民医連事業所のある風景 東京/蔵前協立診療所 まちの風景に溶け込む診療所に
蔵前協立診療所は東京都台東区の南側、三筋というところにあります。徒歩20分圏内に上野や御徒町、秋葉原、浅草や隅田川といった観光スポットがあります。地域には職人や自営業の人が多く、70~80代になっても現役で仕事をしている元気なお年寄りが多いまちです。奥さんたちも共働きのことが多く、夕食の支度が大変だったので、さまざまなお惣菜が買えるお店が集まった「おかず横丁」という商店街があります。診療所の隣は、今では珍しくなった薪でお湯を沸かすお風呂屋さんです。そのため、午前の診療を始めてしばらくすると隣から薪の燃える香りが漂ってきます。都市開発がすすんでマンションが増えましたが、昔ながらの家は1階が仕事場や店舗で、2階・3階が居室という構造が多く、訪問診療にいくとハシゴのような急階段を登ることがしばしばあります。
地域の人々がにぎやかに活動
当診療所は、地域に自分たちのかかりやすい診療所がほしいとの住民運動を背景に1990年に開設されました。当初は台東保健生活協同組合の診療所としてスタートしましたが、2004年の法人合併により東京保健生活協同組合の所属となりました。診療所は3階建てのビルで以前デイサービスをやっていたこともあり、3階に広い多目的スペースがあります。
コロナ以前は生協組合員活動の拠点であり、週に2日くらいは東京保健生協蔵前支部の卓球班の皆さんが集まって、にぎやかに活動をしていました。現在は、発熱患者の診療スペースとして利用しています。コロナが早く収束して、再び組合員のみなさんの歓声が聞こえるようになってほしいものです。
2020年にコロナ禍がやってきたところに9月の所長交代が重なり、一時は大きく収入が落ち込んだ時期もありましたが、ようやく回復基調になりつつあります。近くには民医連の事業所がないので、訪問看護・介護、居宅介護支援、救急や急性期医療など全て民医連外の施設との連携が頼りです。スタッフがこまめに周囲の医療機関や訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所を回って顔の見える関係づくりに努めています。常勤職員は医師1人、看護師1人、事務職2人という小世帯ですが、法人内外の多くの非常勤職員とともに、士気高く日々診療を行っています。
積極的に発熱患者を診療
コロナ禍でも地域の受療権を守るために積極的に発熱患者を診療してきました。鼻咽頭からの検体採取は、1階の物療室と3階の多目的ルームに設置した「どこでも発熱外来®」というボックスのなかで行っています。診療所の周囲にはひとり暮らしの若者も多く、自宅療養の不安が少しでも軽減されるように、電話での相談や処方の追加なども行っています。
人懐っこくて思ったことをすぐ口にしてしまう下町の人たちに囲まれ、銭湯の煙突とまきの燃える香りとともに、日常生活の一部のような、このまちの風景に溶け込むような診療所をつくっていきたいと考えています。
(東京保健生協 理事長/蔵前協立診療所 所長 根岸 京田)