道です」。
 憲法の理念を生かす社会をめざし、民医連70年の歴史を確信に、仲間を大切にし、共同を大きくひろげ、前にすすんでいきましょう。

以 上

運動方針案解説

はじめに
周縁化された人びと
 女性、高齢者、障害者、外国人、性的マイノリティーなど、社会的・経済的に疎外された状態にある人びとのこと。差別や偏見にさらされ、政治システムからも追いやられて、雇用や教育、医療に平等につながる機会を奪われてしまう。周縁化とは、英語のmarginalizedの日本語訳で、語源はmargin(「余白」の意)。

「ケアの倫理」
 人は誰もが生きていく上で他者のケアを必要とする存在であるという視点から、ケアのしくみをはじめ、社会や政治・経済、民主主義のありかたなどを根本的に見直すことをめざす考え方。

第1章

「日本に、民医連があってよかった」
 全日本民医連の70周年に寄せて、武田裕子さん(順天堂大学大学院教授)から寄せられたメッセージのなかの言葉。大学で健康の社会的決定要因(SDH)を教育するとき、その意義が説得力をもって伝わるのは、路上生活者や仮放免の外国人に無料低額診療事業で向き合い、「気になる患者訪問」で中断患者も親身に支援する民医連の存在があるからだ、と激励を受けた。『民医連医療』№609/2023年6月号に全文掲載。

東南アジア諸国連合(ASEAN)
 1967年に結成された、東南アジア10カ国からなる地域協力機構。かつて加盟国がベトナム戦争で戦い合った深い反省のもと、年間1000回以上の話し合いを積み重ね、東南アジアを戦争の心配のない平和の共同体へと変えてきた。

国連憲章
 第二次世界大戦による惨害を終わらせるために1945年6月26日、サンフランシスコで開かれた「国際機関に関する連合国会議」に集まった50カ国の代表が署名したもので、国際平和と安全の維持を第一に掲げる国連の基本文書。国際連合加盟国の権利や義務を規定するとともに、国連の主要機関や手続きを定めており、前文と全19章、111条からなる。

「医療・介護活動の2つの柱」
 第1の柱:「貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別・平等の医療・介護の実践」、第2の柱:「安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」。この2つの柱を具体化し、日常的に実践していくことが求められている。

ケア労働
 家事、育児、医療・介護などのケアにかかわる労働をさす言葉。ケア労働は圧倒的に女性が担っており、その多くは賃金、労働条件など低く抑えられ、ジェンダー平等の視点からも改善が求められる。家庭内においても家事や育児、介護などの役割の多くは女性が担っている現状がある。

生活と労働の視点
 疾病には個人の生物学的要因のみならず、社会的要因が大きくはたらいている。家庭の経済状態や住宅、家族との関係をはじめ、住んでいる地域の環境、職場の労働実態や労働条件などが、疾病の原因や治療の条件を大きく左右する。民医連は、患者を「生活と労働の場」でとらえ、患者とともに治療や療養の条件を狭めるあらゆる要因を取り除く「目とかまえ」を大事にしてきた。

共同のいとなみ
 医療・福祉における権利の主体は患者・住民にあり、その権利(健康権)を全面的に行使することを医療・介護・福祉従事者が専門的に援助し、患者、家族がいっしょに疾病とたたかうことと、そうした医療を保障するためにともに運動をすすめるという、2つの意味がある。

健康の社会的決定要因(SDH)
 Social Determinants of Healthの略。健康は、遺伝子や生活習慣だけでなく、その人の社会経済的な地位をはじめとする社会的要因によっても決定されている。世界保健機関欧州地域事務局は、1998年に「Solid Facts(確かな事実)」を公表し、2003年には第2版を出した。「Solid Facts」では社会的決定要因として、▽社会格差、▽ストレス、▽幼少期、▽社会的排除、▽労働、▽失業、▽社会的支援、▽薬物依存、▽食品、▽交通をあげ、それらが健康に与える影響を説明している。

ヘルスプロモーション
 ヘルスプロモーションとは、「人びとが、自らの健康とその決定要因をコントロールし改善できるようにするプロセス」(WHO・バンコク憲章、2005年)。生活や職場、教育、病院などあらゆる場面で住民や地域社会、企業、NPO、自治体などとともに健康なまちづくりを推進することが求められている。

第2章

国際人道法
 武力紛争の際に適用される原則や規則を網羅したもので、そうした事態にあっても人道を基本原則として掲げ、紛争当事者の行為を規制する。文民、負傷者や病人、戦争捕虜のような人びとの保護について規定し、また軍事作戦を行う際の手段や方法を規制する。主要な文書としては、1949年の「戦争犠牲者の保護のためのジュネーブ諸条約」と1977年に締結された二つの追加議定書がある。

ハマス
 イスラム主義のパレスチナ人組織。イスラエルによって軍事封鎖されているガザ地区を統治している。2023年10月7日に「パレスチナ人と聖地の解放」の名目のもと、イスラエルへの大規模攻撃を行った。現在、イスラエルによる報復攻撃によって、ガザは人道危機に陥っている。

覇権主義
 自国の影響力拡大のために、軍事的、経済的、政治的に強大な力にものを言わせて他国に介入し、他国の主権を侵害・支配すること。人類は、二つの世界大戦の悲惨な体験から1945年に国際連合を創設し、平和の国際秩序の建設を世界的な目標として提起した。

核兵器禁止条約(TPNW)
 2017年7月7日122カ国の賛成で採択された条約。2020年10月24日に、批准国が50カ国に達した2021年1月22日に発効。2024年1月15日時点で署名93カ国批准70カ国となっている。前文は核兵器の使用も国際人道法に違反し、二度と使用されないよう保証するための唯一の方法は、核兵器の完全廃絶であるとのべている。日本政府は、アメリカの核抑止が必要という立場に固執し、署名・批准しない姿勢をとっている。

核抑止論
 壊滅的な被害が予想される核兵器を「使うぞ」と言って脅すことにより、相手に攻撃を思いとどまらせるという理論。

東南アジア友好協力条約(TAC)
 ASEANが提唱し、主権尊重・内政不干渉・武力による威嚇または武力の行使の放棄・紛争の平和的手段による解決を目的とした条約。今日のASEAN平和外交の基軸となっている。

「ASEANインド太平洋構想(AOIP)」
 TACの主権尊重・紛争の平和的解決といった原則を、ASEANと各国の間にとどめず、東アジアの全域にひろげ、さらには中国とアメリカ、ロシアと日本など8カ国同士のあいだにつくりあげようとする平和構想。

ALPS処理水
 福島第一原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却で使用した放射能汚染水から、放射性物質を除去する多核種除去装置で処理した水のこと。ただしトリチウム(放射性水素)は除去不可能で、その他基準値以下とされる62核種の放射性物質も含んだまま海洋放出されている。

「化石賞」
 環境NGO気候行動ネットワークが、国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP)の会期中、地球温暖化対策に消極的な国に対し、非難や皮肉を込めて授与する賞のこと。2023年のCOP28において日本は、2030年まで石炭火力を電源構成比19%も使い続け、石炭火力の廃止期限も示されていないと指摘され、2度目の受賞となった。

BLMの運動
 BLMとは「Black Lives Matter」の略語。日本語ではさまざまに訳されているが、おおむね「黒人のいのちは大事だ」という意味で、Livesという語には、いのちだけでなく生活や生きることを含んで訳されることもある。2020年5月、1人の黒人男性が複数の警察官から暴行され死亡した事件から、BLMの運動が全世界で沸き上がった。黒人に対する暴力や人種差別に反対する運動として、世界各地でBLMに賛同する人びとが、デモやSNSで#blacklivesmatterを付けて発信している。

中核的人権条約を補完する選択議定書
 世界人権宣言採択後、国際社会は30以上もの人権条約をつくった。国連は、そのうち国際人権規約と7つの条約(人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問禁止条約、子どもの権利条約、移住労働者権利条約、障害者権利条約、強制失踪条約)をあわせて、中核的人権条約と呼んでいる。条約を補完するための選択議定書に規定されている個人通報制度は、加盟国の国民が国内で救済されなかった場合に国連に直接通報し審査を依頼できる制度で、国連は審査結果を公表して、加盟国に条約を守るよう呼びかけることができる。日本はこの選択議定書について、いずれも批准していない。

「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」にもとづく包括的性教育
 ユネスコの同ガイダンスが掲げている8つのキーコンセプト(①人間関係、②価値観、権利、文化、セクシュアリティー、③ジェンダーの理解、④暴力と安全確保、⑤健康と幸福のためのスキル、⑥人間のからだと発達、⑦セクシュアリティーと性的行動、⑧性と生殖に関する健康)を、くり返し学び続けていくのが「包括的性教育」。年齢・成長に即し、科学的・人権的・包括的でジェンダー平等を基盤とし、徐々に進展して変化をもたらし、健康的な選択のためのライフスキルを発達させる内容が経年的に提供される。「健康とウェルビーイング(幸福や喜び)、尊厳を実現すること、個々が尊重された社会的、性的関係を育てていくこと、自分自身の選択が他者のウェルビーイングにどう影響するのかを考えること、生涯を通じて権利を守るということを理解し励ますこと」を目的とする。

「LGBTQ理解増進法」
 自民党、公明党案に日本維新の会、国民民主党による修正で第12条「すべての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする」と書き加えられた。これは、多数者の理解が得られないことを理由に、差別や偏見に苦しむ少数者の権利保護を後退させることにつながる。

「入管法」改悪
 3回目以降の難民申請者を原則、送還可能にすること、退去命令に従わない、逃亡した場合に刑事罰を科すことなどが盛り込まれ、送還先で迫害や拘束、いのちを奪われる懸念などが拡大している。

税金の持つ応能負担の原則と富の再分配という役割
 憲法が定める法の下の平等により、納税の義務も経済的な能力に応じて税を負担する「応能負担原則」が日本の税制上の大原則。また、税は本来、富の再分配の機能を持ち、政府が大企業や富裕層などに応分の負担を求め、社会保障の拡充など必要な政策を通じて総所得金額の低い世帯へと再分配することで、社会的格差を是正し、貧富の格差を緩和させ、社会的な公平と活力をもたらす役割を持つ。これらは、憲法25条にのっとった「健康で文化的な最低限度の生活」を実現する役割を持つ。

「代執行」
 地方自治体の事務を国が代わって行う手続きで、国と地方の関係を「協力・対等」とした2000年の改正地方自治法で施行。国のかかわりが大きい法定受託事務に限って適用される。県民の民意にもとづき辺野古新基地建設の設計変更を不承認とした沖縄県の判断を、福岡高裁は、国の判断こそ公益という論理で地方自治法の本旨を踏みにじり、国による辺野古新基地建設の代執行を認める不当判決を出した。

日米安全保障条約(1952年発効、1960年改訂)
 米軍によるアジア軍事拠点の確保を目的に、1951年サンフランシスコ平和条約と同時に締結。1960年改定時は全国的な反対運動に発展した。これにより国内に134カ所の米軍基地が住宅密集地につくられ、深刻な住民被害が生じている。日本の米軍基地から出動する部隊は、ベトナム戦争やイラク攻撃の拠点となり、世界でも大変危険な存在となっている。

「日米地位協定」
 日米安保条約にもとづいて設置された米軍・米軍人などの法的地位や、米軍基地運用のありかたを定めた協定。本来、憲法を頂点として国が治められるべきだが、これとは異質な「安保法体系」というもう一つの法体系が存在しており、これが日本の政治の基本的ありかたを左右している。

第3章

ソーシャルアクション
 「社会的に弱い立場にある人の権利擁護を主体に、その必要に対する社会資源の創出、社会参加の促進、社会環境の改善、政策形成など、ソーシャルワーク過程の重要な援助および支援方法の一つである(現代社会福祉辞典、有斐閣2003年)」とされている。民医連では第45回総会で「『職場からの社保運動』を重視し、人権を守るソーシャルアクションを」と提起。現場での「気づき」を出発点として、SDHの視点で事例から学びながら、当事者や家族、地域住民、共同組織、地域の医療機関や介護事業所などと連携、協同し、国や自治体への要請や自治体キャラバン行動などを通して、人権としての社会保障制度への改善、拡充にとりくんでいる。

共通政策(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)
 市民連合は野党5党派と政策要望会を開き、(1)憲法も国民生活も無視する軍拡は許さない、(2)市民の生活を守る経済政策、(3)ジェンダー平等・人権保障の実現、(4)気候変動対策強化、エネルギー転換の推進、(5)立憲主義にもとづく公正で開かれた政治―の5項目を次期衆院選挙に向けた野党の共通政策とするよう要望。最大野党の立憲民主党・岡田克也幹事長は「かねてから次期衆院選に向けて野党議席の最大化のために各野党と連携し力を合わせていくことは何度も表明しており、今回の市民連合による会合もその趣旨に沿うものだとして、今後も参加していく考えだ」とのべている。

無料低額診療事業
 低所得者などが経済的な理由により必要な医療を受ける機会を制限されることのないよう、医療機関が無料または低額な料金によって診療を行う事業。社会福祉法にもとづく第二種社会福祉事業として実施するものと、法人税法の基準にもとづいて実施するものがある。病院や診療所の設置主体にかかわらず、第二種社会福祉事業の届け出を行い、都道府県知事などが受理をすればこの事業を実施することができる。国がすすめてきた「医薬分業」の結果、保険薬局は無料低額診療事業の対象外となり、無料低額診療事業の利用者でも保険薬局窓口で一部負担金が発生する。運動によって、無料低額診療事業の利用者への薬代の助成を実現した自治体もある。

無権利状態におかれた非正規滞在の外国人
 何らかの事情により在留資格がなくなった外国人は、基本的に国民皆保険制度や生活保護制度などのあらゆる社会保障制度から除外され、基本的人権が保障されていない。また、いっさいの就労や入管施設の許可がない県外への移動なども禁止されている。そのため、体調を崩し、医療が必要となった場合には、医療費の支払いが困難となり、いのちを落としかねない危機に常にさらされている。また、母国に帰国すれば、内戦や宗教上の理由でいのちを落としかねないケースや、すでに日本に長期間滞在し母国に生活基盤がないケースなど、帰国したくてもできないさまざまな事情をかかえている。

「生活保護基準引下げ違憲訴訟(いのちのとりで裁判)」
 政府は、2013年8月から3回にわたり生活扶助基準(生活保護基準のうち生活費部分)について平均6.5%、最大10%の引き下げを強行した。これに対して、憲法が保障する健康で文化的な最低限度の生活を保障する憲法25条に違反するとして、全国29都道府県で1000人を超える人が裁判を起こした。これまで、全国13の地裁・高裁で生活保護基準引き下げは憲法違反との判決が出されている。また、2023年11月には、名古屋高裁で初の国家賠償を命じる判決が出された。原告には高齢者・傷病者が多く、一刻も早い解決が求められている。

国保44条、77条の活用
 国民健康保険法第44条では、「保険者は、特別の理由がある被保険者で、(中略)一部負担金を支払うことが困難であると認められるものに対し、」病院などでの一部負担金の免除、減額、徴収猶予の措置を取れると規定されている。災害による世帯主の死亡や資産の損害、農作物の不作や不漁による収入減、事業の休廃止、失業等による収入減などで減免されるが、基準や条件は自治体が独自に要項を作成し運営する。担当者の制度への認識不足、手続きの煩雑さ、恒常的な困窮での適用が認められないなど、現状では利用しづらく改善が求められる。
 また、国民健康保険法第77条は、「市町村は、条例又は規約の定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができる」と定めている。この規定に基づいて、一般会計からの法定外繰入を使って、低所得者世帯、子ども、ひとり親、障害者などを対象とした減免制度を実施している自治体や、国保会計に積み立てられた基金や剰余金を使って減免制度を実施している自治体もある。

原発ゼロ基本法
 2018年に立憲民主党・共産党・社民党などが「原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革基本法案」を衆議院に提出。原発事故の反省から、国の原発政策の誤りを認め、原発廃止、省エネや再生可能エネルギーへの転換による持続可能な社会を実現する責務があると明記。そして原発廃止・エネルギー政策転換の実現は、未来への希望であると宣言した。しかし自民党と公明党が難色を示し、一度も審議されることなく廃案となった。

避難者検診
 東京電力福島第一原発事故により避難した人たちの健康被害や被ばくの不安、避難生活の困難に応えるとりくみとして、全国各地で実施。甲状腺エコー検診をはじめ、さまざまな相談に乗り、原発事故避難者に寄り添う活動を展開。全日本民医連は、福島県の双葉町と浪江町から避難者検診を受託し、とりくんでいる。

国際生活機能分類(ICF)
 国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)は、2001年5月にWHO総会で採択された。ICFの前身であるICIDH(国際障害分類、1980)が「疾病の帰結(結果)に関する分類」であったのに対し、ICFは「健康の構成要素に関する分類」であり、新しい健康観を提起するものとなった。生活機能上の問題は誰にでも起こりうるものなので、ICFは特定の人びとのためのものではなく、「すべての人に関する分類」である。ICFの目的:「生きることの全体像」についての「共通言語」ICFの目的を一言でいえば、「〝生きることの全体像〟を示す〝共通言語〟」である。生きることの全体像を示す「生活機能モデル」を共通の考え方として、さまざまな専門分野や異なった立場の人びとの間の共通理解に役立つことをめざしている。

「地域密着型多機能病院」
 もともとは日本病院会の造語。また、日本慢性期医療協会前会長の武久洋三氏なども提言している。2040年に向けて中小病院が地域の入院医療の中核となり、かつ地域包括ケアシステムにおいても中心的な役割を果たすべきであると提言している。

選定療養費
 健康保険法の一部を改正する法律において、2006年10月より従前の特定療養費制度が見直され、保険診療との併用が認められる保険外併用療養費制度が創設された。「選定療養」はその一つである。「選定療養」の種類には差額ベッド代、予約診療、時間外診療などがある。なかでも大病院の初再診にかかる選定療養については、2015年に紹介状なしで特定機能病院および500床以上の病院を受診する場合などには、原則的に定額負担を求めるとされた。その後2022年には200床以上の地域医療支援病院と紹介受診重点医療機関にも対象がひろげられ、定額負担額も引き上げられた。

チーム・ミナマタ
 全日本民医連四役直轄の委員会として2019年3月にチーム・ミナマタが発足した。発足に至る経過として、学術団体である日本神経学会が環境省の求めに応じた「メチル水銀中毒症に係る神経学的知見に関する意見照会に対する回答」の内容が、神経症候の変動や遅発性発症などを否定し、医学的根拠なく国の主張を擁護したことへの撤回要求が始まり。民医連が行ってきた長年の現地調査で得られた疫学調査の結果や実際の水俣病患者の診療の事実とは大きくかけ離れた内容であったことに対して、民医連内の神経内科医師および水俣病の診療にかかわってきた医師とそのスタッフを中心に構成されたメンバーが、水俣病をはじめとするメチル水銀中毒症の事実の追求とその患者救済のとりくみを支援している。

共通診断書
 水俣病患者の治療や研究に長くかかわってきた原田正純医師(故人)、藤野糺医師や高岡滋医師(チーム・ミナマタ委員長)らを中心に作成された。神経内科診察の基本や標準的な医学診断の手続きにのっとりつつも、これまでに積み重ねられてきた水俣病研究の成果などから得られた慢性水俣病の特徴を踏まえて、迅速かつ正確に水俣病の病態の有無と程度を記述し、他疾患に関する考慮も反映できるように整理されている。共通診断書ができたことにより、検診項目が限定されると同時に患者の負担が軽減され、診断書の記載項目が統一されて診断の公平性もはかられるようになった。ノーモア・ミナマタ国賠訴訟の1次訴訟や2次訴訟でも証拠として採用されている。

「民医連の介護・福祉の理念」
 2012年12月の理事会で確認されて以降、日常のケア実践や職員養成のとりくみ、介護ウエーブなどをはじめ、介護・福祉分野の活動の礎となってきた。綱領の実現と憲法が輝く社会をつくるために、地域に生きる利用者に寄り添い、その生活の再生と創造、継続をめざすことを掲げ、「利用者のおかれている実態と生活要求から出発する」、「利用者と介護者、専門職、地域との共同のいとなみの視点をつらぬく」、「利用者の生活と権利を守るために実践し、ともにたたかう」という「3つの視点」を土台に、「無差別・平等の追求」、「個別性の追求」、「総合性の追求」、「専門性と科学性の追求」、「まちづくりの追求」の「5つの目標」を示している。

看多機
 看護小規模多機能型居宅介護。市町村が管轄する地域密着型サービスのひとつ。訪問看護と小多機(小規模多機能型居宅介護)を組み合わせたサービス事業で、「通い」「泊まり」「訪問介護」「訪問看護」の機能を備えている。看護・介護を一体的に24時間365日提供することで、住み慣れた自宅での療養をささえる。

歯科酷書
 全日本民医連歯科部では、リーマンショックをきっかけとした格差と貧困の拡大が口腔に影響をおよぼした状態を「口腔崩壊」と表現し、口から見える格差と貧困を『歯科酷書』として2009年に歯科酷書第1弾を発行した。その後も2012年に『格差と貧困が生み出した口腔崩壊(歯科酷書第2弾)』、2018年に『なぜ「口腔崩壊」は減らないのか口腔崩壊の社会的責任と問う(歯科酷書第3弾)』、2022年に『口腔崩壊は自己責任ですか?コロナ禍での、つながる、つなげる、人権としての歯科医療(歯科酷書第4弾)』を発行し、口から見える格差と貧困の実態となくならない健康格差を訴えてきた。

「社会的共通資本(コモン)」
 宇沢弘文氏(東京大学教授)が提唱した概念。「社会的共通資本(Social Common Capital)」は、地球環境や社会環境を、誰かのものではなく人類の共有財産=公共財(コモン)と捉える。病院や介護事業所も公共財(コモン)であり、公共財の役割と力を取り戻すことが、豊かな経済生活をいとなみ、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持することを可能にする。

「基礎的課題」
 基礎的課題とは①民医連統一会計基準への準拠、②民医連事業所独立会計制度の確立と実践、③中長期の利益・資金計画の確立とそれにもとづく必要利益認識をさす。

中長期経営計画(利益・資金計画)
 おおむね5~10年程度の将来的な経営見通しを客観的な数値で示し、作成した計画。「中長期経営計画」は経営の羅針盤として、経営実績の評価や分析、予算編成の考え方、将来的な経営見通しなど、常に根本に据えるべきものである。医療・介護の事業構想と結びついたものでなければならず、事業構想のない経営計画・予算ではまったく実効性がない。事業構想と中長期経営計画が有機的に結びつき、双方向から相互検証されてこそ、現実の経営に生かされるものとなる。詳細は「予算管理テキスト」を参照のこと。

「育ちあいの職場づくりに必要な8つの視点」
 ①いつも患者・利用者、人権を守ることが中心にすわっている。事例からの学びを大切にしている職場である、②職場の使命や目標が明確になっている。職場の誰に聞いても目標や課題について共通の認識を持っている、③決めたことをやり抜くことが重視され、やったことがきちんと評価される、④地域、職場、現場の状況や出来事がリアルかつタイムリーに共有され話題になっている、⑤現状変革の志がある、一人ひとりの職員に「もっと~したい」「~を良くしたい」という思いがある、⑥思いやりと率直な相互批判にもとづく信頼と規律がある、⑦個人の責任と集団の責任が明確になっている、⑧学習が重視されている、絶えず学ぶ雰囲気があり、一人ひとりの成長に向けて援助し励まし合っている。

「職場管理者の5つの大切」
 ①職場づくりの「夢をかたちに」(「育ちあいの職場づくり8つの視点」(※別途解説)を基本に中期的構想、年度方針と目標をもつなど)、②学ぶ機会の保障、③職場会議の開催と充実、④学習と民医連新聞の活用、⑤管理者の集団化と団結(情報と課題の共有や意思統一など)。

心理的安全性
 「率直に発言したり懸念や疑問やアイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを人びとが安心して取れる環境のこと」(エイミーC・エドモンドソン)。「心理的安全性」の高い職場では、職員のコミュニケーションが活発になり、離職の減少のみならず、業務が効率化したり、新しい工夫が生まれたり、医療事故のリスクも減少するという効果がみられ、ハラスメントをなくすためにも重要。

マイクロ・アグレッション(MA)
 人種や性別、性的指向・性自認などのマイノリティー(少数派)に対する無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)で行われる、「日常的な侮辱や見下し」のこと。差別する意図がない会話や褒めたつもりの言動(女性なのに○○できてすごい。日本語お上手ですね、など)、組織のありかたや制度(重要な役職は全員男性、多様性に配慮のない施設など)も含まれる。マイクロ・アグレッションを受けた人は、怒るべきか思い悩み、相談もしづらく、日常的にくり返されるため、あからさまな差別よりも心身への影響は大きいとも言われる(認知機能への影響やパフォーマンス低下など)。MAを知ることは、自らの偏見や特権、社会の不公正に気づくチャンスでもある。

「人が育つ組織」の特徴として5点
 「職員育成指針2021年版」第1章の3「人が育つ組織とは~民医連職員の成長の契機」では、全日本民医連職員育成部の調査(2020年12月から2021年1月)にもとづき、次の5点が大事な事柄としてキーワードが示されています。①「仲間との出会い・育ちあい」、②「知識・技術の獲得(学習)」、③「民医連医療・介護の理念と実践、運動(たたかい)」、④「役割発揮と評価」、⑤「安心でき成長できる職場(組織)」。

7つの具体的指針
 「職員育成指針2021年版」第2章「民医連における職員育成の具体的指針」では、「担当する委員会・部署の役割がきわめて重要であると同時に、職員育成の責任はトップ幹部集団にあり、組織の根本にかかわる課題として位置づけたとりくみが大事」として、次の7つの具体的指針を提起している。(1)各職場を職員育成の拠点に~職場教育と職場づくり、(2)多職種協働による育成と各職種のとりくみ、(3)全職員を対象にした制度教育、(4)地域とのかかわりのなかでの職員育成、(5)青年職員の育成、(6)トップ幹部の育成、(7)職員育成活動の推進体制。

事業継続計画(BCP)
 Business Continuity Plan。災害などリスクが発生をしたときに重要業務が中断しないように、また万が一事業活動が中断した場合でも、目標復旧時間内に重要な機能を再開させ、業務中断に伴うリスクを最低限にするために、平時から事業継続について戦略的に準備をしておく計画。

政府の医師偏在対策、働き方改革
 厚生労働省は、医師不足の解消を求める声に押され、2008年以降、医学部定員の増員をはかったが、依然として医師不足、地域偏在・診療科偏在は解消されておらず、医学部地域枠制度、初期研修医定員、新専門医制度定員などを利用した偏在対策に終始している。そのため医師数の十分な増員をはからないまま医師の働き方改革などが強行され、地域医療の現場に困難がしわ寄せされている。

医学部地域枠プログラム辞退者への高額な違約金制度
 卒業後に特定の地域や診療科で診療を行うことを条件とした医学部医学科の入試選抜枠で入学した学生は、都道府県から奨学金の貸与を受けている場合、卒業後、都道府県の指定する地域で一定の年限職務に従事することにより返還免除される。しかし、途中で離脱した場合に高額な違約金制度を設けている都道府県があり、山梨県では地域枠の学生が医師免許取得後、指定する地域で9年間働く約束を守れず離脱した場合、奨学金とは別に最大842万円の違約金を設けている。消費者機構日本は2023年11月、山梨県の高額な違約金を求める制度は消費者契約法に違反して無効だとし、提訴した。

人権としての「医療アクセス」が保障される社会の実現を目指す決議
 日本弁護士連合会は、2023年10月に開催した第65回人権擁護大会で、「人権としての『医療へのアクセス』が保障される社会の実現を目指す決議」を確認した。決議は、1980年代から続く日本の医療費抑制政策からの転換が必要だと提起し、過疎地域を中心とした医師・看護師等の不足や偏在の解消、その労働環境の改善をはかるために、さらなる施策を講じることを求めている。

500―200―100の実現をめざす活動
 第41回定期総会にて提起された「新卒医師200人受け入れ、奨学生集団500人」をめざす運動方針が起点。医師確保と養成を前進させることと、継続的に研修医を受け入れて研修医定数枠フルマッチを展望できる組織となることは、民医連の将来を左右する課題として運動を開始。ロードマップはその目標数を経年的に定めたもので、200人の研修医を2021年4月の受け入れ時点で達成し、その基本となる奨学生集団を2019年の新歓期に500人の峰に達することと明記した。その後、第43期第3回評議員会にて、200人の研修医のうち100人が、民医連事業所もしくは連携施設の後期研修プログラムを選択することを目標と提起。この目標数値から500―200―100と呼んでいる。

奨学生1・2・3大作戦
 2023年度全日本民医連医学生委員長会議問題提起で、今後の奨学生獲得に向けた運動として提起された。各県連の奨学生空白学年が多いことから、まずは1学年0人を克服し、その学年に「1人」の奨学生を獲得すること。さらに基幹型臨床研修病院を有する県連は1学年に最低「2人」、そして学生は集団で成長することから「3人」の奨学生集団とすることを提起した。

11のアクション
 2023年9月に開催した研修委員長・プログラム責任者会議で、医師研修に関わる11のテーマ別分科会を開催し、テーマ毎に明日から実施できるAction3カ条を検討した。11のテーマは、①大規模研修病院で民医連を満喫できる研修のあり方、②初期臨床研修の外来研修をブラッシュアップする方法、③TY研修のブランド化のための工夫、④初期研修から専門研修への継続のためにできること、⑤魅力ある総合診療専門研修の創造のための方策、⑥魅力ある内科専門研修の創造のための方策、⑦いったん外で専門研修を行ってから、戻って働いてもらうためにできること、⑧研修医の働き方改革と働き甲斐の創出のために、⑨指導医のやりがいとレベルアップのために、⑩求められる研修担当事務のあり方は、⑪研修病院を持たない県連・病院での医師確保を進めるために。

特定行為
 診療の補助であり、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力および判断力、並びに高度かつ専門的な知識および技能が特に必要とされる行為のこと。現在、特定行為として定められているのは38項目(脱水症状に対する輸液による補正、褥瘡(じょくそう)の治療における血流のない壊死(えし)組織の除去など)。看護師が特定行為を手順書によって実施する場合には、当該特定行為区分の特定行為研修を修了することが定められている。手順書とは、医師または歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるために、その指示として作成する文書であり「看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲」「診療の補助の内容」などが定められているもの。

健康サポート薬局
 厚生労働大臣が定める薬剤師の資質、薬局の施設など一定基準を満たしていることを都道府県知事に認められた薬局。かかりつけ薬剤師・薬局の機能として、薬の調剤だけでなく、市販薬や健康食品などに関する相談に応じる。また、介護や食事・栄養摂取に関する相談もでき、地域の人の健康をより幅ひろく、積極的にサポートする。2016年4月1日より開始。

民医連事務集団「3つの役割」
 第42期第3回評議員会「事務職員育成の新たな前進をめざして」のなかで提起された。①正確な実務と統計・情報管理を担い、それを通して全職員参加の医療・介護事業と経営の前進に貢献すること、②無差別・平等の医療と介護の深化、発展のために、民主的な多職種協働と人づくりをささえること、③日本国憲法の立場から平和と社会保障拡充の運動を積極的にすすめ、共同組織とともに安心して住み続けられるまちづくりの活動の推進者となること。

LIFE
 Long-term care Information system For Evidence(科学的介護情報システム)の略。2021年4月の介護報酬改定のなかで運用が開始された。事業所がデータを提出し、フィードバックを受けてPDCAサイクルを推進することにより、介護の質の向上をはかることを目的とする。

MMAT
 Min-iren Medical Assistance Teamの略。民医連にとって災害救援活動は、「困ったところに民医連あり」の綱領の精神にもとづくもの。MMATは民医連のなかの「災害に強い」集団で、災害発生時に救援活動がスムーズに実施できるよう、対策本部と支援者を援助する。

DMAT
 Disaster Medical Assistance Teamの略。災害時急性期に活動ができる機動性を持つ、トレーニングを受けた医療チーム。阪神淡路大震災の教訓から、避けられる災害死をなくすとりくみの一環として設置された。主に急性の災害医療支援を担当し、日本DMAT(厚生労働省)と都道府県DMAT(各都道府県)などがある。

志賀原発
 石川県志賀町に立地する北陸電力の原子力発電所。1号機・2号機ともに2011年度より運転を停止している。2023年3月に、原発直下の断層は活断層でないとする調査結果が出されたが、能登半島沖地震では設計上の想定を超える揺れを観測し、変圧器破損による油の漏出・外部電源の一部喪失といったトラブルが生じた。

国連経済社会理事会(ECOSOC)
 国際連合の主要機関のひとつで、経済および社会問題全般に関して必要な議決や勧告などを行いる。国連憲章で定められているNGO参加のための公的な体系をもった唯一の国連機関。民医連はECOSOCの協議資格を取得している。